チリの2021年の新車販売台数、調査開始以来2番目の高水準に
政府は電動車普及に向けた取り組みを推進

2022年7月14日

チリ全国自動車産業協会(ANAC)によると、2021年の新車販売台数(バスなど大型車を除く)は前年比60.6%増の41万5,581台だった(図1参照)。ANACの調査開始以来2番目となる高水準を記録し、過去最多の2018年とは1,457台差だった。ANACは販売台数増加の要因として、経済の再活性化と、「新型コロナ禍」でも安全で快適な移動手段として自動車を利用する人々の増加を挙げている。

図1:年間新車販売台数の推移
2012年は338,826台、2013年は378,240台、2014年は337,594台、2015年は282,232台、2016年は305,540台、2017年は360,900台、2018年は417,038台、2019年は372,882台、2020年は258,835台、2021年は415,581台、2022年の見通しは400,000台である。

注:2022年は見通し。
出所:チリ全国自動車産業協会(ANAC)

新車販売台数をブランド別にみると、トップ5はシボレー(シェア:9.3%)、スズキ(7.0%)、現代(6.7%)、日産(6.0%)、奇瑞汽車(5.9%)の順で、いずれも、「新型コロナ禍」の影響を大きく受けた2020年と比べ大幅に増加した(表1参照)。中でも、奇瑞汽車、長安汽車、ジャックの中国ブランド3社は前年比で3桁増だった。奇瑞汽車は同社のSUV(スポーツ用多目的車)の好調な売り上げにより、2020年は13位だった順位を5位にまで上げている。日本ブランドは、スズキが54.4%増で、「S-PRESSO」(6,962台)や「BALENO HB」(5,470台)の好調な売り上げにより、乗用車販売シェアの5分の1を同社製の自動車が占めた。三菱自動車は、全体の販売台数では14位と前年の9位から順位を落としたものの、ピックアップトラックの販売シェア全体の12.3%を占め、トップだった。

表1:2021年主要ブランド別新車販売台数(単位:台、%)(-は値なし)
順位* ブランド 2020年 2021年 前年比
合計 乗用車 SUV 商用車 ピックアップ 合計
台数 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア
1 シボレー 27,265 13,266 10.9 15,397 8.8 5,250 11.3 4,744 6.5 38,657 9.3 41.8
2 スズキ 18,741 25,348 20.9 3,205 1.8 390 0.8 0.0 28,943 7.0 54.4
3 現代 17,359 16,043 13.2 7,284 4.2 4,681 10.1 0.0 28,008 6.7 61.3
4 日産 18,186 7,260 6.0 11,358 6.5 227 0.5 6,175 8.4 25,020 6.0 37.6
5 奇瑞汽車 7,078 926 0.8 23,772 13.6 0.0 0.0 24,698 5.9 248.9
6 トヨタ 14,221 5,958 4.9 8,879 5.1 36 0.1 8,733 11.9 23,606 5.7 66.0
7 起亜 19,187 13,980 11.5 6,401 3.7 1,033 2.2 0.0 21,414 5.2 11.6
8 MG 10,787 6,571 5.4 14,275 8.2 0.0 0.0 20,846 5.0 93.3
9 プジョー 11,783 4,738 3.9 6,888 4.0 6,243 13.4 227 0.3 18,096 4.4 53.6
10 VW 9,373 7,624 6.3 5,322 3.1 40 0.1 3,797 5.2 16,783 4.0 79.1
11 長安汽車 6,726 2,122 1.7 9,852 5.7 2,469 5.3 1,403 1.9 15,846 3.8 135.6
12 ジャック 5,388 4 0.0 8,593 4.9 1,086 2.3 3,119 4.3 12,802 3.1 137.6
13 フォード 10,241 155 0.1 6,159 3.5 1,063 2.3 5,367 7.3 12,744 3.1 24.4
14 三菱自動車 10,384 3 0.0 3,432 2.0 0.0 9,029 12.3 12,464 3.0 20.0
15 マツダ 9,575 2,096 1.7 5,757 3.3 0.0 3,478 4.7 11,331 2.7 18.3
その他 62,541 15,278 12.6 37,704 21.6 24,043 51.6 27,298 37.2 104,323 25.1 66.8
合計 258,835 121,372 100.0 174,278 100.0 46,561 100.0 73,370 100.0 415,581 100.0 60.6

注1:SUV:スポーツ用多目的車。
注2:奇瑞汽車はこれまでチェリーと表記。
注3:*の順位は、2021年新車販売台数(合計)の順位。
出所:ANAC

タイプ別にみると、乗用車は前年比35.0%増の12万1,372台だった(表2参照)。SUVは約8割増となる17万4,278台で、新車販売全体の41.9%を占めた。SUVのモデル別販売台数トップ5は、奇瑞汽車の「TIGGO 2」(1万956台)、MGの「MG ZS」(9,238台)、シボレーの「GROOVE」(9,007台)、奇瑞汽車の「TIGGO 3」(5,832台)、ジャックの「JS2」(4,832台)の順で、トップ5のうち4モデルを中国車が占めた。ピックアップは62.5%増の7万3,370台で、三菱自動車「L-200」(9,029台)、トヨタ「HILUX」(8,704台)、MAXUS「T60」(7,688台)が販売トップ3となり、ピックアップ販売全体の3分の1を占めた。

表2:タイプ別新車販売台数(単位:台、%)
タイプ 2020年 2021年 前年比
台数 シェア 台数 シェア
乗用車 89,894 34.7 121,372 29.2 35.0
SUV 97,330 37.6 174,278 41.9 79.1
商用車 26,467 10.2 46,561 11.2 75.9
ピックアップ 45,144 17.4 73,370 17.7 62.5
合計 258,835 100.0 415,581 100.0 60.6

注:SUV:スポーツ用多目的車。
出所:ANAC

ANACは、2022年の新車販売台数について、年初には2021年から7.6%減少して38万4,000台になるとの見通しを発表していたが、2022年1月から5月までの月別販売台数がいずれも前年同月を上回っていることに鑑み、2022年の新車販売台数の予想を当初の予想から1万6,000台多い40万台に上方修正している。

世論調査の結果、自動車保有者は7割を超える

民間調査会社カデム(CADEM)は、2022年1月7日から9日にかけて、自動車についてのアンケート調査(注1)を実施した。はじめに、自動車の保有を問う質問については、少なくとも1台以上の自動車を保有しているという世帯が71%に上った(図2参照)。カデムは2014年、2018年にも同様の調査を実施しており、1台以上の自動車を保有しているとの回答は、2014年では53%、2018年では63%と、割合は増加している(図3参照)。また、自家用車、地下鉄、配車アプリ(Uber、Cabify、Didiなど)、公共交通機関(バスなど)、タクシーの5つの移動手段を「経済的」「環境に優しい」「実用的」「安全性」「快適さ」「速さ」の6つの属性に関連付ける質問では、自家用車は、「実用的」「安全性」「快適さ」「速さ」の4つの項目において、他の移動手段より優れているとの回答結果が得られた(図4参照)。特に「安全性」と「快適さ」は70%を上回っており、「新型コロナ禍」でも安全で快適な移動手段として、自家用車を選択する国民が増加したことが本調査によって裏付けられた。他にも、自動車を購入するならどのブランドを選ぶかという質問では、シボレー、トヨタ、現代、日産など、2021年の新車販売台数でも上位にランクインしているブランドが人気を集めた(図5参照)。上位20位に、日本ブランドは7つランクインしている。

図2:現在何台の自動車を保有しているか
1台と回答したのが46%、2台と回答したのが17%、2台より多いと回答したのが8%、持っていないと回答したのが29%。

出所:カデム

図3:自動車を1台以上保有していると答えた人の割合
2014年は53%、2018年は63%で、2022年は71%となる見込み。

出所:カデム

図4:5つの移動手段は次のどの属性に関連付けるか
自家用車は「経済的」が27%、「環境に優しい」が22%、「実用的」が56%、「安全性」が70%、「快適さ」が73%、「速さ」が59%。地下鉄は「経済的」が25%、「環境に優しい」が58%、「実用的」が22%、「安全性」が23%、「快適さ」が9%、「速さ」が35%。配車アプリは、「経済的」が15%、「環境に優しい」が8%、「実用的」が33%、「安全性」が19%、「快適さ」が32%、「速さ」が27%。公共交通機関は「経済的」が53%、「環境に優しい」が22%、「実用的」が14%、「安全性」が4%、「快適さ」が4%、「速さ」が3%。タクシーは、「経済的」が2%、「環境に優しい」が2%、「実用的」が6%、「安全性」が5%、「快適さ」が11%、「速さ」が9%。

出所:カデム

図5:自動車を購入するならどのブランドの車を選ぶか(上位20位)
シボレーが31%、トヨタが29%、現代が23%、日産は22%、起亜は21%、スズキは17%、マツダは13%、プジョーは13%、フォードは11%、スバルは8%、VWは6%、MGは5%、シトロエンは5%、三菱自動車は5%、ホンダは5%。奇瑞汽車は4%、メルセデスベンツは4%、ルノーは4%、アウディは4%、BMWは4%。

出所:カデム

電動車販売台数は過去最高を記録

2021年の電動車(注2)販売台数は、前年の約3.3倍となる3,348台で、ANACの調査開始以来の最高を記録した。うち、ハイブリッド車(HV)は約2.6倍の1,796台、電気自動車(EV)は約3.5倍の556台、プラグインハイブリッド車(PHV)は約3.8倍の300台、マイルドハイブリッド車は8.7倍の696台と大きく増加した(図6参照)。

図6:電動車販売台数の推移
2012年は、ハイブリッド車(HV)が297台、電気自動車(EV)が5台、プラグインハイブリッド車(PHV)、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)がともに0台。2013年は、ハイブリッド車(HV)が300台、電気自動車(EV)が5台、プラグインハイブリッド車(PHV)、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)がともに0台。2014年は、ハイブリッド車(HV)が224台、電気自動車(EV)が3台、プラグインハイブリッド車(PHV)が14台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が0台。2015年はハイブリッド車(HV)が167台、電気自動車(EV)が13台、プラグインハイブリッド車(PHV)が23台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が0台。2016年は、ハイブリッド車(HV)が176台、電気自動車(EV)が22台、プラグインハイブリッド車(PHV)が9台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が0台。2017年は、ハイブリッド車(HV)が400台、電気自動車(EV)が125台、プラグインハイブリッド車(PHV)が15台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が0台。2018年は、ハイブリッド車(HV)が866台、電気自動車(EV)が129台、プラグインハイブリッド車(PHV)が68台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が0台。2019年は、ハイブリッド車(HV)が850台、電気自動車(EV)が217台、プラグインハイブリッド車(PHV)が85台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が38台。2020年は、ハイブリッド車(HV)が696台、電気自動車(EV)が157台、プラグインハイブリッド車(PHV)が79台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が80台。2021年はハイブリッド車(HV)が1,796台、電気自動車(EV)が556台、プラグインハイブリッド車(PHV)が300台、マイルドハイブリッド車(Mild hybrid)が696台。

出所:ANAC

HVのモデル販売トップ3は、「カローラクロス(419台)」「RAV4(389台)」「プリウス(359台)」の順で、トヨタがトップ3を独占した。EV販売トップ3は、MAXUSの「EV30(124台)」、同「EDELIVER 3(106台)」、現代の「IONIQ(48台)」の順となった。PHVトップ3はボルボが独占しており、「XC60Ⅱ(71台)」「XC40(63台)」「XC 90 Ⅱ(50台)」の順だった。マイルドハイブリッド車は、スズキの「スイフト(123台)」がトップとなり、続いてボルボの「XC60Ⅱ(113台)」、同「XC90Ⅱ(89台)」の順だった。なお、全体的に、ガソリン車の売り上げ傾向と同様に、電動車でもSUVの人気が高かった。

過去最高を記録した電動車の販売台数だが、チリの新車販売台数に占める電動車のシェアは全体の0.8%とわずかだ。その要因としては、電動車の価格帯が通常のガソリン車に比べて高額なことや、充電箇所が限られていることなどが挙げられている。

中国の国家標準規格を承認し電動車の普及を促進

チリ政府が進めるエレクトロモビリティ国家戦略(注3)に従い、電動車の販売業者と価格の多様化を目指した取り組みとして、運輸通信省は、2021年12月の官報公示により、電動車の安全要件について定めた最高法令145号を修正した。これにより、中国のGB規格が新たに電動車の安全基準として認められることになった。これまで中国ブランドのEVやPHVは、米国や欧州などの充電規格を満たさない限り、チリへの輸入、販売は認められていなかった。ANACのディエゴ・メンドサ事務総長は「今回の法改正は、さらなる中国ブランドの電動車の国内市場への流入を意味しており、とてもよいニュースだ」とコメントし、同改正によって、今後、比較的安価な中国製の電動車がチリの自動車市場をにぎわすことへの期待をのぞかせた。

電動車普及に期待が高まる2022年

ANACの発表によると、2022年1~5月の電動車販売台数は、前年同期比約3.4倍の2,538台となった。うち、HVは約2.1倍の896台、EVは約3.8倍の443台、PHVは約7.2倍の231台、マイルドハイブリッドは約5.9倍の968台となり、過去最高を記録した2021年をはるかに上回るペースで増加している。電動車普及のためのチリ政府の取り組みとしては、電動車の購入者に対してインセンティブとなるようなメカニズムを構築すること、各種規制の整備と緩和、充電設備の増設などが平行して行われており、これらの推進により、国内市場に多種多様な電動車が普及し、価格競争の活発化が予想される。ここに、ロシアのウクライナ侵攻の影響を受けた燃料価格の高騰が相まって、消費者のガソリン車から電動車への乗り換えも促されることが予想され、今後チリで、ますます電動車の普及が進むことが期待されている。


注1:
18歳以上のチリ人男女2,318人に対し、調査を実施。男女の内訳は女性:51%、男性:49%。年齢層の内訳は18~34歳:32%、35~54歳:36%、55歳以上:32%。社会階級の内訳はC1:10%、C2:20%、C3:25%、D:45%(この調査の中ではC1が最上層で、Dが最下層にあたるが、チリの社会階級には他にもC1の上にAとB、Dの下にEが存在する)。居住地域の内訳は首都圏州:42%、首都圏州以外:58%。
注2:
ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、マイルドハイブリッド車(Mild Hybrid)のことを指す。
注3:
2035年までに国内で販売される自動車を100%ゼロエミッション車(ZEV)にする目標を掲げる(2021年10月21日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・サンティアゴ事務所
岡戸 美澪(おかど みれい)
2017年、ジェトロ入構。現在に至る。