日本のアニメ映画ビジネスの拡大に期待(南アフリカ共和国)
TVシリーズのアニメ劇場版が南アで人気

2023年10月10日

南アフリカ共和国ヨハネスブルクの映画館で2023年5月、新海誠監督の「すずめの戸締まり」が初公開された。ジェトロは南アの映画市場での日本アニメの現状について、44の映画館を持って国内最大の映画館運営会社スターキネカーのアドボケイト・モツェペ氏(広報担当、以下、A氏)と、ケフィルウェ=ケレツォ・コーザ氏(映画の選定と配給会社との渉外担当、以下、K氏)にインタビューした(取材日:2023年7月21日)。


スターキネカーが運営するサントンショッピングモール内の映画館、
チケット代は1作品119ランド(約925円、1ランド=約7.77円)(ジェトロ撮影)
質問:
日本のアニメを上映し始めた理由は。
答え:
(K氏)当社の配給会社だったマッドマン(オーストラリア)に、彼らが上映権を持つ日本アニメのロードショーを勧められたのがきっかけだ。2020年11月の「AKIRA」を皮切りに、6本の日本のアニメ映画を上映したところ、幾つかのタイトルで興行成績が予想よりも良かった。アニメは成長著しい分野だと感じた。
表:スターキネカ―が2020年11月から順次上映した6つのアニメ映画の題名、入場者数
映画タイトル 上映開始日 来場者数(人)
AKIRA(アキラ) 2020年11月 約1,500
Demon Slayer:Mugen Train (鬼滅の刃 無限列車編) 2021年4月 約11,000
My Hero Academia:World Heroes Mission
(僕のヒーローアカデミア ワールドヒーローズミッション)
2021年10月 約4,000
Sword Art Online - Progressive- Aria of Starless Night
(ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ)
2021年12月 約1,200
Jujutsu Kaisen(呪術廻戦) 2022年3月 約15,000
Dragon Ball Super Superhero(ドラゴンボール超 スーパーヒーロー) 2022年8月 約12,400

出所:同社提供資料からジェトロ作成

質問:
現在の親世代が子供のころに、南アの地上波では「NARUTO-ナルト-」のアニメが放映されていた。この世代が現在のアニメ人気を後押ししていると思うか。
答え:
(A氏)「ナルト」が要因だとはっきりとは言えないが、アニメ放映時に視聴していた子供が大人になっても、日本のアニメ作品に親しみを持っていることは考えられる。また、近年は親世代だけでなく、若者世代もアニメに対し非常に貪欲なことは確かだ。ネット世代の彼らは、ストリーミング配信やネット上で外国のアニメを見つけ、自由に視聴することができる。それを繰り返すことで、彼らはアニメ好きになっている。
質問:
上映するアニメはどのように選定しているのか。
答え:
(K氏)基本的には、配給会社が南ア国内で上映権を有しているアニメを候補として提示してくるので、その中から選ぶ。過去の興行成績を見ると、単発のアニメ映画よりも、クランチロール(注)などでテレビシリーズを見られるアニメ作品の劇場版のほうが好ましい。テレビシリーズでファンになった層はより多くの作品を視聴したいと考え、映画館にも足を運ぶためだ。吹き替え版より、日本アニメのオリジナリティーを失わない字幕版の方が好まれるようだ。

撮影時の映画ラインナップ、米国や欧州の作品中心に、さまざまな国の映画を放映する(ジェトロ撮影)
質問:
南アで日本のアニメを上映する上で困難なことは。
答え:
(K氏)信頼できる配給会社を見つけるまでに時間がかかることだ。われわれは最近まである外資の配給会社と「ワンピース」劇場版の上映の交渉をしていたが、残念ながら、その会社の戦略変更で上映にまでたどり着かなかった。今後、ジェトロを通してつながった日系のアニメ配給会社と直接交渉したいと考えている。
(A氏)需要があってもスピーディーに上映できないのは、本当に歯がゆい状況だ。日本のアニメ映画の人気を高める上で大切なことは、定期的に時間を空けず次々と新しい映画をリリースすることだ。2020年11月の「AKIRA」から2022年8月の「ドラゴンボール」まで、6本のアニメ映画を立て続けに上映することで、私たちは機運を高めてきた。ここで間が空いてしまうと、せっかく盛り上がった人々のアニメへの関心が薄れてしまうのではないかと心配だ。
質問:
今後、日本アニメ映画人気をさらに高める上で何が必要だと考えるか。
答え:
(K氏)南ア・マーケットの成長の可能性を信じてくれる、信頼できる配給会社だ。日系企業でもその代理店でもいいが、配給までスピードが要求されるので、スピード感を持ったビジネスのできるパートナー会社が必要だ。
(A氏)途切れることなくコンスタントに新しいコンテンツが入ってくることだ。南アでも娯楽の多様化は進んでいるが、今でも映画館には幅広い年代の人が来場する。日本アニメの映画作品を放映することで、日本のコンテンツを多くの南ア人に知ってもらうのに良い機会だと思う。

注:
定額制ビデオオンデマンドのストリーミングサービスを提供する米国企業。多くの日本のアニメコンテンツ(映画やテレビシリーズ)を配信している。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
新田 直子(にった なおこ)
2022年からジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。2023年から執筆業務に従事。