抹茶製造のあいや(愛知県)、好調な海外販売が国内向けを上回る
農家とともにサステナビリティ対応を強化

2023年3月20日

国内有数の抹茶メーカー、あいや(愛知県西尾市)は、1888年に創業した。1983年から北米への抹茶の輸出に着手し、2001年以降に米国、ドイツ、オーストリア、中国、タイにそれぞれ現地法人を設立。健康志向の高まりやカフェ・レストランでの抹茶ドリンク・スイーツ需要の拡大を背景に、抹茶の海外販売を拡大させてきた。杉田武男代表取締役社長に、輸出の現状や今後の海外市場戦略、サステナビリティへの対応について話を聞いた(2022年12月19日)。

米国・ラスベガスで開催された、Winter Fancy Food Show 2023(2023年1月)の出展ブース。
抹茶のお点前を披露し、試飲用に振る舞った(あいや提供)

欧米市場で抹茶製品が人気

現在は、海外でも抹茶は「Matcha」として知られるようになったが、杉田社長が2000年に米国に滞在していたころには、この言葉は存在せず、抹茶は「Powdered green tea」(緑茶の粉)と呼ばれていた。杉田社長が現地で発音しやすい「Matcha」というスペルを生み出してから、足掛け20年以上をかけて、あいやは海外で抹茶の認知度を高め、世界で「抹茶」市場を確立する一翼を担ってきた。

2016年ごろから国内・海外向けの出荷量が均衡するようになり、2021年にはついに海外向けが、出荷量・売り上げともに国内向けを初めて上回り、売り上げでは全体の53%を占めるまでになった。輸出先の内訳は、米国が6割、欧州が3割、東南アジアが1割を占めている。なお、中国については上海市に工場を有し、現地で栽培した茶葉を加工し、現地で販売する、いわば中国国内で完結したビジネスとなっている。

輸出がとりわけ好調なのは、欧米向けの食品加工用抹茶である。1袋当たり25キログラムの大容量のものから1キログラムのものまで、サイズは様々である。これまでは、飲料や菓子を生産するメーカー向け販売が中心だったが、現在、市場が特に伸びているのはフードサービスであり、なかでもカフェ・レストラン向けの需要だ。抹茶は、お茶の葉を石臼で挽(ひ)いて作られることから、葉の栄養を余すところなく体に取り込める健康食品として捉えられ、欧州ではベジタリアンやビーガンなどの顧客層から特に高い人気がある。


1,000台以上の茶臼が稼働する製造ライン(ジェトロ撮影)

円安は追い風も、欧米向け輸出は鈍化

昨今の円安は、輸出の追い風となっている面もあるが、想定の範囲を超えている。円高リスクに備えて、1ドル=110円を前提とした価格で商品を作れるように輸出取引の半分ほどは為替ヘッジ(予約)を行ってきた。したがって、すべての輸出分が円安の恩恵を受けているわけではない。が、ありがたい部分も多少はある。

ただし、2022年秋ごろから米国向けの商品も少しずつ鈍ってきた。エネルギーコストを含めた物価が上昇しており、消費市場の不確実性があるため、顧客も新しい商品を積極的に作るのではなく、かなりディフェンシブ(守りの姿勢)となっている。

欧州でも、ロシアのウクライナ侵攻による影響はしばらく続くだろう。少なくとも2023年はまだまだ「我慢の年」だと思う。輸出にかかる物流費は、サーチャージや陸上運賃も含めて大幅に上昇している。また、現地の電気・ガス料金も日本の比ではないほど高騰しているため、消費者が茶関連商品にお金を使いづらい状況になっている。

サステナビリティへの顧客の関心が高まる

環境、人権などサステナビリティについて、取引先の顧客から寄せられる問い合わせが最近、非常に増えている。茶業界では、環境や生産に配慮し、持続可能な方法で生産されたものであることを示すレインフォレスト・アライアンス認証外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の取得が求められている。とりわけ、米国向け輸出の要件として要求されることが多い。

あいやでは、国内でもいち早くオーガニック抹茶の栽培に着手し、2002年には米国・欧州でそれぞれ有機栽培認証を取得してきたが、10年前からはレインフォレスト・アライアンス認証を取得。自社のみならず、茶葉を調達している農家にもこの認証を取得してもらうため、少しずつ対応を進めている。あいやの社員を農家に派遣し、認証手続きに必要な英語対応を含め、全面的にサポートを行っている。海外に輸出できる良いものを農家と一緒に作っていきたいと考えている。

なお、こうしたサステナビリティの追求のための取り組みは、正直なところ企業としてはコストもかかるが、頭を切り替えて対応している。川上から対応を強化し、サステナビリティに対応できなければ、市場で勝っていけないと考えている。

成長のカギは輸出

あいやが米国、欧州に進出して20年がたつが、まだまだ未開拓の市場が大きく、十分に営業活動できていない国・地域もある。2023年は辛抱の年になりそうだが、これからも海外市場を開拓していきたい。

今後、茶業界としては、輸出がどれだけできるかでほぼ成否が決まってくる。日本市場は「世界で最先端の抹茶市場」であり、本丸であることに変わりないが、国内の加工食品市場が今後、どんどん伸びていくことは考えにくい。成長のカギは輸出しかない。海外でも今後、抹茶への要求が高くなってくることから、日本市場における高い要求にしっかり応えながら、生産技術やマーケティングノウハウを蓄えつつ、海外市場で勝っていきたい。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
森 詩織(もり しおり)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ広島、ジェトロ・大連事務所、海外調査部中国北アジア課などを経て現職。