タイで高まるJリーグ人気
スポーツを活用したビジネスに可能性

2022年11月17日

日本でJリーグが誕生したのは1993年。2022年で30年目を迎えた。

Jリーグは、国際戦略の1つとして、アジア展開に注力している。例えば、2012年のタイ・プレミアリーグとのパートナーシップ協定を皮切りに、べトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポール、インドネシア、マレーシアの各リーグとパートナーシップ協定を結んだ。目指すのは、サッカーリーグとしての存在感を普及することだけではない。各国でのビジネスも進めている。

本稿では、タイで高まるJリーグ人気や、企業や加盟チームと連携した当地ビジネス拡大への取り組みなどに触れる。

タイは、サッカー関心度で世界第2位

タイは、サッカーへの関心度が高い国だ。テレビで試合が放映されるだけでなく、例えば、飲料水や電子商取引(EC)サイトのタイ国内向け広告で欧州の有名選手が広告塔として起用されている。また、タイ企業がサッカーをマーケティングに利用する例もみられるようになった。一例として、タイで免税店を展開するキングパワーは、イングランド・プレミアリーグのレスター・シティー(注1)のスポンサーを務めている。

ニールセン(注2)が2018年に実施した調査によると、サッカーに「非常に関心がある」または「関心のある」人が占める割合は、タイで78%だった。これは、実に、世界2番目の高さだ。総人口から人数に換算すると、約4,000万人が関心を有していることになる。また、2021年に実施された同社調査では、当年中にタイ国民の84%がスポーツを視聴し、2,000万人以上がスポーツ観戦に出向いたと報告された。この調査によると、バンコク近郊に住む高所得の男性はサッカー、バレーボール、バトミントンに関心を持っている。

そうしたタイで、Jリーグも存在感を放つ。例えば、地場スポーツメディアが放映するYouTubeチャンネル「サイアム・スポーツ」では、以前からJリーグの試合が放映されている。2022年からは、地上波無料テレビ局のPPTVでも放映開始。さらに、タイの通信最大手AISグループが運営する動画配信サービス「AIS Play」でも、Jリーグの試合が視聴可能になっている。2022年2月に開催されたJリーグの試合「フジフイルム・スーパーカップ2022」は、サイアム・スポーツのYouTubeチャンネルでもリアルタイム放映。この放映で、タイ人の視聴者数は10万人を超えた。さらに、実際、Jリーグが運営するタイ語のFacebookページのフォロワー数は、50万人を超える。何と、日本語ページ(約24万人)の2倍以上なのだ。

では、Jリーグはなぜ、タイでここまで関心が高まったのだろうか。その要因の1つに、タイ出身の有名選手が日本で活躍していることが挙げられる。現在、Jリーグの一部リーグには、3人のタイ人選手が所属している。その1人、川崎フロンターレに所属するチャナティップ・ソングラシン選手は、タイ国内で絶大な人気だ。Jリーグには、過去にもタイ代表に名を連ねる選手が複数人所属していた。タイ選手がJリーグで活躍するに連れ、Jリーグへの関心度も高まったと言えそうだ。

広報活動でJリーグの認知度向上へ

こうした中、Jリーグはタイで一層の認知度向上を目指す。そのために、様々な取り組みを開始している。例えば2019年には、「2019 Jリーグ アジア・チャレンジinタイ」と題して、タイでJリーグの2チームが試合した。もっともその後、新型コロナ禍があった。タイでの活動は限定的になってしまった。しかし、「2022 Jリーグ アジア・チャレンジinタイ」の開催が発表された。再びタイでJリーグチームの試合が改めて実施された。 Jリーグの当地活動は、試合開催にとどまらない。2020年には、バンコク高架鉄道(BTS)にラッピング広告を掲載した。その狙いは、既存のサッカーファンを超えて、より多くの層に対して、Jリーグに対する認知度を高めるところにある。2021年以降も、イベント・プロモーションが続く。例えば、(1)バンコク都内の公園で、Jリーグ所属のタイ人選手と、サッカーをテーマにした日本の著名な漫画「キャプテン翼」のコラボレーション、(2)タイの三輪タクシー(トゥクトゥク)とJリーグとのコラボレーション、などの試みがある。


Jリーグとキャプテン翼のコラボレーション
(ジェトロ撮影)

Jリーグとトゥクトゥクのコラボレーション
(ジェトロ撮影)

Jリーグ加盟クラブチームの取り組みも

こうした広報活動に加えて、Jリーグは近年、タイで、Jリーグ試合のパブリック・ビューイングを実施。2022年6月、バンコクでのパブリック・ビューイング会場では、Jリーグ関連グッズも展示された。

Jリーグはさらに、従来型のサッカー関連グッズ販売にとどまらない発展可能性も模索。日本のサッカーに関心を持つタイ人が集まる場を活用し、様々なビジネス活動に広げていこうという構えだ。具体的には、パブリック・ビューイング会場で、赤城乳業が氷菓「ガリガリ君」、和幸がカツサンドを来場者に提供。日系企業による商品プロモーションに踏み込んだ例がある。タイでJリーグ人気が高まる中、今後、関連イベントの場を活用し、日系企業の製品・サービスをタイ人に訴求していくことなども有望だろう。

取り組みは、Jリーグとしてだけではない。2022年現在、Jリーグに加盟する各クラブ(チーム)が、タイで独自に動く例もある。例えば、タイ・リーグのクラブとの連携イベントや、無料サッカー教室の実施などだ。具体的には、Jリーグ所属の「川崎フロンターレ」は2022年5月、スポンサー企業と共同で、バンコクで子供向けサッカー教室を開催した(2022年5月30日付ビジネス短信参照)。純真な仏教徒が多い当地では、こうした社会貢献活動に評価が高い。同チームの担当者は、「在タイの日系企業およびローカル企業とも協力を行い、サッカー教室以外の活動も含め、川崎フロンターレおよび協力企業の活動支援となるような取り組みを今後も行っていきたい」と意気込む。


パブリック・ビューイング会場でのグッズ展示
(ジェトロ撮影)

タイで販売されているJリーグのユニフォーム
(ジェトロ撮影)

注1:
レスター・シティーは、2016年のイングランド・プレミアリーグ優勝チーム。
注2:
ニールセンは、米国の調査会社。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
平林 拓朗(ひらばやし たくろう)
2012年ジェトロ入構。2014年より2018年までジェトロ神戸にて医療関連事業を担当。2018年6月よりバンコク事務所で勤務。タイにおける医療機器・医薬品の事業を担当。