ラオス国境・貨物積み替えセンターの利用拡大に期待(タイ)

2022年7月7日

ジェトロ・バンコク事務所は2022年5月中旬、ラオス国境に隣接する「チェンコン貨物積み替えセンター(Transshipment Center)」を訪問した。ちなみに当該センターは、タイ北部のチェンライ県チェンコンとラオスのボケオ県フエサイとの境界近くにある。この両地を結ぶ第4メコン友好橋のタイ側に設けられた。

貨物積み替えセンターの設立経緯や事業概要、今後の開発計画、チェンコン経由のタイ・ラオス間の国境貿易の現状などについて、同センター関係者にヒアリング調査した。その概要は次のとおり。

国境隣接地での貨物積み替えセンターとしては初

チェンコン貨物積み替えセンターは2021年1月、国の管轄の下に新設された。タイでは、同様の貨物積み替えセンターはこれまでバンコクに3カ所設けられている。地方では初の積み替えセンターになる。

設立の経緯は、以下の通りだ。

  • 2010年、積み替えセンター設置場所選定などに関して、タイ運輸省が実現可能性調査(FS)を開始。
    候補地は、中国雲南省昆明からラオスを経てタイ北部国境を結ぶR3A道路(注1)と近接する地域から選抜された。ラオス・フエサイ側から第4メコン友好橋でメコン川を渡ったチェンコン、またはチェンセン、2つのうちいずれか選択肢に絞られた。入念な調査の結果、チェンコンに決まった。
  • 2013年にタイ政府が許可。
  • 2017年に建設が着工され、2020年の完成まで建設に3~4年を要した。

現在、運営は運輸省が所管している。一方で、民間企業との共同投資の可能性について調査が進められているところだ。そのため、将来的には民間企業との共同運営の可能性もある。


貨物積み替えセンターのメインオフィス
(ジェトロ撮影)

貨物積み替えセンター屋上からチェンコン国境検問所を眺望。検問所には、入国管理と税関の機能がある
(ジェトロ撮影)

中国・タイ間の円滑な貨物輸送支援を担う

貨物積み替えセンターは、輸送貨物の集荷や流通のためのスペースと設備を提供する拠点だ。敷地面積も広大で、54ヘクタールに及ぶ。貨物の積み替えでトラック積載の効率化を図り、トラック台数の減少に資することなどが期待される。

同センターが目指す第1の役割は、昆明からラオス経由でバンコクを結ぶ南北経済回廊の中で、貨物陸上輸送の便宜を図ることにある(図参照)。

第2は、道路輸送だけに依存するのでなくモーダルシフトを促し、輸送方法のマルチ化に取り組むこと。具体的には、鉄道がカギになる。現行の路線をタイ国内でプレー県デンチャイからチェンライ、さらにはチェンコンへと延伸させる計画である。これは、輸送コスト引き下げにも資することになる。

第3は、一元的な手続きの実現だ。これまでは、税関(Customs)、入国管理(Immigration)、検疫(Quarantine)の3つ(注2)をそれぞれ異なる場所で手続きする必要があった。これをワンストップサービスとして、全て同センター内で実施可能にする。さらに、センター内に共同管理施設(CCA:Common Control Area)設置することも検討材料に挙げられている。これは、両国車両間のトレーラー交換を手助けする機能を受け持つ。その設置をめぐっては、ラオス側と協議している最中だ。ちなみに、CCA として将来利用することを念頭に、既にビルを建設済みとのことだった(ただし、現時点では未使用)。

図:中国・タイ間の輸送ルート上の主な都市
昆明からラオス経由でバンコクを結ぶ南北経済回廊の輸送ルート上にある都市は、ボーテン、フエサイ、チェンコン、チェンライ、デンチャイなどがある。

出所:大メコン圏(GMS)事務局外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの資料からジェトロ作成

なお、中国からの鉄道貨物は現在、まず中国ラオス鉄道でラオスのボーテン、ルアンパバーンを経てビエンチャンに至る。そして、タイの列車に積み替えることで、タイ側国境ノンカイまでは輸送可能だ。他方、積み替えセンターのあるチェンコンは、これらの鉄道とはリンクしていない。そのため、チェンコンからの貨物をラオス・中国方面へ鉄道に乗せるためには、ノンカイまで国道を利用せざるを得ない。チェンコンから、ラオス・中国方面や、バンコク方面へのダイレクトな鉄道輸送の実現には、まだまだ相応の年月を要するものと思われる。しかしながら、同センター関係者は、前述の輸送方法マルチ化に取り組みたいとの考えだ。日本を含む外国政府・機関に対しても、「中国からラオス経由の鉄道のチェンコン延伸をサポートしてほしい」(貨物積み替えセンターのワルンユパー・ウィセーッサン管理長)と希望を示した。

民間企業への施設運営権の譲渡計画も

一方で、貨物積み替えセンターは、「新型コロナウイルス禍のため、2021年1月の開業後、いまだ事業もあまり実施できていない」(ワルンユパー・ウィセーッサン管理長)状況にはある。ただし、メインオフィスや第1倉庫、第2倉庫、コンテナ積み替えステーション、事務棟、社員食堂、機械修理場、ゴム焼却場は完成済み。当面の役割として、コンテナ積載トラックがチェンコン側で税関手続きを待っている間の冷蔵・冷凍用コンセント(注3)が提供されている。実際のところ、チェンコン側からトレーラーに積まれたコンテナは一旦、ラオス側税関前で積み下ろされる。そのコンテナをラオス側で改めてトレーラーに積み上げ、中国方面へトラック輸送している状況だ。このような手配になっている背景には、コロナ禍の影響もある。コロナ禍がなければラオスに入国できているはずのトラックが、チェンコン側の国道沿いに多数滞留しているのが実情だ。この点、トラック積み替えセンター関係者は「コロナ禍が落ち着き、国境手続きがコロナ禍前の状況に戻ると、チェンコン側でのトラック滞留は解消するだろう」と述べた。


チェンコンで滞留するトラック(ジェトロ撮影)

なお、貨物積み替えセンターの運営に関しては現在、タイ政府が全責任を持って運営している状況にある。ただし前段記載のとおり、民間企業に同センターの運営権を譲渡する計画がある。譲渡先選定にあたっては、入札が予定される。落札した民間企業は一定期間、設備投資などを行った上で運営益を上げる一方、15年分の運営権料を国へ支払う仕組みを想定しているという。

貨物積み替えセンター施設の運営権の譲渡が円滑に進むかどうか現時点では定かでない。とはいえ、新型コロナのエンデミック(一定の地域に一定の罹患率で周期的に発生すること)を見据え、タイと近隣諸国との南北経済回廊沿いの物流が活発化することは、メコン地域全体の発展にとって好ましいと思われる。

タイ進出日系工業用地販売代理業者は「日系企業の関与という観点では、中国昆明やラオスからバンコクに貨物を運ぶ日系企業は必ずしも多くない。一方、中国内陸部の物流需要を狙って、ラオス北部での工業団地開発に取り組んでいる企業もある(注4)。そうした企業にとって、チェンコンの貨物積み替えセンターをうまく活用できる余地が多いのではなかろうか」としている(注5)。貨物積み替えセンターの提供サービスに対する民間運送会社側の需要など、今後の行方が注目されるところだ。同時に、民間企業側のニーズを踏まえて使い勝手の良いターミナルに成長していくことが期待される。


注1:
アジア開発銀行(ADB)の大メコン陸上交通網整備計画の中で、各国際道路にR1~8の番号を付与。
注2:
税関、入国管理、検疫は、頭文字を取り、CIQと称される。
注3:
この冷蔵・冷凍用のコンセントは、果物(ドリアンなど)や野菜を冷やしておくために利用されることが多い。現在、8台分が設置済み。
注4:
中国内陸部物流需要を狙いラオス北部で工業団地開発に取り組む企業例としては、現時点でタイ地場大手デベロッパーのアマタコーポレーションがある点も付言された。
注5:
2022年5月26日、筆者によるインタビュー。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 バンコク研究センター(BRC)所長
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・シンガポール事務所、ジェトロ・バンコク事務所、ジェトロ・ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長、上席主任調査研究員を経て、現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。