自動運転の社会実装を進める米国
連邦政府とカリフォルニア州の動きを中心に

2023年6月29日

世界各国で、自動運転の実用化に向けた研究開発や実証実験が行われている。米国では、運輸省が政策の策定や研究開発に対する財政支援などを担っている。2021年11月に成立したインフラ投資雇用法(IIJA)では、道路や公共交通機関に対する投資予算が盛り込まれ、同省は自動運転に寄与するインフラ関連投資に着手した。2023年3月には「モビリティー強化と交通革命(SMART)プログラム」、5月には「高度な交通技術とイノベーション(ATTAIN)プログラム」について2022年度採択が行われたところだ。本稿では、米国の自動運転の動向に関して、連邦政府と州政府の取り組みを紹介するほか、実証実験の現状などについて概説する。

自動運転の管轄部局とこれまでの活動

米国では、運輸省が連邦レベルの自動運転の取り組みを管轄している。このうち、道路交通安全局(NHTSA)は「自動車や運転者の安全管理」、連邦道路局(FHWA)は「連邦道路の建設・維持・管理」、連邦交通局(FTA)は「地域の公共交通システムに対する経済的・技術的援助」を担っている。

運輸省各局のこれまでの活動を振り返ると、NHTSAは2016年9月、自動運転に関する米国初のガイドラインを発表した。同ガイドラインでは、自動車メーカーが自動運転レベル2以上(注1)の車両を販売するに当たり、計15項目の安全対策措置を事前に届け出ることを義務付けた。また、州ごとに異なる自動運転車の公道走行に関する手続きを統一するための指針も提示した。その後、同ガイドラインは更新され、2021年1月には自動運転に関する総合計画(注2)が示された。ここには、自動運転に関する明確で信頼できる情報へのアクセス促進、不必要な障壁を取り除くことを目的とした規制の現代化、自動運転を安全に評価し交通システムに統合するための基礎研究や実証の推進などが含まれた。

FHWAは2015~2022年に「コネクテッド・ビークル・パイロット展開プログラム」を実施した。同プログラムは車両、道路インフラ、モバイル機器から取得するデータを活用し、それぞれの連携を強化することを目的に開始された。フロリダ州タンパ市、ニューヨーク州ニューヨーク市、ワイオミング州の実証実験に対し、8年間で総額4,500万ドルの資金が提供された。また、FHWAは2019年9月、連邦道路に自動運転システムを安全に実装するための「自動運転システムの実証助成金」に基づき、8件の実証実験に総額6,000万ドルを拠出した。同局は自動運転の実用化を見込み、交通インフラの改善に向けたマニュアル(MUTCD)の更新を準備中で、今後はこれを定期的に更新していく予定としている。

FTAは、自動運転を使った公共交通の自動化プロジェクトに対して、「加速する革新的モビリティー課題のための助成金」を提供してきた。2020年8月には、25件のプロジェクトに総額1,400万ドルを拠出した。中には、テキサス州ヒューストン近郊の自動運転小型電気自動車(EV)プロジェクト向けの147万ドル、オハイオ州モホニングバレーの自動運転EVプロジェクト向けの233万ドルが含まれている。

進行中の自動運転プロジェクトと安全性に関する現状

NHTSAは2020年9月、自動運転の実証に関するプラットフォームを構築した。同プラットフォームでは、実証プロジェクトの運営者が自発的に登録し、リアルタイムで情報を更新している(注3)。同プラットフォームによると、実証は2023年6月時点で、カリフォルニア州、ミシガン州、フロリダ州、アリゾナ州などに集中している。道路種別で見ると、一般道での実証が最多で、車両種別では小型バス(シャトル)が多い。

他方、自動運転については、安全面の課題が残されている。NHTSAは2021年6月、自動車メーカーなどに対し、自動運転レベル2以上の車両を対象に、事故情報の報告義務を課す一般命令を出した。同命令はタイムリーで透明性のある事故情報を収集した上で、必要に応じてNHTSAが詳細な調査と処置を講じることを規定した。NHTSAが同命令に基づいて公表を開始したデータによると(注4)、2023年5月14日時点の自動運転車の事故件数は累計で302件(月10~20件のペース)の事故が報告されている。実験主体者別の累積事故件数を見ると、ウェイモが132件、トランスデブが83件、GMクルーズが54件となっている。州別ではカリフォルニア州(186件)が最も多く、アリゾナ州(36件)、フロリダ州(14件)、テキサス州(13件)と続いている。

連邦政府による今後の活動予定

連邦政府は自動運転に関して、今後、主に以下3つの活動に取り組むとしている。1つ目は、SMARTプログラムの実施だ。同プログラムはIIJAに基づき、2022~2026年にスマートインフラ関連の研究に助成金を拠出するものだ。予算は年間1億ドル(計5億ドル)で、技術研究分野は大きく8つに分かれるが、車両用通信技術、スマート交通信号、センサーの3分野は自動運転に関連している。

2つ目は、ATTAINプログラムの実施だ。同プログラムは、交通利用者の安全性向上と移動時間の削減に寄与する先進技術の促進に助成金を拠出するものだ。期間は2022~2026年で、FHWAが年間6,000万ドル(計3億ドル)を拠出する。2022年度は車両用通信技術を含む3件の自動運転関連プロジェクトが採択された。

3つ目は、FTAの「公共交通バス用高度運転支援システム(ADAS)の実証と公共交通バスの保守・バックヤード業務自動化の実証基金」に基づくプロジェクト支援だ。同基金は総額1,160万ドルで、2022年度は大学(2件)と地方自治体(4件)を合わせて6件のプロジェクトが採択された(2023年6月9日付ビジネス短信参照)。

州レベル、特にカリフォルニア州の動向

自動運転は連邦政府だけでなく、各州でも推進している。全米州議会議員連盟は公道での自動運転に対する許可状況を公開している(注5)。2023年6月現在、州法で30州、州知事令で6州、州法成立と州知事令の両方で5州が自動運転に関する許可を出している。いずれもなしは10州だ。

州別では、カリフォルニア州が最も盛んだ。2023年4月時点で「運転手同乗での自動運転試験許可取得者」が40社、「運転手不在での自動運転試験許可取得者」が7社(アポロ、オートX、GMクルーズ、ニューロ、ウェイモ、ウィーライド、ズークス)、「自動運転の実装許可」が3社(GMクルーズ、ウェイモ、ニューロ)に出されている(注6)。

また、カリフォルニア州での無人自動運転による走行距離(2021年12月~2022年11月、図1)は、GMクルーズが87万9,494キロ、ウェイモが8万3,105キロ、アポロが3万5,042キロ、ニューロが1,487キロと報告されている。

図1:カリフォルニア州での無人自動運転によるメーカー別走行距離
GMクルーズの無人自動運転の走行距離数が多く、11月には16万キロを越えている。GMクルーズ以外は2万キロ以下。

出所:カリフォルニア州自動車管理局(DMV)公表資料からジェトロ作成

運転者同乗での自動運転による走行距離については図2のとおりで、ウェイモが突出している。図1と図2から、GMクルーズは無人自動運転、ウェイモは運転者同乗での自動運転について、精力的に実証を行っていることが分かる。

図2:カリフォルニア州における運転者同乗での自動運転によるメーカー別走行距離
ウェイモの自動運転の走行距離数が1番多く、2021年12月から2022年5月まで月40万キロ以上、ピークは2月で74万キロを走行。6月以降11月までは月20万キロ程度を走行。2番以下はGMクルーズ、ズークスと続くが、ウェイモの半分以下である。

出所:カリフォルニア州DMV公表資料からジェトロ作成

運転者同乗での自動運転に関して、運転者の介入頻度を計算すると、GMクルーズが最も少なく、15万4,338キロに1度の割合だった。ズークス(4万2,313キロ)、ウィーライド(3万4,633キロ)、ディディ(3万791キロ)がこれに続き、ウェイモは2万7,455キロに1度となっている。

今後の見通し

運輸省はIIJAにより、2026年まで自動運転の関連予算を確保している。すなわち、自動運転のインフラ協調や社会実装に向けた研究開発は今後も継続されるだろう。他方、安全を最も重視する自動車業界で、自動運転は発展途上の技術分野だ。社会実装の実現には、利用者や地域社会の受容が不可欠となる。実証状況や事故情報の見える化は、受容性の向上や研究開発の加速に寄与するだろう。今後も自動運転の進展に向けた官民の取り組みに注目だ。


注1:
米国自動車技術者協会(SAE)は、運転支援をレベル1、部分的な運転自動化をレベル2は、条件付きの運転自動化をレベル3、高度な運転自動化をレベル4、完全な運転自動化をレベル5と定義している。
注2:
米国運輸省ウェブページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
注3:
NHTSAの自動運転試験イニシアチブウェブページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにてリアルタイムの更新情報を確認可能。
注4:
NHTSAウェブページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
注5:
全米州議会議員連盟ウェブページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
注6:
カリフォルニア州自動車管理局ウェブページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
見並 一明(みなみ かずあき)
1980年から自動車部品業界、2016年から高度道路交通システムの業界連携活動に従事し、2023年4月に常勤嘱託としてジェトロ入構、自動車関連の北米動向調査を担当。