パナソニック、チェコでヒートポンプ式温水暖房機の生産を拡大

2022年12月14日

パナソニック(本社:東京)は9月2日、チェコ現地法人パナソニックAVCネットワークス・チェコ(PAVCCZ、プルゼン市)におけるヒートポンプ式温水暖房機(Air to Water=A2W)の生産拡大計画を発表した。これまでのA2W室内機生産に加え、室外機の生産も開始し、2025年までに室内機・室外機それぞれ55万台の生産を目指す。PAVCCZは1996年の設立以来、テレビを製造していたが、2018年にA2Wの生産を開始、2022年3月にはテレビの生産を終了している。テレビ事業からの転換と現状、投資計画の詳細について、PAVCCZの上芝原広郷副社長とA2W事業拡大プロジェクトの西村幸剛プロジェクトリーダーに聞いた(取材日:2022年11月3日)。

テレビからヒートポンプへ

PAVCCZは、1996年3月にテレビ製造拠点として設立された。日系メーカーの工場としては、2004年のチェコのEU加盟前後における進出ラッシュが開始される前にいち早くチェコで生産を確立した、いわば日系メーカーのパイオニア的存在である。1997年4月に生産を開始したテレビ事業は2022年3月に終えたが、2015年にはビデオ(ブルーレイレコーダー)、そして2018年にはA2W室内機の製造を開始している(表参照)。

表:パナソニックAVCネットワークス・チェコの会社沿革
年月 沿革
1996年3月 会社設立
1997年4月 ブラウン管テレビ生産開始
2004年4月 薄型テレビ(プラズマ/液晶)生産開始
2006年3月 ブラウン管テレビ生産終了
2015年3月 ブルーレイレコーダー生産開始
2018年10月 A2W室内機生産開始
2022年3月 テレビ生産終了

出所:PAVCCZへの取材に基づきジェトロ作成

パナソニックのA2W事業は、欧州ではドイツほか主要国に販売拠点を構えて展開しているが、生産拠点はチェコのPAVCCZが唯一となっている。PAVCCZの従業員数は日本人出向者5人を含めて637人だ。上芝原氏によると、地元の西ボヘミア大学卒業者など、現地技術者も積極的に登用している。

A2Wは、大気中から取り込んだ熱を圧縮し、高温にして温水を作る室外機と、温水を給水・温度制御する室内機から構成される。PAVCCZでは、チェコで生産した室内機とマレーシア拠点で製造している室外機を合わせてA2Wとして販売している。

PAVCCZのA2Wの室内機の現地調達率は60%程度で、テレビ生産の現地調達率(4~6%程度)と比較すると格段に高い。

PAVCCZでは、テレビ生産の際に導入した自動化を、A2Wの生産に引き続き利用するなど、テレビ生産で培った技術を役立てている。また、品質検査をロボット化し、自動化・省人化を進めて生産性向上を図っている。

A2W室内機組立・検査工程(PAVCCZ提供)

販売先は、据付事業者などへの卸売りが中心だ。主な市場はフランス、ポーランド、スペイン、イタリア、デンマーク、北欧3カ国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)だが、特にフランスでは、A2W導入の世帯向け補助金制度が導入されているため、市場が伸びている。また北欧では、パナソニックのブランド力が強いという。同社独自のヒートポンプ技術により、低温耐用性が高いためだ。

パナソニックでは、タンク内臓のオールインワン・タイプ、およびタンク内臓なしのバイブロック・タイプ、そして室外機に制御機器が含まれるモノ・ブロックの3種類のA2Wを生産している。製品の特長としては、マイナス20度の環境でも暖房能力を維持できるという低温耐用性の高さのほか、「騒音が低く抑えられていること、熱交換器が効率よく機能し、省エネ性能となっていること」を西村氏は挙げる。また、冷媒には現在HFC(ハイドロフルオロカーボン)を使用しているが、世界的な温室効果ガス規制、二酸化炭素(CO2)削減に鑑み、2023年6月よりプロパンガスを使用した冷媒を導入する。


オールインワン・タイプとバイブロック・タイプの製品ラインアップ(PAVCCZ提供)

欧州の天然ガス不足と環境意識が投資の動機

チェコでのA2W生産拡大の最大の動機となったのは、ロシアのウクライナ侵攻の影響により引き起こされた天然ガス不足の懸念、そして欧州で掲げられているCO2排出削減目標の2点である。特に、過去2年間に従来のガスボイラーからA2Wへの変換が急激に加速し、需要の増大に対応する必要性が高まった。西村氏は「ガスボイラーからA2Wへ切り替えることにより、CO2排出量が65%削減される。欧州市場におけるA2W総需要は2021年の61万台から、2030年には600万台に拡大するとみられている」と指摘した。A2Wの生産体制強化にあたっては、消費地の近くで生産するという方針のもと、PAVCCZで室内機・室外機の両方を生産することになった。その際、製品の仕様上、引火性のあるプロパンガスを含む製品をマレーシアからチェコに長距離輸送することのリスクも考慮された。

PAVCCZでは、テレビ製造に使用していたホールを室外機生産スペースに転用し、2023年6月に製造を開始する。同時に室内機も増産、2025年までに現在の2倍以上に拡充し、室内機・室外機各55万台の生産達成を目指す。投資総額は2025年度までに約200億円とみられている。

人材確保が課題

チェコでは2022年に電気、ガス料金が急激に高騰し、生産に支障の出ている企業もあるが、同社での消費量はそれほど多くないことから、いまのところ深刻な問題とはなっていないようだ。ただ、生産拡大に伴う人材確保は必要で、現在ウクライナ人の派遣社員も活用しているが、ロシアのウクライナ侵攻の影響で、今後、必要人数を確保できるかが懸念として残る。新規採用にあたっては、すでに取引のある派遣会社を通じて国内外から人材を受け入れる見通しだが、同時に政府の外国人雇用プログラム活用の可能性についても検討している状況だ。

投資優遇制度に関しては、同社の追加投資計画は適用対象とはならない見通しだ。投資インセンティブの適用条件に、研究開発(研究組織との提携、研究開発担当者の全従業員数に対する割合が2%以上、研究開発用機械設備投資が投資総額の10%以上など)に関する条件があるためである。上芝原氏は「ものづくりへの投資が、インセンティブの対象外となっているのは残念だ」と語った。

なお、ピルゼン地域では、製造業の投資が活発だ。たとえばPAVCCZの近隣では、外資系大手メーカーがアルミニウム缶の生産拠点を建設中である。ペットボトルなどのプラスチック製品の環境影響の制限に関する法律に対応し将来的な規制へ備えるための、また消費者の環境意識の高まりを受けてリサイクルできる飲料容器の需要拡大を見越した動きだ。人材確保の面で懸念はあるものの、環境に配慮した製造業がピルゼン地域に集積することにより「ピルゼンが、チェコ環境産業のトリガーとなることが期待できるほか、ピルゼンで作られた製品であることが付加価値となる可能性もある」と西村氏は述べた。

執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
志牟田 剛(しむた ごう)
1999年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課、ジェトロ鳥取、ジェトロ・ワルシャワ事務所、ジェトロ浜松などを経て、2021年6月から現職。著書(分担執筆)『欧州新興市場国への日系企業の進出』、『脱炭素・脱ロシア時代のEV戦略』(いずれも文眞堂)など。
執筆者紹介
ジェトロ・プラハ事務所
中川 圭子(なかがわ けいこ)
1995年よりジェトロ・プラハ事務所で調査、総務を担当。