アフリカ初のゲノミクスによる、がんデータベース構築のヘルステック

2023年9月28日

アフリカでは、がんを発症する人は増加傾向にあり、世界保健機関(WHO)の2020年推計では年間110万人ががんを発症し、71万人が死亡している。生活習慣の急速な変化が主な要因と考えられ、マラリアによる死亡者数(60万人)を上回る。今回、そのがん研究・診断を行うガーナのバイオテックスタートアップ、イエマーチ・バイオテックの創業者のヤオ・ベディアコ社長と、同社に出資するAAIC(Asia Africa Investment and Consulting)ナイジェリア法人代表の一宮暢彦氏に聞いた(取材日:2023年8月18日)。

アフリカの人々の遺伝子に特化したスタートアップ

イエマーチ・バイオテックは、アフリカの人々の遺伝子に特化した、がん関連のデータベースと研究プラットフォームを開発している。人工知能(AI)がデータから学んでいく機械学習を駆使しながら構築したデータベースは製薬会社に提供し、(がんの)早期発見と治療法、新規治療薬の開発につながる。2020年に創業し、2021年にはシリコンバレー有数のアクセラレーターのYコンビネーターが主催するプログラム、S21バッチに選出された。

創業から3年間で、同社は臨床パートナーをアフリカ8カ国(ガーナ、ナイジェリア、コートジボワール、チュニジア、セネガル、ケニア、ウガンダ、ジンバブエ)に広げ、臨床サンプルの収集や共同研究を実施している。

多様性あふれるアフリカの人々のゲノム研究に注力

ベディアコ社長によると、アフリカの人々は世界で遺伝的に最も多様で、現在のヒトリファレンスゲノム(注)と比較して、約10%のDNAは異なっていることが分かっている。また、世界のゲノム研究の人種別の対象は、欧州系が78%、アジア系が11%だったのに対し、アフリカ系はわずか2.4%にとどまっている。同社は、がんの予防や診断、スクリーニング、治療のための未発見のゲノム・リファレンスを研究しつつ、今後予想されるアフリカの人口急増時代に対応していきたいとしている。

2023年6月に同社のシード・エクステンションに出資したAAICの一宮暢彦氏も、「人類発祥の地のアフリカは、遺伝子の多様性が世界で最も高い地域で、遺伝子データから創薬を行うゲノム創薬にとっては宝が眠る場所」と話す。AAICは同社のテクノロジーを通じ、これまで難しかったアフリカのがん患者の遺伝子や質の高い関連情報の効率的な収集が可能な点に着目する。また、ゲノム治療・ゲノム創薬は日本が世界的にも高い技術を持つ分野で、投資家として民間・公共それぞれで日本との協業による新たな価値の創出に向けて同社に協力していきたいとしている。

新たな日本企業との連携可能性も追求

イエマーチ・バイオテックは2022年、シードステージで600万ドルの資金調達に成功している。2023年2月には、ジェトロが支援する日本企業と海外企業との協業連携を促進するプラットフォームJ-Bridgeの事業を通して、日本最大のグローバル・スタートアップ・イベント「City-Tech.Tokyo」に参加し、製薬、医療機器、ベンチャーキャピタルなど日本企業8社と連携や資金調達などに関して商談を行った。ベディアコ社長は、日本企業との連携を模索したいとしており、今後の動向が注目される。


City-Tech.Tokyoに出展した同社(ジェトロ撮影)

ヤオ・ベディアコ社長のピッチ(ジェトロ撮影)

注:
ヒトリファレンスゲノムとは、ヒトの基準となるゲノム配列で、解析技術の進化とともに更新されている。リファレンスゲノムは、参照ゲノム配列とも呼ばれる。
執筆者紹介
ジェトロ・アクラ事務所 事業・調査マネージャー
アチェンポン・フランク
ガーナ大学卒業、関西学院大学MBA、商社、金融機関の勤務を経て、2022年4月から現職。