国産化率証明書の実務解説(インドネシア)
国内製造比率と企業貢献比重算出のポイント

2023年12月27日

ジェトロ・ジャカルタ事務所(以下、ジェトロ)は2023年10月11日、インドネシア国営で審査・検査サービスを行うスコフィンド(PT.SUCOFINDO)から講師を招き、政府が進める「国産品優先政策(P3DN)」に関する日系企業向けのセミナーを開催した。ジェトロはP3DNに関するセミナーを2022年3月にも開催し、P3DN政策の背景や国産化率(TKDN)の概要などを解説した(2022年5月27日付地域・分析レポート参照)。今回のセミナーでは、TKDN証明書の取得手続きなど、より実務的な内容を詳しく解説した。

セミナー開催の背景として、日系企業からジェトロに対し、P3DNに関する問い合わせが増加していることがある。代表的な問い合わせ事例としては、(1)輸入許可で苦労する状況が続いている、(2)中長期的には、国産品に切り替える検討や準備もしたほうが良いのではないか、(3)そのために、国産品の定義とは何かをまず理解したいといった内容だ。インドネシアではP3DN政策を積極的に進める姿勢がより鮮明になっている。工業省はP3DN推進チームを工業相直轄で設置し、国産品の証明となるTKDN証明書の導入・普及を行っている。

原材料、労働者、間接費で国産化率を算出

今回のセミナーでは、スコフィンドが(1)国産化率の算出基準となる8要素、(2)企業貢献比重(BMP)の獲得基準の2点に重点をおいて解説した(スコフィンドによる説明資料参照PDFファイル (5.04MB))。

講演でスコフィンドは、インドネシア政府のP3DN政策について、国内産業の競争力強化を図る狙いがあり、そのために国内品の使用拡大を促進している(法律2014年第3号)と述べた。その上で、政府と企業が国産化を推進する目的とメリットを整理した(参考1参照)。

参考1:インドネシア政府と企業が国産化を推進する目的とメリット

インドネシア政府の目的とメリット
国内産業の成長促進と能力強化
産業競争力の促進
雇用機会と雇用吸収の拡大
資源ポテンシャルの活用
企業側のメリット
政府調達品への参入機会が得られる。
国産品優先政策の下で輸入品が規制され、国産品(TKDN:40%)が優遇されることになるため、競合品との関係で優位に立てる。

出所:スコフィンド資料からジェトロ作成

また、スコフィンドによると、国産品の全般的な定義では、一般的な製品については、国内製造比率とBMPの合計が40%以上のものとなる。ただし、太陽光発電関連機器や、スマートフォン/モバイルパソコン、医薬品、電子/通信機器、電気自動車(EV)は特定の製品として取り扱われる。この場合、商品ごとに工業相規定でTKDNの算定基準が定められている。

スコフィンドによると、TKDN証明書の対象は大別して「物品」「サービス」「その混合」に分類される。申請者はTKDNの審査・評価を受けるため、(1)原材料の原産地、(2)労働者の国籍、(3)製造間接費について、合計8点の小項目の申請書(データシート)を作成する必要がある(参考2参照)。

参考2:評価のために申請者が作成する申請書(データシート)8種類

(1)原材料
  1. 直接・間接原材料
  2. 原材料関連サービス"
(2)労働者
  1. 直接労働者
  2. 直接労働者関連サービス
(3)製造間接費
  1. 間接労働者/マネジメント
  2. 自己所有の作業機器
  3. レンタル作業機器
  4. 工場間接費用関連サービス

出所:スコフィンド資料からジェトロ作成

スコフィンドは今回、TKDNを審査する際の主な評価ポイントを明らかにした。同社によると、審査・評価する主な内容は次のとおり。

  1. 原材料:原材料全体に占める国産品と輸入品の割合(価格ベースで算出)。輸入税は現地調達の一要素とみなし、国産化率に算入。
  2. 労働者:インドネシア人もしくは外国人。外国人労働者の個人所得税は現地調達の一要素とみなし、国産化率に算入。
  3. 製造間接費:使用する設備機器の製造国と所有者がインドネシア国内か国外かに応じて、減価償却費に占める国産化率の計算方法を調整。 これらの各要素は申請時に必要なデータシート(エクセル)に記入すると、自動的に集計される。

国産化基準を満たすカギとなるBMP

企業貢献比重(BMP)とは、インドネシアで投資・生産を行い、国内経済に利益をもたらした企業の評価値を指す。BMPは最高で15%まで認められる。BMPが高いほど、必要なTKDN率(一般的には40%)が達成しやすくなるため、重要な要素だ。例えば、必要なTKDN率が40%の場合、BMP(最大15%)を差し引く。これにより、企業が対応すべき国内製造比率は25%に減少する。

スコフィンドによると、BMPは4要素から算出される(表参照)。このうち

  1. パートナーシップを通じた協同組合を含む零細・小規模企業の能力強化については、申請資料として協力契約、活動記録、引き渡し書類などを提出する。記入書式には金額を記載する必要があり、その金額を基にBMPが算出される。
  2. 労働安全衛生・環境管理については、労働安全衛生にかかる認証(SMK3/OHSAS18000)とISO14000認証を保有しているかで算出される。
  3. コミュニティー能力強化(例:地域住民のためのモスク建設など、社会貢献活動)の申請書類は、支援費用支払いの証拠、活動記録、引き渡し書類となる。記入書式には金額を記載する必要があり、その金額と基にBMPが算出される。
  4. アフターサービス施設(例:自社製品の回収・修理などを行うための設備、車両購入など)については、申請書類はアフターサービス設備購入の証拠、アフターサービス施設の写真などだ。これらのコストについて、記入書式に金額を記入した金額、その金額を基にBMPが算出される。
表:BMPの構成要素
NO 企業貢献比重決定要素 規準 比重 最大
比重
企業貢献
比重 (%)
I パートナーシップを通じた、協同組合を含む零細小規模企業の能力強化 5億ルピア以上
(約465万円)
5% 30% 4.50%
以降、5億ルピアごと 5%
II 証明書の保有 : なし 0% 20% 3.00%
ー労働安全衛生 (SMK3/OHSAS 18000) (30%)および あり 6%
ー環境管理 (ISO 14000) (70%) なし 0%
あり 14%
III コミュニティー能力強化 (Community Development) 2.5億ルピア以上 3% 30% 4.50%
以降、2.5億ルピアごと 3%
IV アフターサービス施設 投資額10億ルピア以上 5% 20% 3.00%
以降、10億ルピアごと 5%
合計 100% 15.00%

注:1ルピア=約0.0093円。
出所:スコフィンド資料を基にジェトロ作成

こうした申請プロセスを経た上で、スコフィンド、またはサーベイヤーインドネシアなどの指定検査機関が申請者の書類を審査・監査し、その結果を基に工業省が証明書を発行する。発行される証書は、TKDN証明書とBMP証明に分かれており、ともに有効期限は3年間だ。なお、申請後のTKDN証明書の発行状況は、工業省ウェブサイト(P3DN国産品優先政策推進チームのサイト(インドネシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で確認できる。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所 経済連携促進アドバイザー
中沢 稔(なかざわ みのる)
1982年、総合商社に入社。1998年ジャカルタ駐在、2013年韓国駐在、2016年にインドネシアのプルワカルタの自動車部品メーカーへの出向を経て、2018年から現職。