物流都市の山東省臨沂市、ECも取り込み、さらなる深化目指す(中国)

2022年4月25日

中国の山東省は、経済規模(GRP)で国内全省・直轄市・自治区のうち第3位、人口では第2位だ。その山東省で最大の面積と人口を擁する都市が、臨沂市である。同市は省南部に位置して江蘇省と隣接し、中国東部の道路交通網で南北を結ぶ交通の要衝ともされている。1990年代以来、各種分野の卸売市場が発展し、物流面の優位性にも依拠して、巨大な卸売市場クラスターが形成され、それに伴い、物流産業が急速な発展を遂げてきた。

表:臨沂市経済データ(2021年)
面積 1.72万平方キロ
人口 1,197万人
GRP 5,465億5,000万元(約9兆8,379億円、1元=約18円)
階層レベル2の項目第一次産業 484億1,000万元 (構成比は8.9%)
階層レベル2の項目第二次産業 2,116億8,000万元 (構成比は38.7%)
階層レベル2の項目第三次産業 2,864億6,000万元(構成比は52.4%)
GRP成長率 8.7%

出所:臨沂市統計局発表からジェトロ作成

EC主軸とした業態へ転換

この市場クラスターは「臨沂商城」(以下:商城)と呼ばれている。中国北部最大の卸売市場クラスター・商品集散地(注1)といわれており、同じく卸売市場として有名な浙江省義烏市と並ぶ規模を誇る。臨沂商城管理委員会によると、商城では、専門卸売市場が123カ所あり、雑貨、金属製品、建材、園芸機械、労働安全保護用品など、27カテゴリー6万種類の商品を取り扱っている。同委員会の統計によると、2021年の商城の市場取引額は5,402億5,500万元、ネット小売額は356億9,100万元となった。


臨沂商城の航空写真(臨沂商城管理委員会提供)

同委員会によると、この臨沂商城も一時期は、中国における電子商取引(EC)市場の急拡大に伴う実店舗の必要性の低下により、空き店舗・ブースの増大が大きな課題となっていた。こうした市場の取引形態の変化に対応するため、臨沂市政府は従来の専業市場を基礎として、ECを活用した市場振興戦略に注力し、多くのライブコマースや、特定分野の商品を取り扱う垂直型EC(注2)、サプライチェーンサービスなどの分野でプロジェクトを育成してきた。その結果、2021年1月現在、商城にはEC園区38カ所、各種のEC・情報プラットフォームが40カ所設けられ、11万7,900社のEC関連企業などが拠点を構えるに至っている。アリババ、京東、抖音(TikTok)、快手(TikTokと並ぶショートムービー・アプリ)、拼多多(低価格販売が強みのECプラットフォーム)、アマゾンなどの有力プラットフォームの公式サポート企業も拠点を設置している。

臨沂市はライブコマースの面でも、2019年から急速な発展を遂げている。「快手電商生態報告」によると、同年に「快手」でビジネスアカウントを開設したユーザー数で、臨沂市は全国第1位、ライブコマース交易額では100億元を超え、全国第3位となっている。

臨沂市の垂直型ECの代表企業として、労働安全保護用品生産メーカーの新明輝安全科技がある。同社は中国の工業安全保護用品分野の最大のサプライヤーで、米国3MやHoneywell、デュポン(DuPont)など工業大手メーカーの協力パートナー・中国最大の代理商でもある。同社ホームページによると、EC事業の発展初期に多くのEC企業と同じように、淘宝や京東などの総合ECプラットフォームで店舗を開店した。その後は、自社で独自にECプラットフォームを運営し、国内外の2,200余りの有名ブランドを取り扱うまでに成長。自社独自のサプライチェーンも構築し、一括サービスを提供している。そのため、顧客はプラットフォーム上で、最新かつ総合的な知識を得ることができ、同社からの安全保護に関わるソリューション提供を受けることができる。これらの取り組みにより、同社は現在、中国の工業安全用品業界で最大手の垂直型ECプラットフォーマーとなっている。


新明輝社のECプラットフォーム(新明輝社提供)

現代物流への転換も進展

臨沂市における卸売市場クラスターの形成と発展に伴い、膨大な物流需要が生み出され、在庫管理や発送などの面で高度な物流サービスを提供する業者も出現してきた。臨沂市は現在、中国北部で最大の商品集散地となり、2019年には商業貿易サービス型物流ハブとして「国家物流ハブ建設リスト」(注3)にも選出された。

臨沂商城が発表した統計によると、商城には23カ所の物流園区があり、2,300社余りの物流業者が営業している。商城の2021年の物流取り扱い総額は8,065億7,100万元となった。臨沂から2,000路線を超える陸送路線網があり、全国ほぼ全ての県・県級市をカバーしている。卸売市場クラスターを持つ臨沂市には、豊富で大量な商品が集まってくるほか、同市の物流業者は貨物集配が速く、物流効率が高いとされている。商城では集荷した貨物を当日中に発送することが可能で、配送距離が600キロ以内の地域に翌日、1,500キロ以内の地域には翌々日、それ以上の距離の地域へは3~7日で配達できる。また、貨物の取り扱いが迅速なため、入荷待ちや積み卸し、在庫管理の時間やコストが削減でき、物流配送価格も低い。物流コストは全国より20~30%ほど低いとされている。臨沂商城の担当者の説明によると、商城を中心に充実した物流網とその廉価な運賃は、臨沂市以外の物流業者も引き寄せ、同市を経由する中継貨物も増加している。

臨沂市の物流産業グレードアップの代表事例として、市内の大型物流園区「金蘭物流基地」が挙げられる。同基地を運営する山東蘭田集団によると、同基地は9億元を投資して建設した国家道路輸送ハブ重点建設プロジェクトだ。基地内は「車両管理」「仕分け・配送」「在庫管理」「情報サービス」「総合サービス」の5つのエリアに分かれている。2021年7月時点で、基地には500社余りの物流業者が入居し、260の直行路線便が開設されている。1日当たり約8,000台のトラックが出入りし、年間物流総額は730億元となっている(「斉魯網・閃電網」、2021年7月10日)。

2013年には習近平総書記が同基地を視察し、「物流の現代化に向けて努力を続ける必要がある」との指示をしたことから、基地の発展がさらに加速した。現在では、スーパーコンピュータ天河を活用した物流園区のスマート化や、モノのインターネット(IoT)を活用した園区業務オフィスシステムの整備などによる園区管理のスマート化と情報化を実現している(「斉魯網・閃電網」、2021年7月10日)。

在庫管理の自動化、スマート化に向けた取り組み加速

中国では近年、ECなどの新しいビジネス業態の急速な成長に伴い、注文品数や貨物取扱量が継続的に増加。人件費や物流など各種コストの上昇傾向とも相まって、流通システムの効率化がますます重要になり、自動化、スマート化のニーズが高まっている。

2020年10月、共産党臨沂市委員会と同市政府は「臨沂商城のモデル転換・発展と国家物流ハブ城市建設実施方案」を発表した。同方案は、倉庫建設の標準化と在庫管理サービスのスマート化を推進する方針などを掲げた。具体的な目標としては、2022年までに新設倉庫の50%以上にスマート在庫管理システムを導入することや、2023年までに全ての新設倉庫でスマート在庫管理システムを導入することなどを打ち出した。関連企業はこの目標に沿うかたちで、「新明輝智慧倉儲」「羅濱遜智慧雲倉」などのスマート倉庫プロジェクトの建設を進めている。

上述した工業安全保護大手メーカー新明輝社は何万種類もの工業製品を取り扱っていることもあり、効率の高い在庫管理を導入している。同社担当者によると、同社のスマート倉庫(「新明輝智慧倉儲」)では、IoTに基づいた自動化立体倉庫、スマートピッキング、ロボット棚卸し、AGV(無人搬送車)ロボットなどの技術導入で、作業効率と現物比率、在庫回転率が大幅に向上し、人員コストも引き下げられたとしている。

「羅濱遜智慧雲倉」は、臨沂市のIT技術会社である阿パ(巾へんに白)集団と華為科技(ファーウェイ)傘下のクラウドコンピューティング会社Huawei Cloudが連携して作り上げた高機能スマート倉庫システムだ。

同倉庫システムでは、第5世代移動通信システム(5G)やビッグデータ、人工知能(AI)などの技術を応用し、倉庫内のプロセスのうち80%以上の自動化率を達成したとしている。阿パ(巾へんに白)集団と関連企業は、臨沂市でのライブコマース・EC事業者増加に対応するため、「前雲後倉」といったクラウドプラットフォームと倉庫を一体化するモデルを導入し、EC取引先に貨物保管、ピッキング、配送などのワンストップサービスを提供している(「中国工業新聞」、2021年6月11日)。

2線都市(注4)として位置づけられる臨沂市ではあるが、商業と物流の優位性より、かねて「物流の都」という称号を得ていた。同市は近年、デジタル経済ECの発展の波に乗って、情報化を商業・物流の全産業チェーンを通して進めている。これにより、商業と物流をより密接かつ効率的に連結しただけではなく、さらに多くの新しい機能やビジネスを派生的に生み出しているといえるだろう。


注1:
臨沂商城管理委員会のウェブサイト。
注2:
垂直型EC:天猫(Tmall)や京東などのように、あらゆるカテゴリーの商品を扱う総合型ECと違い、決まったカテゴリーの商品のみを販売する形態のEC店舗。専門性の高さが特徴。
注3:
2019年、国家発展改革委員会と交通運輸部は共同で「2019年国家物流ハブ建設工作に関する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(中国語)を発表。同通知により、臨沂市を含む23都市が「国家物流ハブ建設リスト」に指定された。それらの「物流ハブ」は陸港型、空港型、港湾型、生産サービス型、商業貿易サービス型、陸上国境審査場型に分類された。
注4:
中国の経済誌「第一財経」は毎年発表する都市の商業的魅力ランキングで、都市レベルを1~5線に区分している。「商業施設の充実度」「都市のハブとしての機能性」「市民の活性度」「生活様式の多様性」「将来の可能性」などの指標を基に、中国内337都市を1線、新1線、2線、3線、4線、5線都市としてランク付けしている。2021年のランキングでは、臨沂市は2線都市となっている。
執筆者紹介
ジェトロ・青島事務所
董 玥涵(トウ ゲツカン)
大連外国語学院日本語学部卒業後、日本の東北大学環境科学研究科で環境技術政策マネジメントを専攻。2016年、ジェトロ・青島事務所入所。ヘルスケア事業、総務、調査を担当。