キノコ、コーヒーかす、リサイクル綿 ‐ サステナブルファッションの今(世界)
5カ国・地域で脱炭素化消費ビジネス事例調査

2023年4月28日

カーボンニュートラルの実現に対して世界的な関心が高まる中、産業界でも脱炭素化に取り組む動きが加速している。また、企業のみならず、消費者も、環境や社会に配慮した製品・サービスを選ぶなど、サステナビリティー(持続可能性)を考慮する動きがみられる。ジェトロは2023年3~4月に米国ドイツフランス中国ASEANの5カ国・地域を対象として、脱炭素化に向けたサステナブルな消費関連ビジネスに取り組む外国企業の事例を取り上げた調査レポート(以下、ジェトロ調査)を公開した。各調査レポートでは、さまざまな業種の取り組みについて、エネルギー利用、省資源、新素材、新サービスなどに分類し、その概要をまとめている。本稿では、ファッション産業に焦点を当て、「サステナブルファッション」の実現に取り組む企業事例の一部を紹介する。

ファッション産業の環境問題、高まる関心

ユーロモニターによると、2022年の世界22カ国(注1)のアパレル小売市場規模(金額ベース)は1兆258億ドルだった(図参照)。直近では、新型コロナウイルス禍や中国でのゼロコロナ政策などの影響から、2020年には前年比15.4%減、2022年には同2.2%減とマイナス成長だったが、2008~2022年の年平均成長率(CAGR)は1.5%だった。また、数量ベースで見ると、2008~2022年のCAGRは3.0%で、2022年は933億着だった。2023年以降は、金額ベースでは2023~2027年のCAGRは4.7%で、2027年には1兆3,155億ドルと予測されている。数量ベースでも2025年には1,000億着を超える見通しだ。特に、インド、ブラジル、インドネシアなどの伸び率が高く、今後もアパレルの世界市場は拡大基調である。他方、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、水の使用量や温室効果ガス(GHG)排出量の点から、「ファッション業界は世界で2番目に環境を汚染する産業」と指摘しており、市場拡大による環境への影響が懸念される。

図:世界22カ国のアパレル小売市場規模
世界22カ国のアパレル小売市場規模(2008~2027年)は、次のとおり。金額ベースでは、2008年8,290億ドル、2009年8,000億ドル、2010年8,620億ドル、2011年9,420億ドル、2012年9,690億ドル、2013年9,930億ドル、2014年1兆110億ドル、2015年9,700億ドル、2016年9,640億ドル、2017年1兆20億ドル、2018年1兆50億ドル、2019年1兆570億ドル、2020年8,940億ドル、2021年1兆490億ドル、2022年1兆260億ドル、2023年1兆930億ドル、2024年1兆1,470億ドル、2025年1兆2,050億ドル、2026年1兆2,610億ドル、2027年1兆3,160億ドル。数量ベースでは、2008年615億着、2009年635億着、2010年677億着、2011年712億着、2012年749億着、2013年780億着、2014年802億着、2015年827億着、2016年849億着、2017年878億着、2018年909億着、2019年936億着、2020年866億着、2021年953億着、2022年933億着、2023年970億着、2024年991億着、2025年1,012億着、2026年1,032億着、2027年1,052億着。なお、金額、数量ともに、2023年から2027年は予測値。

注:2023~2027年は予測値。
出所:ユーロモニター

では、環境の観点からファッション産業を概観してみよう。米国のコンサルティング会社マッキンゼーが2020年に発表した「気候変動におけるファッション(Fashion on Climate)」調査によると、2018年のアパレル・履物産業のサプライチェーンでのGHG排出量は約21億トンで、同年の世界全体のGHG排出量の約4%に相当するとみられる。うち約7割が原材料調達から縫製までの上流プロセスでの排出となっている。また、2000年代半ばから急速に台頭したファストファッションの流行は、衣料品のライフサイクルを早め、大量生産と大量消費、大量廃棄による環境負荷が指摘される。世界経済フォーラム(WEF)が2020年に発表したコラムによると、2014年の1人当たり衣料品購入量は2000年比で60%増加した一方、所有する期間は半減し、衣料品の85%が毎年廃棄されているという。こうした現状から、近年では、生産から消費、廃棄に至るプロセスで環境に配慮し、持続可能であることを目指す「サステナブルファッション」への取り組みが急速に広がり始めている。

フランスでは2020年2月、「資源の循環と廃棄物の削減を目指した循環経済に関する法律(循環経済法)」が施行され、ファッション産業では世界で初めて衣料品の売れ残り商品の廃棄が禁止され、再利用やリサイクル、または寄付が法的に義務付けられた(2020年6月4日付地域・分析レポート参照)。2023年1月からは、製造業者や販売業者などに対し、リサイクルや回収を義務付けている製品を対象に、リサイクルの可能性やリサイクル素材の利用率などに関する情報をインターネット上で提供することを求めるなど、廃棄物の少ない製品への消費を促す動きが加速している(2022年11月21日付ビジネス短信参照)。

日本では、環境省が2020年12月~2021年3月に、国内で消費される衣服と環境負荷に関する調査を実施した(注2)。日本でも、生産工程で多くの資源やエネルギーを利用しているほか、可燃・不燃ごみとして廃棄される衣服は年間約51万トン(2020年)に上る。うち再資源化されるのはわずか5%。1日に焼却・埋め立てされる衣服の総量は大型トラック130台分(1,300トン)に相当するなど、生産から廃棄までの環境負荷は大きな課題だ。環境省は「サステナブルファッション」の専用ウェブサイトを立ち上げ、サプライチェーンの各工程で「サステナブルファッション」実現に貢献する日本企業の事例を紹介するとともに、消費者への啓発活動に取り組んでいる。

米国では、2011年にアパレル業界の環境負荷を抑えたサプライチェーン構築と労働環境の改善を目指すNGOとして「サステナブルアパレル連合(SAC)」が設立された。世界各国のアパレル関連企業が加盟しており、加盟企業数は270社超(2023年4月時点、うち日本企業5社を含む)と、約10年で2倍以上に増加している。

ジェトロ調査では、ファッション産業の素材メーカー、ファッションブランド、企業向けサービスを提供する企業などの事例も取り上げている。ここでは、(1)環境に配慮した新素材開発、(2)廃棄物の活用、(3)リサイクル・再利用の3つの視点から「サステナブルファッション」実現に挑む外国企業3社の事例を紹介する。

新素材:生分解性「キノコレザー」

2013年設立の米国のバイオテクノロジー企業マイコワークス(MycoWorks)は、キノコの菌糸体から作る非動物性のバイオレザー「レイシ」を開発した。「レイシ」は、独自開発の特許技術を活用し、菌糸体の細胞構造を変え、強度や耐久性を高め、おがくずなどの農業廃棄物を加えて、レザーの感触を再現している。

環境負荷の低減、動物福祉、労働者保護の観点から、キノコをはじめ、廃棄予定の果物、サボテンなどの植物から作られるレザーは「バイオレザー」や「ビーガンレザー」と呼ばれ、近年注目を集めているという。

一部のバイオレザーでは触感の向上にプラスチックを合成するものもあるが、「レイシ」はプラスチックを使用せず、生分解性(注3)を有する。また、キノコ栽培から始まる生産工程で二酸化炭素(CO2)排出が少ない。2022年12月に欧州の環境科学学術誌「Environmental Science Europe」に掲載された「レイシ」のライフサイクル評価によると、「カーボンフットプリントは1平方メートル当たり2.76キログラム」(天然皮革の牛革のベンチマーク値の8%程度)とCO2排出量は各段に少ない。強度も、米国のレザー検査機関が「牛革に匹敵する強度と耐久性がある」と評価している。

マイコワークスは著名ブランドと提携し、「レイシ」を使ったアパレル、靴、バッグなどのアイテムを生産・販売している。2022年にはフランスのエルメス(注4)やアレンストリート(注5)などのファッションブランドがカバンなどの革小物などを発表。ファッション産業以外では、米国の自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)とパートナーシップ契約を締結し、カーシート用の代替レザー開発に取り組む(注6)。

廃棄物活用:コーヒーかすがTシャツに?

廃棄物を再生してアパレルに活用する事例もある。タイ全土に約130店舗を展開する大手コーヒーチェーンのトゥルーコーヒー(True Coffee)は、タイのコーヒー産業の廃棄物ゼロを目指し、「コーヒーを着よう(Wear it, Wear Coffee)」と銘打ち、各店舗で廃棄物として出るコーヒーかすを加工し、スタッフが着用するユニフォームのTシャツを作成している。トゥルーコーヒーでは、1店舗当たり1日平均400~420杯のコーヒーが販売され、年間10トンのコーヒーかすが廃棄物として発生するという。Tシャツには、コーヒーかすを圧縮してペレット化したものをリサイクルポリエステルに練りこんだ生地が使われており、Tシャツ1枚にコーヒー3杯分のコーヒーかすが練りこまれている。廃棄物を削減するだけでなく、速乾、防臭、紫外線カットなどの効果がある。Tシャツ以外にも、マグカップや皿、ショッピングバッグなど、さまざまな製品にコーヒーかすを活用し、新たな付加価値創造を目指す。

トゥルーコーヒーはタイの大手財閥CPグループの傘下企業で、同グループのサステナビリティーポリシーを順守している。CPグループ全体では、2030年にカーボンニュートラル、2050年までにネットゼロ達成を目指し、再生可能エネルギーの利用率向上や、水使用量の削減、生分解性プラスチックへの代替などにも取り組んでいる。

リサイクル・再利用:サプライチェーンを可視化、100%リサイクル素材を証明

ドイツ・ケルンに拠点を置くファッションブランドのアームドエンジェルズ(Armedangels)は、ファストファッションに代わって、時代を超えたデザインで人と環境にやさしい衣料品の供給を目指している。2019年にはカーボンニュートラルを達成した。

全ての製品でオーガニック・テキスタイル世界基準(GOTS、注7)の認証を取得した原材料を使用するほか、2022年からは自社ブランド製品の回収・再販を行う「セカンドハンド・プラットフォーム」を立ち上げ、廃棄物削減にも積極的に取り組む。

同ブランドの代表的な製品は、リサイクルコットンを100%使用した「デトックスデニム」だ。主原材料のコットンの80%はプレコンシューマー(消費者に届く前の廃棄物)、20%がポストコンシューマー(消費者から出た廃棄物)を使用している。リサイクルコットンを使用することで、綿の栽培工程から製造までの過程で使用するエネルギーや水の使用量や有害な化学物質の削減を実現している。

また、「デトックスデニム」はトレーサビリティー向上にも注力している。オランダ企業のアウェア(AWARE)やサプライヤー各社と協力し、アウェアが開発したトレーサー粒子(リサイクル素材に含ませることで素材の追跡を可能にする粒子)とブロックチェーンシステムを活用することで、サプライチェーンをバーチャル上で可視化できる態勢を構築した。「デトックスデニム」には製品1点1点にQRコードを印刷したタグが付いており、これを読み取ることで、本当にリサイクル素材から作られた衣料品かどうかを消費者が確認できるようになっている。製品のライフサイクルの透明性を高め、消費者に対して環境・社会配慮に則した購買行動を促すことも目指している。

ジェトロ調査では、本稿で紹介した企業以外にも、独自の技術やシステムを駆使して、消費ビジネスでの脱炭素化に取り組んでいる事例をまとめている。世界共通の脱炭素化推進の機運が高まる中、企業にとって、環境・社会に配慮した事業運営は今や必要不可欠となっている。こうした外国企業の事例が自社の海外ビジネス対応を検討・実施する上で参考となれば幸いである。


注1:
22カ国は、ブラジル、中国、エジプト、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、日本、マレーシア、メキシコ、ナイジェリア、フィリピン、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ共和国、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、英国、米国、ベトナム。
注2:
環境省「令和2年度『ファッションと環境』調査結果」(2021年3月)
注3:
微生物の働きによって分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素(CO2)と水となって自然界へ循環していく性質。
注4:
マイコワークスウェブサイト(2021年3月)
注5:
マイコワークスウェブサイト(2022年12月)
注6:
マイコワークスプレスリリース(2022年10月)
注7:
英国土壌協会 、日本オーガニックコットン協会、米国のオーガニック・トレード協会 、ドイツのインターナショナル・ナチュラル・テキスタイル連合の4団体によって、2005年に策定されたオーガニックの繊維製品を製造加工するための国際基準。有機栽培の原料を使用し、環境と社会に配慮した方法で加工・流通されたことを示し、製品の70%以上が認証されたオーガニック繊維であることを保証する認証制度。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。