「スタートアップ20」、インドがリーダーシップ発揮

2023年8月2日

2023年にG20議長国を務めているインドが、新たなエンゲージメントグループの「スタートアップ20」を立ち上げた。世界3位のスタートアップエコシステムを有するインドは、G20議長国としてスタートアップをプレーアップすべく、同グループを立ち上げたとみられる。G20では、加盟国政府の財務相と中央銀行総裁によって主導される会合などの分野別会合が開催された後、議論の集大成として、各国首脳によるG20サミットが開催される。このほか、「ビジネス20」「ユース20」といった政府関係者以外のステークホルダーで構成する会合やエンゲージメントグループが設けられており、「スタートアップ20」は同枠組み内に新設された。

インド政府の強いイニシアチブ

「スタートアップ20」は2023年1月28、29日のテランガナ州ハイデラバードでの初回会合を皮切りに、3月18、19日に第2回会合がシッキム州ガントクで、6月3、4日に第3回会合がゴア州バンボリムで開催され、7月3、4日のハリヤナ州グルガオンでのサミット開催をもって閉幕した。各会合には、会議をホストした州政府幹部のみならず、中央政府の閣僚らも数多く参加し、サミットではピユシュ・ゴヤル商工相がスピーチを行うなど、このエンゲージメントグループへのインド政府の強い思い入れが感じられた。


サミットでスピーチをするゴヤル商工相(ジェトロ撮影)

「スタートアップ20」では、第2回会合以降、3つのタスクフォース(「ファウンデーション・アライアンス(基礎・連合)」「ファイナンス(金融)」「インクルージョン・サステナビリティー(包括・持続可能性)」)に分かれて議論が行われた。成果文書のポリシーコミュニケPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.63MB)は13の推奨事項、39の政策指令、これらを統合した5つのアクション事項に、フレームワークの骨格などを含む付属事項をまとめた。推奨事項には、G20各国でのスタートアップの定義統一や、2030年までにグローバルなスタートアップエコシステムでの1兆ドルの共同投資などが盛り込まれた。

スタートアップの定義に関するフレームワーク

スタートアップの定義は各国によってさまざまだ。現在、G20加盟国のうち、スタートアップの定義を法律で定めている国はスペインとナイジェリアのみ(ロシアは2023年内に予定)にとどまっている。法律には定めていないものの、政府機関が出した支援計画などで定義に触れている国や、法律や政府文書に定義がなくとも社会である程度合意が得られている定義がある国、また、スタートアップがほぼ存在しないためにスタートアップの定義がない国も存在する。韓国では政策上、中小企業とスタートアップをひとくくりにしているなど、各国のスタートアップ定義のばらつきは大きい。このような中、グローバルに統一された定義を設けることは、さまざまな議論の出発点となる。今回発表されたスタートアップ定義のための枠組みは、5つのパラメーター(法人格、設立年数、規模、拡張性、革新性)と各パラメーターの指標から成り、各国はパラメーターと指標のうち1つまたは複数を選択することができるとしている。

参考:スタートアップ定義のためのフレームワーク

法人格
登記企業
非上場
独立系(非子会社)
設立年数
年以上
年未満
規模
売り上げ
従業員数
資金調達額
非上場
拡張性
高い拡張性
急成長
革新性
技術革新
ビジネスモデル革新
研究開発、知的所有権
STEM人材、研究職

出所:各種資料を基にジェトロ作成

エンゲージメントグループの活動を振り返って

先に述べたとおり、同エンゲージメントグループは政府関係者以外の各ステークホルダーによる会合だ。自国での開催ということもあり、インドは各会合にスタートアップ関連政策に携わる政府関係者のほか、スタートアップのファウンダーや投資家、アクセラレーションやインキュベーションなどの支援機関、ビジネススクールの研究者や、スタートアップエコシステムの多数の関係者を招待していた。一方で、インド以外の国は政府や関係団体の参加にとどまっていたことから、事務局は7月のサミットでスタートアップ向けの会場とプログラムを特設し、各国にスタートアップを招聘(しょうへい)するよう根気強く依頼した。そのかいもあってか、当日は米国や英国、インド、インドネシア、日本、バングラデシュ、フランスなど十数カ国から約150社のスタートアップが参加するなど、大盛況となった。日本からはインドでビジネスを展開する日系スタートアップ3社(アイムビサイドユー、サグリ、ワンアクト)がブース出展に加え、投資家へのピッチセッションなどに参加した。


スタートアップの展示ブース(ジェトロ撮影)

2024年のG20議長国ブラジルへの引き継ぎ

スタートアップは、今や世界経済の成長に欠かせない存在になりつつあり、G20各国がスタートアップ支援の文脈で連携することは必要不可欠だ。そのため、2023年の議長国インドが同エンゲージメントグループを立ち上げ、ポリシーコミュニケというかたちで、網羅的に問題提起ができたことは一定の評価ができる。他方、このような成果が上げられたのは、インドが成熟したスタートアップエコシステムを有しているためとする見方もある。エンゲージメントグループ閉幕に当たり、2024年にG20議長国を務めるブラジルはこの枠組み継続を表明したが、具体的にどのような体制での開催、議論展開となるか、その動向に注目したい。

執筆者紹介
ジェトロ・ベンガルール事務所
夏見 祐奈(なつみ ゆうな)
2010年、経済産業省入省。通商政策局、製造産業局などを経た後、日本とインド両国の政府間合意に基づき設置された日印スタートアップハブの担当として2021年7月からジェトロ・ベンガルール事務所に勤務。