2022年世帯平均所得は徐々に回復も未だ2016年の水準(メキシコ)
全国家計調査結果から

2023年8月28日

メキシコの国立統計地理情報院(INEGI)の2022年全国家計調査(ENIGH 2022)によると、同年の世帯平均実質所得は新型コロナ感染の影響を強く受けた前回調査時(2020年)から11.0%増加した。しかし、過去10年間で内需が最も好調に推移していた2016年時点と比較すると、わずか0.2%の増加にとどまっている。所得格差は縮小傾向にあるが依然として大きく、上位10%の世帯の平均所得は下位10%の15.0倍に及ぶ。南北格差も大きく、北西部の南バハカリフォルニア州の世帯平均所得(自己収入)は南部チアパス州の2.6倍に達する。家計支出の構成比について、新型コロナ禍に苦しんだ2020年比でみると、外食や衣服・履物、教育、娯楽などへの支出が回復した。ただし、2016年と比較するとむしろ減少しており、中期的に増加傾向にあるのは、昨今のインフレの影響を強く受けた食品、医療・健康関連、通信や中高所得層を中心とした個人用品・美容分野への支出だ。

徐々に少子高齢化が進む

INEGIが2023年7月26日に結果を発表した2022年全国家計調査(ENIGH 2022)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、2022年8月21日~11月28日に全国10万5,525世帯を対象に実施された2年に一度の標本調査である。同調査に基づく推計によると、メキシコの世帯総数は3,756万123世帯、世帯構成員総数は1億2,888万9,708人、1世帯当たりの平均構成員数は3.43人となっている(表1参照)。世帯当たりの就業者数は1.65人であり、共働きが多い。世帯主の平均年齢は51.4歳だが、世帯構成員としては依然として若年層が多く、30歳未満が47.6%に達する。しかし、メキシコでも核家族化および少子高齢化が進みつつあり、世帯関連データを10年前と比較すると、構成員数は0.28人減少、世帯主の平均年齢は2.77歳上昇、30歳未満の構成員の比率は6.31ポイント低下、60歳以上の比率は3.38ポイント上昇している。

表1:メキシコの世帯関連データの推移
指標 単位 2010年 2012年 2014年 2016年 2018年 2020年 2022年
人口 1,000人 114,560 117,284 119,906 122,644 125,092 126,761 128,890
世帯数 1,000世帯 29,557 31,559 31,671 33,463 34,745 35,750 37,560
世帯構成員数 人/世帯 3.88 3.72 3.79 3.67 3.60 3.55 3.43
世帯当たり就業者数 人/世帯 1.60 1.68 1.64 1.69 1.70 1.64 1.65
世帯主平均年齢 48.3 48.6 48.8 49.2 49.8 51.2 51.4
30歳未満の構成比 54.9 53.9 53.4 52.1 50.9 48.7 47.6
60歳以上の構成比 10.1 10.8 10.6 11.3 12.1 13.6 14.2

出所:国立統計地理情報院(INEGI)「全国家計調査(ENIGH)」データから作成

2022年の世帯平均所得額は、四半期換算で6万3,695ペソ(約41万3,400円、2022年期中平均レートは1ペソ=6.49円)、月額換算で2万1,232ペソ(約13万7,800円)である。所得分配をみると、過去10年間は所得格差が縮小傾向にあり、ジニ係数(注1)も低下しているが、依然として格差が大きな国である。所得上位10%(第X階層)の世帯所得を合計すると全世帯所得の31.5%を占めるが、下位10%(第I階層)の世帯所得を合計しても同2.1%に過ぎない(図1参照)。上位10%の月額世帯平均所得(6万6,899ペソ=約43万4,000円)は、下位10%の世帯平均所得(4,470ペソ=約2万9,000円)の15倍に及ぶ。上位20%までの世帯だけで全世帯所得の47.3%を占め、上位30%まで広げると6割弱に及ぶ。他方、下位30%までの所得を合計しても、全体の10.2%に過ぎない。

図1:2022年の世帯所得の所得階層別シェア(%)
第I階層が最も貧しい10%の世帯、第X階層が最も裕福な10%の世帯を意味する。第I階層の世帯所得の合計が全世帯所得に占める比率は2.1%、第II階層は3.5%、第III階層は4.6%、第IV階層は5.6%、第V階層は6.8%、第VI階層は8.2%、第VII階層は9.8%、第VIII階層は12.0%、第IX階層は15.8%、第X階層は31.5%を占める。

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順(I→X)へ10分割したもの。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「全国家計調査(ENIGH)2022」

世帯構成員1人当たりの所得額でみると、その差はさらに大きくなる。貧しい世帯ほど構成員が多い傾向があり、1人当たりの平均所得額(月額換算)は、第I階層の月額1,256ペソ(約8,150円)に対し、第X階層では2万1,280ペソ(約13万8,000円)に達し、第I階層の16.9倍に相当する。なお、低中所得層の所得の重要な部分を政府の補助金や在外移民からの家族送金などの移転所得が占めていることもあり、移転所得を考慮しない自己収入だけでみると、第I階層の月額世帯平均収入は1,464ペソ(約9,500円)に過ぎず、第X階層の同6万112ペソ(約39万円)の41分の1にも満たない。

新型コロナ沈静化で労働所得回復も、低所得層は政府補助や移民送金に依存

2022年の世帯平均所得は、新型コロナ感染拡大に苦しんだ前回調査(2020年)時と比較すると実質11.0%増の大きな回復を見せた(表2参照)。しかし、雇用が安定し、インフレが低水準で推移し、内需が活性化していた2016年と比較すると実質0.2%の増加にとどまり、世帯所得は全体でみると6年前の水準にようやく戻った程度だ。

表2:階層別世帯平均所得額(月額)推移(単位:2022年価格ペソ,%,ポイント)(△はマイナス値)
所得階層
(10段階)
2016年 2018年 2020年 2022年 増減(2022年)
金額 金額 金額 金額 2016年比 2020年比
I 3,714 3,728 3,778 4,470 20.4 18.3
II 6,461 6,585 6,410 7,474 15.7 16.6
III 8,604 8,763 8,467 9,734 13.1 15.0
IV 10,713 10,914 10,475 11,982 11.9 14.4
V 13,104 13,213 12,683 14,447 10.3 13.9
VI 15,846 15,926 15,246 17,308 9.2 13.5
VII 19,301 19,326 18,500 20,804 7.8 12.5
VIII 24,289 24,080 23,034 25,579 5.3 11.0
IX 32,778 32,148 30,575 33,622 2.6 10.0
X 77,075 68,369 62,066 66,899 △ 13.2 7.8
平均 21,188 20,305 19,123 21,232 0.2 11.0
ジニ係数 0.449 0.426 0.415 0.402 △ 0.047 △ 0.013

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順へ10分割したもの。
平均所得は原典の四半期額を3で除して月額に換算した。
増減はジニ係数のみ増減幅、その他は増減率。
2022年の期中平均為替レートは1ドル=20.11ペソ、1ペソ=6.49円。
出所:INEGI「ENIGH2022」から作成

所得階層別にみると、2020年比では全ての階層で所得が増加したが、2016年比でみると、第X階層を除き増加となっている。所得階層が下がるほど増加率が大きいこともあり、所得格差は縮小し、ジニ係数も改善している。ただし、所得格差縮小の背景には政府の補助金支給や在外メキシコ移民の家族送金など移転所得の増加もある。移転所得を除いた自己収入を時系列にみると、第I~第II階層よりも、第III~第V階層の増加の幅が大きい(表3参照)。第I~第II階層では自己収入以上に移転収入の方が大きく伸び、全体の増加率に貢献している。

表3:階層別世帯平均自己収入額(月額)推移(単位:2022年価格ペソ,%)(△はマイナス値)
所得階層
(10段階)
2016年 2018年 2020年 2022年 増減(2022年)
金額 金額 金額 金額 2016年比 2020年比
I 1,356 1,370 1,427 1,464 8.0 2.6
II 3,721 3,790 3,573 4,058 9.0 13.6
III 6,044 6,263 5,708 6,708 11.0 17.5
IV 8,199 8,499 7,818 9,053 10.4 15.8
V 10,475 10,796 9,959 11,475 9.5 15.2
VI 13,153 13,391 12,431 14,229 8.2 14.5
VII 16,444 16,608 15,552 17,570 6.9 13.0
VIII 21,006 20,993 19,632 22,001 4.7 12.1
IX 28,679 28,323 26,456 29,220 1.9 10.4
X 69,906 61,885 54,958 60,112 △ 14.0 9.4
平均 17,898 17,192 15,751 17,589 △ 1.7 11.7
ジニ係数 0.499 0.475 0.468 0.460 △ 0.040 △ 0.008

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順へ10分割したもの。
自己収入は政府の補助や在外移民からの送金などを除く所得額。
平均収入は原典の四半期額を3で除して月額に換算した。
増減はジニ係数のみ増減幅、その他は増減率。
2022年の期中平均為替レートは1ドル=20.11ペソ、1ペソ=6.49円。
出所:INEGI「ENIGH2022」から作成

移転所得の増加の要因としては、多くの現地メディアでポピュリスト政権と評されるアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)現政権下で進められている総合福祉政策の効果も考えらえるが、より大きな要因と考えられるのが、在米を中心とする在外移民のメキシコへの郷里送金の増加だ。2022年の外国からメキシコへの送金額は過去最高を更新し、前年比13.4%増の585億1,000万ドルに達した(図2参照)。この金額は、同年の対内直接投資額の362億1,500万ドル、原油輸出額の316億2,500万ドルを大きく上回り、GDPの4.1%に相当する。送金額は2014年以降、増加を続けており、新型コロナ禍でも減少しなかった。

図2:外国からメキシコへの送金額推移
2012年の送金額は224億3,832万ドル、GDP比は1.9%。2013年は223億275万ドル、1.8%。2014年は236億4,728万ドル、1.8%。2015年は247億8,477万ドル、2.1%。2016年は269憶9,328万ドル、2.5%。2017年は302億9,054万ドル、2.6%。2018年は336億7,723万ドル、2.8%。2019年は364億3,876万ドル、2.9%。2020年は406億660万ドル、3.7%。2021年は515億8,587万ドル、4.1%。2022年は585億970万ドル、4.1%。

出所:メキシコ中央銀行,国立統計地理情報院(INEGI)データから作成

世帯平均所得の主要収入源別構成比の推移をみると、労働・事業収入は第I階層を除き、2020年比で拡大している(表4参照)。ただし、2016年比でみると、第III~IX階層では縮小しており、回復は道半ばの状況が見てとれる。第X階層の富裕層の重要な収入源である賃貸収入は、2016年比で大きく縮小しており、2020年比でも比率が低下している。過去6年間の高所得層の実質所得の低下は、賃貸収入の減少が主な原因のようだ。

表4:所得階層別経常所得の主要収入源別構成比(上段:2016年,中段:2020年,下段:2022年)(単位:%)
収入源 全世帯 所得階層
平均 I II III IV V VI VII VIII IX X
労働・事業収入(+) 64.3 39.1 53.4 60.5 64.3 67.3 69.2 71.5 72.3 70.6 58.3
63.8 43.9 52.0 57.9 60.4 63.5 66.4 69.2 69.1 69.7 60.6
(+)65.7 (+)42.6 (+)54.3 (-)59.8 (-)64.1 (-)66.2 (-)68.6 (-)70.1 (-)70.1 (-)69.9 (+)63.7
賃貸収入(-) 8.8 1.0 1.3 1.3 1.6 1.7 1.9 2.6 3.0 3.7 19.8
5.4 1.0 1.3 1.3 1.6 1.9 2.1 1.9 2.6 2.9 12.1
(-)5.2 (-)1.0 (-)1.2 (-)1.3 (-)1.5 (+)1.8 (+)2.1 (-)2.2 (-)2.8 (-)3.4 (-)11.4
移転収入(全体)(+) 15.6 37.2 28.5 22.7 19.8 17.5 16.3 14.5 13.5 14.9 12.8
17.6 31.7 26.8 23.7 21.6 19.3 17.5 15.7 15.8 15.6 16.3
(+)17.2 (-)35.7 (-)27.7 (+)23.7 (+)20.5 (+)18.5 (+)16.9 (+)15.9 (+)15.5 (+)15.8 (+)14.7
年金・退職金収入(+) 6.7 2.8 4.6 4.4 4.1 4.5 5.2 5.5 6.1 8.3 8.1
8.5 2.4 4.4 5.0 6.0 6.5 6.7 6.8 8.0 9.3 11.4
(+)8.1 (-)2.7 (-)4.5 (+)5.0 (+)5.4 (+)6.0 (+)6.3 (+)6.9 (+)7.8 (+)9.4 (+)10.6
政府などによる奨学金(-) 0.3 0.2 0.2 0.2 0.2 0.3 0.2 0.3 0.4 0.4 0.3
0.2 0.3 0.2 0.3 0.2 0.2 0.2 0.3 0.2 0.3 0.2
(-)0.2 (+)0.2 (-)0.2 (+)0.2 (+)0.2 (-)0.2 (-)0.2 (-)0.2 (-)0.2 (-)0.2 (-)0.2
現金による寄付(-) 2.1 6.2 5.4 4.2 3.5 3.2 2.6 2.2 1.8 1.8 1.1
2.2 7.5 6.1 5.0 4.1 3.1 2.5 2.2 1.7 1.6 0.9
(-)2.0 (+)8.5 (+)6.1 (+)4.8 (+)3.6 (-)2.9 (-)2.4 (-)1.8 (-)1.5 (-)1.3 (-)0.7
他国からの移転(在外送金)(+) 0.7 1.7 2.0 1.7 1.6 1.2 1.1 0.8 0.8 0.5 0.3
0.8 1.5 1.7 1.6 1.3 1.2 0.9 0.9 0.8 0.7 0.4
(+)1.0 (+)1.9 (+)2.1 (+)2.1 (-)1.6 (+)1.4 (+)1.1 (+)1.2 (+)1.0 (+)0.9 (+)0.5
政府の社会福祉プログラム(+) 1.8 17.2 8.4 5.6 4.1 2.8 2.2 1.5 1.0 0.7 0.2
2.3 12.1 7.5 5.5 4.3 3.7 2.9 2.4 1.9 1.3 0.6
(+)2.8 (-)14.7 (+)8.6 (+)6.4 (+)5.1 (+)4.0 (+)3.2 (+)2.9 (+)2.2 (+)1.7 (+)0.8
他の家庭からの現物贈与(-) 2.7 7.3 6.2 5.1 4.8 4.1 3.4 2.9 2.4 2.1 1.5
2.6 6.8 6.0 5.5 4.9 3.8 3.3 2.6 2.5 1.7 1.3
(-)2.2 (-)6.8 (-)5.4 (-)4.4 (-)3.9 (-)3.2 (-)2.8 (-)2.2 (-)2.0 (-)1.7 (-)1.0
政府・NGOなどの現物贈与(-) 1.3 1.9 1.7 1.6 1.5 1.3 1.6 1.3 1.0 1.2 1.2
1.0 1.1 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 1.4
(-)0.8 (-)0.9 (-)0.9 (-)0.8 (-)0.7 (-)0.8 (-)0.8 (-)0.7 (-)0.7 (-)0.6 (-)0.9
持ち家の帰属家賃(+) 11.3 22.4 16.7 15.2 14.1 13.4 12.5 11.3 11.1 10.8 9.1
13.1 23.1 19.7 17.0 16.3 15.1 14.0 13.1 12.4 11.7 10.9
(+)11.8 (-)20.4 (-)16.6 (-)15.1 (-)13.8 (-)13.4 (-)12.4 (+)11.8 (+)11.5 (+)10.8 (+)10.1
その他の経常所得(+) 0.1 0.3 0.2 0.3 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1
0.1 0.3 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.1
(+)0.1 (-)0.3 (-)0.1 (-)0.1 (-)0.1 (-)0.1 (-)0.1 (-)0.0 (+)0.1 (+)0.1 (+)0.1

注:(+)は2016年と比較して構成比が上昇した項目、(-)は反対に低下した項目。
出所:INEGI,ENIGHの2016年,2020年,2022年版から作成

低所得層にとって重要な収入源である移転収入は、2020年比では労働・事業収入が増加したこともあり、構成比としてはおおむね低下した。ただし、第I~第II階層では2020年比で拡大しており、労働・事業収入を補い、低所得層の所得を下支えしている。2016年との比較でみると、第I~第II階層ではむしろ縮小、その他の階層で拡大となっている。移転収入のうち、低所得層にとって大きいのは政府の社会福祉プログラムによる補助金や在外メキシコ移民からの送金、その他寄付や現物贈与などだ。反対に高所得層にとって重要な移転収入は、年金や退職金収入である。AMLO政権が重視する総合社会福祉プログラムに基づく政府からの移転収入は、前政権下の2016年と比べるとほとんどの階層で増加しているが、皮肉なことに最も貧しい第I階層では縮小している。他方、在外メキシコ移民からの送金収入は、2016年比で第IV、第Ⅵ階層を除き拡大している。各階層に属する全世帯で平均すると、送金収入は2022年時点で第I階層では全収入の1.9%、第II~第III階層では2.1%を占めるに過ぎないが、これは送金を全く受け取っていない世帯も多いからだ。民間シンクタンクのメヒコ・コモ・バモスが2023年7月27日に発表したENIGH2022の結果分析レポート(注2)によると、送金を経常的に受け取っている世帯だけでみると、それら世帯の全収入に占める送金収入の依存度は、第I階層で45%、第II階層で40%、第III~第IV階層で36%に及ぶ。

新型コロナ禍の反動により、2020年比では外出関連支出が拡大

世帯平均現金支出のデータをみると、2022年の世帯平均現金支出額は月額1万3,329ペソ(約8万6,000円)となり、2020年比で17.2%増加した。2016年比だと4.0%の増加にとどまる。2022年の所得階層別現金支出額をみると、第I階層の4,916ペソ(約3万2,000円)と第X階層の3万4,080ペソ(約22万1,000円)の間には6.9倍の開きがある(表5参照)。階層別に現金支出と自己収入(世帯の経常収入から移転所得を除いた収入)を比較すると、第I~IV階層までの貧しい層では現金支出が自己収入を超えており、低所得層の家計が政府や在外移民などからの移転所得に依存していることが分かる。

表5:所得階層別世帯平均現金支出と自己収入(単位:2022年価格ペソ,%)
所得階層
(10段階)
現金支出 自己収入(注) 現金支出
支出額 構成比 金額 構成比 /自己収入
I 4,916 3.7 1,464 0.8 335.8
II 6,413 4.8 4,058 2.3 158.1
III 7,782 5.8 6,708 3.8 116.0
IV 9,103 6.8 9,053 5.1 100.6
V 10,274 7.7 11,475 6.5 89.5
VI 11,824 8.9 14,229 8.1 83.1
VII 13,384 10.0 17,570 10.0 76.2
VIII 15,911 11.9 22,001 12.5 72.3
IX 19,580 14.7 29,220 16.6 67.0
X 34,080 25.6 60,112 34.2 56.7
平均 13,329 17,589 75.8

注:政府やNGOからの補助金,年金・社会保障給付金などの移転所得を除く
世帯の経常収入。原典の4半期データを3で除して月額換算。
2022年の期中平均為替レートは1ドル=20.11ペソ、1ペソ=6.49円。
構成比は各階層の合計が全世帯の合計に占める割合。
出所:INEGI「ENIGH 2022」から作成

所得階層により、支出項目別の構成比は大きく異なる。貧しい階層(I~III)では食費が4割を超えるのとは対照的に、裕福な家庭では教育や娯楽・旅行など生活必需品以外に費やす支出が大きくなっている(表6参照)。ただし、住宅関連・光熱費、個人用品・美容の2分野については、階層間で構成比の差が小さく、どの階層でもほぼ同様の割合を支出している。

表6:所得階層別の経常現金支出構成比(上段:2016年,中段:2020年,下段:2022年)(単位:%)
現金支出項目 全世帯 所得階層
平均 I II III IV V VI VII VIII IX X
食品・飲料・たばこ(+) 27.3 45.8 42.2 39.1 36.9 34.9 32.4 30.3 27.5 23.5 15.4
33.0 46.3 44.8 42.6 41.0 38.6 37.1 35.0 32.6 28.9 22.4
(+)30.3 (+)46.9 (+)43.5 (+)40.9 (+)38.9 (+)37.1 (+)34.8 (+)32.8 (+)29.8 (+)26.8 (+)18.3
外食(-) 7.7 4.5 5.0 5.8 6.0 6.2 6.7 7.1 7.8 8.7 9.6
5.1 3.9 3.9 4.0 4.1 4.5 4.6 4.7 5.3 5.6 6.1
(-)7.4 (-)4.2 (+)5.3 (-)5.5 (-)5.7 (-)5.8 (-)6.4 (-)6.7 (-)7.1 (-)7.9 (+)10.1
衣類・履物(-) 4.6 3.8 3.9 4.2 4.1 4.2 4.4 4.7 4.7 5.0 5.0
3.0 2.2 2.3 2.4 2.5 2.7 2.7 2.9 3.1 3.4 3.4
(-)3.8 (-)2.9 (-)3.1 (-)3.2 (-)3.4 (-)3.6 (-)3.7 (-)3.9 (-)3.9 (-)4 (-)4.2
住宅関連・光熱費(+) 9.5 10.5 10.9 10.3 10.1 10.2 9.8 9.8 9.6 9.1 8.6
11.0 12.7 12.4 12.9 12.2 11.8 11.4 11.0 10.5 10.3 9.8
(+)9.5 (+)10.9 (+)10.9 (+)10.9 (+)10.7 (+)10.3 (+)10.0 (-)9.7 (-)9.4 (-)8.8 (-)8.3
家庭用品・サービス(+) 5.9 6.2 5.8 5.6 5.2 5.2 5.2 5.1 5.2 5.5 7.3
6.5 6.4 6.4 6.0 6.0 6.1 5.9 6.0 6.0 6.3 7.9
(+)6.1 (-)6.0 (+)5.8 (-)5.5 (+)5.3 (+)5.4 (+)5.3 (+)5.6 (+)5.4 (+)6.0 (+)7.6
医療・健康関連(+) 2.7 3.2 2.4 2.5 2.2 2.3 2.5 2.3 2.2 2.8 3.3
4.2 4.2 3.7 3.6 3.8 3.9 3.8 3.9 4.0 4.4 5.1
(+)3.4 (+)3.8 (+)3.1 (+)2.8 (+)2.7 (+)2.8 (+)3.0 (+)2.9 (+)3.3 (+)3.2 (+)4.3
交通・輸送手段(-) 14.9 9.8 10.8 11.7 13.0 13.7 14.7 14.9 15.6 16.1 16.9
12.9 8.2 8.9 10.0 10.4 11.8 12.2 13.2 13.3 14.9 14.8
(-)14.4 (-)9.1 (-)10.1 (-)11.3 (-)11.9 (-)13.0 (-)13.6 (-)14.3 (-)15.3 (+)16.6 (-)16.5
通信(+) 4.4 2.1 2.7 3.3 3.7 4.0 4.4 4.7 5.0 5.2 4.7
5.7 3.6 4.5 5.1 5.5 5.7 6.1 6.2 6.3 6.3 5.5
(+)4.9 (+)3.2 (+)4.0 (+)4.5 (+)4.8 (+)5.1 (+)5.3 (+)5.5 (+)5.6 (+)5.3 (-)4.4
教育(-) 8.6 4.3 5.6 6.6 7.6 7.4 8.0 8.2 8.5 9.0 10.9
6.0 2.4 2.7 2.9 3.6 3.8 4.5 5.2 6.2 6.4 9.8
(-)7.0 (-)3.8 (-)4.6 (-)5.3 (-)6.0 (-)6.2 (-)6.2 (-)6.6 (-)7.5 (-)7.0 (-)9.0
娯楽・旅行(-) 3.8 1.5 1.8 2.1 2.2 2.3 2.5 2.9 3.5 4.2 6.1
1.7 1.2 1.3 1.2 1.3 1.3 1.4 1.5 1.7 1.8 2.4
(-)2.8 (-)1.1 (-)1.3 (-)1.5 (-)1.5 (-)1.6 (-)2.0 (-)2.3 (-)2.5 (-)3.1 (-)4.8
個人用品・美容(+) 5.8 6.4 6.4 6.6 6.5 6.3 6.3 6.1 6.1 5.8 4.8
8.0 7.6 7.8 7.7 7.7 7.9 7.8 8.1 8.1 8.1 8.2
(+)5.9 (-)6.0 (-)6.2 (-)6.3 (-)6.3 (-)6.3 (-)6.2 (+)6.2 (+)6.1 (+)6.0 (+)5.2
移転支出・その他(+) 4.5 1.6 2.2 2.2 2.3 2.9 2.9 3.7 4.0 5.0 7.4
3.0 1.2 1.4 1.6 2.0 2.0 2.3 2.4 2.9 3.5 4.6
(+)4.5 (+)2.1 (-)2.1 (+)2.4 (+)2.7 (-)2.8 (+)3.5 (-)3.6 (+)4.1 (+)5.2 (+)7.4

注:(+)は2016年と比較して構成比が上昇した項目、(-)は反対に低下した項目。
出所:INEGI,ENIGHの2016年,2020年,2022年版から作成

支出項目別の構成比の変化をみると、新型コロナが沈静化に向かったことを受け、2022年は新型コロナ禍の反動で、外食、衣類・履物、交通・輸送手段、教育、娯楽・旅行といった外出に関連する支出が2020年比で拡大している。他方、食品・飲料・たばこ、住宅関連・光熱費、家庭用品・サービスといった生活必需品や巣ごもり需要で新型コロナ禍に拡大した分野は、2022年は前回調査時からの反動で縮小した。

2020年は新型コロナ禍というある意味で特殊な環境の年であったため、その影響を排除し、内需が比較的好調だった2016年と2022年の支出構成比を比べてみると、外食は第II階層と第X階層を除き、まだ完全に回復したとは言い難い。食品・飲料・たばこは2021年以降進んだ同分野のインフレの影響を強く受け、全ての階層で2016年比拡大している。住宅関連・光熱費は、低所得層では拡大、中間層(注3)や高所得層では縮小と対照的となり、低所得層では食費とともに、生活に欠かせない商品やサービスに支出の多くを振り向けなければならない状況に変化はないようだ。家庭用品・サービスはほぼ全世帯で拡大、医療・健康関連、通信もほぼ同様である。通信については、インターネットに接続可能なスマートフォンの普及拡大により、低所得層にとっても重要な支出分野となっている。個人用品・美容の分野は、おおむね低所得層では2016年比で縮小、中間層・富裕層では拡大という結果になっている。

南北の所得格差は依然として大きい

州別の世帯平均所得(移転収入を除く自己収入)をみると、メキシコで最も世帯平均所得が高いのは太平洋岸のリゾート地ロス・カボスがあり、米国やカナダの退職者などの移民が多い南バハカリフォルニア州(月額2万6,463ペソ、約17万2,000円)となる。医療機器や航空機部品、テレビ、自動車部品などの対米輸出向け製造が盛んな工業都市ティファナ、メヒカリがあるバハカリフォルニア州が同2万6,397ペソ(約17万1,000円)で2位、首都メキシコ市が同2万4,812ペソ(16万1,000円)で3位、メキシコを代表する財閥の本拠地で北東部の重要な工業都市モンテレイがあるヌエボレオン州が4位と続く(表7参照)。メキシコでは総じて工業州である北部諸州の所得水準が高く、農業州である南部諸州の所得水準が低い。近年は中央高原バヒオ地区への自動車産業を中心とする企業進出が相次いでいるため、アグアスカリエンテス州やケレタロ州などの所得水準も高くなっている。他方、最も所得水準の低い州はグアテマラと国境を接している南部チアパス州であり、世帯平均所得は月額換算で1万369ペソ(約6万7,000円)と南バハカリフォルニア州の39.2%に過ぎない。下位4州はチアパス州に続いてゲレロ州、オアハカ州、ベラクルス州であり、いずれも南部や南東部の州である。

州別の世帯平均現金支出額をみると、支出額が最も多いのは首都メキシコ市であり、バハカリフォルニア州、ケレタロ州、ヌエボレオン州、南バハカリフォルニア州と続く。各州における所得水準に加え、物価の水準や商業施設、娯楽・サービス施設などの数(消費の選択肢の多さ)が影響しているものと思われる。最も支出額が小さいのはチアパス州であり、オアハカ州、ベラクルス州と続く。世帯平均所得と同様、南部諸州において支出額が小さくなっている。自己収入に占める現金支出額をみると、全国平均は75.7%だが、貧しい世帯が多い割に物価は総じて低くないゲレロ州では93.8%に達している。中央高原のサカテカス州(90.5%)でも9割を超えており、生活の厳しさがうかがえる。

乗用車の世帯普及率は32.7%、インターネットの普及拡大

INEGIの家計調査では、世帯における自動車、電化製品、生活関連サービスなどの所有・利用状況も調査している(表8参照)。調査結果データベースから主要な財・サービスの普及率を抽出した。乗用車の普及率(2022年)は32.7%と上昇傾向が続いているが、ピックアップトラックの普及率は総じて横ばいである。乗用車、バン、ピックアップのいずれかを所有している世帯は2022年に全体の5割弱となっている。近年の都市部におけるスマートフォン(スマホ)アプリを活用した宅配サービスの普及に伴い、同サービスに従事する個人事業者が増えたため、オートバイの世帯普及率が13.1%に達し、過去10年間で7.5ポイントも上昇している。

AV機器の普及率をみると、テレビが90.8%、オーディオ機器は28.9%、DVD・ブルーレイ再生機は13.7%である。メキシコでもスマホの普及により、携帯電話で音楽や動画を視聴する習慣が拡大しているため、オーディオ機器やDVDプレーヤーの普及率は低下傾向にある。順調に普及率が拡大しているのは、携帯電話、インターネットなどの通信サービスである。パソコンの世帯普及率は2008年時点で23.8%と遅れていたが、2012年には30.1%まで拡大、それ以降はスマホなどの普及により減少傾向となっていたが、2022年には再び30.1%へ拡大している。インターネット普及率は2022年時点で56.8%と半数以上の世帯に普及するようになった。この要因としては、スマホの急速な普及拡大があり、スマホを中心とする携帯電話の世帯普及率は2022年に91.9%に達している。冷蔵庫、洗濯機の普及は緩やかながら拡大を続けているが、電気掃除機の普及は進んでいない。カーペットの床が少ないことと、富裕層は家事代行などに掃除を任せる習慣があるため、電気掃除機の利便性を求める消費者が少ないことが影響していると思われる。他方、ミキサーの普及率は91.2%と9割を超えており、メキシコの食生活に欠かせないソース(唐辛子を使った辛いソースが多い)を作るのに用いられることが背景にある。

表8:自動車・電化製品・サービスなど世帯普及率の推移(単位:%)
商品・サービス名 2008年 2010年 2012年 2014年 2016年 2018年 2020年 2022年
携帯電話 56.9 63.7 74.0 76.7 83.1 84.9 89.2 91.9
ミキサー 82.9 81.7 84.3 86.1 87.5 88.0 90.0 91.2
テレビ 93.1 92.0 92.3 93.2 93.6 92.1 92.3 90.8
冷蔵庫 82.8 81.0 81.8 84.7 85.7 86.2 88.4 89.4
洗濯機 53.2 62.0 63.8 65.6 67.6 67.8 71.1 72.8
アイロン 84.0 79.8 79.7 79.2 78.1 75.9 73.4 72.6
自動車(注) 43.6 39.7 41.1 42.1 45.0 45.0 46.8 49.2
階層レベル2の項目乗用車 N.A. 26.0 27.1 27.1 28.2 28.8 31.3 32.7
階層レベル2の項目バン N.A. 9.9 11.2 12.3 11.8 11.5 11.9 12.5
階層レベル2の項目ピックアップ N.A. 9.4 12.6 10.6 8.7 8.4 8.6 8.3
有料テレビ放送 25.1 28.3 33.5 36.4 48.7 44.1 44.2 42.1
電子レンジ 43.5 41.1 43.2 44.6 44.3 43.5 45.0 45.8
オーディオ機器 83.0 74.3 70.0 65.8 39.5 36.6 33.9 28.9
DVD/BDプレーヤー 55.8 50.0 48.8 43.4 37.9 29.8 31.6 13.7
インターネット 14.5 19.2 24.4 27.9 29.7 34.3 48.4 56.8
固定電話 46.4 41.4 40.3 37.3 29.4 27.8 30.1 27.8
パソコン 23.8 25.9 30.1 29.9 29.0 27.2 21.6 30.1
クレジットカード 19.4 N.A. 21.9 25.8 24.8 24.0 26.2 28.0
プリンタ 16.3 14.6 14.2 13.4 13.0 12.3 10.6 13.2
オートバイ 3.9 4.3 5.6 7.0 6.9 9.0 10.7 13.1
ビデオゲーム機 12.6 9.3 10.6 11.4 10.5 10.5 10.4 10.6
電気掃除機 8.4 7.1 6.0 7.0 7.9 7.6 8.2 8.4

注:乗用車、バン、ピックアップのいずれか(双方、3つともを含む)を所有している世帯の比率。
出所:INEGI 「全国家計調査(ENIGH)」データから作成


注1:
所得などの分布の均等度合を示す指標。係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示す。
注2:
México, ¿Cómo Vamos?, “ENIGH 2022m ¿cómo vamos con los ingresos y gastos de los hogares?”, Julio 2023.
注3:
メキシコでは全世帯の6割弱が「低所得層」、残りの4割弱が「中間層」、「富裕層」はわずか数%と推定されている。詳しくは、2021年12月27日付地域・分析レポート参照
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。