TN州で新卒採用にチャンスあり(インド)
日系企業との連携に関心ある大学一覧を公開

2023年11月27日

日本国内での人材不足を背景に、インドの高度人材が注目を集めている。

その中でも、南部のタミル・ナドゥ(TN)州に注目してみたい。同州は、製造業の集積が進み、投資先として注目されている。日系企業の進出も顕著だ。港湾へのアクセスの良さや、州政府が投資誘致に積極的なことが投資のメリットとして挙げられる。

片や、人材面も強みの1つだ。理工系人材を中心に、優秀な人材が豊富。人工知能(AI)やブロックチェーンなど、先端技術への活用が見込めることになる。

本稿では主に新卒採用に焦点を当てて、日本の企業による高度外国人材活用の可能性に触れる。

工科系学生数が州別で最大

TN州は、理工系人材が豊富な地域として知られる。同州の工科大学(engineering college)数は727校と、州別で第2位だ。工科系学生数は30万人を超える。その数、州別で首位になる(表1)。労働コストでも、比較的安価だ。日系企業が多く進出する北部のハリヤナ州や、工科大学数が州別最大のマハーラーシュトラ州以上にコスパ良く労働力を確保できることが、TN州の強みの1つと言える(表2)。

表1:州別の工科大学数・学生数

工科大学数(―は値なし)
順位 州名 大学数
1 マハーラーシュトラ州 849校
2 タミル・ナドゥ州 727校
3 ウッタル・プラデシュ州 527校
インド全体 5,911校
学生数(―は値なし)
順位 州名 学生数
1 タミル・ナドゥ州 334,200人
2 マハーラーシュトラ州 237,369人
3 アンドラ・プラデシュ州 230,254人
インド全体 2,001,066人

出所:Aglasem記事外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますからジェトロ作成 (2023年9月15日閲覧) 

表2:進出日系企業での製造業従事者の平均賃金(月額基本給)比較(単位:ルピー)
州名 作業員 エンジニア マネジャー
タミル・ナドゥ州 23,031 44,767 105,842
ハリヤナ州 26,039 45,250 107,917
マハーラーシュトラ州 37,638 61,656 134,586

出所:アジア・オセアニア進出日系企業実態調査(2022年8月~9月、ジェトロ実施)から作成

数だけではない。質の面でも総じて優秀だ。インド教育省が発表した2023年の国内大学ランキング(NIRF)で、TN州の大学18校がトップ100に入っている。100位以内の州別学校数で、州別トップということになる。ランキング1位の国立インド工科大学(Indian Institute of Technology、IIT)マドラス校も、当州所在だ。そのほかにも、評価の高い大学が多数ある(2023年6月12日付ビジネス短信参照)。事実、TN州出身の理工系著名人も多い(表3参照)。

表3:タミル・ナドゥ州出身の理工系著名人
主な実績・肩書など 氏名
1930年ノーベル物理学賞受賞 チャンドラセカール・ベンカタ・ラマン
(Chandrasekhar Venkata Raman )
2009年ノーベル化学賞受賞 ベンカトラマン・ラマクリシュナン
(Venkatraman Ramakrishnan)
数学者 シュリニバーサ・ラマヌジャン
(Srinivasa Aiyangar Ramanujan)
第11代インド大統領(かつてインド初の人工衛星打ち上げロケット計画を指揮) A.P.J. アブドゥル・カラーム
(Avul Pakir Jainulabdeen Abdul Kalam)
米アルファベットおよびグーグルの最高経営責任者(CEO) サンダー・ピチャイ
(Sundar Pichai)

出所:ジェトロ作成

人材の質の高さは高等教育履修率からも読み取れる。

確かに在籍学生数では、北部のウッタル・プラデシュ州や西部のマハーラーシュトラ州など、人口の多い州が上位になる。しかし、人口に対する高等教育在籍学生数では、南インドが北インドより高い傾向がある。TN州は首都デリーに次ぐ水準で、他の主要州より高い(表4)。

各課程別には、博士課程や研究修士(M.Phil)の在籍者数で州別首位だ。ここからも、教育水準の高さがうかがえる(表5)。

表4:州別の高等教育在籍学生数と割合
州名 人口(18歳~23歳)
2020年度推計(人)
高等教育在籍学生数(人) 人口に対する在籍割合
デリー準州 2,325,800 1,106,271 48%
タミル・ナドゥ州 7,107,800 3,336,439 47%
カルナータカ州 6,786,400 2,440,437 36%
マハーラーシュトラ州 13,016,200 4,546,149 35%
ハリヤナ州 3,310,400 1,029,159 31%
ウッタル・プラデシュ州 28,621,600 6,651,067 23%
グジャラート州 7,452,200 1,653,130 22%
インド全体 151,624,817 41,380,713 27%

出所:All India Survey on Higher Education 2020-2021からジェトロ作成

表5:課程ごとの在籍学生数(州別)
州名 博士課程(Ph.D) 研究修士課程(M.Phil) 修士課程(PostGraduate) 学士課程(UnderGraduate) 終了認定
課程(Diploma)
デリー準州 15,444 1,536 166,871 864,281 32,461
タミル・ナドゥ州 34,411 6,703 464,655 2,462,533 308,509
カルナータカ州 11,028 249 279,188 1,869,068 253,834
マハーラーシュトラ州 15,751 734 564,559 3,493,976 394,211
ハリヤナ州 4,548 246 130,569 781,693 89,961
ウッタル・プラデシュ州 19,806 615 631,538 5,548,184 327,050
グジャラート州 8,021 312 186,107 1,258,462 154,029
インド全体 211,852 16,744 4,716,649 32,657,509 2,979,320

出所:All India Survey on Higher Education 2020-2021からジェトロ作成

経験者採用競争が過熱

在インド日系企業は、採用戦略として社会人経験者に重きを置いている。即戦力が期待できるためだ。人材の自社育成が難しいこともある。というのも、インドではジョブホッピングを通じて、年収や役職を上げる人材が多いからだ。

一方、各社が経験者採用を進めることで、中途採用人材の取り合いに発展している。特に既進出企業では、日系企業での勤務経験のある人材の引き合いが強い。いきおい、企業間での人材獲得競争が激しくなる。そうしてみると、新卒採用にも目を向けるのも一案だろう。自社で育成しながら、企業ロイヤルティーを高める戦略も考えられるのではないか。

なお、新卒の扱いは、日本と相違がある。大学や専攻、学生ごとに大きく初任給が異なる。評価の高い大学の卒業生は、平均して高い年収でのオファーが企業からもらえる。また、スキルが高い学生ほど、高額な初任給を得られる傾向にある。そのため、インドでは子どもの教育に力を入れる家庭が多く、大学在学中も真面目に勉強に励む学生が多いという。

アンナ大学(在TN州、公立)によると、新卒全体の初任給平均値は年収約85万ルピー(約153万円、1ルピー=約1.8円)だ。しかし個別には、約400万ルピーから約40万ルピーと、学生ごとに大きな差が出る。IITなど一部の大学の新卒者は、年収数千万円を超える初任給を手にすることもある。ただしインド全体で見ると、日本企業でも当地人材を十分採用できる水準にある。

一方、在インド日系企業ではなく、日本国内でのインド人材活用はいまだハードルが高い。言語の問題に加え、食文化の違い(注)や、家族と離れて暮らすことへの抵抗感も障害になっているという。しかし、大学によると、ドイツなど非英語圏での就職を決める学生もいる。となると、日本や日本企業で働くメリットが学生に十分に伝わっていないことも課題の1つと言えそうだ。

優秀な学生を見極めるには、インターンシップも有効だ。インターンシップを活用すると、新卒採用が未経験の企業でも、インドの新卒学生がどの程度の能力を持っているか確かめることができる。また、オファー金額を見極めるにも役立つだろう。大学関係者への聞き取りでは、学生のインターンシップ派遣も歓迎という。

ジェトロ・チェンナイ事務所では、在インド日系企業を中心とした日本企業との連携を希望する大学のリストを11月に公開した。日本語コースを擁する大学も記載している。担当者窓口も記載しているため、直接連絡可能だ。新卒採用やインターンシップ受け入れを検討する一助となると幸いだ。


注:
インドにはベジタリアンが多い。しかし、日本でそうした対応はあまり進んでいない。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
山下 純輝(やました じゅんき)
2016年、ジェトロ入構。本部で農林水産物・食品の輸出支援業務に従事後、ジェトロ・アディスアベバ事務所、ジェトロ新潟を経て2023年3月から現職。事業担当として、主にスタートアップ、大学連携、日本製品の輸出支援業務を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
アソカン・アルナ
2014年からジェトロ・チェンナイ事務所勤務。ジェトロ・チェンナイ事務所で総務関連、大学連携、日本製品の輸出支援業務を担当。