日本大使に聞く「軍事的政権奪取の真相」(ガボン)
西アフリカで続くクーデターと異なる性格

2023年12月4日

2020年代に入って、アフリカで軍事的政権奪取(クーデター)が相次いでいる。

(1) 2020年にマリで(2020年8月20日付ビジネス短信参照)、(2) 2021年にギニアで(2021年9月7日付ビジネス短信参照)(3) 2022年にブルキナファソで(2022年10月3日付ビジネス短信参照)、2度にわたって、そして(4) 2023年7月26日にはニジェールで(2023年7月31日付ビジネス短信参照)次々と発生した。

国によって事情は異なるが、共通するのはこれら4カ国はいずれも西部アフリカ地域に所在し、フランスから独立を勝ち取った国であるという点だ。西部アフリカ地域の政変に見られがちな傾向として、サヘル地域でイスラム過激派勢力掃討に失敗し、治安情勢が悪化したことに端を発する政権への不信がある。そこに反フランス感情が重なり、その隙間にロシアが入り込むかたちで影響力を強めた点も指摘できる。

そして、ニジェールの軍事的政権奪取から1カ月後の2023年8月30日、中部アフリカ地域のガボンでも軍部が政権を奪取する事態が発生した。この件は、(1) 民主的な手続きに基づかない、(2) 旧フランス領でフランス軍部隊が駐留している、など外形的には西部アフリカ4国の例と類似しているように見える。そのため、一時は「軍事的政権奪取(クーデター)の伝染」を危惧する声もあった。

しかし、ガボンは中部アフリカ地域に所在しサヘル地域と地理的に隔たっている(図参照)。同国は、サブサハラアフリカ有数の産油国であり、南アフリカ共和国に次ぐ世界2位のマンガン産出国(2021年、含有量ベース)として、フランスや中国などへ供給する資源国だ。また、多方面外交を積極的に展開し、中部アフリカ地域の安定勢力として伝統的に地域の紛争解決に積極的な役割を果たしてきた。他方で、内政に目を向けるとボンゴ家が父子2代にわたって60年近く政権を独占し、汚職や不正の横行などが指摘されていた。

図:アフリカ大陸中部に位置するガボン
2020年代に入って軍事的政権奪取が相次いで発生した西部アフリカ地域に位置するマリ、ギニア、ブルキナファソ、ニジェールと2023年8月末に軍事的政権奪取が発生した中部アフリカ地域に所在するガボンは地理的に隔たりがある。

出所:ジェトロ作成

ガボンにおける軍事的政権奪取は、西部アフリカ地域からの「軍事的政権奪取(クーデター)の伝染」なのか、あるいは異なる背景を見るべきなのか、また、民政復帰に向け今後の見通しはついているのか、こうした点について野口修二駐ガボン日本大使に書面でインタビューした(取材日2023年11月7日)。なお大使は、軍事的政権奪取の発生当時も首都リーブルビルで任にあった。

質問:
2023年8月30日未明に発生した軍事的政権奪取の概要とその後の経過は。
答え:
8月26日の大統領選挙の結果として、8月30日の未明に現職のアリ・ボンゴ氏の当選が発表された。その直後、軍・治安部隊の一部が国営放送局を占拠し、「選挙は不正で大統領選の結果は無効。全ての国家機能を停止し、国家機関移行再建委員会(CTRI)を発足させる」旨の声明を発表した。
この蜂起を主導した大統領親衛隊長のオリギ・ンゲマ氏がCTRI議長に就任した。ンゲマ氏は8月31日から9月2日にかけて経済界、政界(野党を含む)、市民社会、宗教界、メディア、外交団などの代表と対話を進め、CTRI暫定政府への理解と支持を求めた。一方、アリ・ボンゴ氏とシルビア夫人を軟禁し、長男のヌルディン・ボンゴ氏などアリ・ボンゴ氏の側近7人を汚職容疑で逮捕した。
暫定政府は、前政権時の行政・経済・社会の一貫性・継続性を保つ姿勢を示している。その上で、9月4日には前政権の大臣などを含む各界代表者の出席の下、オリギ・ンゲマ氏の暫定大統領就任式を実施した。その後、文民のンドン・シマ氏が暫定政府の首相に任命された。シマ氏は経済学者で、アリ・ボンゴ政権でも首相を務めていた。また、暫定政府の閣僚27人(うち軍人4人)の交代式も実施された。
こうして、アリ・ボンゴ政権は終焉(しゅうえん)した。代わって、CTRI暫定政府が形式的にも実態的にも機能しているのが現状だ。
質問:
事件以降、市民生活への影響は。例えば、治安の悪化、経済活動の停滞は生じていないか。
答え:
今回の政変の前後を通じて、いかなる暴力行為も流血沙汰も起こっていない。事態が平和的に推移したことは特筆すべきポイントだ。アリ・ボンゴ氏は確かに権力を剥奪されたとは言え、安全は保障され、既に軟禁を解かれている。療養のための出国も認められている。CTRIは、前政権時の行政・経済・社会の既存機構を維持し、平和で安定した市民生活が継続している。大きな治安の悪化も見られない。
オリギ・ンゲマ暫定大統領は「選挙には多くの不正があり、アリ・ボンゴ氏の当選発表は虚偽だった。大統領筋から暴動発生時は市民を殺傷しても構わないと許可が出ており、2009年と2016年の大統領選挙時に続いて3度も自国民を傷つけたくはなかった。蜂起したのはそのためだ」と説明した。国民も、その説明に納得しているようだ。
質問:
ガボンでの件は、西アフリカと同様の事象と見てよいか?
答え:
今回のガボンの政変を西アフリカ地域での一連の軍事的政権奪取と同列に語ることはできない。ガボンでは、(1)イスラム過激派の進出、(2)ロシア・ワグネルの影響、(3)過激な反フランス運動、のいずれも見られない。むしろ、今回発生したのはガボン独自の論理と動機による政変だ。一言で言うと、オマール、アリの親子、約60年にわたって支配を続けたボンゴ家の追放といってよい。
アリ・ボンゴ大統領時代に国家収入の柱である石油価格の下落もあり、国民生活は次第に悪化した。さらに2018年にアリ・ボンゴ大統領が脳卒中で倒れて以降は、シルビア夫人や息子のヌルディン・ボンゴ氏らの側近が実権を握った。腐敗と富の寡占が助長され、国民の不満は限界に達していた。
オリギ・ンゲマ暫定大統領は、オマール・ボンゴ氏の親族かつ忠臣だったが、こうした国民の不満を代弁し、側近政治による国家の崩壊を阻止するべく蜂起したと見ている。いわゆる軍事的政権奪取や宮廷革命というより、むしろ民衆革命の性格が強いと言える。同暫定大統領自身は「これはクーデターではない。自由のための行動だ」と発言している。8月30日の早朝に蜂起を知った国民が街に繰り出し、「今日がガボンの真の独立の日だ」と喜びを爆発させた様子は象徴的だった。
質問:
CTRI暫定政府の政権運営や方向性はどのようのものか。国民の支持は。
答え:
ガボンの国民は、長期のボンゴ家支配を終わらせた軍・治安部隊の蜂起を歓迎し、旧与野党を含む政界、経済界、マスコミ、市民社会などほぼすべての国民がCTRI暫定政府を支持している。
暫定政府は、前政権時代の汚職や公金横領を調査・処罰しつつ、透明性と開放性に配慮し、表現の自由などの基本的人権や法の支配を尊重する民主的方向で国家再建を表明している。幅広く国民の意見を聞き、国民和解に努めながら、新憲法を国民投票で採択した後に再選挙を実施し、民政に移管するべく具体的準備に着手している。
質問:
国際社会の反応は。日本政府はどのように対応しているか。
答え:
米国、フランスなどの西側民主主義国は、軍事的な政権奪取を非難する声明を発表した。また、ガボンが加盟するアフリカ連合(AU)と中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)は、無期限でガボンの加盟資格を停止した。
その後、CTRI暫定政府が民主的方向で機能し、それを国民の大多数が支持している事実を踏まえ、多くの国や機関が暫定政府との公式接触を再開している。日本政府も8月31日、「ガボンの軍・治安部隊の一部兵士が、8月26日に実施された大統領選挙の無効を主張するとともに、アリ・ボンゴ大統領を拘束したことおよびガボンの国家機能の停止を発表した事態を深く憂慮し、ガボンの全ての当事者に対して、同国における憲法に基づく秩序が堅持されるよう呼びかけるとともに、文民主導の政府への早期復帰を求める。また、我が国は、アフリカ連合、国際連合などと共に、軍事的政権奪取は認められないことを強調し、アリ・ボンゴ大統領およびその家族ならびに政府関係者の安全を含め、ガボン国内の安定が確保されることを求める。我が国は、ガボンの平和と安定およびその社会と経済の持続可能な発展を引き続き後押ししていく」との外務報道官談話を発表した。
現在は、米国やフランスなどG7諸国や国連やアフリカ地域機関とも協調しながらCTRI暫定政府と対話し、民政移行を後押ししていく方針だ。
質問:
経済状況、企業活動への影響は。
答え:
経済状況や企業活動は、基本的に前政権時代と一貫性・継続性が保たれている。経済特区などの制度面も同様だ。
一方で、表現の自由の保障や労働者の権利意識の向上からストライキが散発的に発生し、個々の企業レベルでは活動に支障が生じているところもある。また、米国をはじめとするドナーの援助が一時的に停止されたことで政府は苦しい財政運営を強いられている。
こうした現状を踏まえ、オリギ・ンゲマ暫定大統領は、自身の暫定大統領としての給与を返上した。あわせて、前政権幹部が横領した公金の国庫への返納などの措置を講じた。
質問:
民政移行へ向けた見通しとリスクは。国際社会や日本に期待されることは何か。
答え:
CTRI暫定政府は、民主的な国づくりを明確に表明している。これまでに実施した具体的政策もその方向性を裏付けるものだ。
一方で、軍事力による政権奪取という外形的性質は否定できない事実であり、新憲法が制定されるのか、また、再選挙を経て民政移行が現実に実現するのか、今後の推移を慎重に注視していく必要がある。民政移行が成功裏に実現し、民主主義が定着していくと、民主主義のモデル国家が中部アフリカ地域に誕生する可能性がある。アフリカでは現在、大陸レベルで(1)イスラム過激派の進出、(2)中国・ロシアなどの影響力拡大、(3)地域の不安定化、などが見られる中で、歴史的意義があると言える。
したがって、我が国としては、今後のCTRI暫定政府の具体的政権運営を慎重に見極める必要がある。並行して、G7などの友好国、国連、アフリカ地域機関などと連携し、民政移行プロセスをサポートしていくことが重要だと考える。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課長
松村 亮(まつむら まこと)
1993年、ジェトロ入構。展示部、ジェトロ名古屋、ジェトロ・ダルエスサラーム事務所、企画部、輸出促進部、ジェトロ・上海事務所、ジェトロ大分、アジア経済研究所勤務などを経て、2023年5月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。