Z世代の人気集める「本格派インスタントコーヒー」(中国)
広東省がコーヒー文化発信地に

2022年2月3日

米国コーヒーチェーン大手のスターバックスが北京に初出店したのが、1999年。この際、カプチーノ(トールサイズ)の1杯当たりの価格は19元(約342円、1元=約18円)だった。一方でこの時期、北京市の都市部従業員の平均月給は1,148元(約2万円)だ。コーヒーは中国人にとって高価な飲み物だった。

その後、20年以上が経過した。今やコーヒーは、中国人にとって職場や家でも手軽に楽しむことができる飲み物だ。消費者の所得水準の向上や、嗜好(しこう)の多様化が、その要因と言える。加えて、手頃な価格で本格的な味わいを楽しむことができるインスタントコーヒーやドリップバッグコーヒーなどを扱う新たな国産ブランドが数多く生まれ、人気を得ていることも見逃せない。

進化するインスタントコーヒー市場

中国のコーヒー市場では長年、インスタントコーヒーが大きなシェアを占めている。コーヒー金融網(中国のコーヒー関連情報プラットフォーム)が公開する「2020年コーヒー年報」によると、中国の大手電子商取引(EC)プラットフォームの天猫(Tmall)と淘宝網(Taobao)(注1)で2019年に取引されたインスタントコーヒーの売上額は、21億1,478万元。コーヒー豆4億1,116万元、レギュラーコーヒー3億2,444万元など、他ジャンルと比べて圧倒的に大きい。

従来、中国でインスタントコーヒーといえば、クリーミングパウダーや砂糖などが入った商品が一般的だった。しかし、消費者の嗜好の多様化などに伴い、近年は様子が変わってきた。例えば、レギュラーコーヒーに近い味わいのインスタントコーヒー(本稿では以下、「本格派インスタントコーヒー」と総称)をブランド化する動きがみられる。その代表例が、「永璞珈琲(YongPu Coffee)」(2014年設立)、「三頓半(Saturnbird)」(2015年設立)、「時萃(SECRE)」(2019年設立)などだ。スターバックスのアメリカン(トールサイズ)の価格が1杯当たり22元(2021年12月時点)に対し、これらブランドのアメリカンは1杯当たり約4~8元(注2)。こうした手頃な価格に加え、パッケージのデザインや味などにも工夫がこらされている。こうしたことから、消費の利便性と効率性を重視する「Z世代」(1990年代後半~2000年代に生まれた消費者層)からも人気を集めている。

広東省発の「本格派インスタントコーヒー」ブランドも

このうち「時萃」(SECRE)は、新興企業の広州欣旎科技(2019年5月に設立)が展開するコーヒーブランドだ。その名の通り、当社は広州市に本社を置く。主力製品は、フリーズドライ製法によるインスタントコーヒーと、ドリップバッグコーヒー、コーヒー豆になる。同ブランドは、Z世代、ホワイトカラー、主婦、コーヒー愛好家といった層をターゲット顧客とする。当初は、微信(WeChat)のミニプログラム(注3)を通じて予約購入した顧客に、毎月コーヒーを郵送するというビジネス形態からスタートした。革新的な「ドーナツ形ドリップバッグコーヒー」(写真参照)やコーヒー豆を販売。多彩かつ特徴的なデザインが認知度の向上につながり、人気を得た。2019年12月にTmallに出店し、インスタントコーヒーの販売も開始。2020年には、国産ブランドのドリッブバッグコーヒー製品のインターネット販売額で首位を獲得した(「鳳凰網」2021年7月27日)。また2020年には、深セン市で実店舗のコーヒー店を開店し、広州、仏山でも店舗を拡大。2022年1月時点で12店舗を展開している。


「時萃珈琲」のドーナツ形ドリップコーヒー(ジェトロ撮影)

広東省にはコーヒー関連産業が集積

広東省には、中国の中でもコーヒー関連企業が集積する。「企査査」(中国の企業情報アプリ)で「コーヒー」を検索ワードとして入力し検索すると、2022年1月11日時点で、中国全体で16万8,250社がヒットする。うち、省・自治区・直轄市別では、広東省が3万5,446社を占める。中国全土に所在する企業のうち構成比21.1%で、最多だ。ちなみに、飲食業は1万4,930社(中国全土に占める構成比18.1%)、卸・小売業では1万3,017社(同28.3%)、コーヒーの焙煎(ばいせん)・研磨、コーヒー機の製造などが含まれる製造業は1,567社(同26.5%)だ。各業種とも、省内の企業数の割合が高いことが分かる(表参照)。

表:中国におけるコーヒー関連企業の分布(地域別)(単位:社、%)
順位 省・自治区・直轄市 コーヒー関連
企業数(社)
(中国全土に占める)構成比 業種別
製造業 構成比 卸・小売業 構成比 飲食業 構成比
1 広東省 35,446 21.1 1,567 26.5 13,017 28.3 14,930 18.1
2 雲南省 13,816 8.2 490 8.3 4,825 10.5 2,815 3.4
3 江蘇省 10,830 6.4 330 5.6 2,290 5.0 7,197 8.7
4 四川省 9,382 5.6 96 1.6 1,918 4.2 5,581 6.7
5 浙江省 8,795 5.2 564 9.5 1,737 3.8 5,709 6.9
(参考) 上海市 4,839 2.9 134 2.3 1,335 2.9 2,751 3.3
(参考) 北京市 2,521 1.5 42 0.7 458 1.0 1,465 1.8
その他 92,003 54.7 2,795 47.2 22,294 48.5 47,839 57.8
合計 168,250 100.0 5,922 100.0 45,956 100.0 82,706 100.0

注:2022年1月11日時点の検索結果。
出所:「企査査」における検索結果を基にジェトロ作成

広東省にコーヒーの関連企業が集積している背景について、中国の調査会社、前瞻産業研究院が、2021年9月15日に発表したレポートの中で分析結果を発表している。その「2021年中国コーヒー産業チェーンの現状および地域市場分析外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(中国語)」によると、「広東省では貿易が盛んなことから、コーヒーの貿易に関わる企業が多い。また当省では、家電産業も発達している。そのため、家庭用コーヒーメーカー製造企業も多い。加えて、レギュラーコーヒーやインスタントコーヒーの代表的なブランドの企業も広東省に本社を置く」とした。広東省内では、貿易や製造業の基盤を背景に、コーヒー産業の集積が進んだとみられる。

なお、コーヒーの関連企業数が広東省に次いで多い雲南省については「中国最大のコーヒー栽培地で、コーヒーの加工メーカーが集積している」と評した。

コーヒー専門市場を開設、専門スクールも

既述のとおり、広東省はコーヒーの卸・小売業の企業数でも全国最多だ。うち、広州市はコーヒーの卸売専門市場が全国で最も多いとされる。同市では、2005年に全国初のコーヒーの専門市場「金達コーヒー飲品城(以下、金達)」が設立された。

金達には、原材料・設備の卸売業者に加え、カフェや喫茶店などの開業予定者向けにノウハウを教える専門スクールなども入居している。専門スクールで提供されるのは、メニューの開発、ブランド・店舗の設計、コーヒー豆や抽出に関する知識などに関する講座だ。それらに関して、習得、材料調達・設備導入などをワンストップで学べることになる。また、喫茶店と同様に、バーカウンターや椅子を備えて、一般の消費者向けにもコーヒーの関連知識の普及に向けた試飲サービスを提供する店舗もある。このほか、2カ月に1回程度、各入居店舗の主催でカフェや喫茶店などの顧客、コーヒー愛好者向けに新商品発表会を開催している。

ジェトロ広州は2021年12月に金達を視察。入居する店舗にヒアリングした。そのうち2015年から入居する「華盛コーヒー」(注4)の周河清販売部主管によると、現在の中国のコーヒー文化の源は日本にある。近代の日本コーヒー文化がまず台湾に広まり、台湾企業を介して中国にも伝えられたという。周氏はまた、「広州でもコーヒーの試飲会や新商品発表会を積極的に行っていくことで、コーヒー文化のさらなる普及と発展を期待している」と語った。


注1:
天猫(Tmall)は、B2C型ECプラットフォーム。淘宝網(Taobao)は、C2C型ECプラットフォーム。ともにEC大手アリババグループ傘下にあり、それぞれの分野で中国最大だ。
注2:
「時萃」「永璞」「三頓半」のインスタントコーヒー1パックの販売価格から、1杯当たりの価格を算出した。
注3:
WeChatミニプログラムは、WeChat内で利用できるダウンロード不要のアプリ。ミニプログラムには、電子決済機能「WeChat Pay」を搭載。商品・サービス購入、電気・ガス・水道や公共サービスの支払いに至るまで、あらゆるシーンで利用されている。
注4:
華盛コーヒーは、広東省江門市でコーヒーメーカーを自社生産。金達では、コーヒーメーカーやコーヒー豆などを販売している。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
梁 梓園(リョウ シエン)
2017年、ジェトロ・広州事務所入所。