減免税を背景に自動車販売が回復(インドネシア)
輸出も好調、EV普及は道半ば

2022年10月24日

インドネシアの自動車業界は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた2020年から生産台数、新車販売台数とも大きな改善をみせている。背景には、政府による活動制限の緩和、需要喚起のための新車購入時の減免税などがある。本レポートでは、2021年以降のインドネシアの自動車産業の動向について解説する。

生産、販売台数ともに立ち直りを見せた

インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)の発表によると、2021年の自動車生産台数は、前年比62.6%増の112万1,967台だった。月次推移をみると、図1のとおりで、新型コロナの影響で2020年4月に急減し、同年5月に2,510台で底を打ったのち、徐々に回復した。2021年も回復は続き、3月には10万2,889台となった。その後、増減を繰り返しつつも8月には再び10万台を超え、その後は月当たり10万台を超える時期が続いた。

2022年に入ってからは、3月に13万6,988台と新型コロナ禍前の水準を上回った。現地の長期休暇(断食明け大祭)の影響で、5月には7万2,261台に落ち込んだが、2022年6月には11万4,213台まで生産が回復した。

図1:インドネシアの月別自動車生産台数の推移
2019年1月から2020年3月まで約10万台から12万台で推移。ただし、2019年6月のみ約7万台だった。しかし、2020年4月に2万台まで急減し、5月には2,510台まで落ちこんだ。8月まで4万台以下となったが、9月には6万台、2021年1月には約8万台まで回復した。同年3月から12月にかけて、上下しつつも上昇し、約12万台なった。2022年3月の約14万台をピークに減少に転じ、4月には再び8万台以下となったが、6月には11万4,213台まで回復した。

出所:インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)を基に作成

次に、新車販売台数(卸売り)をみると、前年比66.8%増の88万7,202台だった。表1のとおり、乗用車が69.7%増、商用車が58.9%増と増加した。カテゴリー別では、乗用車の4×2(2WD)、商用車のダブルキャビン、トラックなどの増加率が高かった。前年と比べた回復が顕著だが、新型コロナ禍前の水準である100万台規模までは回復していない。2022年上半期(1~6月)の販売台数は47万5,321台で、乗用車、商用車ともに前年同期をわずかに上回った。

表1:カテゴリー別販売台数(△はマイナス値)
項目 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 前年比 2022年1~6月
(台)
乗用車計 861,965 842,474 874,675 785,539 388,886 659,806 69.7% 355,303
階層レベル2の項目セダン 13,832 8,335 6,704 6,412 4,749 5,647 18.9% 3,178
階層レベル2の項目4×2 608,034 596,146 634,378 557,613 275,860 503,520 82.5% 271,918
階層レベル2の項目4×4 4,928 3,439 3,150 4,060 3,627 4,119 13.6% 3,405
階層レベル2の項目LCGC 235,171 234,554 230,443 217,454 104,650 146,520 40.0% 76,802
商用車計 200,729 184,890 276,631 244,587 143,141 227,396 58.9% 120,018
階層レベル2の項目バス 3,959 3,597 3,519 3,774 1,971 1,300 △34.0% 969
階層レベル2の項目ピックアップ 120,652 128,278 143,473 135,383 90,733 139,720 54.0% 70,487
階層レベル2の項目トラック 66,774 39,348 113,909 93,594 42,680 72,900 70.8% 39,299
階層レベル2の項目ダブルキャビン 9,344 13,667 15,730 11,836 7,757 13,476 73.7% 9,263
合計 1,062,694 1,027,364 1,151,306 1,030,126 532,027 887,202 66.8% 475,321

出所:図1と同じ

販売状況をブランド別にみると、2021年の首位はトヨタの29万5,768台(前年比83.4%増)だった。その後、ダイハツの16万4,908台(81.8%増)、三菱自動車の10万7,605台(85.8%増)と続いた(表2参照)。日系ブランド上位7社で、市場全体の94.1%を占める結果となった。日系ブランド以外では、中国のウーリン(五菱)が前年から3.9倍の2万5,564台と販売台数を大幅に伸ばした。

表2:主要ブランド別販売台数(卸売)(単位:台、%)(-は値なし)
順位 ブランド 2019年 2020年 2021年 前年比増減
(2021年)
シェア
(2021年)
1 トヨタ 331,797 161,256 295,768 83.4% 34.2%
2 ダイハツ 177,284 90,724 164,908 81.8% 19.1%
3 三菱自動車 119,011 57,906 107,605 85.8% 12.4%
4 スズキ 100,383 66,130 91,793 38.8% 10.6%
5 ホンダ 137,339 73,315 91,122 24.3% 10.5%
6 三菱ふそう 42,754 21,359 36,518 71.0% 4.2%
7 いすゞ 25,270 16,422 26,636 62.2% 3.1%
8 ウーリン(五菱) 22,343 6,581 25,564 288.5% 3.0%
9 日野 31,068 12,621 20,683 63.9% 2.4%
10 マツダ 4,884 2,660 3,992 50.1% 0.5%
合計 992,133 508,974 864,589

出所:図1と同じ

2020年に新型コロナウイルスの流行によって大きく影響を受けた自動車産業が、2021年に回復を遂げた背景には、インドネシア財務省が2021年2月に導入した新車購入時の奢侈(しゃし)税の減免による需要喚起がある(財務大臣規定2021年第20号)。当初、財務省は特定産業のみを対象として優遇措置は行わない方針だったが、インドネシア工業省やGAIKINDOからの要望を受けて方針を一転し、導入を決めた。その後、この減免税は、新型コロナからの復興状況に応じて、数度の延長がなされた。2022年9月まで、ローコスト・グリーンカー(低排気・省エネ車)に対象を絞った減税が実施されている。減免税の対象となるのは、原材料部品のインドネシア国内調達率が80%以上で、価格が2億ルピア(約192万円、1ルピア=約0.0096円)以下などの条件を満たした車種だ。例えば、トヨタの「アギラ」やダイハツの「アイラ」などが対象車種に含まれている。

完成車の輸出も堅調な伸び

インドネシア工業省は2019年1月、「自動車産業ロードマップ」(2020年9月に同大臣令として公布)を発表し、自動車の輸出台数の目標を、2025年に31万台、2030年に90万台と設定していた。ジャカルタ首都圏の東側に位置する西ジャワ州スバンには新たな港湾「パティンバン港」が建設されている。2021年12月には、同港の自動車ターミナルが本格稼働するなど、今後の輸出増加に期待が寄せられている。

2021年の年間輸出台数は、前年比26.9%増の29万4,639台だった。このうち、アストラ・ダイハツ・モーターが12万2,661台と、輸出全体の41.6%を占めた。自動車の輸出台数を月次でみると、2月に3万台超となって以降、増減を繰り返し8月まで低迷したが、11月に3万1,269台で2021年最多となった。2020年と比べると総じて回復したが、新型コロナ禍前の2019年の水準には達しなかった。

2022年上半期(1~6月)の実績は、前年同期(14万7,203台)比34.7%増の19万8,327台と好調に推移した。

図2:インドネシアからの完成車(CBU)輸出台数の推移
2019年1月の約2万2千台から、8月の3万5千台超まで上下しつつ増加し、10月までほぼ横ばいだった。その後、2020年3月まで、12月、1月を除き3万台前後だった。しかし、4月に1万台程度、5月に6,000台程度となった。6月から回復に転じ、10月までに2万5千台程度になった。2021年2月には再び3万台まで増加したが、再び5月には2万台未満となった。上下しながら9月には回復に転じ、その後、2022年2月までに約4万台となった。4月に約2万5,000台まえ減少したが、6月にふたたび4万台となった。

出所:図1と同じ

政府が推進する電気自動車政策、販売台数は伸長も普及は道半ば

インドネシア政府は、政策として電気自動車(EV)の国内生産の増加・普及、そして東南アジアで「EVのハブ」となることを掲げている。政府は2019年8月、バッテリー電気自動車(BEV)の開発促進に関する大統領規定2019年第55号を公布し、2025年までに四輪車の生産台数の20%を、バッテリーEV(BEV)にする方針を示した。加えて工業省は、2019年に発表した「自動車産業ロードマップ」で、2035年の四輪車全体の生産台数目標400万台に対し、低炭素排出車(LCEV)の生産台数目標を30%(120万台)に設定するなど野心的な目標を掲げている。

EVの普及推進に向けて不可欠な充電設備については、エネルギー鉱物資源省が、2030年までにEV用の一般充電ステーション(SPKLU)を3万1,859台、電動二輪用の一般バッテリー交換ステーション(SPBKLU)を6万7,000台に増やす計画だ。同省は、目標通りに進むと、2030年にEVが約200万台、電動二輪が約1,300万台普及したとしても対応できると予測する(「テンポ」2021年7月28日)。

「脱炭素」という観点からも、インドネシア政府はEV普及を目指す姿勢だ。「2050年に向けた低炭素と気候強靭(きょうじん)化長期戦略」では、2060年までのカーボンニュートラル達成を目指す。パリ協定に対する「国が決定する貢献:NDC」では、エネルギーセクターの長期的アプローチとして「脱炭素化された電気を利用し、効率的な交通機関システムやEVを開発する」と明記した。

BEV、ハイブリッド車などを含むEVの2021年における販売台数は、前年比2.5倍の3,193台だった。このうち、トヨタのカローラ・クロス(ハイブリッドEV)が1,304 台で最も販売された車種となった(表3参照)。BEVに限ってみると、韓国・現代自動車のIoniqとKonaが合計588台で、他社よりも突出した。同社は2022年3月16日、西ジャワ州のデルタマス工業団地でBEV生産工場の竣工(しゅんこう)式を行い、本格的な生産を開始した。2030年までに15億5,000万ドルの投資を行う予定で、今後年間25万台規模の生産能力を備える予定だ(「ロイター通信」2022年3月16日)。

ガソリン車も含めた、自動車販売全体占めるEVの割合は0.36%だった。前年からは伸びているが、今後、政府目標を達成できるかどうかは未知数だといえる。

表3:インドネシアにおけるEV販売台数(単位:台)(-は値なし)
ブランド 車名 タイプ 2019年 2020年 2021年
トヨタ All New Corolla Altis 1.8 Hybrid AT HEV 0 41 94
All New Camry 2.5 Hybrid Mi HEV 0 130 279
C-HR 1.8 A/T Hybrid HEV 320 126 157
Corolla Cross 1.8 A/T Hybrid HEV 0 652 1304
COMS EV BEV 0 0 20
C+POD EV BEV 0 0 7
Supra 3.0 A/T HEV 11 0 0
Century Hybrid 5.0 A/T HEV 0 0 1
現代(韓国) Ioniq EV Prime BEV 0 14 27
Ioniq EV Signature BEV 0 45 201
Kona EV BEV 0 38 360
Ioniq EV BEV 0 22 0
レクサス ES 300h HEV 0 0 41
ES 300h Ultra Luxury HEV 0 0 3
UX 300e BEV 0 1 26
BMW(ドイツ) i3s A/T HEV 0 0 2
2Z62 I8 HEV 0 1 0
8P62 I3 120 HEV 0 5 0
DFSK(中国) GELORA EC35 BLIND VAN (4X2) A/T BEV 0 0 1
GELORA EC36 MINI BUS 1.5 (4X2) A/T BEV 0 0 1
日産 KICKS E-POWER HEV 0 153 592
Leaf BEV 0 0 42
三菱自動車 Outlander PHEV PHEV 20 6 35
合計販売台数 351 1,234 3,193
(自動車全体に占める割合) 0.03% 0.23% 0.36%
(参考)自動車全体の販売台数 1,030,126 532,407 887,202

出所:図1と同じ

自動車産業全体として上向くか、今後も状況を注視

以上のように、インドネシアの自動車産業は、生産・販売台数ともに2020年と比較すると回復を示しているものの、新型コロナ禍前の水準には至っていない。2021年からの回復は、政府による需要喚起が主因との見方も強く、2022年10月に奢侈税の減免が廃止された後も、販売台数が堅調に推移するか注目される。また、長期的にみると、インドネシア国内の新車販売台数は2013年の約123万台を最多に、伸び悩みを続けている状況もある。注目されるEVに関しては、販売市場に占める割合はいまだ少ないものの、政策の状況や、動きが目立つ韓国企業をはじめとする各国企業の動きに注視が必要だ。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
尾崎 航(おざき こう)
2014年、ジェトロ入構。生活文化産業企画課、サービス産業課、商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部 EC・流通ビジネス課を経て、2020年9月から現職。