FOOD & LIFE COMPANIES、スシロー武漢1号店を開業(中国)
今後のビジネス展開について、事業統括部長に聞く

2023年7月3日

中国の湖北省武漢市は日系企業担当者などにとって「自動車の街」や「大学生の街」という印象が強いが、近年は消費市場としても注目を集めている。例えば、武漢市の都市住民1人当たりの可処分所得は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた2020年を除いて、近年順調に増加しており、2022年は前年比5.7%増の5万8,449元(約116万8,980円、1元=約20円)となり、2018年(4万7,359元)と比較して1万元以上も増加した。

本稿では、こうした武漢市の消費市場に着目し、同市に進出したFOOD & LIFE COMPANIES(以下、F&LC)の事例を紹介する。

ターゲット層をあえて絞らず、誰でも来てくれるような店に

回転寿司チェーン店「スシロー」などのブランドを展開するF&LCは6月9日、スシロー武漢摩爾城店を湖北省武漢市にオープンした。同市での1号店となる武漢摩爾城店は、漢陽区のショッピングモールの武漢摩爾城の地下1階にあり、地下鉄駅(王家湾駅)の出口からも近いという好立地にある。

オープンに際し、武漢市への進出理由や中国でのビジネス展開について、F&LCの荒谷和男執行役員・中華圏事業統括部長に聞いた(取材日:2023年6月9日)。

質問:
武漢市への出店を決定した経緯は。
答え:
スシローは2021年に広東省広州市で1号店をオープンして以来、中国本土で店舗数を急速に拡大している。広州市や四川省成都市で既に複数店舗を展開しており、それらの店舗がある程度軌道に乗ってきたこともあり、武漢市への出店を検討した。武漢摩爾城店は中国本土で25店舗目に当たる。
武漢市への出店に際しては、幾つかの候補都市やその周辺都市の可処分所得、CPI(消費者物価指数)、人口や人口密度などを総合的に勘案したが、決め手となったのは、経済発展のスピードが速いことと、武漢市民が外国の文化に寛容ということの2点だった。
また、武漢市進出を検討していた際、広州市や成都市での成功を聞きつけた武漢摩爾城から出店の打診があった。もともと、武漢摩爾城が出店先候補の1つに入っていたことや、武漢摩爾城側もスシローの出店に積極的だったことから、オープンまでに大きな障害はなかった。衛生関連の規則も、多くの日系レストランを手掛けてきた業者に内装を依頼したため、難なく対応できた。

スシロー武漢摩爾城店の入り口(ジェトロ撮影)

店内の様子(ジェトロ撮影)

座席には注文用のタッチパネルのほか、すしの
食べ方について説明するボードを設置している
(ジェトロ撮影)

しょうゆなどの調味料も、日本と同じものを
使用している(ジェトロ撮影)
質問:
ターゲットとなる客層は。
答え:
武漢摩爾城店を含め、中国の店舗ではターゲット層をあえて定めず、老若男女の誰でも来てもらえるお店にしている。
実際は、オープン初日から多種多様な層から多くの人が来店しており、若い人も想像以上に多かった。地下鉄駅の出口から近いという立地が良かったのではないかと考えている。
1人当たりの支出額は100元(約2,000円、1元=約20円)前後を想定している。「日常生活の中にある少しいいお店」というような立ち位置で、月1~2回程度来店していただけるようなお店を目指している。
質問:
武漢市での従業員体制は。
答え:
武漢市に日本人社員は常駐せず、中国人社員が中心となって経営を行う。武漢市には数人の中国人社員が常駐する。
ホールには20~30人ほどのアルバイトスタッフがおり、現在はオペレーションの教育のために現在は日本人社員が1人いる。ただし、教育が一区切りしたら、その日本人社員も武漢市を離れる予定だ。なお、回転ずし店には他の飲食店とは異なる独特のオペレーションがあるが、教育期間は日本と同じ14日程度だ。

ホールスタッフの教育の様子を写した映像(ジェトロ撮影)

日本と同じ味のすしを提供、現地の嗜好に合わせてメニューを変更

質問:
食材などはどのように仕入れているか。
答え:
スシローは世界中からネタや食材を仕入れており、それは中国でも例外ではない。武漢市内の店舗の場合、広州市の店舗に食材を一度集約した上で、そこから武漢市に配送することが多い。
食材の輸入に際しては、味や品質が担保できるならば、日系商社のみならず、中国地場の商社を使うこともある。
質問:
提供する商品に日本との違いなどはあるか。
答え:
スシローは商品開発にこだわっており、社内で年間100種類を超える新商品が提案される。しかし、日本の職人たちによる味などの厳正な審査が行われるため、採用される新商品はごく一部だ。中国でも、そのような審査を通過したものを商品として出しているため、味は日本のものと変わりない。
中国では生ものを食べない人も多いが、そうした人でも楽しめるようなメニュー作りを行っており、随時改善している。例えば、成都市の店舗ではあぶりメニューの種類が日本よりも多くなっている。
武漢市の店舗の場合、地元の人が辛い料理を好むという嗜好(しこう)を踏まえて、辛いソースを使った混ぜ麺などのメニューも用意している。もし武漢市で人気が出たら、中国の他地域の店舗でも提供することを考えている。
質問:
酒類の取り扱いは。
答え:
スシローは居酒屋ではなく、「食事処」というコンセプトであるため、酒類はそれほど多く取りそろえてはいない。しかし、アサヒビールや青島ビール、日本酒、芋焼酎、ハイボール、メロンのリキュールなどはそろえている。日本酒は賞味期限の問題があるので、一升瓶などを仕入れた場合、品質を担保した状態で提供することが難しく、小瓶で提供している。

スシローのネタ。生ものから、あぶりメニューまであり、味も日本のものとほぼ同じ(ジェトロ撮影)
質問:
どのような商品が売れているか。
答え:
先述のとおり、中国では生のものを食べない人が多いが、あぶりネタ(サーモンチーズあぶりなど)はもちろん、中国人にあまりなじみのない生もの(大トロ、サーモン、赤エビ、ウニなど)も売れている。成都市の店舗と比較しても、生ものが多く売れているように感じる。武漢市の人々は、新しいものに恐れず挑戦する精神があるように思える。

肉料理を使ったすしネタ「アンガス牛ロッシーニ風」(ジェトロ撮影)
質問:
提供する食品の味や品質はどこまでこだわっているか。
答え:
品質は必ず担保する。スシローはフランチャイズ店を設けず、直営で経営しているため、スタッフへの指導や管理監督が行いやすく、スシローブランドの品質の担保にもつながっている。
また、味は最優先事項の1つで、中国市場でもそれは変わらない。味を向上させるため、食材の鮮度や製造方法、また、食材によっては漁法にまでこだわり、原価率が高くなろうとも、質の高い食材を仕入れるよう心掛けている。
質問:
中国での今後のビジネス展開の方針は。
答え:
スシローは2021年の進出当初から、中国市場でのビジネス展開に全力で取り組んでおり、その姿勢は今後も変わらない。沿岸部や内陸部など立地に関係なく、ビジネスチャンスのある都市に進出し、日本を代表する食文化の「すし文化」を中国に伝えていきたい。武漢市内でも武漢摩爾城店に限らず、さらなる店舗拡大を計画している。
また、当社の中国ビジネスの目標は「日本人がいなくても、スシローブランドを維持・発展できるようにすること」にある。中国国内のスシロー店舗は、今も昔も中国人が中心となって運営してきたため、この体制でスシローブランドを維持・発展できる素地はあると考える。
近年、日系の競合他社などが中国市場への進出に関心を示しており、その一部は既に進出を果たしている。当社は店舗展開のスピードで勝負をしていきたいと考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・ワルシャワ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課などを経て2021年10月から現職。