自動車販売は順調に回復、政府はEV・HV普及の数値目標設定(UAE)
販売台数は前年比9.9%増

2023年9月22日

国際自動車工業連合会(OICA)によると、2022年のアラブ首長国連邦(UAE)の自動車販売台数は20万7,539台で、前年比9.9%増加した。世界全体(前年比1.4%減)と比べて大きな増加となった。内訳をみると、乗用車が17万1,414台(同9.3%増)、商用車が3万6,125台(同12.7%増)といずれも増加している。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年と比べると、回復傾向にはあるが、全体では同じ水準には依然として戻っていない状況だ(表1参照)。

表1:アラブ首長国連邦(UAE)の自動車販売台数(単位:台)(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年 2021年 2022年 22/21年比 21/19年比 22/19年比
乗用車 198,520 129,901 156,780 171,414 9.3% △21.0% △13.7%
商用車 33,785 28,810 32,064 36,125 12.7% △5.1% 6.9%
全体 232,305 158,711 188,844 207,539 9.9% △18.7% △10.7%

出所:国際自動車工業連合会(OICA)

UAE経済は、2022年に実質GDP成長率7.9%の高成長を記録し、全般的に好景気だったことを背景に、自動車需要は回復している。販売数で前年比減となった欧州や米州と比較すると、好調さが際立つ。2023年上半期(1~6月)の国外からドバイへの宿泊を伴う来訪者数は、過去最多だった2019年を上回るペースで推移しており(2023年8月10日付ビジネス短信参照)、ドバイでは観光目的の移動需要が増えていると考えられる。また、好景気による雇用の増加や、新型コロナ禍で減少していたUAEの滞在外国人人口が引き続き戻っていることを受け、社用車需要や個人需要も増加しているとみられる。一方で、半導体不足などの要因で供給不足は続いている。メーカーや車種によっては長期間の納車待ちという状況もみられ、潜在的な販売機会を逃している側面もまだありそうだ。

なお、UAEの2022年の貿易統計は2023年9月22日時点で発表されておらず、乗用車などの貿易額について詳細は確認できないが、例年、日本はUAEにとって乗用車の輸入相手国としては第1位だ。実質的には、日本の中古車が多くUAEに輸出されており、それらがドバイ首長国やシャルジャ首長国の自動車ヤードで取引され、中東の近隣国やアフリカに再輸出されるケースが多い。中古の自動車部品についても同様で、ドバイ首長国やシャルジャ首長国が取引のハブになっている。そうした市場でビジネス機会をつかむべく、自動車リサイクル部品のオンライン売買サイトを立ち上げたBANANA(バナナ、本社:大阪府茨木市)は同社初の海外拠点としてドバイを選び、2024年1月をめどに進出予定だ。

対日貿易について、日本の財務省貿易統計をドル換算したものでみると、2022年の日本からUAEへの輸送用機器の輸出額は34億9,200万ドル(前年比5.3%増)で、輸出額全体の41.1%を占めて1位となっている。中でも自動車が29億9,800万ドル(前年比4.9%増)と、対UAE輸出額全体の35.3%を占めて最多となっている。新車と中古車の内訳は不明だが、いずれも中東湾岸諸国で日本ブランドの人気は健在だ。

EV・HV車普及への数値目標を設定

表2:「UAEエネルギー戦略2050(2023年改訂版)」のEV・HVの普及数値目標
(国内シェア)
項目 2023年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年 2050年
乗用車台数に占めるEV・ハイブリッド車の割合 4% 5% 13% 22% 23% 43% 53%
バス台数に占めるEV・ハイブリッド車の割合 3.2% 6% 14% 24% 36% 46% 60%

出所:「UAEエネルギー戦略2050(2023年7月改定)」

2023年7月、政府は2017年に発表した「UAEエネルギー戦略2050」の改定を行った。同戦略の中で、電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)の普及の数値目標を設定した。乗用車とバスの国内台数に占めるそれぞれの割合について、2023年の4%と3.2%から、2050年には53%と60%まで段階的に増やす計画だ(表2参照)。

また、充電ステーションも2030年までに879基、2050年までに3万基に増やす。ドバイでは、ドバイ電気水道局(DEWA)がイニシアチブをとり、市内の充電ステーション増加に取り組んでいる。ドバイ市内のタクシーに米国テスラの車両が導入されるなど、一般乗用車に加えて商用車でもEVが既に導入されている。

同時に、政府はEVに関する国家戦略も発表した。充電ステーションのネットワーク構築やEV市場に関するルール作り、温室効果ガス(GHG)排出やエネルギー消費を抑制する産業政策についてまとめ、法整備を進めている。

自動運転車も導入に向け準備

UAEは新しい交通の導入にも引き続き積極的だ。自動運転に関して、2021年4月に提携が発表された米国自動運転車開発スタートアップのクルーズとドバイ交通局(RTA)は、2023年内にドバイでの全電気自動運転車両による配車サービス開始を目指し、ドバイの道路で自動運転実装に必要なデータ収集を行うための「マッピング」を続けている。

2023年7月には、政府は自動運転「レベル4」(注)の路上テスト走行を認めるライセンスを、中国の自動運転技術開発を手掛けるスタートアップWeRide(文遠知行)に発給した。同社はUAE国内の路上でさまざまなタイプの車両のテスト走行を行う予定だ。


注:
特定の走行環境・条件下で、自動運転装置が運転操作の全てを代替して行う状態。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2023年10月6日)
表2(最右端の列)
(誤)2040年
(正)2050年
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。