BEVの普及動向と今後の課題(米国)
マーケット視点からの考察

2023年6月9日

電気自動車(EV)は今日、さまざまな側面から注目を集めている。例えば環境面では、温室効果ガス(GHG)の排出削減策としてEVシフトが推進されている。エネルギー面では、EV普及が石油輸入量の減少をもたらし、エネルギー安全保障の強化につながるとみられている。技術革新への期待も大きい。EVに搭載されるバッテリーの分野では、リチウムイオン電池の高性能化のほか、全固体電池の実用化に向けた研究開発が続いている。EV市場に対する理解は、このような分野の見通しを得るためにも有益だ。

本稿では、米国のEV市場、特にバッテリー式EV(BEV)市場の動向に焦点を当てる。米国では近年、BEVの普及が本格化しており、市場は今後も拡大していくとみられる。一方で、大衆への浸透が課題になる。前半でBEVの販売台数や普及の加速要因を紹介し、後半でBEVの大衆化に向けた課題に言及する。

ガソリン価格高騰がBEVシフトの一因に

米国では2021年以降、BEVの販売台数が急増している。2020年は26万283台だったが、2022年には81万3,655台に上った(図1)。乗用車と小型トラックのクリーンビークル比率(注1)は、2.3%(2020年)、4.4%(2021年)、7.2%(2022年)と上昇。2023年第1四半期(1~3月)には、8.6%に達した(2023年4月13日付ビジネス短信参照)。

ジョー・バイデン大統領は2021年8月、「新車販売に占めるBEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の比率を2030年までに50%にする」という目標を掲げた。その実現に向け、道のりは長いものの、BEVの普及は加速している。

図1:BEVとPHEVの年間販売台数とクリーンビークル比率の推移
BEVの販売台数は、2010年19台、2011年1万142 、2012年1万4,587台、2013年4万7,559台、2014年6万3,327台、2015年7万2,302台、2016年 8万4,246台、2017年10万4,487台、2018年23万5,444台、2019年23万5,989台、2020年26万283 台、2021年49万298、2022年81万3,655。PHEVを含むEV比率は、 2010年0.0% 2011年0.1%、2012年0.4%、2013年0.6%、2014年0.7%、2015年0.7%、2016年0.9%、2017年1.1%、2018年2.1%、2019年1.9%、2020年2.3%、2021年4.4%、2022年7.2%

出所:マークラインズを基にジェトロ作成

BEV普及の加速要因について、ここでは3点指摘する。

1つはガソリン価格の高騰だ。レギュラーガソリンの小売価格は、新型コロナウイルス禍の2020年4月時点で、月平均1ガロン(約3.8リットル)当たり1.8ドルだった(図2)。しかしその後、上昇傾向に転じ、2022年6月には月平均4.9ドルに達した。

米国ではウィズコロナ社会を迎え、経済活動が活発化している。一方で、人件費の高騰、ガソリンを運搬するタンクローリーの運転手不足、ハリケーン「アイダ」の上陸に伴う製油所の閉鎖(2021年8月)などがガソリン価格の上昇を引き起こした。その結果として、新たに購入する車として、BEVを選択する人が増加したと推測される。

図2:レギュラーガソリンの小売価格の推移
2020年4月1ガロンあたり1.8ドル、2022年6月4.9ドル、2023年4月3.6ドル。

出所:米国エネルギー情報局を基にジェトロ作成

テスラ車がBEV販売を牽引

2つ目の要因として、テスラ車の人気が挙げられる。テスラ車の販売台数は2020年(20万5,600台)から2021年(35万2,471台)、2022年(52万2,444台)にかけて、それぞれ前年比71.4%増、48.2%増で推移した(図3)。米国のBEV販売台数全体の中で、テスラ車は6割を超える。こうしてみると、テスラ車の人気がBEVの普及を主導してきたと言ってよい。

では、テスラはなぜ、そこまで主導的な立場を確立できたのか。フレイサーバレー大学(カナダ)のジョン・トーマス博士(注2)は、テスラ車の人気を支える要素として、(1)加速性能(注3)、(2)航続距離、(3)技術・生産能力(注4)、(4)顧客とのつながり(注5)を挙げている。

一方で2021年には、テスラ以外を含めBEV車種数が急増した(図4)。こうしたことも、消費者がBEVを購入の選択肢に含めるようになった一因とみられる。ただし、BEVでテスラ車が最も選ばれている現状に変わりない。

図3:テスラ車の販売台数とBEVに占める同車の割合の推移
テスラ車の販売台数は、2010年0台、2011年0台、2012年2,400台、 2013年1万8,650、2014年1万6,550台、2015年2万6,608台、2016年4万7,184台、2017年4万9,970台、2018年18万7,967台、2019年17万8,950台、2020年20万5,600台 、2021年35万2,471台、2022年52万2,444台。BEVに占めるテスラ車の割合は、2010年0.0%、2011年0.0%、2012年16.5%、2013年39.2%、2014年26.1%、2015年36.8%、2016年56.0%、2017年47.8%、2018年79.8%、2019年75.8%、2020年79.0%、2021年71.9%、2022年 64.2% 。

出所:マークラインズを基にジェトロ作成

図4:米国で販売されるBEV車種数の推移
2010年1、2011年3、2012年8、2013年9、2014年13、2015年14、2016年13、2017年16、2018年16、2019年17、2020年21、2021年39、2022年48で推移。

出所:マークラインズを基にジェトロ作成

充電インフラが全国拡大

3つ目に、充電インフラの拡大も挙げられる。EV用充電ステーションは2022年末時点で、米国内に5万3,492カ所設置されている。また、EV用充電器は14万3,711基存在する(図5)。とりわけ充電ステーションは、2021年に前年から57.7%も増加し、5万カ所を超えた。充電器も、2018年から2021年にかけて、毎年20%を超える伸び率を記録していた。2022年に入ると伸び率はやや鈍化したものの、増勢は堅調だ。これにより、BEVの利便性に対する消費者の懸念は和らいできている。

図5:EV用充電器とEV用充電ステーションの設置数の推移
EV用充電ステーション設置数の推移は、2011年2100、2012年6200、2013年8100、2014年1万712、2015年1万3696、2016年1万7723、2017年1万9792、2018年2万2826、2019年2万6959、2020年3万1738、2021年5万54、2022年5万3492。EV用充電器の推移は、2011年5070、2012年1万4982、2013年1万9472、2014年2万5602、2015年3万4151、2016年4万5124、2017年5万3117、2018年6万4037、2019年8万5079、2020年10万6814、2021年12万8474、2022年14万3711。

注:正確には、ESVE(充電ケーブル)のポート数。
出所:エネルギー省を基にジェトロ作成

充電インフラは今後も拡大していくだろう。バイデン政権は「2030年までに充電器を50万基設置する」という目標を掲げている。2021年11月に成立したインフラ投資雇用法は、全国的な充電ネットワークの構築を目的として、各州に5年間で総額50億ドルを提供する予算を盛り込んだ。この予算を活用しながら、「国家EV充電プログラム(National Electric Vehicle Infrastructure Program:NEVIプログラム)」が進められている。また、NEVIプログラムではカバーされない地域を対象に、5年間で総額25億ドルの「EV用充電と代替燃料供給インフラの拡充に向けた助成金プログラム(Charging and Fueling Infrastructure Discretionary Grant Program:CFIプログラム)」(注6)が始まった(2023年3月16日付ビジネス短信参照)。テスラが2024年末までに最低7,500基の自社専用充電器を一般開放すると発表したことも、充電インフラの拡大を後押しするとみられる(2023年2月16日付ビジネス短信参照)。

なお、BEVの普及は、米国民の環境意識に直結しているというわけでもないようだ。ピュー・リサーチ・センター(注7)によると、米国民の環境意識は確かに趨勢(すうせい)として高まってきた。「気候変動は重要な脅威」と考える米国民は2013年時点で40%だったのに対し、2022年には54%に上った。しかし、2022年は前年より4ポイント低かった。つまり、図1で示したようなBEVの普及率と環境意識に、明確な相関性は確認できないことになる。

今後の課題はBEVの大衆化

2021年以降の伸び率から、BEV市場は導入期から成長期に移行したとみられる。導入期の主な顧客は、流行に敏感で新製品を好む改革層(アーリー・アダプター)だった。しかし、今後はより一般の大衆が主に開拓すべき顧客になる。BEVが大衆に浸透するためには、手の届きやすい価格設定が必要だ。

BMWグループのミニUSAは4月20日、EVに関する消費者意識調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (注8)を発表した。この調査によると、EV購入の主な障壁には「価格」(44%)と「公共充電ステーションの不足」(18%)が挙げられた。実際のところ、米国の自動車情報価格サイト「ケリー・ブルー・ブック」によると、2022年末時点で全車の平均価格が4万8,681ドル、EVは6万1,488ドルだった。ガソリン車とEVの価格差は依然として大きいことがわかる。他方、ゼネラルモーターズ(GM)が販売している「シボレー・ボルトEV」や「シボレー・ボルトEUV」は、いずれも3万ドル未満からだ。また、2023年秋に市場投入される予定の同社「シボレー・エクイノックスEV」も、3万ドル前後からの価格設定になると見込まれる。

この課題は、航続距離の長さに根ざしているところもある。航続距離を追求すると、その分、価格が上昇する傾向にあるためだ。この点、ミニUSAの消費者意識調査では、回答者の73%が「1日の走行距離は75マイル(約121キロ)以内」とした。つまり、普段使い可能で手頃な車種へのニーズが高いことがうかがえる。こうしてみると、まず低価格帯の車種が充実されるなど、今後はBEV市場のトレンドに変化が生じるかもしれない。

なお、「公共充電ステーションの不足」については、図5の通り、対処に進展が見られる。今後も改善を見込めるだろう。ただし、米国エネルギー省によると、2023年3月時点で存在する公共充電ステーション(5万3,393カ所)のうち、レベル3(急速充電、注9)に該当するのは7,347カ所(全体の13.8%)にすぎない。このため、レベル3相当のステーション増加が求められている。米国BEV市場のさらなる拡大に向け、車両と充電インフラ両方の充実化に注目だ。


注1:
BEVとPHEVを合わせた台数の構成比。FCVは含んでいない(もっとも、含んだとしても、比率は小数点第1位まで変わらない)。なお、BEVだけに限ったEV比率は、2022年末時点で5.8%。
注2:
V.J. Thomas, Elicia Maine “Market entry strategies for electric vehicle start-ups in the automotive industry – Lessons from Tesla Motors”, Journal of Cleaner Production, Volume 235 (2019): 653-663
注3:
時速60マイル(約100キロ)に到達するまでに要する時間。2008年発売のロードスターは4.6秒、2012年発売のモデルSは5.9秒、2017年発売のモデル3は5.6秒。年を経て、より低価格なモデルでも、高い加速性能を実現している。
注4:
テスラは当初、BEVの基礎技術について、米国ベンチャー企業のACプロパルジョンと提携。英国企業ロータスに「ロードスター」の設計と組み立てを依頼した。対して、大手自動車メーカーは、ガソリン車のニーズに合わせて設計。すなわち、スチール製ボディーを前提とする車両設計・生産能力などに依存していた。BEV向けには最適化されていなかったことになる。
注5:
テスラは、家電製品のOEMが運営する高級小売店の販売戦略をヒントにしたとしている。もっとも、自動車については、ディーラーを介さず直接販売することを禁じる州が、依然として複数ある。そこでテスラは、直接販売可能な州では直営店舗とインターネット、直接販売禁止の州でもインターネットを通じて、顧客とのネットワークを構築したと分析されている。
注6:
CFIプログラムは、EV用充電インフラだけを狙ったものではない。水素、プロパン、天然ガスの燃料供給インフラの拡充も、目的に含まれている。
注7:
2023年4月18日付の同センター調査に基づく。
注8:
実施時期は、2023年4月10~12日。対象は、18歳以上の米国成人1,010人。
注9:
充電時間が30分程度ということを意味する。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 リサーチ・マネージャー
片岡 一生(かたおか かずいき)
経営コンサルティング会社、監査法人、在外公館などでの勤務を経て、2022年1月から現職。