成長を続けるマレーシアECプラットフォーマーのマーケティング戦略
PG Mall最高執行責任者(COO)に聞く

2023年7月13日

PG Mallは、3万件を超える販売業者が約2,000万点の商品を取り扱うマレーシアのEコマースプラットフォームだ。調査会社Statistaのデータによると、2022年第2四半期(4~6月)の月平均サイト訪問件数は2,000 万件を超え、マレーシアのECプラットフォーマーとしてはシンガポール系のShopee に次ぐ第 2 位となっている。2022年の流通取引総額は2021年に比べ8倍に増加するなど急成長を遂げるPG Mallのジェリー・ウン最高執行責任者(COO)に、マレーシアのEC市場や同社の戦略などについてインタビューした(取材日:2023年3月10日)。


PG Mallの最高執行責任者Jerry Ng(ジェリー・ウン)氏(PG Mall提供)

物流インフラ整備に伴い、Eコマース市場が成長

質問:
マレーシアのEコマース市場の特徴と他国の市場との違いは。
答え:
マレーシアは、ASEAN諸国の中では物流面が比較的整備されているのが特徴。インドネシアやフィリピンは地理的に分散しているため、物流に苦労することがある。また、一部の国ではいまだに現金払いが好まれることがある一方、マレーシアの消費者はデジタルに慣れており、デジタル決済が一般的となっている点もEコマースを後押ししている。
質問:
今後のEコマース市場の動向は。
答え:
Eコマースは世界的に間違いなく成長していく市場だ。オンラインショッピングを促進するためのインフラ投資が増えるにつれ、業界は成長し続けるだろう。例えば、PG Mallでは物流会社(表参照)とシステムを統合するなど密に連携をし、顧客の要望が高い当日・翌日配送の実現に向けて配送の効率化を進めている。
また、若い世代はオンラインで買い物をする傾向があるため、彼らの年齢が上がるにつれて購買力が高まることが期待できる。物流やインフラの改善の余地はあるが、Eコマースはさらに拡大するだろう。
表:PG Mallの物流パートナー
No 会社名
1 DHL
2 J&T Express
3 Pos
4 Ninja Van
5 GD Express
6 City-Link Express
7 Skynet
8 TheLorry
9 Teleport
10 GrabExpress
11 Pgeon

出所:PG Mall提供情報を基に作成

独自の紹介プログラムにより顧客数を伸ばす

質問:
創業の経緯とPG Mallの特徴は。
答え:
金製品の販売を行っている姉妹会社、Public Goldの創業者が取り扱い製品の拡大に商機を見いだしたことがきっかけで誕生した。Eコマースの知見や後述の紹介モデルには、Public Goldのビジネス基盤を生かしている。PG MallのユーザーもPublic Goldの顧客から始まったため、ユーザーの95%がマレー系であるのが特徴。

Public Goldで販売する純金プレート(ジェトロ撮影)
質問:
競合他社との差別化は。
答え:
多くのEコマース企業は市場に参入すると、マーケットシェアを獲得するために多額のマーケティング費用を投入する。マーケットシェアを獲得後、割引や送料無料などのキャンペーンを終了し、販売業者からの手数料を引き上げるなどすることで利益を維持することが多い。この戦略は一般的だが、かえって市場シェアを縮小させ、最終的に市場シェアやトップの地位を失い、撤退することにもつながることもある。 一方、PG Mallはバーンレート(資金燃焼率)を抑えた独自のマーケティング戦略「ConsuMerchant」を実行している。「ConsuMerchant」(「Consumer:消費者」と「Merchant:マーチャント」を組み合わせた造語)は、新しい顧客をPG Mallに紹介することで報酬を得ることのできる仕組みで、PG Mallの特徴的なビジネスモデルだ。このシステムも好影響を及ぼして顧客は200万人を超え、流通取引総額は2021年から2022年の1年で8倍に増加した。
図:PG Mallのマーケティング戦略
紹介人数と消費額によって顧客に報酬を与える仕組み。紹介者数が多ければ多いほど、また被紹介者の消費額が多ければ多いほど紹介者はより多くの恩恵(最大3.5%のキャッシュバック)を得ることができる。

出所:PG Mall提供資料外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを抄訳

日本企業との協業の可能性

質問:
日本製品の取り扱いはあるか。また、日本企業と協業の可能性は。
答え:
現在、ローカル卸売業者によって日本、韓国、台湾、中国の製品が販売されている。日本製品には、家電、ヘルス&ビューティー、レトルト食品、スナック菓子などがある。日本製品の需要は高く、今後より多くの日本の小売企業の出店を呼び込みたい。 人気の商品カテゴリは一般的には食料品、ヘルス&ビューティー、日用消費財だ。また最近では、キッチン用品の需要が増加している。 日本製品では、マレー系の顧客が多いこともあり、ムスリムフレンドリーまたはハラル認証のある食料品や化粧品のほか、電子機器やアニメグッズの取り扱いを増やしたい。
質問:
PG Mallへの出店方法は。
答え:
出店プロセスは迅速かつ簡単だ。店舗情報、商品情報、商品写真を提出し、販売をすぐ開始することが可能。 新規販売業者には出店・販売方法のガイダンスを提供しているほか、各販売業者に専任の管理チームを割り当ててサポートを行っている。管理チームは、販売データと市場動向を分析した上で製品のラインナップや価格設定に関してアドバイスを行う。また、販売業者のプロファイルや製品の真正性を確認し、一定の基準を満たした場合にはオフィシャルストア、スーパーブランドストアなどの表示を行う。この表示システムにより、店舗の信頼性が高まり、さらなる集客・購入につながる。
質問:
日本製品は高品質ゆえ価格競争力が低い点が課題。日本製品のプロモーションに対するアドバイスは。
答え:
日本製品は非常に信頼性が高く長持ちし、他の製品とは一線を画している。品質、革新性、文化的魅力、強力なブランド、およびニッチ市場のターゲットの組み合わせにより、高い価格帯であっても非常に魅力的だ。我々の顧客には価格に敏感でない消費者も多い。季節ごとのフェアなど、イベントに合わせて異なる製品を紹介するキャンペーン、バウチャーや割引などのプロモーション実施のサポートをし、日本製品の販路拡大を手伝いたい。

新型コロナウイルス感染拡大によりEコマースの需要が急増し、収束後もオンラインショッピングが消費者の習慣となったことで、マレーシアのEコマース市場の成長は続いている。こうした機会を捉え、PG Mallのように急成長する地場Eコマースが生まれ、日本企業にも商機が広がりつつある。なお、同社は国内外の政府機関、電子ウォレット、物流パートナーと密に連携し、国内の販売業者のデジタル化・海外進出の支援、海外からの販売業者の誘致を進める。さらには、支払い、為替レート変動、税金、配送などの越境Eコマースビジネスのカギとなるインフラの課題改善にも取り組んでいる。今後、マレーシアEコマース市場の利便性向上にも期待がかかる。

PG Mall 企業プロフィール

(1)
設立年:2017年
(2)
主要商品:エレクトロニクス、ファッション、書籍、ホーム&リビング、食品&飲料、スポーツ&レジャー、キッズ&ベビー、ヘルス&ビューティー、自動車、E-バウチャー
(3)
売上高:非公開
(4)
従業員数:約100人
(5)
事業展開先:マレーシア、インドネシア、タイ
(6)
企業リンク:https://pgmall.my/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
山本 りりな(やまもと りりな)
2020年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課を経て、2022年10月からジェトロ・クアラルンプール実務研修。