甲殻類の培養で水産業の課題解決を
シンガポール、代替タンパク質の一大拠点へ(後編)

2022年2月18日

シンガポールを拠点とする「シオック・ミーツ」は、東南アジアで初めてエビやカニなど甲殻類の培養肉の開発に取り組むスタートアップだ。アジア太平洋地域の水産業が直面する環境問題の解決に、細胞培養の水産物がどう貢献できるのか。シオック・ミーツの創業者サンディヤ・シラム最高経営責任者(CEO)に書面インタビューを実施した(2021年11月4日)。

代替タンパク質を取り巻くシンガポールの最新状況を伝えるレポートの後編。


サンディヤ・シラムCEO(シオック・ミーツ提供)
質問:
アジア太平洋地域の水産業が現在直面している課題は何か。
答え:
エビ産業が直面する極めて大きな問題に、過剰な混獲(注1)がある。また、毎年800万トンものプラスチックが海洋投棄され、水産食品の中にマイクロプラスチック(注2)が混入していることも複数の研究で示されている。プラスチック以外にも、水産物の寄生虫がこの40年間で283倍に増えたとの調査結果もある。
さらに、養殖を除いた甲殻類の漁業のデータをみると、漁獲量1キロ当たり187.9キロの二酸化炭素(CO2)を排出している。甲殻類の養殖は養豚や養鶏以上にCO2排出量が多い。また、エビの養殖場にするために、世界最大のCO2吸収源の1つであるマングローブ林が1980年から約150万ヘクタールも失われてしまっている。
質問:
甲殻類の培養肉は水産業の課題をどう解決するか。
答え:
われわれが特許申請している細胞から水産物や肉を培養する技術は、動物や環境に優しい。その上、健康的だ。これまでの水産物と比べると、培養プロセスの方が少なくとも6倍早く、味も食感もこれまでの水産物と変わらない。われわれは甲殻類が海で育つのに必要な栄養プロファイルと同じ培養液を細胞に与えている。この培養液には、食べても安全なアミノ酸や炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン類が含まれている。この細胞培養の水産物を低価格で大量生産できるようなシステムを現在も開発中だ。
われわれの生産プロセスは、土地の利用が少なく、水の使用量も抑えることができる。それだけでなく、温室効果ガスも減らすことができる。
質問:
2050年までに培養肉が100億人もの人口の主要食物となり得るか。
答え:
今後、急激な人口増が予想されている中、肉や水産物の代替はこれまでの地球の資源に対する圧力を大きく減少させることができるだろう。また、消費者が受け入れやすいように従来の素材のような味と食感を実現した。2050年までに世界のタンパク質の需要に大きく貢献できると信じている。
質問:
甲殻類の培養肉の商業化に向け、最大の課題は何か。
答え:
2023年に商業生産を始めることを目標としている。その後、われわれの技術力に応じて本格的に商業生産を拡大していく計画だ。
課題としては、各マーケットでの継続的な規制の整備、価格、一般消費者からの支持、他企業との前向きな提携、優秀な人材の獲得が挙げられる。こうした課題は克服されつつある。
質問:
現段階の課題の1つはコストと承知する。その引き下げと生産拡大への対応は。
答え:
高コストの主要因は、細胞の培養に必要な培養液だ。培養液の大半は製薬会社のためにつくられているからだ。シオック・ミーツは現在、数多くの食品の成分や植物由来の材料を使った拡大可能な生産方法を開発中だ。生産拡大が進めば、規模の経済により適正な価格にまで下がる。
質問:
日本の東洋製罐やインテグリカルチャーと協業していると聞いた。日系企業とのさらなる提携を望むか。
答え:
両社のような日系企業と協業していることは非常に幸運だ。われわれとしては、日本のイノベーションの可能性を信じており、市場も培養肉に強い関心を示している。研究協力と投資で可能な限りパートナーシップを歓迎する。われわれの投資家であるリアルテックファンドにも感謝している。

注1:
漁業で、目的としない魚や海獣類などが一緒に漁獲されることをいう。
注2:
5ミリメートル以下の微細なプラスチックごみの総称。海洋生物の生態系の破壊や人体の健康を害するなどの恐れがある。

シンガポール、代替タンパク質の一大拠点へ

  1. (前編)植物性代替肉や培養肉企業の集積加速
  2. (後編)甲殻類の培養で水産業の課題解決を
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。