新型コロナ水際対策の緩和で外国人労働者の入国者数が回復(韓国)
さらなる拡大には国民の理解が必要

2022年9月20日

韓国では、中小製造業企業などを中心に労働力不足に見舞われてきた。新型コロナウイルス感染症拡大により、外国人労働者の韓国入国が制限されたため、労働力不足がさらに深刻化した。しかし、水際対策の緩和に伴い、外国人労働者の入国は正常化に向かっている。

こうした外国人労働力にまつわる動向について、非熟練労働者を中心にみていくこととする。

韓国在住の非熟練外国人労働者数が新型コロナ禍前の水準へ

外国人労働者の韓国入国者数が回復してきた。産業界が特に関心を寄せているのが、「雇用許可制」に基づく「非専門就業ビザ(E-9ビザ)」の入国者数の回復だ。雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)によると、E-9ビザの入国者数は、新型コロナウイルス感染症拡大による水際対策の強化により、2020年に急減した(表参照)。しかし、最近の水際対策の緩和により、入国者数が徐々に増加、2022年は8月までで4万2,000人以上が入国している。

表:最近のE-9ビザ外国人入国者の推移(-は値なし)
年月 受け入れ人数枠
(クォーター)
入国者数
2016年 58,000人 59,822人
2018年 56,000人 53,855人
2020年 56,000人 6,688人
2021年 52,000人 10,501人
2022年 59,000人
→69,000人
階層レベル2の項目3月 3,813人
階層レベル2の項目4月 4,867人
階層レベル2の項目5月 5,308人
階層レベル2の項目6月 6,208人
階層レベル2の項目7月 8,857人
階層レベル2の項目8月(見込み) 10,700人
階層レベル2の項目年初から8月26日までの累計 42,344人

注1:「受け入れ人数枠(クォーター)」については後述を参照のこと。
注2:2016年の入国者には2015年の雇用許可発給者の一部が含まれる。
出所:雇用労働部「2022年 雇用許可制クォーター1万人(5万9,000人から6万9,000人へ)拡大を決定」(2022年8月31日)

ところで、韓国は1980年代半ばまでは海外へ労働力を輸出する国だったが、1980年代後半以降、製造業の作業員をはじめ、労働力不足が顕在化してきた。そこで、韓国政府は1993年に、日本の「外国人技能実習制度」に相当する「産業研修制度」を導入した。しかし、民間斡旋(あっせん)業者(ブローカー)にまつわる問題や不法滞在外国人の増加といった弊害が出てきたため、同制度に代わるかたちで、2004年に「雇用許可制」を導入した。現在、海外からの非熟練労働者の受け入れは主にこの制度に基づいている。「雇用許可制」による在留資格として、一般の外国人を対象としたE-9ビザと、韓国系外国人を対象とした「訪問就業ビザ(H-2ビザ)」がある。このうち、E-9ビザは、韓国政府がアジア16カ国の各国政府と業務協約(MOU)を締結した上で、毎年、産業ごとに受け入れ人数枠(クォーター)を設け、外国人労働者を受け入れる制度だ。特徴としては、(1)韓国人の雇用に悪影響を及ぼさない範囲で受け入れる、(2)ブローカーを排除すべく公的部門が受け入れを管理する、(3)在留期間の上限を設ける、(4)韓国人労働者と同等に待遇する、といった点が挙げられる。

E-9ビザは毎年、受け入れ人数枠(クォーター)が定められているが、前掲の表のとおり、新型コロナ感染症拡大以降、実際の入国者数がクォーターに達しない状態となっていた。そうしたこともあり、特に、中小製造企業や造船業で、労働者不足が深刻化していた。例えば、中小企業中央会が外国人労働者を雇用している中小製造企業を対象に、2021年9月に実施したアンケート調査の結果によると、回答企業の92.1%が「労働力不足により自社の経営が困難に直面している」と回答、65.0%が「製造業の新規外国人労働者のクォーター拡大が必要」と回答した(調査対象企業数:9,375社、回答企業数:792社、有効回答率:8.4%)。また、造船業は、高付加価値船を中心に受注が好調な一方で、労働力不足が深刻化している。

現地メディアもこうした状況を報じている。例えば、「韓国経済新聞」(2022年5月10日、電子版)は、「外国人労働者の供給が止まり、『週52時間勤務制』が本格的に施行された上に、既存の労働者が宅配サービスやデリバリー業界などに流出したため、中小企業は深刻な労働力不足に直面している」と報じた。ちなみに、「週52時間勤務制」とは、「勤労基準法」(日本の労働基準法に相当)における「1週間の勤労時間は休憩時間を除き40時間を超過できない」「労使間で合意すれば1週間に12時間を限度に勤労時間を延長できる」との規定を指す。同制度は大規模企業から段階的に施行され、従業員数5~49人の小規模事業所も2021年7月から適用対象となった。このような週単位の厳格な残業時間管理のため、中小企業は短期的な繁忙にすら対応しにくくなっている。

このような中で、産業界はE-9ビザの外国人入国者数の回復を歓迎している。さらに、韓国政府はE-9ビザのクォーターを拡大し、労働力不足に悩む企業を支援していく姿勢を明瞭にしている。雇用労働部は、8月31日、今年のクォーターの1万人拡大を決定したと発表した。同部は「造船業、中小製造業などの求人難の深刻化に対応し、クォーターを1万人拡大する」と、今回のクォーター拡大の狙いを説明した。さらに、同部は「それにより、2022年末にE-9ビザ保有者の在留人数は約26万4,000人になると予想される。これは(新型コロナ感染症拡大前の)2019年末の27万7,000人の95%の水準に相当する。新型コロナ感染症拡大前の人数に戻るのは、2023年第1四半期になる見通し」と述べている。いよいよ、コロナ禍以前の水準までの回復が見えてきたわけだ。

外国人受け入れに対する国民の意識は分かれる

ところで、先進国の中で、韓国は外国人を多く受け入れている国とはいえない。経済協力開発機構(OECD)統計で非熟練労働者を含む外国人が総人口に占める割合(2019年、または入手可能な最新年)をみると、韓国は2.4%で、統計のあるOECD加盟国32カ国中、下から8位にとどまっている(ちなみに、日本は2.2%、下から7位)。

このような中、韓国では外国人労働力の必要性が今後、さらに高まる見通しだ。その最大の理由は、少子化の進展により、労働力の中核となる生産年齢人口(15~64歳人口)の減少が続くためだ。韓国の生産年齢人口はすでに2019年(3,763万人)をピークに減少に転じている。統計庁が2021年12月に発表した「将来人口推計」によると、出生・死亡・国際純移動がいずれも中位のシナリオの場合、生産年齢人口は2021年の3,703万人に比べ、2030年は322万人減、2050年は1,284万人減、2070年は1,966万人減になる(図参照)。こうしたことを受け、韓国では、現在、一般的に60歳となっている定年の延長などとともに、外国人労働力のさらなる受け入れが課題となっている。統計庁「将来人口推計」によると、出生・死亡が中位で国際純移動が高位のシナリオでは、生産年齢人口は、2030年に2021年比で276万人減、2050年に1,149万人減、2070年に1,774万人減になるとしている。つまり、海外からの労働力受け入れ人数が多いシナリオでは、生産年齢人口減少の一定の緩和が見込まれるわけだ。ちなみに、最近、法務部は「移民庁」の新設を検討しているが、これを、外国人を受け入れ拡大を見越した動きとみる向きもある。

図:韓国の生産年齢人口の推移と将来推計(出生・死亡中位)
韓国の生産年齢人口は、2019年3,763万人をピークに減少に転じた。今後は、国際純移動中位シナリオの場合、2030年3381万人、2050年2,419万人、2070年1,737万人になる見通し。他方、国際純移動高位シナリオの場合、2030年3,427万人、2050年2,554万人、2070年1,929万人になる見通し。

注:値は各年7月1日現在の人口数(外国人を含む)。
出所:統計庁「将来人口推計」(2021年12月発表)

ただし、外国人の受け入れに対する国民の意識は割れている。政府(女性家族部)が2012年以降、3年おきに実施している「国民の多文化受容性調査」(調査対象は、2021年調査で19~74歳の5,000人)によると、「多文化受容性指数」(8つのアンケート項目に対する回答結果を統合した指数で、満点は100点)は、2021年に52.27となった。これは、外国人受け入れに対する国民の意識が、「肯定」と「否定」に二分されていることを示している。特に、中高年になるほど否定的評価の割合が高くなっている。さらに、この指数は2015年53.95、2018年52.81と、低下傾向にある。これは、全体として、外国人受け入れに否定的な意識が徐々に増えていることを示唆するものだ。「韓国は単一民族国家」という根強い思い、外国人による犯罪や不法滞在の問題、外国人が比較的多く住む地域での地元社会との融合の遅れ、などが国民の意識に影響している。少なくとも、国民の支持なくしては、外国人労働力受け入れ拡大には困難も予想されよう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。

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