愛媛の地域企業、アジアに続きアフリカ市場の開拓を目指す
踏み固める舗装補修材をアフリカの道路へ

2023年11月14日

日本の人口は、2020年に1億2,615万人だったが、厚生労働省の推計によると、50年後の2070年には8,700万人に減少する。人口減少は経済成長の停滞、鈍化の要因になる。とりわけ、地域経済に与える影響は大きい。その経済をこれまで支えてきたのは、中堅中小を含む地場の企業であり、その生き残りを賭けた戦いはまったなしの状況だ。

そうした中、人口増加が続く海外市場の開拓に活路を見いだす地域企業がある。愛媛県松山市に本社を置く愛亀(あいき)もその1つだ。同社は、カンボジア、キルギスに続き、次はアフリカ市場を開拓するという。アフリカ54カ国の総人口は現在の14億820万人から2050年には、24億6,312万人に大きく拡大すると予測されている。ジェトロは、愛亀のIKEEグループ企画チームの安部拓朗氏に、同社のねらいや戦略、アフリカ市場開拓の現状について聞いた(取材日:2023年10月31日)。

質問:
事業概要は。
答え:
愛亀は愛媛の中小企業。建設業を中心にリサイクル事業や農業など、グループ12社で多様なビジネスを展開している。 「エクセル・パッチ」という名称の道路の穴(ポットホール)を簡単に埋めることのできる道路補修材が主な商材だ。長期保存が可能で、雨や水たまりといった水分のある状態でも使うことができる。一般的なセメントやアスファルトは、乾燥させたり温度が下がるまで交通を止めたりする必要がある。しかし、エクセル・パッチは、圧力硬化型の道路補修材であり、踏み固めるだけですぐ補修箇所を車両が通行できる。アスファルト乳剤なども不要なため、雨が降っていても、水たまり状態でも施工できる。特に雨期がある国では、大きなメリットになるはずだ。また、施工に特殊な機械や知識を持った専門家も必要ない。一般的な作業員で、充分に穴を埋めることができる。
アフリカでは、道路の補修に一般的にアスファルト混合物が使われている。アスファルトプラントで作ったアスファルト混合物を補修箇所へ運んで施工するが、アスファルトは冷えると固まる性質がある。そのため、温かいうちに施工する必要があり、補修場所はプラントから一定の距離内に制限される。こうした事情により、プラントから離れた地方の道路は補修が後回しになることが多い。加えて、アスファルト混合物は「作りだめ」しても冷えてしまうので、ストックに適さない。対してエクセル・パッチは、大量生産しておいてストックすることも可能だ。アスファルトプラントから距離のある場所でも容易に使用でき、かつ大量生産が可能ということから、結果としてコストを下げることができる。
日本国内では、各地域にエクセル・パッチと似た商材を製造・販売する企業があるが、当社は四国で多くの納品実績がある。特許はあえて取っていない。製品のコアになる部分に関して情報開示せず、ブラックボックス化するためだ。コア部分は模倣されない自信がある。
質問:
どのようにして輸出先国を決めたのか。
答え:
エクセル・パッチのビジネスは、アジアでの政府開発援助(ODA)と縁があり、まず、カンボジアやキルギスで成功した。そのため、アジア、中央アジアを市場として見ていたところ、アフリカでもODAと縁ができた。当初は英語圏のガーナをターゲットと考えていた。アフリカビジネスの情報を集める中で、研修プログラムに無料で参加できることを知った。それがジェトロの「中小企業海外ビジネス人材育成塾アフリカコース」(以下、「育成塾」)だ。
育成塾に参加した理由の1つは、現地情報を入手できることだ。しかし、それだけではなく、アフリカ向け輸出のワークショップがあり、同じくアフリカ向け輸出を目指す他の中小企業が集まっていたこともある。参加するからには、他の受講者と何かしらのコラボレーションを生み出すべきと思い臨んだ。プログラム中のグループワークなどで一緒になった人に積極的に声を掛け、必ずその日のうちにメールを送るようにした。その中で交流を深めたのが、デジタル貿易プラットフォームの開発・提供を手掛けるスタンデージだった。同社はすでにナイジェリアに進出済みで、道路資材を探していると聞いた。そのときガーナに並行してナイジェリアの市場を開拓するのも面白いと考え、社内で話を進めた。
ナイジェリアは市場が大きく、自社では手が出せないと思っていたが、育成塾でよいパートナーに巡りあったことで挑戦する契機となった。
質問:
アフリカ市場開拓について、現時点の進捗と今後の課題は。
答え:
ナイジェリア市場も視野に、スタンデージと共に経産省の「現地社会課題対応型インフラ・システム海外展開支援事業費補助金(我が国企業によるインフラ海外展開促進調査)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の適用を申請し、採択された。先月も10日間の日程でガーナとナイジェリアへ出張したところだ。
ガーナでは、高速道路省(The Ministry of Roads and Highways外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます:MRH)のチーフダイレクターにプレゼンテーションする機会があった。また、アスファルトプラントを数カ所視察した。将来的にはエクセル・パッチの現地生産を考えており、現地パートナーを探しているところだ。エクセル・パッチの原材料は石や砂などかさばるものが多く、完成品の輸出にはコストがかかる。できる限りの資材を現地で調達し、コアになる部分だけを現地へ輸送することによりエクセル・パッチの現地生産を目指したい。
なお、ガーナでもナイジェリアでも政府関係者は、当社の商品に興味津々だった。カンボジアやキルギスなどのアジア圏では、技術の前にコストの話になることが多かった。しかし、文化の違いなのか、両国ともコストの話は最後で技術に関する質問が多かった。技術面での質問も専門的で熱意あるものだった。商談でいかにトップの心をつかめるかが大事ということをあらためて実感した。
質問:
アフリカを含め、海外市場の開拓は日本国内でのビジネスに何か影響は。
答え:
国内市場は間違いなく縮小していく。人口が減り、政府や自治体の税収も減り公共事業も減っていく。その分の売り上げをどこかで確保しなくてはならない。その商売先が他地域か海外かだけの違いだ。当社はスローガンとして、「Think locally, act globally. Think globally, act locally.」を掲げている。グローバルで活動するには、ローカルの視点から物事を考え、グローバルの経験値を国内に還元していくことが重要だ。
先月まで、カンボジアのODA事業で道路の新設を手掛けていた。日本であの規模の新規道路建設案件が進められることはもうないだろう。つまり、大規模な道路の新規建設の経験が国内では積めなくなっている。海外に出て、売り上げと経験値を確保し、知識や技能の維持にも努めていきたい。現在、インドでも、技術協力を行っている。人口ボーナスを狙える市場を押さえていく。
中小企業としては、米国のような大国で同じように争っても勝てない。むしろ、人口が伸びる市場で、中国企業が手を伸ばしているようなニッチなところへ潜り込んでいくのが戦略になる。「ジャパニーズ・テクノロジー」の技術力、舗装に関する知識とテクニックをもって勝負するのが当社の戦い方だ。模倣品が出回ることもあったが、やはり「安かろう悪かろう」では品質面で当社と勝負にならず、模倣品はすぐに市場から消えていった。
最後に、地域の中小企業にとって経営者の熱意、哲学、バイタリティが非常に大切だ。当社のアフリカ市場開拓も、社長の熱意と行動力によるところが大きい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課長
松村 亮(まつむら まこと)
1993年、ジェトロ入構。展示部、ジェトロ名古屋、ジェトロ・ダルエスサラーム事務所、企画部、輸出促進部、ジェトロ・上海事務所、ジェトロ大分、アジア経済研究所勤務などを経て、2023年5月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。