2021年は輸出入とも前年比20%台の増加で過去最高額に(スペイン)
エネルギー価格高騰で貿易赤字が前年の2倍

2022年11月29日

2021年のスペインの貿易は、新型コロナウイルス感染拡大後の世界的な景気回復やエネルギー高騰を反映し、輸出入ともに過去最高額となったが、自動車は半導体不足により低調だった。対日貿易は豚肉や乗用車の輸出増で赤字が縮小した。

輸出は新型コロナワクチンやエネルギーが大幅増

2021年の貿易は、輸出が前年比20.1%増の3,166億900万ユーロ、輸入は23.8%増の3,427億8,700万ユーロと、いずれも過去最高額となった。これはエネルギー価格高騰による輸出入価格の上昇が大きく影響している。貿易赤字は261億7,800万ユーロで、前年の約2倍の赤字額となった。

輸出を品目別にみると、最大品目の資本財(自動車を除く、構成比18.6%)が前年比12.8%増だった(表1参照)。うち産業用車両(2.2%)は、貨物自動車の好調によって21.5%増、空調機器(0.7%)も20.3%増加した。一方、航空機(1.3%)は9.0%減と、軍用も含めて前年に引き続き低迷した。食料品(18.0%)は10.4%増。うち主力の豚肉(1.7%)は2.7%減となった。背景として、近年輸出の4割前後を占めてきた中国向けが同国でのアフリカ豚熱の収束による国内供給の回復で、金額、数量ともに大幅減となったことがあるが、他のアジア諸国向けの輸出拡大で一部相殺された。オリーブ油(1.0%)は価格高騰を背景に15.4%増と、新型コロナ以前の水準を回復したが、数量では6.2%減少した。化学品(17.0%)は31.6%の大幅増となった。新型コロナワクチンの輸出により医薬品(5.6%)が前年から4割近く伸びたことによる。中間財(11.2%)は、鉄鋼など資材の旺盛な需要回復と資源価格高騰により、34.1%増となった。鉱物・エネルギー(6.7%)は夏以降の資源価格高騰や需要回復の影響を受け、69.8%の大幅増となった。中でも、主力品目の石油精製品(5.5%)が52.7%増だったほか、液化天然ガス(LNG)の輸出や近隣国への電力融通も大幅に増加した。自動車(12.8%)は2.0%増にとどまった。半導体などの部品不足や、主力の欧州市場の需要低迷が響き、内訳として完成車が0.9%増と横ばい、部品は5.1%増だった。

表1:スペインの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
資本財(自動車を除く) 52,092 58,768 18.6 12.8 62,848 70,948 20.7 12.9
食料品 51,613 56,978 18.0 10.4 34,136 39,557 11.5 15.9
化学品 40,833 53,725 17.0 31.6 50,015 63,510 18.5 27.0
自動車 39,672 40,450 12.8 2.0 30,600 32,526 9.5 6.3
中間財 26,503 35,535 11.2 34.1 19,341 26,552 7.7 37.3
消費財 25,075 30,455 9.6 21.5 34,733 38,566 11.3 11.0
鉱物・エネルギー 12,517 21,250 6.7 69.8 27,110 46,576 13.6 71.8
原材料 6,126 8,308 2.6 35.6 8,674 12,492 3.6 44.0
耐久消費財 4,503 5,337 1.7 18.5 8,099 9,896 2.9 22.2
合計(その他を含む) 263,628 316,609 100.0 20.1 276,925 342,787 100.0 23.8

注:EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
出所:スペイン税関

輸出を国・地域別にみると、EU(構成比61.8%)は石油精製品や新型コロナワクチン、電力の輸出拡大により22.2%増と好調だった(表2参照)。EU域外最大の輸出先である英国(5.9%)は9.2%増となり、2020年末のEU離脱移行期間終了前後の在庫積み増しと反動減の急変動からの落ち着きを見せた。欧州域外で最大の輸出先の米国(4.7%)は20.6%増。石油精製品や建材、風力発電機などが伸びた一方、乗用車は主力のフォードの生産が落ち込んだ。オリーブ油は、トランプ政権時に発動された追加関税(容器入りに対して25%)が3月に停止されたことにより、米国のスペインからの容器入り同製品の輸入量が3万3,359トンと、前年の2.4倍に増加した。アジア大洋州地域で最大の輸出先の中国(2.7%)は5.8%増。首位品目の豚肉が前述のとおり大幅減となったものの、銅や自動車部品、LNGなどの輸出が増加した。

表2:スペインの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 160,068 195,545 61.8 22.2 144,117 170,891 49.9 18.6
階層レベル2の項目ユーロ圏 140,821 172,558 54.5 22.5 121,937 145,388 42.4 19.2
階層レベル3の項目フランス 43,014 50,480 15.9 17.4 28,975 34,150 10.0 17.9
階層レベル3の項目ドイツ 29,785 32,400 10.2 8.8 34,403 38,276 11.2 11.3
階層レベル3の項目イタリア 20,691 26,567 8.4 28.4 18,026 22,619 6.6 25.5
階層レベル3の項目ポルトガル 20,012 24,871 7.9 24.3 10,938 13,599 4.0 24.3
階層レベル2の項目非ユーロ圏 19,247 22,988 7.3 19.4 22,180 25,503 7.4 15.0
階層レベル3の項目ポーランド 6,047 7,581 2.4 25.4 5,675 6,429 1.9 13.3
英国 17,229 18,817 5.9 9.2 9,542 8,631 2.5 △ 9.5
スイス 5,111 5,740 1.8 12.3 3,880 8,558 2.5 120.6
トルコ 4,255 5,491 1.7 29.0 6,316 8,326 2.4 31.8
ロシア 1,873 2,213 0.7 18.2 2,625 6,034 1.8 129.9
アジア大洋州 19,235 21,582 6.8 12.2 48,419 57,660 16.8 19.1
階層レベル2の項目中国 8,182 8,661 2.7 5.8 29,403 34,835 10.2 18.5
階層レベル2の項目ASEAN 2,806 3,179 1.0 13.3 8,343 10,062 2.9 20.6
階層レベル2の項目日本 2,542 2,936 0.9 15.5 2,894 2,969 0.9 2.6
階層レベル2の項目韓国 1,509 1,936 0.6 28.3 2,401 2,748 0.8 14.5
階層レベル2の項目インド 1,096 1,497 0.5 36.6 3,307 4,200 1.2 27.0
アフリカ 15,614 18,502 5.8 18.5 19,038 27,845 8.1 46.3
階層レベル2の項目モロッコ 7,352 9,500 3.0 29.2 6,372 7,301 2.1 14.6
階層レベル2の項目アルジェリア 1,917 1,888 0.6 △ 1.5 2,488 4,768 1.4 91.7
階層レベル2の項目ナイジェリア 308 422 0.1 36.8 3,926 5,659 1.7 44.2
北米 14,185 16,894 5.3 19.1 15,542 19,101 5.6 22.9
階層レベル2の項目米国 12,247 14,769 4.7 20.6 14,190 17,090 5.0 20.4
中南米 11,811 14,933 4.7 26.4 13,739 17,684 5.2 28.7
階層レベル2の項目メキシコ 3,221 4,118 1.3 27.9 3,381 4,663 1.4 37.9
階層レベル2の項目ブラジル 2,249 2,593 0.8 15.3 3,562 4,631 1.4 30.0
中東 6,700 7,554 2.4 12.8 4,794 7,393 2.2 54.2
階層レベル2の項目サウジアラビア 1,738 1,907 0.6 9.7 2,271 2,974 0.9 31.0
階層レベル2の項目イスラエル 1,473 1,806 0.6 22.6 649 818 0.2 26.0
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦(UAE) 1,505 1,711 0.5 13.7 304 813 0.2 167.6
合計(その他を含む) 263,628 316,609 100.0 20.1 276,925 342,787 100.0 23.8

注1:EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
注2:アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港・台湾を加えた合計値。
出所:スペイン税関

輸入は資源高と新型コロナワクチン輸入で過去最高に

輸入を品目別にみると、エネルギー価格高騰の影響を大きく受け、鉱物・エネルギー(構成比13.6%)が前年比71.8%の大幅増となった。うち主要品目の原油(7.3%)とガス(2.8%)は、輸入量では前年と同水準にもかかわらず、金額ではそれぞれ58.3%、88.8%増加した。その他のほとんどの品目もエネルギー・資源高や需要回復を反映し、2桁台の伸び率だった。唯一、自動車(9.5%)は、半導体不足や先行き不透明を受け、6.3%増にとどまった。うち乗用車(3.8%)は国内市場の冷え込みを反映し、2019年の新型コロナウイルス感染拡大前を依然3割下回る水準にとどまった。

輸入を国・地域別にみると、EU(構成比49.9%)は、石油精製品の大幅増や新型コロナワクチン輸入の本格化もあり18.6%増で過去最高額だった。英国(2.5%)からの輸入は9.5%減となった。医薬品が57.0%減少したことと、原油も58.4%減だったことが影響した。ドイツに次いで第2位の輸入先の中国(10.2%)は18.5%増だった。同国からの輸入では、携帯電話、ソーラーパネル、リチウムイオン電池がそれぞれ19.8%、54.5%、68.0%増加した。

対日輸出、豚肉と乗用車が2割増

スペイン税関によると、2021年の対日貿易は、輸出が前年比15.5%増の29億3,600万ユーロ、輸入が2.6%増の29億6,900万ユーロで、対日赤字は3,300万ユーロまで縮小した。

対日輸出を品目別にみると、最大品目の豚肉(構成比18.1%)が金額で21.0%増、数量で31.6%増と伸びた。乗用車(10.9%)も22.0%増、台数でも22.2%増の1万8,679台となった。石油精製品(10.7%)は前年比9.7倍の大幅増だった。また、自動車部品(6.0%)が38.5%増、灰および残留物(4.2%)が33.7%増、アルミニウム塊(2.0%)が69.6%増となり、輸出拡大に貢献した。一方、医薬品(2.5%)は72.2%減と低迷し、花粉症用の抗ヒスタミン薬の輸出が大幅に減少したことが一因として指摘されている。

表3:スペインの対日主要品目別輸出入(通関ベース)

輸出(FOB)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
豚肉 440 533 18.1 21.0
乗用車 261 319 10.9 22.0
石油精製品 32 315 10.7 869.4
自動車部品 126 175 6.0 38.5
オリーブ油 127 129 4.4 1.7
灰および残留物 93 124 4.2 33.7
ワイン 85 92 3.1 8.0
医薬品 264 73 2.5 △ 72.2
革製バッグ・小物類 56 72 2.4 28.5
アルミニウム塊 35 59 2.0 69.6
合計(その他含む) 2,542 2,936 100.0 15.5
輸入(CIF)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2020年 2021年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車 1,006 854 28.8 △ 15.2
自動二輪車 120 137 4.6 14.2
鉄または非合金鋼のフラットロール製品 11 120 4.0 979.7
自動車部品 120 88 3.0 △ 26.1
航空機エンジン部品 62 69 2.3 12.2
医療機器 62 67 2.3 8.4
印刷機器 45 67 2.3 47.6
オートバイ・自転車部品 62 66 2.2 6.7
集積回路 50 64 2.1 26.5
医薬品 45 60 2.0 34.0
合計(その他含む) 2,894 2,969 100.0 2.6

出所:スペイン税関

対日輸入を品目別にみると、乗用車(構成比28.8%)が15.2%減、自動車部品(3.0%)が26.1%減と低調だった。一方、鉄または非合金鋼のフラットロール製品(4.0%)は10.8倍となった。これには、電気自動車(EV)などに使われる熱間プレス鋼板が含まれる。集積回路(2.1%)が26.5%増となったほか、トランジスタ(0.4%)が90.0%増で、半導体関連製品が好調だった。その他、食料品(0.7%)では、牛肉の輸入量が初めて6トンに達したほか、ソース類やしょうゆの輸入量が2倍以上の増加。日本酒やウイスキーの輸入額もそれぞれ86.0%増、2.5倍となった。

執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。