インド7州に大規模繊維工業団地を整備
グジャラート州は南部ナブサリ市に

2023年6月9日

インドの「PM MITRAパーク」(PM Mega Integrated Textile Regions and Apparel Park:PM MITRA)は、中央政府主導の繊維産業振興プロジェクトだ。2021年度連邦州政府予算に盛り込まれたもので、ナレンドラ・モディ首相が掲げる「5F:Farm to Fibre to Factory to Fashion to Foreign)ビジョン」が背景にある。同ビジョンは、インド各地に世界クラスの繊維産業インフラを構築することで、グローバル企業からの外国直接投資を含む大規模投資を誘致し、同分野のイノベーションと雇用を創出するもの。大規模繊維クラスターの構築は規模の経済を実現し、生産効率の向上や物流コストの削減などの課題を解決し、インド繊維産業の競争力を高め、インドを繊維製造・輸出の世界的拠点にすることが狙いだ。

7州の案件を採択

政府は2023年3月17日の通達で、13州から寄せられた18件の提案の中から選定し、大規模な繊維工業団地であるPM MITRAパークを国内7カ所に設立すると発表した。採択された7州の提案は、既存のエコシステム、各州の繊維産業政策、接続性、インフラ、公共設備サービスなど、客観的な基準に基づき、適合性を評価して選定した。また、「PMガティ・シャクティ」(PM Gati Shakti、注)、の観点からも検証を行った。

これらパークの設置が予定されるのは、タミル・ナドゥ州(ビルドゥナガール)、テランガナ州(ワランガル)、グジャラート(GJ)州(ナブサリ)、カルナータカ州(カラブラギ)、マディヤ・プラデシュ州(ダール)、ウッタル・プラデシュ州(ラクノウ)、マハーラーシュトラ州(アムラバティ)の7州だ。

中央政府と州政府の分担による開発支援やインセンティブ

同パークは、中央政府と州政府が協力して、繊維産業の投資拡大や、技術革新の促進、雇用機会を創出し、最終的にはインドを繊維製造と輸出の世界的なハブにすることを意図したユニークなモデルに基づいている。これらのパークの整備を通じて、7,000億ルピー(約1兆1,900億円、1ルピー=約1.7円)近い新規投資と、200万人の新規雇用創出が期待されている。各パークは2026~2027年までに設立される予定だ。

同モデルでは、インド繊維省がプロジェクト全体の遂行を監督する一方、各パークには中央政府と州政府が出資する特別目的会社(SPV)を設置し、各プロジェクトの実施を監督することになっており、官民パートナーシップ(PPP)方式で行われる。グリーンフィールドからの開発プロジェクトの場合、次のような枠組みでプロジェクト開発を進め、開発促進のインセンティブ予算を用意している。

  1. 繊維省は各パークのSPVに対し、1パーク当たりのプロジェクト費用の30%、50億ルピーを上限とする開発資金援助を行う
  2. 開発を迅速に進めるため、各パーク内に設立される製造企業に対する競争的インセンティブ支援予算(CIS)として、パークごとに最高30億ルピーを提供する。この範囲内で、各製造企業は先着順で総販売額の3%を上限に補助が受けられる(中央政府の繊維分野PLIスキームとの併用は不可)。
  3. 開発主体と投資家により多くのインセンティブを与えるため、中央政府や州政府の他のスキームのガイドラインに従った統合・連携も考慮する。
  4. 州政府は、最低1,000エーカー(404万6,860平方メートル、1エーカー=4,046.86平方メートル)のフラットな土地区画を提供し、全てのユーティリティーと、信頼できる電力供給、水供給、廃水処理システム、効果的なシングルウインドーの許認可申請窓口の設置、繊維産業への安定した支援策の提供を行う。
  5. 各パークは、優れたインフラ(共同排水処理施設、共同加工場、デザインセンターなど)、プラグ・アンド・プレー施設(レンタル工場)、トレーニング施設、研究施設などを産業界に提供する。

GJ州では州南部ナブサリ市周辺に設置予定

GJ州産業開発公社(GIDC)は、GJ州南部ナブサリ市域に位置するバンシで、PM MITRAパークの開発に対する需要調査を開始したと発表した。同パークは456万8,000平方メートルに及ぶ区域を想定している。同パークは紡績や織布、加工、刺しゅう、テキスタイル加工、染色、デジタルプリント、衣料品製造に関する統合バリューチェーンを1カ所に集約する計画だ。、同計画を通じ最新の加工工場が誘致されることにより、直接・間接的に4万5,000人の新規雇用機会を創出することが期待されるとしている(4月19日付「デシ・グジャラート」紙 )。

インドには、GJ州、マハーラーシュトラ州、タミル・ナドゥ州、ウッタル・プラデシュ州、西ベンガル州などの各州・地域を中心として繊維製造クラスターが存在し、各クラスターはそれぞれ、綿織物、絹織物、手織り織物などの異なる分野に特化しているとされている。

インド繊維産業の市場規模は2025年度までに1,900億ドル規模に

インド工業連盟(CII)のまとめ(2023年4月17日)によると、繊維・衣料品製造業分野はインドのGDPと雇用創出に貢献する基幹産業分野の1つだという。その工程も、川上の綿花栽培から紡績、織物、染色、プリント、川下の衣料品製造に至るバリューチェーン全体をカバーしている。インドは世界第2位の繊維・衣料品の生産国で、繊維・衣料品の輸出額の世界貿易に占めるシェアは4%だ。同産業分野はインドのGDPの2.3%、工業生産の13%、輸出の12%に貢献しており、約4,500万人の労働者が雇用されている。繊維・衣料品産業の市場規模は2019年度から年率10%で成長しており、2025年度には1,900億ドル規模に達し、また、輸出総額は2026年度までに650億ドル規模に成長すると予測されている。

PLIスキームでも繊維産業を支援

繊維省は「繊維分野の生産連動型インセンティブ(PLIスキーム)」を導入し、1,068億3,000万ルピー規模のインセンティブ予算を供与している。対象となる化学繊維、アパレル、化学繊維織物、テクニカル繊維製品などのカテゴリーで、資格要件を満たし審査に合格した案件に対し、規定による年間と累計の投資額、生産、売上額の目標値を達成した企業にインセンティブを供与するスキームだ。繊維省は現在までに64件の投資案件を承認し、これら案件による新規投資見込み総額は1,979億8,000万ルピー、売り上げ見込み総額は1兆9,392億6,000万ルピー、新規雇用は245,362人を見込んでいる(出所:インベスト・インディア)。

GJ州はインド繊維産業に大きく貢献

一方、GJ州政府投資促進局(iNDEXTb)が同州の繊維産業分野に関して取りまとめた資料(2022年1月)によると、GJ州はインド綿花の37%を生産し、綿花輸出の60%、綿繊維製品輸出の30%を担っているという。また、同州はインドの化学繊維生産の50%、デニム生産の65%、テクニカル繊維生産の25%を担っており、インド全体の繊維産業での存在感は大きいと言える。


注:
2021年10月にナレンドラ・モディ首相が発表し、インドの長年の課題である物流インフラの効率改善を目的とした政府各省・各州政府横断型インフラ開発マスタープラン。総予算規模は100兆ルピーで、数多くのインフラ開発プロジェクトが計画されている。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。