2021年の新車登録台数は前年比減も、EVは増加(オーストリア)
新型コロナの影響弱まる、ウクライナ情勢による生産圧迫が今後の懸念

2022年6月9日

オーストリアの2021年の乗用車の新車登録台数は前年比3.6%減となった。ガソリン車、ディーゼル車が大幅に減少した一方、代替燃料車が同79.9%増、そのうち電気自動車(EV)は倍以上になった。フォルクスワーゲン(VW)は依然としてマーケットシェアで1位を維持している。日本車の販売台数は前年比1.3%減で低迷した。

オーストリア統計局は1月15日、2021年の乗用車と産業用車両の新車登録統計を発表した。乗用車の新車登録台数は23万9,803台で、前年比3.6 %減となったが(表1参照)、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年に比べて27.2%減少した。ただし、原因は新型コロナ禍だけではなく、半導体不足など原材料の供給難も影響した。二輪車も前年比2.9%減となったが、産業用車両はトラック(同56.2%増)をはじめ、大幅に増加した。原因は、2022年からの増税前の駆け込み購入ラッシュだった。

表1:主な車種別新車登録台数とシェア(2021年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
種別 台数 シェア 前年比
乗用車 239,803 64.6 △ 3.6
二輪車 46,099 12.1 △ 2.9
トラック 62,561 16.9 56.2
トラクター 8,529 2.3 32.3
トラクター(トレーラー用) 2,925 0.8 34.2
バス 887 0.2 1.7
合計(その他を含む) 371,252 100 5.1

出所:オーストリア統計局

乗用車の新車登録台数をエンジン種類別でみると、ガソリン車は9万1,478台で前年比15.1%減、シェアは5.2ポイント減の38.1%となった。長年1位だったディーセル車は同35.9%減の5万8,263台、シェアは12.2ポイント減の24.3%に下がった(表2参照)。一方、代替燃料自動車は前年比79.9%増の9万62台で、シェアも37.5%に拡大した。このうち、ハイブリッド車は同68.1%増の5万6,596台と、シェアもディーセル車に近い23.6%となった。EVは約2倍の3万3,366台となった(シェア13.9%)。政府はEV購入支援金(個人5,000ユーロ、法人4,000ユーロまで)を提供しているが、購入者の83.5%は法人(企業、地方自治体、役所など)が占め、個人は16.5%にすぎない。自動車販売業連盟によると、個人のEVに対する疑念の主な原因は、充電装置の不足と電力価格体制の不透明さにある。

表2:エンジン種別新車(乗用車のみ)登録台数とシェア(2021年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
種別 台数 シェア 前年比
ガソリン 91,478 38.1 △ 15.1
ディーゼル 58,263 24.3 △ 35.9
代替燃料車 90,062 37.5 79.9
階層レベル2の項目ハイブリッド 56,596 23.6 68.1
階層レベル2の項目電気 33,366 13.9 108.9
階層レベル2の項目天然ガス・ガソリン併用 16 0 △ 23.8
階層レベル2の項目天然ガス 70 0 △ 81.3
階層レベル2の項目燃料電池 14 0 0.0
合計 239,803 100 △ 3.6

出所:オーストリア統計局

乗用車の新車登録台数をメーカー、ブランド別でみると、フォルクスワーゲン(VW)グループ(注)は前年比1.8 %減の8万8,712台、シェアは前年比0.7ポイント増の37%になった。そのうち、VW、シュコダ、セアトはそれぞれ前年比で6.0%、7.6%、4.8%減となった一方、アウディは13.1%増と伸びた。セアトのスポーツカーブランドであるクープラは前年比13.4倍の1,983台になった。上位10位のメーカー・ブランドのうち、アウディ、フィアット以外の新車登録台数はすべて減少した(表3参照)。

表3:メーカー・ブランド別新車登録台数とシェア上位20位(2021年) (単位:台、%、ポイント)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 前年比
(台数)
シェア 前年比
(シェア)
1 VW 35,966 △ 6.0 15.0 △ 0.4
2 シュコダ 21,808 △ 7.6 9.1 △ 0.4
3 BMW 15,630 △ 1.2 6.5 0.2
4 セアト 15,138 △ 4.8 6.3 △ 0.1
5 メルセデス 12,563 △ 3.4 5.2 0.0
6 アウディ 12,424 13.1 5.2 0.8
7 フォード 12,109 △ 13.6 5.0 △ 0.6
8 現代 11,936 △ 8.6 5.0 △ 0.3
9 ルノー 11,239 △ 16.8 4.7 △ 0.7
10 フィアット 9,831 10.2 4.1 0.5
11 オペル 8,398 △ 12.8 3.5 △ 0.4
12 起亜 8,266 19.2 3.4 0.7
13 プジョー 7,667 △ 14.5 3.2 △ 0.4
14 マツダ 7,176 4.4 3.0 0.2
15 ダチア 6,654 △ 2.8 2.8 0.0
16 トヨタ 6,294 9.9 2.6 0.3
17 スズキ 5,671 6.5 2.4 0.2
18 シトロエン 5,038 △ 15.2 2.1 △ 0.3
19 テスラ 4,700 45.6 2.0 0.7
20 ボルボ 3,061 △ 8.9 1.3 △ 0.1
その他 18,234 △ 3.2 7.6 0.0
合計 239,803 △ 3.6 100.0 0.0

出所:オーストリア統計局

また、日本メーカー・ブランドの新車登録台数は合計で前年比3.0%減の2万5,198台となり、シェアも1.3ポイント減の10.5%に低下した(表4参照)。マツダ、トヨタ、スズキはそれぞれ4.4%増、9.9%増、6.5%増と好調だったが、それ以外はおおむね大幅に減少した。

表4:日本のメーカー・ブランド別新車登録台数とシェア(2021年)(単位:台、%、ポイント)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 前年比
(台数)
シェア 前年比
(シェア)
14 マツダ 7,176 4.4 3.0 0.2
16 トヨタ 6,294 9.9 2.6 0.3
17 スズキ 5,671 6.5 2.4 0.3
22 日産 2,412 △ 15.8 1.0 △ 0.2
23 三菱 2,029 △ 34.6 0.8 △ 0.4
28 ホンダ 1,033 △ 27.6 0.4 △ 0.2
32 スバル 418 △ 3.9 0.2 △ 0.0
34 レクサス 165 △ 25.0 0.1 △ 0.0
合計 25,198 △ 3.0 10.5 △ 1.3

注:順位、シェアは全メーカー・ブランド別に基づく。
出所:オーストリア統計局

メーカー別EVではVWが健闘

EVの新車登録台数をメーカー、ブランド別でみると、VWグループの健闘が目立った。2019年のシェアはテスラが29.5%と、他社に大差をつけて1位、VWグループは12.6%にすぎなかったが、2021年はVWグループが31.7%で1位、テスラは14.1%で2位となった。韓国メーカー(現代、起亜)のシェアは2019年の28.6%から2021年は9.4%に低下した(表5参照)。EVのモデル別では、テスラの「モデル3」が3年連続で1位、次いで、VWの「ID.3」と「ID.4」 、シュコダの「エニャク」とVWグループの3つのモデルが続いた(表6参照)。日本メーカーのEVモデルは新車登録台数上位40位のうち、32位の日産「リーフ」と36位のマツダ「MX-30」のみだった。

表5:電気自動車のメーカー・ブランド別新車登録台数とシェア(2021年)(単位:台、%、ポイント)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 前年比
(台数)
シェア 前年比
(シェア)
1 VW 5,881 140.4 17.6 2.3
2 テスラ 4,700 45.6 14.1 △ 6.1
3 ルノー 2,421 14.7 7.3 △ 6.0
4 シュコダ 2,329 958.6 7.0 5.6
5 アウディ 2,124 171.6 6.4 1.5
6 BMW 1,967 189.7 5.9 1.6
7 現代 1,763 49.3 5.3 △ 2.1
8 フィアット 1,455 665.8 4.4 3.2
9 起亜 1,364 2.1 4.1 △ 4.3
10 プジョー 1,317 137.7 3.9 0.5
その他 8,045 147.9 24.1 3.8
合計 33,366 108.9 100.0 0.0

出所:オーストリア統計局

表6:電気自動車のモデル別新車登録台数とシェア(2021年)(単位:台、%、ポイント)(△はマイナス値)
順位 モデル 台数 シェア 前年比
(台数)
1 テスラ「モデル3」 3,534 10.6 22.2
2 VW「ID.3」 2,901 8.7 73.8
3 VW「ID.4」 2,487 7.5
4 シュコダ「エニャク」 2,319 7.0
5 ルノー「ゾーイ」 2,002 6.0 △ 3.3
6 フィアット500 1,455 4.4 665.8
7 アウディ「eトロン」 1,234 3.7 57.8
8 現代「イオニック」 1,147 3.4 258.4
8 テスラ「モデルY」 1,147 3.4
10 起亜「ニロ」 972 2.9 △ 13.6
11 セアト「MII」 956 2.9 74.5
12 BMW「i3」 939 2.8 38.3
13 フォード/ムスタング「マッハE」 912 2.7
14 BMW「X3」 874 2.6
15 ミニ「クーパー」 753 2.3 178.9
16 アウディ「Q4」 692 2.1
17 現代「コナ」 616 1.8 △ 28.5
18 メルセデス「バス」 587 1.8 220.8
19 プジョー208 569 1.7 60.3
20 プジョー2008 537 1.6 169.8
その他 6,733 20.2
合計 33,366 100.0 108.9

注1:「-」は前年データなし。
注2:登録台数の順位。
出所:オーストリア統計局

前年より増加も部品調達の困難で自動車生産が一時停止

国際自動車工業連合会(OICA)によると、オーストリアの2021年の自動車生産台数は前年比9%増の13万6,700台だったが、新型コロナ禍前の2019年と比べると、24%減とまだ少ない。同国で唯一の完成車工場を有しているマグナ・シュタイヤー(グラーツ市)は現在、メルセデス・ベンツのGクラス、BMWの5シリーズ(内燃エンジン搭載車とハイブリッド車)、BMWの「Z4」、ジャガーの「E-Pace」とEV「I-Pace」、トヨタの「スープラ」を製造している。将来的にEV生産が拡大することを予想して、親会社のマグナが2021年7月に韓国のLGと電動パワートレーンを開発する合弁会社を設立した。グラーツの工場では、11月から米国フィスカーの電動SUV(スポーツ用多目的車)「オーシャン」の生産開始が予定されているほか、ソニーと開発したEV「VISION-S」の生産も具体化している。

2022年に入ってから新型コロナ禍の影響が弱まった一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響が生産を圧迫している。ウクライナ製のワイヤーハーネスの供給が止まったため、シュタイヤー市にあるBMWグループのエンジン工場が3月3~9 日に生産を停止し、その後、勤務をワンシフトに変更、5月末まで従業員の時短労働を決定した。また、マグナ・シュタイヤーは部品不足のため、3月14日から2週間、BMWの5シリーズと「Z4」の組み立てを停止した。自動車の輸出先としては、ロシアとウクライナのシェアはそれほど大きくはない。2021年のオーストリアからの自動車輸出額をみると、ロシアが29位(シェア0.4%、6,247万ユーロ)、ウクライナは41位(シェア0.2%、3,163万ユーロ)だった。

報道によると、二輪車メーカーのKTMなどの親会社ピーラ・モビリティーは2021年の売上高が前年比33%増の20億4,200万ユーロ、営業利益が同80%増の1億9,350万ユーロになった。オートバイの生産台数は同23%増の33万2881台、自転車は40%増の10万2,733万台(うち電動自転車7万6,916台)となった。


注:
VW、シュコダ、セアト、アウディ、ポルシェ、ベントレー、ブガッティ、ランボルギーニ。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。