メキシコのインフォーマル経済が縮小しない理由を探る
2021年のGDPに占める比率は23.7%、10年前とほとんど変わらず

2023年2月15日

メキシコの国立統計地理情報院(INEGI)の2022年12月19日付発表によると、2021年のメキシコのGDPに占めるインフォーマル経済の比率は23.7%と、前年比1.9ポイント上昇した。10年前の2011年と比較しても0.6ポイント上昇しており、依然として大きな存在感がある。雇用の側面でみると、2021年時点で就業人口の55.8%が税金も社会保険も負担しておらず、合法的な雇用契約のないインフォーマル就労者だ。インフォーマル労働の生産性は低いため、国の経済への貢献度は低い。正規雇用を増やし、労働市場の正規化を図ることがメキシコ経済のさらなる成長に向けたカギといえるが、過去10年間で大きな改善はみられていない。

依然として高いインフォーマル比率

INEGIは2022年12月19日、2003~2021年のGDPや雇用におけるインフォーマル経済の規模に関する統計データを発表した。これによると、2021年のGDPに占めるインフォーマル経済の比率は23.7%、雇用に占める同比率は55.8%だった(図1)。

図1:GDPと雇用におけるインフォーマル経済(注)の比率(2021年)
GDPに占める正規部門の比率は76.3%、「インフォーマル部門」の比率は12.4%、「その他インフォーマル」の比率は11.3%。雇用に占める正規部門の比率は44.2%、「インフォーマル部門」の比率は28.5%、「その他インフォーマル」の比率は27.3%。

注:インフォーマル経済とは、合法的な就労形態を伴わない経済活動を指し、そのうち「インフォーマル部門」とは、露天商や行商人など非合法な事業所や経済主体の下で行われるもの、「その他インフォーマル」とは合法的な事業所や経済主体の下で活動していながら、就労形態が非合法な労働者による活動を指す。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「インフォーマル経済の測定の更新」(2022年12月)

「インフォーマル経済」とは、ILOが2012年10月31日に公式に発表したマニュアルに準じるかたちでINEGIが四半期ごとの全国就業雇用調査(ENOE)の中で発表している「インフォーマル就労者」によって生み出される経済活動のことだ。「インフォーマル就労者」は、事業所による分類と就業ステータスによる分類の2つの側面から集計されている。事業所の側面による分類では、家計から独立した事業所としての形態を伴わない、露天商、行商人などいわゆる非合法の事業所で働く労働者を「インフォーマル部門」の労働者として計上する。他方、就業ステータスによる分類では、たとえ合法的な事業所に雇用されている労働者であっても、雇用契約の締結や社会保険登録がされておらず、当該雇用が法的枠組みによる保護を受けていない場合、当該労働者を「その他インフォーマル」の労働者と見なしている。社会保険登録がない企業内労働者、自給自足的農業従事者、家内労働者(非合法な家政婦など)が相当する。

直近の2022年第3四半期(7~9月)のENOEによると、就業人口に占める非正規労働者の比率は55.6%で、2021年平均を0.2ポイント下った。就業人口の28.2%が「インフォーマル部門」、「その他インフォーマル(非正規)」が27.4%を占める。「その他インフォーマル」の内訳としては、企業や政府、団体で働いていながら雇用契約がない労働者が13.0%、農牧業従事者が10.7%、家内労働者(家政婦など)が3.7%を占める(表)。

表:メキシコの就業人口の内訳(2022年第3半期)(単位:1,000人,%)(-は値なし)
就労の場・事業所 従属・報酬労働者 雇用主 自営業・専門職 無報酬労働者 小計 合計
給与労働者 非給与労働者
(注1)
非正規 正規 非正規 正規 非正規 正規 非正規 正規 非正規 正規 非正規 正規
インフォーマルセクター 4,574 679 1,293 8,661 981 16,188 16,188
(就業人口に占める比率) 8.0 1.2 2.3 15.1 1.7 28.2 28.2
家内労働(報酬有り) 2,140 97 14 0 2,154 97 2,251
(就業人口に占める比率) 3.7 0.2 0.0 0.0 3.7 0.2 3.9
企業、政府、団体 6,033 21,215 857 185 1,224 1,875 573 7,462 24,500 31,962
(就業人口に占める比率) 10.5 36.9 1.5 0.3 2.1 3.3 1.0 13.0 42.7 55.6
農牧業 2,503 482 120 8 420 2,564 944 6,130 910 7,040
(就業人口に占める比率) 4.4 0.8 0.2 0.0 0.7 4.5 1.6 10.7 1.6 12.3
小計 15,250 21,793 1,669 193 1,293 1,645 11,226 1,875 2,497 31,934 25,506 57,440
(就業人口に占める比率) 26.5 37.9 2.9 0.3 2.3 2.9 19.5 3.3 4.3 55.6 44.4 100.0
合計 37,043 1,862 2,937 13,101 2,497 57,440
(就業人口に占める比率) 64.5 3.2 5.1 22.8 4.3 100.0

注1:従属・報酬労働者における「非賃金」労働者とは、報酬を手数料やチップなど「給与」以外のかたちで受け取る労働者。
注2:「就業人口に占める比率」はそれぞれの部門が全就業人口に占める割合。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「全国就業雇用調査(ENOE)」から作成

10年前の2012年第3四半期の比率と比較すると、「インフォーマル部門」は0.9ポイント、「その他インフォーマル」は3.3%低下した。特に「その他インフォーマル」の比率低下の内訳をみると、企業や政府、団体で働いていながら雇用契約がないインフォーマル就労が0.8ポイント、自給自足的農牧業従事者が1.8ポイント、家内労働者(家政婦など)が0.7ポイント低下している。企業や団体のインフォーマル就労が減っている背景には、2014年以降、企業が従業員に給与を支払う場合、雇用主がインターネット税務証憑(しょうひょう、CFDI)と呼ばれる給与支払い証明を発行しないと、人件費が損金算入できなくなったことがある。このCFDIを発行するには、給与支払い先となる従業員の連邦納税者登録(RFC)や社会保険登録が必要となるため、社会保険負担を回避する目的で企業内に隠れ労働者を雇う不正行為を防止する効果がある。家内労働者のインフォーマル就労が減っている背景としては、社会保険庁(IMSS)が昨今、家内労働者の社会保険登録を促す政策を強く推進していることがある。

インフォーマル経済の比率は、2011年の23.1%から2021年の23.7%へ0.6ポイント上昇しており、依然として経済全体の約4分の1を占めている。他方、インフォーマル就労率(「インフォーマル部門」と「その他インフォーマル」の合計)は同期間に4.0ポイント低下している。「インフォーマル部門」の就労率はほとんど変化がないが、「その他のインフォーマル」がかなり下がっている。しかし、それでも依然として6割近い就業者が社会保険などのセーフティーネットでカバーされていないインフォーマル就労者だ(図2)。

図2:GDPと雇用におけるインフォーマル比率の推移(%)
GDPに占める「インフォーマル部門」の比率は、2005年に11.4%、2006年に11.1%、2007年に10.9%、2008年に10.3%、2009年に12.4%、2010年に11.5%、2011年に11.4%、2012年に11.1%、2013~2016年は11.3%、2017~2018年は11.1%、2019年は11.4%、2020年は11.0%、2021年は12.4%。GDPに占める「その他インフォーマル」の比率は、2005年に12.4%、2006年に12.2%、2007年に12.5%、2008年に12.7%、2009年に12.0%、2010年に12.0%、2011年に11.7%、2012~2013年に12.3%、2014年に11.8%、2015年に11.5%、2016年に11.3%、2017年に11.6%、2018年に11.4%、2019年は11.7%、2020年は10.9%、2021年は11.3%。雇用に占める「インフォーマル部門」の比率は、2005年に28.1%、2006年に27.1%、2007年に27.2%、2008年に27.4%、2009年に28.3%、2010年に28.0%、2011年に28.6%、2012年に28.8%、2013年に28.3%、2014~2015年は27.4%、2016年に27.1%、2017年に26.8%、2018年に27.3%、2019年に27.6%、2020年に26.4%、2021年に28.5%。雇用に占める「その他インフォーマル」の比率は、2005年に31.7%、2006年に31.6%、2007年に31.1%、2008年に31.2%、2009年に31.6%、2010年に31.9%、2011年に31.2%、2012年に31.3%、2013年に30.7%、2014年に30.5%、2015年に30.3%、2016~2017年は30.0%、2018年に29.2%、2019年に28.8%、2020年に28.0%、2021年に27.3%。

出所:INEGI

景気悪化時の緩衝材として機能も、新型コロナの影響は避けられず

各部門の成長率(図3、粗付加価値額の実質伸び率)をみると、リーマン・ショック後の2009年にGDP成長率全体がマイナス5.3%、正規部門の成長率がマイナス5.8%と大きく低下した際にも、「インフォーマル部門」の成長率は0.1%の落ち込みにとどまった。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)政権発足直後の2019年には、投資家がAMLO大統領の政策運営を不安視し、投資を急激に控えたため、経済全体は0.2%のマイナス成長だった。この年も正規部門の成長率がマイナス0.9%と落ち込む中、「インフォーマル部門」は2.1%の成長を記録した。事業所自体が非合法のため、さまざまな外的要因の影響を受けにくいと考えられる。また、合法的な事業所の収益が悪化する際に、「インフォーマル部門」に労働力が流れることも影響していると考えられる。

図3:正規、インフォーマル各部門の実質成長率(粗付加価値伸び率)推移(%)
GDP成長率全体は、2007年に2.3%、2008年に1.1%、2009年にマイナス5.3%、2010年に5.1%、2011年に3.7%、2012年に3.6%、2013年に1.4%、2014年に2.8%、2015年に3.3%、2016年に2.6%、2017年に2.1%、2018年に2.2%、2019年にマイナス0.2%、2020年にマイナス8.0%、2021年に4.7%。正規部門実質成長率は、2007年に2.1%、2008年に1.1%、2009年にマイナス5.8%、2010年に6.0%、2011年に3.9%、2012年に3.2%、2013年に1.5%、2014年に3.7%、2015年に4.0%、2016年に3.0%、2017年に2.3%、2018年に2.3%、2019年にマイナス0.9%、2020年にマイナス6.8%、2021年に2.7%。「インフォーマル部門」の実質成長率は、2007年に2.1%、2008年に1.2%、2009年にマイナス0.1%、2010年にマイナス1.1%、2011年に3.0%、2012年に3.7%、2013年に1.0%、2014年に2.6%、2015年に1.0%、2016年に1.2%、2017年に0.3%、2018年に2.7%、2019年に2.1%、2020年にマイナス12.4%、2021年に15.7%。「その他インフォーマル」の実質成長率は、2007年に3.7%、2008年に1.1%、2009年にマイナス6.7%、2010年に5.3%、2011年に2.4%、2012年に6.6%、2013年に0.4%、2014年にマイナス2.5%、2015年に0.9%、2016年に1.4%、2017年に2.2%、2018年に1.3%、2019年に2.5%、2020年にマイナス12.1%、2021年に9.3%。

出所:INEGI

他方、「その他インフォーマル」の成長率は、景気の浮き沈みの影響を強く受けている。リーマン・ショック後の2009年にはマイナス6.7%と大幅な落ち込みを受けたが、翌年の2010年にはプラス5.3%と正規部門を上回る回復を見せている。「その他インフォーマル」の成長率には、合法的な雇用契約なしで雇用されている労働者が生み出す経済活動が大きく影響するため、雇用契約がないゆえに景気悪化時には正規労働者に比べると簡単に解雇される側面があるほか、景気の回復が本調子でないときには、正規雇用するよりも解雇しやすい「インフォーマル雇用」を雇用主が選択するインセンティブが働いていると考えられる。

景気悪化時の緩衝材として機能してきた「インフォーマル部門」だが、新型コロナウイルス禍で景気が急速に悪化した2020年にはマイナス12.4%と、経済全体(マイナス8.0%)を大きく上回る落ち込みを見せた。この背景には、インフォーマル部門の多くが露天商や行商人など屋外活動に依存するビジネスに従事していること、インフォーマル部門の事業所ではテレワークなどの手段を用いた就労が難しいことなどが挙げられる。新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、経済活動の規制や外出および移動の自粛などが進む中、屋外での活動に依存するインフォーマル部門のビジネスが大きく冷え込んだことがうかがえる。

商業で高いインフォーマル比率、現政権下では抜本的な対策が欠如

インフォーマル経済の産業別構成比をみると、小売業が最も大きく27.1%、建設業(13.9%)、製造業(12.6%)、農牧業(11.9%)、卸売業(7.4%)、その他サービス(5.8%)、運輸・倉庫(4.7%)と続く。「インフォーマル部門」と「その他インフォーマル」で構成比が大きく異なり、「インフォーマル部門」では小売業の比率が42.7%に達するのに対し、「その他インフォーマル」では、1つの業種への偏りが小さくなるが、農牧業(23.9%)や卸売業(14.4%)、専門サービス(5.4%)などの比率が相対的に高くなっている(図4)。

図4:インフォーマル経済の産業別構成比(2021年)
インフォーマル経済全体の産業別構成比は、小売業が27.1%、建設業が13.9%、製造業が12.6%、農牧業が11.9%、卸売業が7.4%、運輸・倉庫が4.7%、その他サービスが5.8%、専門サービスが2.9%、ホテル・レストランが2.9%、不動産・賃貸が2.5%、その他が8.4%。「インフォーマル部門」の産業別構成比は、小売業が42.7%、建設業が25.1%、製造業が13.0%、農牧業はなし、卸売業が0.4%、運輸・倉庫が4.3%、その他サービスが5.9%、専門サービスが0.4%、ホテル・レストランが3.5%、不動産・賃貸が3.5%、その他が1.2%。「その他インフォーマル」の産業別構成比は、小売業が11.3%、建設業が2.6%、製造業が12.2%、農牧業が23.9%、卸売業が14.4%、運輸・倉庫が5.0%、その他サービスが5.6%、専門サービスが5.4%、ホテル・レストランが2.3%、不動産・賃貸が1.5%、その他が15.7%。

出所:INEGI

メキシコの1人当たりGDPは2021年に1万46ドルと1万ドルを超えたが、首都メキシコ市の交差点などではいまだに行商人を多く見かけ、違法なルートで仕入れたたばこや菓子、玩具や雑貨などを通常の小売価格よりも安く販売している。露天商も至るところにあり、中には海賊版のゲームソフトやDVD、有名ブランドの模倣品など知財侵害品を販売する店もある。これらの商人・商店が「インフォーマル部門」の代表例だ。

他方、「その他インフォーマル」は、合法的な事業所で働きながらも雇用契約や社会保険登録のない労働者が主体のため、業種は多岐にわたる。また、自給自足的な農村労働者や、富裕層の家庭で働く雇用契約のない家政婦なども同部門に入るため、農牧業や専門サービスの比率が高くなっている。

2021年のGDPに占めるフォーマル、インフォーマルの構成比、就業人口における同構成比からそれぞれの労働生産性を計算すると、インフォーマル経済の労働生産性は正規部門の24.6%と4分の1以下だ。インフォーマル経済対策はメキシコの経済成長を加速化させるためのカギといえるが、インフォーマル部門の雇用が国の雇用の大部分を支えているという社会的特性から、インフォーマル経済の抜本的な取り締まりは困難を極める。国税庁(SAT)は納税手続きやそれに用いる必要書類の電子化を通じて、合法的な事業所が非合法な事業所から仕入れることを困難にさせるとともに、社会保険登録のない非合法形態の雇用を困難にする政策を展開しているが、行商人や露天商などの小売りビジネスに対する当局の取り締まりは依然として緩く、「インフォーマル部門」の全てを合法化させるには、まだ多くの時間を要するという見方が一般的だ。また、AMLO政権下で進められている総合福祉政策に基づく補助金や奨学金の多くは、納税者登録や社会保険登録など受給者のフォーマル化を条件としていないため、農村地帯を中心に低所得層の多くがインフォーマル部門にとどまり、これらの層が正規雇用につく意欲を弱めることにつながると指摘する識者もいる。

執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所長
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『FTAガイドブック2014』、共著『世界の医療機器市場』など。