東部州で養殖水産物用配合飼料を合弁生産・販売(インド)
バングラデシュとの連結性を含め、日系企業に聞く

2023年4月28日

インドの西ベンガル州は、養殖餌・飼料の主要生産地の1つだ。一方、隣国のバングラデシュとともにインドは、グローバルサウスの一角として注目されている。そうした両国間の貿易や連結性を考える上でも、当州は重要な位置づけにある。

そうした中、日系のニッパイ・シャリマー・フィード(Nippai Shalimar Feeds)が当地で生産・販売を本格化している。安倍秀樹最高執行責任者補佐に、同社の取り組みについて話を聞いた(2023年3月22日)。

質問:
貴社の概要は。
答え:
当社は日本の親会社である日本企業のフィード・ワン(本社:神奈川県横浜市)と、コルカタに拠点を有する飼料メーカーのシャリマー・ペレット・フィード(Shalimar Pellet Feeds)がそれぞれ50%出資し、合弁で2014年に設立。以来、バナメイエビ、コイ類用を中心とした約70種類の水産用配合飼料の生産・販売に向け、体制構築を進めてきた。その結果、2016年2月、西ベンガル州カラグプールで、本格的な現地生産を開始した。
合弁パートナーは、西ベンガル州を中心にネットワークを有している。それを活用しつつ、日本側から生産・開発について技術協力するという構図だ。
フィード・ワンからは、最高執行責任者(COO)とCOO補佐の2人が出向。同時に、合弁パートナー側からもインド人2人が経営陣に入っている。2023年4月1日現在で擁するスタッフは、75人。当地生産者の増産ニーズに応えるため、生産・販売の拡大に取り組んでいる。
質問:
養殖・飼料業界の現状、課題は。
答え:
日本の飼料業界では、原料を米国やブラジルからの輸入に依存しているのが現状だ。そうした中、各国の通貨切り下げ(ドル高)の影響などにより、原材料コストの高騰に見舞われている。一方で、人口減により食料消費が減少。こうしたことも重なり、日本市場は飽和状態にある。
一方、インドでは、東部沿岸州(アンドラ・プラデシュ州、西ベンガル州、オディシャ州、タミル・ナドゥ州)を中心に養殖業が盛んだ。養殖生産量は、淡水魚類で900万トン、エビ93万トンを誇る。目下、世界第2位の水産物市場になっている。養殖用配合飼料については、原料〔魚粉や大豆粕(かす)が中心〕の調達から製品の生産・販売まで、国内でほぼ完結できる。畜水産物の生産量は、人口の増加などに伴い年間3~5%程度成長してきた。今後も一層の市場拡大を見込める状況だ。
ただし当地では2021年度、大豆粕など原料価格の高騰に加え、サイクロンによる水害により特に沿岸部でのエビの養殖に大きな影響があった。エビは、魚の養殖と比べ利益率が概して高い商品だ。そうしたこともあり、この時期は当社を含め、市場全体に停滞がみられた。
質問:
取引先の状況は。
答え:
西ベンガル州を中心に、飼料を扱うディストリビューターは多く存在する。当社は個人経営に近い規模のディストリビューターを通じて農家に販売している。魚類は70社、エビは5~6社ほど取引先を有している。それら取引先の事業規模はいずれも小さい。そのため、納品から支払いまで時間的猶予のある決済(クレジット型)とし、信用性を確認しつつ販売している。
質問:
貴社の競合や課題は。
答え:
当地では、地場企業、外資企業ともに、生産者の事業を包括的にサポートする動きもある。例えば、飼料だけではなく、養殖用の稚エビ、水質改善剤などの養殖資材などを販売ラインナップに加えている。対して、当社で扱うのは飼料の製造・販売だけだ。包括的に事業展開する他社に伍(ご)して競争することが、課題になっている。
それ以前に、配合飼料の普及自体も課題だ。インド東部州では、確かに養殖魚の生産量が増加している。しかし、生産コストを抑えるため、生産者のうちおよそ9割は依然、米糠(ぬか)などの飼料の原料を使用している。すなわち、配合飼料の普及が当初想定したほど進んでいない。配合飼料を用いると養殖の生産効率が上がり、結果的に養殖事業者にとってもコストパフォーマンスが良くなる。そうしたことから、普及を進めていく必要がある。
(やや次元の違う課題ながら)インターネットの通信速度が遅い点も、改善を要する。
質問:
西ベンガル州は、バングラデシュに隣接する。国を越えた連結性をどう見るか。
答え:
ペトラポール国境(注)の活用は、確かに検討材料だ。その認識を踏まえ、同国境を通じてバングラデシュに飼料を輸出する可能性について、日本のスタートアップ企業と組んで2021年に調査した。その結果、(1)バングラデシュ側で煩雑な輸入・販売手続きが生じる可能性、(2)縦割り行政に起因して複数省庁から検査証明書を取得する必要があり、その対処は容易でないことが想定された。そのため、検討は現在ストップしている。輸出費用を考慮したトータルでのコスト競争力でも、課題がある。

注:
インド・バングラデシュ間で最大の陸路国境。コルカタ市内中心部からおよそ100キロメートル離れた地点に位置する。
両国間貿易で陸路国境を経由するのは、全体の40%程度。さらにそのうち70%程度は、同国境経由とされている(「フィナンシャル・エキスプレス」紙、3月17日)。
なおバングラデシュ側では、ベナポール国境と呼びならわされる。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。