ラーメンや海苔だけではない「Kフード戦略」の現在地(韓国)

2022年6月20日

韓国食材の海外輸出が活況を呈している。2021年の農水産食品の輸出額は、前年比15.1%増、113億6,000万ドルを記録した(図参照、注1)。1971年の統計開始以来、初めて100億ドルを超えたかたちだ。新型コロナウイルスの影響による厳しい輸出環境の中、健康食品やホーム・ミール・リプレースメント(HMR、注2)の人気に支えられ、生鮮農産品と加工食品のいずれも増加した。

コロナ禍を逆手に取り、韓流ブームも活用

農林畜産食品部の関係者(以下「関係者」)は「1990年代に輸出が本格化した。以降、2008年の韓国料理(韓食)の世界化推進によって韓国の料理・食文化が広がった」と分析。K-フード(Korea Food)躍進の要因を示した。さらに「2017年からは、『新南方』『新北方』(表1の注1、2参照)など、新市場の開拓に集中。そうした輸出振興政策を続けた影響で、現在は200以上の国・地域に輸出されるようになり、着実に成長を続けている」と語る。

K-フードを牽引する国内食品産業の育成も進んでいる。政府は食品産業のグローバル競争力を高めるため、研究開発事業の予算を2021年の172億ウォンから2022年は338億ウォン(約35億4,900万円、1ウォン=0.105円)に増額した。これにより、食品産業の脱炭素化や、食品製造の基盤技術の確保など、課題を集中的に支援していく。この中で特に、K-フードの中核になる素材の生産技術など、未来の有望分野について成長を支援するという課題に、今後5年間で130億ウォンを投じるという。

新型コロナ禍も逆手に取ったようだ。関係者は「新型コロナで海外の国際食品展示会が開催中止になった影響で、輸出業者がバイヤーと直接対面する機会が大幅に減った。しかし、2020年から農林畜産食品部が積極的に『オンライン・非対面型商談会』を進め、輸出業者の海外進出を支援している」と語る。韓国政府は四半期ごとに、健康・生鮮農産品などテーマ型輸出商談会を開催。バイヤーにサンプルを送るプログラムを運営し、品目や市場に特化して専門バイヤーの輸出商談会の参加を促すというのがその狙いだ。その結果、これまでに1,900万ドル規模の輸出実績をあげた。

K-ポップを中心に、韓流ブームを追い風として利用した。そうして輸出先の多様化を進めたことも、農水産物・食品輸出増の主因に挙げられる。関係者は「2000年代には日本、中国、米国などの輸出先上位3カ国の輸出全体に占める割合は6~7割を占めた。しかし、最近では新規輸出先(東南アジア、欧州、中南米地域など)の割合が高まった。一方で日本など上位3カ国への輸出の割合は、5割台に低下した」と説明する(表1参照)。

図:韓国の農水産食品の輸出額の推移(単位:億ドル)
2017年91.5億ドル、2018年93.0億ドル、2019年95.3億ドル、2020年98.7億ドル、2021年113.6億ドル

出所:農林畜産食品部

表1:主要市場別の農水産品輸出額(単位:100万ドル、%)
区分 2020年 2021年 増減率
日本 1,995.1 2,064.4 3.5
中国 1,580.5 2,068.6 30.9
米国 1,519.8 1,655.6 8.9
新南方(注1) 1,970.5 2,314.1 17.4
新北方(注2) 288.9 381.1 31.9

注1:ASEAN10カ国およびインド。
注2:CIS加盟国およびモンゴル、ジョージアなど13カ国。
出所:農林畜産食品部

高い成長率を記録した農産品・加工食品としては、健康食品とHMR食品(注2)が挙げられる。前者の例としては、キムチ、オタネニンジン類(注3)がある。後者は、ラーメン、ソース類、コメ加工食品などだ。K‐コンテンツなど韓流人気と、新型コロナ禍を背景とする需要増加に支えられた結果でもある。

さらに、政府が開発を促進したイチゴやブドウも増加が目立った(表2参照)。ちなみに、この2品目は、高品質品種を育成するのに加え、貯蔵・物流・マーケティングなど輸出の各段階で競争力を高める試みが追求されてきた。その結果、輸出目標額の1億300万ドルを達成。韓国産生鮮農産物のイメージを変える人気産品に成長した。このうちイチゴは、政府が支援する専用航空機を通じて主に香港、シンガポールに輸出されている。現地では、高級ホテルやデザート店などプレミアム市場で販売されるという。ブドウは、輸出品を対象に、徹底的に品質管理された(糖度や大きさなど)。そうした取り組みが評判を生み、高値販売されるまでになった。

表2:主要品目別輸出額(単位:100万ドル、%)
区分 2020年 2021年 増減率
農林畜産食品 7,564.3 8,537.3 15.1
階層レベル2の項目イチゴ 53.7 64.5 12.9
階層レベル2の項目ブドウ 31.2 38.7 20.0
階層レベル2の項目ラーメン 603.6 674.6 24.1
階層レベル2の項目オタネニンジン類 229.8 267.2 11.8
階層レベル2の項目キムチ 144.5 159.9 16.3
階層レベル2の項目醤類 99.9 106.7 10.7
水産食品 2,304.4 2,820.0 6.9
階層レベル2の項目ノリ 600.4 692.8 22.4
階層レベル2の項目マグロ 528.0 579.2 15.4
階層レベル2の項目タラ 56.5 96.7 9.7
階層レベル2の項目カキ 71.5 80.1 71.2
農林水産食品計 9,868.8 11,357.3 12.0

出所:農林畜産食品部

水産食品も複数品目で、前年に比べ輸出が伸びた。主力品目のノリ、マグロのほかに、オムク(韓国式おでん)、カキ、ヒラメなどがその一例だ。韓流ブームによる認知度上昇に支えられたのは、水産品でも同様。米国、日本、中国はもちろん、これまで韓国産ノリが輸出されていなかったポルトガル、キプロス、ブータンなどへ輸出先が拡大した。その結果、2021年は、114カ国に約7億ドルの輸出に成功した。前年比15.4%増と、伸び幅も大きい。ちなみに、海洋水産部の関係者は「ノリの輸出額が伸びたのは、輸出企業の積極的な努力による」と述べた。より具体的には、「オーガニック農法のノリ天(ノリの天ぷら)や菜食主義者向けのキンパ(韓国のり巻き)用のりなど、高付加価値製品が開発された。オーガニックや食品安全規格など、国際認証を取得する取り組みも見られた」と分析している。

マグロは、日本やフランス、イタリアなどで、刺し身用やステーキ用の需要が伸びたという。また、缶詰の輸出が着実に増加した結果、前年比9.7%増の5億7,900万ドルと、輸出額上位2位となった。カキは新型コロナの影響で主要な輸出相手国の日本向け輸出は減ったものの、米国からの需要が伸び、前年と比べ12.0%増加した。

優先戦略国に市場開拓員、青年海外開拓団員も輸出を促進

韓国の食品輸出戦略は、主に農林畜産食品部と海洋水産部が司令塔になる。それに基づく実施機関が農林水産食品流通公社(aT)だ。生産から海外販売に至るネットワークの維持形成、輸出先の制度情報提供、輸出資金など、一貫して支援する。農林畜産食品部の「2021年農産品の輸出拡大戦略」(注4)に見る輸出戦略の概要は、次のとおり。

  • オンライン・非対面の販路開拓と広報の強化
    O2O(注5)、SNS、食品配達、サブスクリプション型プラットフォームなど、新しい流通チャネルを拡大する。販路開拓の際は、輸出企業とバイヤーのコミュニケーションを常時可能とするB2Bプラットフォーム で、非対面型の輸出商談会を支援する。
  • 市場多角化を通じた農産品の輸出機会拡大
    地域別の販売戦略を構築する。例えば、成長が著しい東南アジアなどの「新南方」市場では、果物、HMR、乳幼児食品などの広報を強化し、韓流スターをイベントやマーケティングに積極的に活用する。
  • 生鮮品の競争力強化と有望品目の育成
    人気生鮮品のイチゴやブドウは、低温流通システムの構築や鮮度保持技術の適用を拡大し、競争力を強化する。
    伝統食品のキムチやオタネニンジン(注3)は、その機能性について広報強化する。
  • 貿易環境の情報提供・発信
    海外市場の食品衛生、食品表示、通関・検疫など、非関税障壁のモニタリングを強化する。また、国内輸出事業者に対し積極的に情報提供する。

農林畜産食品部は2017年から、農水産物・食品の輸出市場を開拓する事業を進めることを期し、政策展開している。輸出相手国を新興市場などに広げ、安定的かつ持続的な輸出の成長につなげるのが、その狙いだ。毎年、7つの「最優先戦略国」と13の「次順位戦略国」という20の重点国を選定するのは、その一環だ。2022年の「最優先戦略国」はカンボジア、モンゴル、カザフスタン、ドイツ、メキシコ、オーストラリア、カナダ、「次順位戦略国」はフィリピン、インド、ラオス、ウズベキスタン、英国、オランダ、スペイン、チリ、グアテマラ、サウジアラビア、カタール、南アフリカ共和国などだ。これらの国には、市場開拓員を派遣。マーケティングなど、輸出を希望する企業の市場開拓活動を支援している(表3参照)

市場開拓員は現地バイヤーを発掘し、発掘されたバイヤーと輸出企業をマッチングさせて有望輸出品目を選び出す。さらに、現地の大手流通業者や専門家、関連機関とのネットワークを構築。市場状況と流通・物流の実態、消費状況など輸出に必要なデータを収集・共有する。

こうした地道な努力が実を結び、2021年の「最優先戦略国」向け輸出額は、7億8,300万ドルを記録した。前年は6億7,700万ドルだったので、実に15.7%増の伸びだ。関係者は「国ごとに有望輸出品目の発掘を進めた。例えばフィリピンではトッポギ、カンボジアで醤(しょう)類、オーストラリアでキノコなど、輸出が拡大した」と述べる。あわせて、「新型コロナの長期化への対応策としてオンラインマーケティングを進め、顧客ニーズに合わせて支援した結果、カザフスタン、カンボジア、ロシアのオンラインモールにはK-フード専用販売店も入店するようになった」と強調した。

現地での市場開拓の過程では、有能な若者の力も活用している。農林畜産食品部は毎年、農林水産物・食品青年海外開拓団(Agri-food Frontier Leader Organization、AFLO)事業を通じ、若年層111人を最優先戦略国に派遣している。派遣された若者は現地で、「オンラインセールスロードショー」(注6)を実施するため、企業とaT現地事務所との間に入って調整し、輸出企業をサポートする役割を担っている。

表3:主な農産品マーケティング事業
項目 事業内容
パイロット要員の派遣 最優先戦略国に対しパイロット要員を派遣。現地の市場調査、有望品目の発掘、販売促進イベントの推進などを通じて、新規市場を開拓。
フロンティア・インキュベーティング 農水産物・食品の輸出市場の多様化をリードする「フロンティア・インキュベーティング」事業者を50社超を選定。市場の多様化に向けて支援する。
セールスロードショー 有望な輸出企業で構成する市場開拓団の派遣を通じ、統合マーケティング。バイヤーの発掘、商談会などB2Bイベント、消費者体験など、B2Cイベントを連携させる。
海外青年開拓団(AFLO) 最優先戦略国をターゲットに、市場開拓の熱意と能力のある若者を選抜。輸出事業者と1対1のマッチングを進め、海外での市場開拓活動を担う。
有望品目の育成 重点対象国への輸出が期待され、農業所得の向上につながる品目を選定。人気品目化に向け、育成を支援。
市場多様化マーケティング 重点対象国を中心とする韓国の農水産物・食品市場多様化のため、大規模にオンライン・オフライン広報。この活動を通じ、新規市場開拓事業を推進。

出所:報道資料

品種改良したブドウが輸出商品に成長

韓国で栽培された「シャインマスカット」が中国やベトナムでブームになっている。その結果、韓国の農水産食品輸出の主力品種として脚光を浴びているという。2021年のブドウの輸出額は、前年比24.1%増の3,870万ドルと過去最高を記録した。その中でも、シャインマスカットは海外の高級ホテルや大型百貨店など高級品売り場を中心に需要が高まった。例えば、中国の高級品売り場では、1房あたり12万ウォンで販売されているとされる。

他方で韓国栽培のシャインマスカットには、リスクも内在する。単一品種のため、出荷時期が特定されることによって価格下落したり、自然災害などにより出荷不能になったりしかねないのだ。このため、慶尚北道農業技術院は2014年から、シャインマスカットを代替する品種の育成に乗り出している。これまで、ゴールドスイート、ルビースイート、ココシードレス、レッドクラレット、キャンディクラレット、ハッピーグリーンの6種のブドウを開発した。

このうち、ゴールドスイートとルビースイートは2019年に品種保護を出願した。いずれの品種も、ベニバラッドとシャインマスカットの交配を通じて開発された。ゴールドスイートは、シャインマスカットと同様に皮ごと食べられるマスカットだ。糖度が24ブリックスと、シャインマスカットより高い。収穫期は9月中旬でシャインマスカットより2週間ほど早いのが特徴だ。赤ブドウのルビースイートも糖度が21ブリックスに及ぶ。この品目は収穫期が8月下旬で、栽培も容易だ。慶尚北道農業技術院では、ルビースイートの試験輸出も計画中。2023年からは国内販売が開始されるという。

FTA交渉を通じた農産品の関税引き下げも後押し

韓国政府は、自由貿易協定(FTA)交渉を通じた農産品の関税引き下げにも積極的だ。韓国でこれまでに締結・発効に至ったFTAは数多い。最近の例としては、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定がある。当協定上、既存のFTAを上回る関税引き下げを獲得した(表4参照)。ちなみに韓国についてRCEPが発効したのは、2022年2月からだ。このような取り組みもコスト削減に寄与すると考えられる。

表4:RCEP協定による代表的な農産品・水産品の関税引き下げ
相手国 品目 既存の
関税率
(%)
RCEP
特恵関税
(%)
ステージング
ASEAN
(共通)
穀物加工品 8 0 即時撤廃
海苔 20 0 10年目撤廃
植物油脂 5 0 10年目撤廃
マグロ 10 0 15年目撤廃
ヒラメ 20 0 15年目撤廃
ビール 30 0 15年目撤廃
オーストラリア その他肉類 27 0 20年目撤廃
その他魚類 25 0 20年目撤廃
ウナギ 27 0 20年目撤廃
ニュージーランド その他肉類 27 0 20年目撤廃
日本 インスタントティー 10 0 即時撤廃
ミネラルウォーター 3 0 即時撤廃
焼酎 16 0 20年目撤廃
マッコリ 42.40円/L 0 20年目撤廃

注:ASEANは韓国‐ASEAN FTAと比較した追加関税引き下げ、オーストラリアは韓国‐オーストラリアFTAと比較した追加関税引き下げ、ニュージーランドは韓国‐ニュージーランドFTAと比較した追加関税引き下げ、日本はMFN関税と比較した追加関税引き下げ。なお中国については、韓国‐中国FTAと比較して、とくに追加関税引き下げが認められない。
出所:産業通商資源部

これまで見てきたように、韓国の農産品輸出戦略上、目下、生鮮食品の輸出に力点を置かれるようになってきた。従来の輸出戦略では、加工食品が中心だったのと対照的だ。また、韓流コンテンツという独特の強みを組み合わせてマーケティングする手法も取られている。こうした促進活動により、今後も一層輸出が伸びていく可能性が考えられる。


注1:
内訳は、農林畜産食品が85億4,000万ドル(12.9%増)、水産食品が28億2,000万ドル(22.4%増)。
注2:
HMRは、「home meal replacement」の頭字語。すぐに食べられる総菜など調理済み食品や持ち帰り食品に注力するマーケティング概念。
注3:
オタネニンジンとは、朝鮮ニンジンのこと。高麗ニンジンとも言う。
注4:
2022年の「農産品輸出拡大戦略」については、6月1日時点で発表されていない。
注5:
オンライン・トゥ・オフライン(Online to Offline)の略。インターネットなどから実店舗へ顧客を誘導するマーケティング手法。
注6:
オンラインセールスロードショーは、従来実施の「K-フードフェア」を代替する事業と位置付けられる。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所 副所長
当間 正明(とうま まさあき)
2020年5月、経済産業省からジェトロに出向。同年6月からジェトロ・ソウル事務所勤務。