ニトリホールディングス、湖南省長沙市に第1号店をオープン(中国)
湖南省では初店舗、今後も長沙市内でさらに展開

2022年11月9日

中国でも消費力が旺盛なことで知られる湖南省長沙市。2021年における1人当たりの消費支出額(1カ月)は3,132元(約6万2,646円、1元=約20円)で、中国の特大都市および超大都市の計21都市(注1)の中で第9位、中西部地域では第1位を記録した(「DT財経」2022年7月15日)。近年、その消費力を取り込むため、長沙市場に注目する日系企業も増加傾向にある。

本稿では、2022年9月23日に長沙市第1号店をオープンしたニトリホールディングス(以下、ニトリHD)の事例を紹介する。

実店舗の開業を通じて知名度の向上につなげる

ニトリHDの子会社である似鳥(中国)投資(注2)は9月23日、湖南省初の店舗となるNITORI長沙歩歩高・梅渓新天地店(以下、長沙店)をオープンした。同社にとって長沙店は中国で54番目の店舗となる。

同日、長沙店が入居するショッピングモールの歩歩高・梅溪新天地内で開業式が開催された。開業式では、似鳥(中国)投資の杉浦栄総経理がスピーチを行ったほか、湖南省人民対外友好協会の郭向麗副会長や長沙市人民対外友好協会の劉芳副会長、歩歩高集団の張露丹副董事長、湖南省日本人会の武田知朗副会長などが祝辞を述べた。

湖南省日本人会の武田副会長は、開業式で「ニトリの新店舗ができたことにより、湖南省の知名度が上がり、湖南省に進出する日系企業やその駐在員がますます増えていくことを期待する」と祝辞を述べた。

似鳥(中国)投資の杉浦総経理は「ニトリブランドの商品を湖南省の方々にも使ってほしい」「湖南省の方々に、ニトリが近くにあって良かったと感じていただけるようにしたい」と語った。また、中国展開の方針については「今後、中国では100店舗の展開を目指す」と述べた。


開業式の様子(ジェトロ撮影)

長沙店の出入り口(ジェトロ撮影)

長沙店内の様子(ジェトロ撮影)

市場の成熟度や可処分所得、商圏人口などを勘案し、進出を決定

長沙店のオープンに先立ち、ジェトロは似鳥(中国)投資の米沢剛志OMO推進部部長に出店の経緯や今後の展開などについて話を聞いた(2022年9月19日)。

インタビューの概要は以下のとおり。

質問:
長沙市に出店することとなった経緯は。
答え:
当社は2014年に湖北省武漢市で1号店をオープンして以降、中国で店舗数を拡大してきた。長沙店は54店舗目にあたる。武漢市では既に4店舗を展開しており、武漢の店舗がある程度軌道に乗ってきたため、長沙市への出店を考え始めた。
長沙市への出店にあたっては、同市市場の成熟度、市民の可処分所得のみならず、人口密度、周辺のショッピングモールの店舗数、出店先物件の半径一定距離における商圏人口などを総合的に勘案して出店を決定した。
質問:
ターゲットとなる客層は。
答え:
明確に定めてはいないが、中国の当社各店舗は男女ともに20~40代のお客様が多いので、その客層をターゲットにしている。また、長沙店が入居する歩歩高・梅溪新天地の客層がそれと重なっていることも、出店を決定した要因の1つとなった。
質問:
長沙店での従業員体制は。
答え:
長沙店には日本人従業員を派遣せず、中国人従業員が中心となって経営を行う。長沙店の社員は、店長を含め10人ほど。また、中国で採用を行う際に、他都市への転勤の可能性があることを了承してもらった上で採用し、社員から不満の声が上がるリスクを軽減している。
質問:
長沙店独自の取り組みは。
答え:
当社はチェーンストアなので、長沙市の店舗も含めて、販売時期の違いなどはあるが、各店舗で商品ラインアップに差はほとんどつけていない。しかし、温暖な気候である中国南部や、暖房施設が充実している地域の店舗では、例えば「一番厚い布団を売らない」といったその地域に合わせた対応を行っている。
また、長沙市には競合他社が複数存在するが、それらの企業がどのような価格や戦略でビジネスを行っても、お客様が求める商品をお客様が求める価格で売る、いわゆるニトリのキャッチコピーでもある「お、ねだん以上。」(お客様に「お値段以上の価値がある」と感じてもらいたい)を実現できるよう心掛けている。
質問:
中国で近年、電子商取引(EC)が拡大していることについては。
答え:
中国は家具の産地であり、商品を安価で販売する競合他社が多く存在する。特にEC上での競争は激しく、価格で対抗することは難しい。一方で、新たな地域での実店舗の出店には知名度の向上という効果が期待できる。布団やソファーの手触りを実店舗で確認した後、ネットでその商品を購入するというお客様もいるので、実店舗の出店は自社のECでの販売にも追い風となる。
質問:
今後の展開は。
答え:
当社は現在、自社で物流を行っており、長沙店も当社の他店舗と同様、商品は主に江蘇省太倉市の倉庫から調達している。それゆえ、同じ都市に複数店舗を出店すると物流コストを軽減できる。出店を検討するにあたり、(ドミナント戦略の観点から)条件に合う場所が少なく複数店舗の出店ができない都市には進出を行わないようにしている。もちろん、長沙市でもさらなる出店を考えており、開店の準備も進めている。

注1:
特大都市は都市部の常住人口が500万人以上1,000万人未満、超大都市は1,000万人以上の都市。 DT財経が国家統計局のデータをもとに21都市を選出し、2021年の1人当たりの消費支出額(1カ月)を算出。1位から順に上海市、広東省広州市、広東省深セン市、浙江省杭州市、北京市、広東省仏山市、江蘇省南京市、広東省東莞市、湖南省長沙市、湖北省武漢市、雲南省昆明市、遼寧省瀋陽市、天津市、山東省青島市、四川省成都市、山東省済南市、遼寧省大連市、河南省鄭州市、陝西省西安市、重慶市、黒竜江省ハルビン市と続く。
注2:
2015年12月に設立された、ニトリHDの100%子会社(本社:上海市)で、中国での販売事業を担う。ニトリHDは、商品供給を担う100%子会社の似鳥(太倉)商貿物流(本社:江蘇省太倉市)も所有しており、2018年5月から操業を開始している。
執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、ジェトロ・ワルシャワ事務所、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課などを経て2021年10月から現職。