周辺産業への波及も期待
米アリゾナ州、ハイテク投資相次ぐ(後編)

2022年6月28日

米国アリゾナ州では、半導体や電気自動車(EV)関連など先端産業に関する大型投資が相次ぎ、継続的な人口増加や、先端産業以外の幅広い産業への波及効果も期待されている。前編では、半導体産業の主な投資動向を紹介した〔米アリゾナ州、ハイテク投資相次ぐ(前編)TSMCやインテルが工場新設参照〕。本稿の後編では、EVやデータセンター関連の主な投資動向を紹介する。

EV関連の投資も活発

アリゾナ州は次世代自動車産業も引き付けている。大手自動車メーカーの完成車工場はないものの、新興の電気自動車(EV)メーカーによる生産拠点の設立が相次いでいる。

乗用車に関しては、高級EVメーカーのルーシッド・モーターズ(Lucid Motors)が7億ドルを投じて2019年12月からカサグランデ市の590エーカー(約2.3平方キロ)の土地にEV工場の建設を開始し、2021年10月から納車を開始した。同社は既に拡張工事に着手しており、さらに、既存工場近くの120エーカー(約0.5平方キロ)の土地を購入したと報じられている(「フェニックス・ビジネス・ジャーナル」紙5月17日)。

小型EVについては、カナダのエレクトラメカニカ・ビークルズ(ElectraMeccanica Vehicles)がメサ市で年間最大2万台を生産する工場建設を進めており、2022年夏の稼働開始を予定している。

商用車に関しては、電気および燃料電池トラックメーカーのニコラ(Nikola)は2018年1月、アリゾナ州での工場建設に合わせてユタ州から本社機能の移転を決定し、2022年3月にクーリッジ市の工場で電気トラックの商業生産を開始した。現在は工場の拡張を進めており、2023年に年間最大2万台のトラックの生産が可能になるという。

このほか、生産段階には至っていないが、アトリス・モーター・ビークルズ(Atlis Motor Vehicles)がメサ市で電気ピックアップトラックを開発しており、2024年の生産開始を目指している。

車載向け電池に関しては、韓国のLGエナジー・ソリューション(LG Energy Solution)が14億ドルを投資して2022年夏からクイーンクリーク市で電池工場の建設を始める予定としており、2024年の生産開始を目指している。同工場が生産する円筒形電池はルーシッド・モーターズやテスラに供給されるとみられる。

エネルギー貯蔵や電動輸送用機器産業向けの電池セル技術を開発する米国コア・パワー(KORE Power)は12億5,000万ドルを投じ、バックアイ市でリチウムイオン電池製造工場の建設を進めている。同工場は年間約6,000万個の電池セルの生産を予定し、2024年半ばの稼働開始を目標としている。

電池のリサイクルに関しては、北米最大級のバッテリーリサイクル会社ライ・サイクル(Li-Cycle)が2022年5月からギルバート市でリサイクル施設の操業を開始した。新施設は、EV用バッテリーを人の手で解体することなく処理する独自技術を活用した世界初の施設で、年間最大1万トンのスクラップ、使用済みバッテリーの処理が可能という(2022年5月19日付ビジネス短信参照)。

IT大手が相次いでデータセンター設置

アリゾナ州は2013年にコンピュータ・データ・センター・プログラム(Computer Data Center program)を開始し、税免除によるインセンティブの付与を通じてデータセンターの誘致に力を入れてきたが、近年は、砂漠地帯の良好な日照条件を利用した太陽光発電を通じて脱炭素化が図れることもあって、IT大手によるデータセンターの設置が進んでいる。

とりわけメサ市が誘致に力を入れており、エリオット・ロード・テクノロジー・コリドー(Elliot Road Technology Corridor)には多くのIT企業がデータセンターを構えている。

例えば、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms、旧:フェイスブック)は2022年5月、メサ市のデータセンターへの投資を拡張すると発表している。同社は2021年8月に同地への投資を発表しており、既に2棟の建設を進めているが、新たに3棟のデータセンターを建設し、アリゾナ州への総投資額は10億ドル以上に上るという。450メガワット(MW)規模の太陽光発電所の電力供給を受け、再生可能エネルギーを100%活用する(2022年5月11日付ビジネス短信参照)。また、同市ではアップル(Apple)が2016年からデータセンターを稼働させているほか、グーグル(Google)もデータセンター設置を計画している。

日系企業では、NTTが2022年3月にメサ市でデータセンターを開設した。同社は102エーカー(約4,130平方メートル)の土地を確保しており、さらに6つの建屋の建設を計画している。

メサ市以外では、マイクロソフト(Microsoft)が2021年6月、グッドイヤー市に設置したデータセンターの稼働を開始している。同社は太陽光発電所と提携して150MWの電力供給を受け、データセンターの必要電力を賄う。今後、アリゾナ州でさらに2つのデータセンターを設置する計画と報じられている(「フェニックス・ビジネス・ジャーナル」紙2021年6月15日)。そのほか、アマゾン(Amazon)もグッドイヤー市にデータセンターを設置する計画を有している。

人口増加とともに周辺産業への波及も期待

アリゾナ州は、温暖な気候や安価な生活コストから、フロリダ州マイアミと並んで、退職後の移住先として人気が高かったが、近年では生活コストの安さに加え、就業機会の多さや多様性を理由に、カリフォルニア州などからの若い世代の流入も増えているとされる。

アリゾナ州経済機会局によると、こうした流れもあって、同州の人口は2021年7月に728万人となり、過去10年間で86万人増加した。米国の最新の国勢調査結果によると、同州フェニックス市は2020年までの過去10年間で人口が144万人から160万人に増加し、伸び率は11.2%で、人口100万人以上の10大都市の中で最も大きい(2021年10月14日付地域・分析レポート参照)。

今後の雇用者数の見通しについては、2021年11月にアリゾナ州経済機会局が予測を公表しており、そこでは同州の雇用者数は2020年の303万人から2030年には375万人となり、10年間で72万人(年平均2.2%)増加すると試算されている。業種別では、教育・ヘルスケアサービス(年平均3.2%増)、建設(2.7%増)、娯楽・ホスピタリティー(2.7%増)、専門ビジネスサービス(2.3%増)、金融業(2.0%増)、製造業(2.0%増)などとなっている。地域別では、州都フェニックスを擁するマリコパ郡(年平均2.4%増)や同郡に隣接するピナル郡(2.2%増)をはじめ、全郡で増加を見込んでいる(2021年11月10日付ビジネス短信参照)。

このように、アリゾナ州では近年、人口が増加してきたほか、今後も上述したような先端産業への投資が進み、それらを呼び水とした関連産業による投資や専門サービスの提供が増加する傾向にある。そしてこうした投資やサービスに付随してさらに多くの人口が流入し、財やサービスの提供者が進出するというかたちで、投資が人を呼び、人が投資を呼ぶという好循環が続き、人口増加とともに周辺産業への波及が期待される。

とりわけ、2024年のTSMCの工場稼働に向けて日系サプライヤーの納入機会が増えることが予想され、TSMCや関連企業、日系サプライヤーの駐在員や長期出張者などの増加も見込まれる。そのため、日本食や日本的なサービスの需要が高まり、日系企業のビジネス機会が拡大すると予想される。こうした点から、アリゾナ州の投資動向は引き続き注目していく必要がある。

TSMCの工場予定地からほど近い新興住宅街の様子(ジェトロ撮影)

米アリゾナ州、ハイテク投資相次ぐ

  1. TSMCやインテルが工場新設
  2. 周辺産業への波及も期待
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
永田 光(ながた ひかる)
2010年、財務省入省。2020年8月からジェトロに出向、現職。

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