RCEP発効から1年、活用率引き上げが課題(韓国)

2023年5月31日

ASEAN10カ国と日本および中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの計15カ国が参加する、地域的な包括的経済連携(以下、RCEP)協定は、世界のGDP、貿易総額、人口の約3割を占める地域の大型協定だ。韓国と日本が参加した初めての自由貿易協定(FTA)であり、日韓では2022年2月1日に発効した。関税撤廃率(品目数ベース)は、韓国の日本からの輸入品が83%、日本の韓国からの輸入品は81%となる。

韓国関税庁はRCEP協定発効から1年間が経過した2023年2月1日に、輸出入の現状と活用実績を発表した。本稿では、韓国でのRCEP活用実績および期待される分野などの見通しについて概観する。

RCEPの国別活用率は輸出入とも日本が最多

韓国では、2022年2月から12月までにRCEPを活用した輸出入総額は、輸出額で33億ドル、輸入額は56億ドルを記録している。輸出額を国別でみると、日本に対しては全体の67.3%に当たる22億3,400万ドルと、最も多かった。続いて、中国が同27.7%の9億2,000万ドル、タイが同2.4%の8,100万ドルだった。上位3カ国の活用実績が全体の97.4%となった(図1参照)。

図1:RCEP活用輸出額の国別構成比(2022年2月~12月)
日本67.3%、中国27.7%、タイ2.4%、その他2.6%

出所:関税庁のデータを基にジェトロ作成

品目別にみると、対日主要輸出品目は、硫酸ニッケルが1億4,000万ドルとバッテリー製造用品の割合が高く、プラスチックの原料と合わせて約2億8,000万ドルを占めた。

対中主要輸出品目は、バッテリー素材であるリチウム化合物が6億9,000万ドルとなり、対タイ主要輸出品目は、ノリやワカメなどの海藻類および容器や包装用フィルムなどに使われるポリエチレンが1,000万ドルであった。

バッテリー製造に使用する原料の活用実績が高い理由として、RCEPによる関税率が加盟国間で0%に引き下げられたことが挙げられる(表参照)。

表:バッテリー製造に使用する原料の関税率
品目 輸出国 輸入国 基本
税率
RCEP
加盟国の
税率
硫酸ニッケル 韓国 日本 4.6% 0%
酸化リチウム
水酸化リチウム
中国 韓国 8% 0%

出所:関税庁のデータを基にジェトロ作成

輸入額も、対日本が全体の48.3%に当たる27億1,600万ドルと、最も多かった。中国が同38.7%の21億7,800万ドル、タイが同11.5%の6億4,900万ドルだった。輸出額と同様、上位3カ国が全体の98.5%と、大部分を占めた。対日主要輸入品目は、ゴム原料であるキシレンが2億5,000万ドル、その他石油製品が1億9,000万ドルを占めた。対中主要輸入品目は、酸化リチウム・水酸化リチウムが15億9,000万ドルとなり、対タイ主要輸入品目は、その他石油製品が5億6,000万ドルだった(図2参照)。

図2:RCEP活用輸入額の国別構成比(2022年2月~12月)
日本48.3%、中国38.7%、タイ11.5%、その他1.5%

出所:関税庁のデータを基にジェトロ作成

韓国政府、関係機関と共にRCEP利活用支援策を促進

韓国政府は、RCEPを含めたFTA利活用支援策を積極的に行っている。

韓国政府は関係機関とともに、関税率・原産地情報などをすぐに検索できるデータベース(Trade NAVI、韓国貿易協会運営)を構築したほか、ソウル、仁川、釜山、大邱、光州、平澤など、全国に設置された税関にFTA活用支援センターを整備した。また、KOTRA(大韓貿易投資振興公社) が運営しているFTA海外活用支援センターや海外知識財産センターの拡充を行った。そのほかに、中国、ベトナム、タイ、フィリピンの4カ国に海外著作権事務所を設立し、海外での著作権保護の徹底を図る専門機関を積極的に支援している。

業種別、地域別の巡回懇談会やRCEP締約国へ進出した企業向けの懇談会も開催し、企業の抱える問題・課題をヒアリングするほか、FTA支援策について議論を重ねている。このように企業の円滑なFTA活用を後押しするため、「RCEP実務活用ガイド」や「RCEP詳細説明資料」を制作し、配布なども行っている。また、「農林水産物の輸出におけるRCEP活用マニュアル」を制作し、税関手続きや円滑な貿易を行うための詳細を紹介している。FTA活用における実務関連の質問に答えるコールセンターの設置(韓国国内のFTA関連問い合わせ先:1380)も行い、相談者および関税士に対する教育カリキュラムを設けている。

そのほかにも、企業は、関税庁が運営する「Yes FTA」を通じてFTA活用制度、原産地証明、相手国の通関情報などを入手できる。中国進出韓国系企業向けには、山東省青島市の総領事館が発刊している「RCEP活用戦略」を通じて、対中国とのRCEP活用方法などを知ることができる。

RCEP発効による多方面での自由化に期待

RCEPの発効により、PSR(Product Specific Rules of Origin、品目別原産地規則)が一層緩和され、原産地規則のハードルが低くなり、原産地管理も簡素化された。また、「原材料制限規定」を採用していないことから、原産地規則の充足が比較的容易になったため、韓国政府は輸出拡大を見込んでいる。現に関税庁は、韓国企業が今後、日本をはじめとする各国に対し、特恵関税適用による価格競争力を確保するため、輸出入を行う際にRCEPをさらに活用していくであろうと分析している。

RCEPは、これまでの韓・ASEANなどのFTAに比べ、自動車・同部品、鉄鋼といった代表品目のほか、オンラインゲーム、アニメーション、映画、音楽などのサービスといった多方面での自由化が期待される。

RCEP利活用において、域内での統一した基盤づくりが強化され、企業のFTA活用負担が軽減することや、先進的な通商規範の採択および強化が期待される。

しかし、現在は韓国において、RCEPの活用は日本や中国といった一部の国に偏っているという課題もある。また、RCEP活用輸出額に占める日本の割合は全体の7割弱と高い比率を占めているが、当協定の活用率(2023年1~3月)は、輸出が50.6%、輸入が30.1%にとどまっている。今後は活用率をいかに上げていくかが、注目される。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
益森 有祐実(ますもり あゆみ)
2022年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国、韓国関係の調査を担当。