パンデミックで中間層627万人減 国民6割超が低所得層に(メキシコ)
メキシコにおける中間層の現状

2021年12月27日

国立統計地理情報院(INEGI)が2021年11月に発表した2010~2020年のメキシコにおける中間層に関する調査報告書によると、2020年時点のメキシコの中間層の世帯数は2年前の2018年と比較して112万世帯、同人口は627万人も減少した。他方、低所得層は拡大し、国民の6割超は平均月収が6万円にも満たない低所得層に属する。中間層の生活水準をみると、大半が自動車を所有し、7割以上の世帯がインターネットへのアクセスも有するため、日本製品の購買対象になり得ると考えられるが、中間層の拡大は道半ばといえる。

新型コロナの影響が色濃く

INEGIが2021年11月に発表した「2010年~2020年のメキシコにおける中間層の定量化(スペイン語)」(3.10MB)と題した調査レポートによると、2020年時点のメキシコの中間層(注1)は1,509万6,901世帯、同構成員数(人口)は4,720万1,616人であり、同年の全世帯の42.2%、全人口の37.2%を占める。中間層は都市部に約4分の3が集積しており、都市部だけでみると全世帯の49.8%、全人口の44.9%となる。富裕層は全世帯の1.2%、全人口の0.8%に過ぎず、低所得層が過半を占めており、全世帯の56.6%、全人口の62.0%を占める(表1参照)。

表1:メキシコにおける所得階層別世帯・人口分布(単位:1,000戸,1,000人,%,%ポイント)(△はマイナス値、-は値なし)
居住地域 所得階層 2010年 2018年 2020年 増減
世帯数 人口 世帯数 人口 世帯数 人口 2020/2018年 2020/2010年
世帯数 人口 世帯数 人口
都市部 富裕 実数 724.7 1,919.5 777.7 1,839.3 429.7 1,023.0 △ 348.0 △ 816.3 △ 295.0 △ 896.5
構成比 3.9 2.7 3.6 2.4 1.9 1.3 △ 1.7 △ 1.1 △ 2.0 △ 1.4
中間 実数 9,435.1 33,038.3 12,124.2 39,530.6 11,529.8 35,613.7 △ 594.4 △ 3,916.9 2,094.8 2,575.4
構成比 50.1 47.0 55.5 51.9 49.8 44.9 △ 5.7 △ 7.0 △ 0.4 △ 2.1
低所得 実数 8,661.5 35,326.6 8,941.6 34,730.9 11,203.9 42,687.0 2,262.4 7,956.1 2,542.4 7,360.4
構成比 46.0 50.3 40.9 45.6 48.4 53.8 7.4 8.2 2.3 3.6
農村部 富裕 実数
構成比
中間 実数 2,853.6 10,931.8 4,090.8 13,941.5 3,567.1 11,587.9 △ 523.8 △ 2,353.6 713.5 656.2
構成比 28.1 26.0 31.7 28.5 28.3 24.4 △ 3.4 △ 4.0 0.2 △ 1.6
低所得 実数 7,293.4 31,075.7 8,810.5 35,049.4 9,019.1 35,849.2 208.6 799.8 1,725.8 4,773.5
構成比 71.9 74.0 68.3 71.5 71.7 75.6 3.4 4.0 △ 0.2 1.6
全国 富裕 実数 724.7 1,919.5 777.7 1,839.3 429.7 1,023.0 △ 348.0 △ 816.3 △ 295.0 △ 896.5
構成比 2.5 1.7 2.2 1.5 1.2 0.8 △ 1.0 △ 0.7 △ 1.3 △ 0.9
中間 実数 12,288.6 43,970.1 16,215.0 53,472.2 15,096.9 47,201.6 △ 1,118.1 △ 6,270.5 2,808.3 3,231.5
構成比 42.4 39.2 46.7 42.7 42.2 37.2 △ 4.4 △ 5.5 △ 0.2 △ 1.9
低所得 実数 15,954.9 66,402.3 17,752.1 69,780.3 20,223.1 78,536.2 2,470.9 8,755.9 4,268.2 12,133.9
構成比 55.1 59.1 51.1 55.8 56.6 62.0 5.5 6.2 1.5 2.8

注:構成比はそれぞれの居住地域における構成比。
出所:国立統計地理情報院(INEGI), Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

中間層の過去10年間の世帯および人口構成比の推移をみると、世帯構成比は2010年の42.4%から2018年の46.7%へ徐々に拡大、人口構成比も39.2%から42.7%へと拡大していた。しかし、2020年に世界を襲った新型コロナのパンデミックの影響を強く受け、2020年には42.2%、37.2%へと10年前の2010年を下回る水準まで低下してしまった(図1参照)。中間層の世帯数は2年前と比較して約112万世帯、同人口は約627万人も減少したことになる。同様に、富裕層も世帯数で約35万世帯、人口で約82万人減少し、反対に、低所得層が世帯数で約247万世帯、人口で876万人増加している。

図1:メキシコにおける中間層構成比の推移
中間層の世帯の全世帯数に占める構成比は2010年に42.4%、2012年に43.3%、2016年に45.8%、2018年に46.7%、2020年に42.2%。中間層の人口の全人口に占める構成比は、2010年に39.2%、2012年に38.8%、2016年に41.6%、2018年に42.7%、2020年に37.2%。

出所:INEGI, Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

所得階層の分布には地域格差が大きい

全般的にこの2年で富裕層と中間層が減少し、低所得層が拡大しているが、所得階層別構成比のメキシコ国内における地域格差は大きい。富裕層の比率が高いのは、首都メキシコ市やメキシコ有数の財閥の本拠地モンテレイがある北東部ヌエボレオン州、太平洋岸最大の港であるマンサニージョ港があるコリマ州、中央高原の有力工業州であり、外資系企業の駐在員や移住者が多く生活水準が高いケレタロ州、州都メリダはメキシコで最も治安が良く、米国やカナダ、欧州などからの移住者が多いユカタン州、国内有数のビーチリゾートのロスカボスやカンクンがある、南バハカリフォルニア州やキンタナロー州などとなっている(図2参照)。

図2:富裕層の州別世帯構成比(2020年)
高い順からメキシコ市の比率が3.1%、ヌエボレオン州が2.8%、コリマ州が2.6%、ケレタロ州が2.4%、ユカタン州が2.3%、南バハカリフォルニア州が1.7%、ソノラ州とキンタナロー州が1.6%、グアナファト州、ハリスコ州、メキシコ州、コアウイラ州が1.2%、バハカリフォルニア州、シナロア州、サンルイスポトシ州が1.1%、アグアスカリエンテス州、ミチョアカン州が1.0%、サカテカス州、カンペチェ州、モレロス州が0.9%、ナヤリ州、ドゥランゴ州が0.8%、チワワ州、タマウリパス州が0.7%、オアハカ州、プエブラ州が0.5%、チアパス州が0.4%、ベラクルス州、タバスコ州が0.3%、イダルゴ州、トラスカラ州、ゲレロ州が0.2%。なお、富裕層の比率の全国平均は1.2%。

出所:INEGI, Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

中間層の比率は、ユカタン州(注2)を除く富裕層が多い州に加え、メキシコ第3の大都市グアダラハラ市があるハリスコ州、バハカリフォルニア州、ソノラ州、シナロア州、ナヤリ州などの北西部、日産自動車や同サプライヤーが多く進出している中央高原の工業州のアグアスカリエンテス州、首都メキシコ市の周辺に広がるメキシコ州などで相対的に高くなっている(図3参照)。

図3:中間層の州別世帯構成比(2020年)
高い順からメキシコ市の比率が58.9%、コリマ州が54.6%、ハリスコ州が53.6%、バハカリフォルニア州が53.1%、ソノラ州が51.9%、南バハカリフォルニア州が51.1%、ケレタロ州が50.5%、シナロア州が50.0%、ナヤリ州が49.9%、アグアスカリエンテス州が49.4%、メキシコ州が46.9%、キンタナロー州が45.7%、ヌエボレオン州が45.6%、ミチョアカン州が44.6%、チワワ州が43.3%、コアウイラ州が42.0%、モレロス州が40.9%、タマウリパス州が39.5%、カンペチェ州が38.8%、ユカタン州が36.9%、イダルゴ州が36.3%、サンルイスポトシ州が35.8%、サカテカス州が35.4%、グアナファト州とタバスコ州が35.3%、ベラクルス州が34.9%、ドゥランゴ州が34.1%、トラスカラ州が33.6%、プエブラ州が31.6%、オアハカ州が25.6%、ゲレロ州が24.0%、チアパス州が19.5%。なお、中間層の比率の全国平均は42.2%。

出所:INEGI, Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

他方、低所得層はチアパス州、ゲレロ州、オアハカ州、プエブラ州、トラスカラ州、ベラクルス州、タバスコ州など、首都メキシコ市よりも南に多くなっている。チアパス州やゲレロ州、オアハカ州では、低所得層の世帯構成比がそれぞれ80.2%、75.8%、73.9%と7割を超える。一般的に南部農村地帯で低所得層が多いが、ドゥランゴ州、サカテカス州、グアナファト州、イダルゴ州、サンルイスポトシ州など中央高原や北部諸州の中にも低所得層の比率が高い州がある(図4参照)。

図4:低所得層の州別世帯構成比(2020年)
高い順からチアパス州が80.2%、ゲレロ州が75.8%、オアハカ州が73.9%、プエブラ州が68.0%、トラスカラ州が66.2%、ドゥランゴ州が65.1%、ベラクルス州が64.8%、タバスコ州が64.4%、サカテカス州が63.6%、グアナファト州が63.4%、イダルゴ州が63.4%、サンルイスポトシ州が63.2%、ユカタン州が60.8%、カンペチェ州が60.4%、タマウリパス州が59.8%、モレロス州が58.2%、コアウイラ州が56.8%、チワワ州が56.0%、ミチョアカン州が54.5%、キンタナロー州が52.8%、メキシコ州が51.9%、ヌエボレオン州が51.6%、アグアスカリエンテス州が49.5%、ナヤリ州が49.3%、シナロア州が48.8%、南バハカリフォルニア州が47.2%、ケレタロ州が47.1%、ソノラ州が46.5%、バハカリフォルニア州が45.8%、ハリスコ州が45.2%、コリマ州が42.8%、メキシコ市の比率が38.0%。なお、低所得層の比率の全国平均は56.6%。

出所:INEGI, Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

階層間で大きく異なる消費水準

所得階層別に世帯の特徴をみると、低所得層は、中間層や富裕層と比べると世帯構成員の数が多く、構成員の平均年齢が若い。他方、65歳以上の世帯主の比率も相対的に高いため、農村部を中心に複数世代が同居していることが多いと考えられる。中間層や富裕層の世帯は核家族が中心である。低所得では、世帯主が独身の比率が5.6%とかなり低いが、事実婚の世帯の比率が23.8%と高く、婚姻届けを出しておらず、また教会での挙式もしない世帯が多いことがわかる。

世帯主の平均就学年数は、低所得層では8.2年であり、義務教育(9年)も終了していない世帯が多い。中間層では11.2年と、高校までは通った世帯が中心だ。富裕層は15.2年で、大卒が大半を占める。中間層や富裕層では会社勤めが多いが、低所得層では34.6%の世帯にしか給与労働者の構成員がいない。他方、低所得層では、個人事業主や家族経営が3分の1以上を占める。なお、メキシコでは中間層であっても、個人事業主や個人就労者、家族経営労働者などが5分の1以上を占める(表2参照)。

表2:所得階層別の世帯の特徴
比較項目 単位 低所得 中間 富裕
構成員の平均年齢 31.4 35.9 40.0
平均構成員数 3.9 3.1 2.4
65歳以上の世帯主の比率 22.0 20.6 21.0
世帯主が事実婚の比率 23.8 15.0 9.5
世帯主が既婚の比率 43.8 47.3 45.9
世帯主が離婚した比率 2.5 5.4 11.3
世帯主が独身の比率 5.6 10.9 20.3
成人構成員の平均就学年数 8.2 11.2 15.2
成人構成員が一人でも大卒 18.6 51.2 91.9
身体障害者がいる 22.3 15.0 6.9
一人でも給与労働者がいる 34.6 55.9 63.7
正規の個人事業主がいる 2.1 6.4 19.9
一人でも管理職がいる 14.4 43.2 82.5
個人事業主・個人就労者・家族経営 36.8 23.7 7.9
会社・民間企業で就労 33.1 42.2 41.8
政府部門で就労 7.1 19.3 22.7
非政府機関で就労 0.8 2.3 4.0

出所:INEGI, Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

2020年時点の所得階層別の世帯平均収入(月額)をみると、低所得層は1万1,343ペソ(約5万6,000円、1ペソ=約4.96円、2020年期中平均レート)、中間層は2万2,297ペソ、富裕層は7万7,975ペソである。中間層の収入は世帯や地域によって開きがあり、都市部では最低1万7ペソ、最高4万8,330ペソ、平均2万3,451ペソ、農村部では最低8,197ペソ、最高3万8,628ペソ、平均1万8,569ペソとなっている(表3参照)。

表3:所得階層別収入額と分野別支出額

平均月間収入額(単位:ペソ)
比較項目 低所得 中間 富裕
平均月間収入 11,343 22,297 77,975
平均月間特定分野別支出(単位:ペソ)
比較項目 低所得 中間 富裕
教育・文化・娯楽 144 1,068 7,263
外食 319 931 3,941
ガソリン 319 904 2,347
クレジットカード 16 426 8,011
衣類・履物 192 410 1,330
住宅維持・改装・拡張 59 161 410
医師・歯科医診療(入院除く) 25 121 652
個人用品・サービス 32 93 373
観光 1 25 320

注:2020年の期中平均為替レートは、1ペソ=4.96円。
出所:INEGI, Cuantificando la Clase Media en México 2010-2020, Noviembre 2021

特定分野の支出を階層別にみると、クレジットカード、観光、教育・文化・娯楽、医療関連支出で階層間に大きな開きがある(表3参照)。他方、ガソリン、衣類・履物、住宅維持・改装・拡張の分野では階層間の差が相対的に小さい。特に中間層と富裕層の間でみると、ガソリン、衣類・履物、住宅関連の支出の世帯収入に占める構成比は、中間層(それぞれ4.1%、1.8%、0.7%)の方が富裕層(同3.0%、1.7%、0.5%)より大きくなっており、相対的にこれら分野の支出ウエイトが大きいことがわかる。

中間層の世帯における特定の財やサービスの普及率をみると(表4参照)、インターネットの世帯普及率は74.0%に及び、全世帯平均の48.4%を大きく上回る。自動車の普及率も61.6%に達しており、全世帯平均の46.8%よりかなり高い。中間層の多くが自動車を所有しているが、富裕層と比べると所有している自動車が古く、燃費効率が悪いと考えられるため、ガソリン支出の家計への負担が大きくなっていると思われる。有料テレビの普及率は55.3%に及び、半数以上の世帯が有料テレビを契約しているが、クレジットカードの普及率は41.7%にとどまっており、銀行のキャッシュカードと一体化しているデビッドカードの普及は比較的進んでいるものの、クレジットカードまで所有している世帯はまだ少ない。なお、中間層の世帯の30%以上が私立の教育機関の教育を受けており、5分の1の世帯が家政婦など家内サービスを利用している。

表4:中間層の財・サービス世帯普及率(2020年)(単位:%)
財・サービス 中間層 全世帯平均
インターネット 74.0 48.4
自動車 61.6 46.8
有料テレビ 55.3 44.2
クレジットカード 41.7 26.2
民間教育 31.5 N.A.
家内サービス(家政婦) 20.4 N.A.

出所:INEGIデータから作成


注1:
INEGIは、中間層を世帯の所得水準だけでなく、当該世帯の生活水準を表す特定分野(15分野)の支出額などを考慮して定義している。なお、低所得層(Clase Baja)は必ずしも「貧困層」と等しくなく、国家社会政策評価委員会(CONEVAL)が定める貧困ライン以上の所得を有する低所得層もあり得るとしている。
注2:
ユカタン州は、富裕層の世帯の比率が他州と比べると高いが、中間層が少なく、低所得層の比率が高い。
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。