2021年の投資は対内・対外とも大幅増(オーストリア)

2022年9月8日

2021年のオーストリアの直接投資は、対内、対外ともに大幅に増加した。対内直接投資では米国企業によるeモビリティー分野の買収があり、対外では半導体、紙パルプ大手が国外の生産基盤を広げた。

対内直接投資はEU諸国を中心に流入へ転換

オーストリア国立銀行によると、2021年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年の131億7,100万ユーロの引き揚げ超過から、49億2,300万ユーロの流入に転じた(表1参照)。対外直接投資額も、前年の21億100万ユーロの引き揚げ超過から、91億1,600万ユーロに拡大した。

表1:オーストリアの国・地域別対内・対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国・地域名 対内直接投資 対外直接投資
2020年 2021年 2020年 2021年
EU △ 2,917 3,422 △ 832 10,715
階層レベル2の項目ユーロ圏 △ 3,033 2,960 △ 780 1,974
階層レベル3の項目ドイツ △ 3,508 1,282 1,151 645
階層レベル3の項目ルクセンブルク 56 741 △ 1,095 282
階層レベル3の項目オランダ 1,032 634 △ 782 △ 304
階層レベル3の項目フランス △ 156 288 △ 126 △ 612
階層レベル3の項目イタリア △ 200 92 325 608
階層レベル3の項目アイルランド △ 369 △ 48 50 723
階層レベル2の項目非ユーロ圏 203 561 △ 54 8,740
階層レベル3の項目チェコ 113 458 △ 356 331
階層レベル3の項目ポーランド 8 13 574 8,293
米国 △ 1,424 1,955 351 1,175
ロシア △ 1,704 1,486 △ 1,215 △ 611
英国 △ 1,620 362 217 520
アフリカ 59 202 70 101
トルコ 30 78 50 64
中国 121 55 △ 1,715 △ 30
インド 5 3 103 61
日本 69 △ 67 24 148
スイス △ 661 △ 460 956 △ 594
アラブ首長国連邦 △ 4,144 △ 760 △ 550 △ 1,419
ブラジル △ 106 △ 1,125 543 △ 440
合計(その他含む) △ 13,171 4,923 △ 2,101 9,116

注:2021年は暫定値、2020年は改正値。
出所:オーストリア国立銀行

2020年の対内直接投資を国・地域別でみると、EUが34億2,200万ユーロ、うちユーロ圏は29億6,000万ユーロだった。最大の投資国ドイツは12億8,200万ユーロの流入に回復した。EU域外では、米国が19億5,500万ユーロ、ロシアも14億8,600万ユーロの流入に転じた。米国からは、電気自動車(EV)充電設備の運営を行うチャージポイントによるeモビリティーソフト開発企業のハス・トゥ・ビーの買収、農業機械大手ジョン・ディアによるeモビリティー用バッテリー開発会社クライセル・エレクトリックの株式の過半数の買収など、eモビリティー分野の買収が散見された(表2参照)。

表2:オーストリアの主な対内直接投資案件(2021年~2022年3月)

M&A以外
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
医薬品 ベーリンガーインゲルハイム ドイツ 2021年4月 12億ユーロ 医薬品大手のベーリンガーインゲルハイムは、ニーターエースタライヒ州東部のブルック市での、バイオ医薬品の製造プラントを建設予定と発表。2026年の完成、800人の雇用創出を予定。
医薬品 武田薬品工業 日本 2021年12月 1億3,000万ユーロ 武田薬品工業が、ウィーン東部アスペルンでバイオ医薬品の研究開発拠点を建設予定だと発表された。2025年から約250人の研究員が雇われる予定。
グリーン水素 ADXエネルギー オーストラリア 2021年10月 非公表 ADXエネルギーは、オーストリアで風力発電91基を運営しているWKSと、ウィーン盆地におけるグリーン水素製造と地下貯蔵施設の共同開発について合意したことを発表。
IT NTTデータ 日本 2021年11月 非公表 NTTデータは、需要増に対応するため、オーストリアのデータセンターを2022年夏までに拡張する予定だと発表。
金属 ノルスク・ヒドロ ノルウェー 2021年7月 4,500万ユーロ 金属大手のノルスク・ヒドロは、フォーアールベルク州ネンツィン市のアルミウム工場に4番目の押出し成型ラインを追加し生産能力を30%拡大することを発表。2022年に着工、2023年春に稼働予定。
M&A
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
IT ゴー・スジューデント 投資家グループ 多国籍 2022年1月 3億ユーロ オンライン個別指導のプラットフォーム「ゴー・スジューデント」は、オランダの技術投資会社プロサスをはじめとする投資家グループから、3億ユーロを資金調達したと発表。
eモビリティー ハス・トゥ・ビー チャージポイント 米国 2021年10月 2億5,000万ユーロ EV充電設備の運営を行うチャージポイントは、eモビリティーソフト開発企業のハス・トゥ・ビーの買収を完了したと発表した。ヨーロッパでのe モビリティー事業の強化を図る。
IT アドベリティー ソフトバンク・ビション・ファンド2 多国籍 2021年8月 1億2,000万米ドル マーケティング・データー分析ソフト開発会社のアドベリティーは、ソフトバンク・ビション・ファンド2から、1億2,000万米ドルを資金調達すると発表。
eモビリティー クライセル・エレクトリック ジョン・ディア 米国 2022年2月 非公表 農業機械大手ジョン・ディアは、最先端eモビリティー用バッテリー開発会社クライセル・エレクトリックの株式の過半数の買収を完了したと発表した。クライセル・エレクトリックの高エネルギーバッテリーを用いて、製品の電動化を進める。
医薬品 オリグリム サノフィ フランス 2021年12月 非公表 医薬品大手サノフィは、オーストリアのバイオテクノロジー会社オリグリムの買収に合意したと発表。オリグリムは皮膚病の薬の開発を行っており、今回の買収によりサノフィは世界初となるざ瘡(にきび)のワクチン治療法の開発を進める予定。

出所:各社発表および報道などから作成

オーストリア経済振興会社(ABA)は、2021年に前年比11社増となる364社の外国企業を誘致した。投資総額は前年の倍以上の12億4,000万ユーロ、雇用創出数は3,403人(1,238人増)と、いずれも前年を大幅に上回った。誘致案件を国別でみると、ドイツ(113社)、イタリア(35社)とスイス(30社)、業種別ではIT・ソフトウエア・テレコム(72社)、企業向けサービス(57社)と卸売業(38社)が多かった。

対外直接投資額は、EU向けが突出

2021年の対外直接投資を国・地域別でみると、EUが 107億1,500万ユーロと大幅に拡大し突出した。国別ではポーランドが82億9,300万ユーロで最大だった。同年には、包装技術大手のマイヤーメルンホーフが8月にクイチン市で工場買収を完了したと発表したほか(表3参照)、フィンテックのビットパンダが9月にクラクフ市で技術イノベーション・センターを建設予定と発表した。

表3:オーストリアの主な対外直接投資案件(2021年~2022年4月)

M&A以外
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
半導体 AT&S マレーシア 2021年6月 17億ユーロ AT&Sは東南アジア初の製造拠点をマレーシアに建設すると発表。2021年後半に建設開始、2024年には工場が稼働予定。5,000人の雇用を創出する見通し。
半導体 AT&S 韓国 2021年12月 非公表 AT&Sは、医療分野向けハイテクプリント基板を製造する韓国の安山工場を8,000平方メートル拡張し、包括的な技術アップグレードを行ったと発表。
M&A
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
マイヤーメルンホーフ 紙パルプ インターナショナル・ペーパー・ホールディング 米国 2021年8月 約6億7,000万ユーロ 紙パルプ大手マイヤーメルンホーフは、ポーランドのクイチン市で段ボールやコピー用紙を製造するインターナショナル・ペーパーの工場の買収を完了したと発表。競争力の強化や提供するサービスの幅の拡大を図る。
マイヤーメルンホーフ 紙パルプ コトカミルス フィンランド 2021年8月 約4億2,500万ユーロ マイヤーメルンホーフは段ボールメーカーコトカミルスの買収を完了したと発表。段ボール市場での競争力の強化を図る。
XXXルッツ 家具 リポ スイス 2022年1月 非公表 家具大手のXXXルッツは、スイスで23店舗を運営する大手家具ディスカウントチェーンのリポを買収する予定だと発表した。ブランド名「リポ」は買収後も使われる予定。
コンスタンティア・フレックシブルズ 包装 プロパック トルコ 2021年6月 非公表 包装大手のコンスタンティア・フレックシブルズは、トルコの同業プロパックの買収を完了したと発表。ヨーロッパの菓子用包装市場における地位の強化を図る。

出所:各社発表および報道などから作成

対日直接投資が拡大

日本との間では、2021年に対内直接投資はマイナス6,700万ユーロとなったが、対外直接投資は1億4,800万ユーロに拡大した。

日本からは2021年に3件の大型投資が発表された。8月にソフトバンク・ビション・ファンド2はイケア、レッドブル、ユニリーバなどの大手顧客を抱えるマーケティング・アナリティクスのアドベリティーに1億2,000万ドルを投資すると発表された。オーストリア経済振興会社(ABA)は11月、NTTデータが需要の高まりを受けてウィーンのデータセンターを2022年夏までに拡張する予定だと発表した。ABAはさらに12月、武田薬品工業がウィーン北東部のアスペルンで、2025年までに1億3,000万ユーロを投じて研究開発施設を建設する予定だと発表。

日本への投資案件としては、AR(拡張現実)ソフト開発業者リアクティーブ・リアリティーが2021年6月、東京に事務所を開設した。

執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。