欧米の投資ファンドが注目(ベネズエラ)
有識者に聞く(後編)

2023年8月3日

ベネズエラでは、進展するドル経済や、制裁緩和への期待、政治面の不透明性などが続く中、現地では炭化水素以外の分野も含め、どのような経済活動が注目されているのか。後編では、新たに起こりつつある現地ビジネスや企業による投資の状況について、会社設立を担う専門家のラファエル・アルバレス弁護士のコメントを紹介する。


SLVソルシオネス・レガレス(法律事務所)
ラファエル・アルバレス弁護士(会社設立など担当)(本人提供)
質問:
政治面で不透明性が高い中での会社設立ニーズは。
答え:
現在、一般市民やビジネスマンの間では、政治問題への関心は確実に低下している。20年以上同じイデオロギーを持つ政権が続き、政治面での変化に期待する者はいない。そのため、自身の経済状況をいかに改善するかに、より関心が向かっている。自身の競争力を高め、何らかのビジネスに取り組もうとする傾向が強い。商業、サービス業で小規模ビジネスを始める者も急増しており、起業家精神が確実に高まっている。米国財務省外国資産管理局(OFAC)が特定個人、政府系機関に対して設定した経済制裁はドル経済化という非常に大きな変革をもたらしたが、そのことが一般市民のマインドまでも変えている。
質問:
注目されるビジネスは。
答え:
特に決済、人の移動、デリバリーなどで、これまでにベネズエラにはなかった革新的なビジネスモデルを持つスタートアップが誕生している。それらが集積する拠点も生まれた。例えば、撤退したプロクター・アンド・ギャンブルが残した6,000平方メートルの面積を持つ施設には現在、コワーキングスペースのようなかたちでテック企業が集積している。こうしたスタートアップに投資する民間投資ファンドも多数存在し、スペイン系のファンドや、ベネズエラ系の米国ファンドなど、海外勢で既に投資を開始している例もある。
質問:
一般企業による投資の状況は。
答え:
法律事務所の経験として話すと、外国人、ベネズエラ人、投資ファンドなどとの会社設立に関する面談件数が目に見えて増加している。いずれも正式な会社設立を望んでいる。不動産投資も増えているようだ。例えば、カラカス市郊外のラ・ラグニータの市街地では1,000万ドルの土地が販売された。これまでは起こり得なかったものだ。海岸地帯の不動産を購入したチリのファンドがあり、年率12%にもなるリターンを得ている。ベネズエラはすぐに急激な成長が見込まれる国ではないが、徐々に興味深い市場になる中長期的な投資対象と言えよう。
質問:
カラカス市の一部を見ると、商業施設への投資が活況を呈していることがうかがえる。誰が投資しているのか。
答え:
主に国外に住むベネズエラ人で、ドル化によるベネズエラ経済の変化に敏感に反応したもの。外国人も少数だがいるようだ。ベネズエラ人は元来、非常に消費好きで、ひとたび危機が去ったと見るや、急激に消費を拡大させる。今年(2023年)発覚した一連の汚職事件によって足踏み状態の建設プロジェクトもあるが、下半期の状況を判断するためにスタンバイしているケースも多い。
質問:
制裁を受ける石油関連部門での動きは。
答え:
やはり、OFACから緩和措置を受けたシェブロンの成長が目を見張る。さらに、米系のハリバートンなどサービス企業4社、欧州系のエニ(イタリア)、レプソル(スペイン)についても、OFACライセンスが更新されている。今年第4四半期(10~12月)には生産・輸出の面で成果が見えてくるだろう。石油化学分野では、国営企業ペキベンが肥料のほか、冷媒や塗料の原料になるグリコールのコロンビア向け輸出を計画している。制裁の影響を受けにくい天然ガス関連のプロジェクトが活性化される可能性もある。米国とベネズエラの政府間では、あまり報道されないものの、活発な接触が行われており、既に制裁緩和を見越し、石油公社PDVSAの債券を買い取るファンドまで現れている。

有識者に聞く

  1. 活況な経済大統領選は不透明(ベネズエラ)
  2. 欧米の投資ファンドが注目(ベネズエラ)
執筆者紹介
ジェトロ・ボゴタ事務所長
豊田 哲也(とよた てつや)
1993年、ジェトロ入構。ジェトロ・カラカス事務所長、ジェトロ・パナマ事務所長、ジェトロ福井所長のほか、地方創生事業、水産品輸出などの担当を経て、2018年11月から現職。