マレーシアの半導体試験装置メーカー、横浜に拠点設立(日本)

2022年8月26日

マレーシアのペンタマスター・コーポレーションは、2021年8月、日本にペンタマスターオートメーションジャパン合同会社を設立した。同社は半導体試験装置(テスター)を開発、製造する。速さ、正確さ、自動化という技術を強みに、業績を拡大してきた。同社日本法人は、販売やメンテナンスを担う。

日本法人代表の漢城誠人(あやき・まこと)氏に、法人設立の目的や今後のビジネス展開などについて聞いた(2022年6月9日)。

速さ、正確さ、自動化を強みに業績拡大

ペンタマスター・コーポレーションは、1991年にマレーシア北部のペナン州で創業。独自の光学検査システムから事業を開始した。現在は、半導体およびMEMS(微小電子機械システム)センサーテストの設計・コンサルティングからシステムの実装、トレーニング、メンテナンスまで、幅広くサービスを提供している。同社の製品について、漢城代表は「近年は、テストするデバイスが小さくなっている。また、ハンドリングが難しく検査数も多い。当社はテスターに注力して開発している。早く正確に処理することが可能で、ハンドリングも自動化できるのが特徴だ」と語る。特に、ハイブリッド車のバッテリー部品のテストでは、充電・放電を繰り返して大電流を流す必要がある。そのため、容量が大きく、様々なテストが実施可能な同社の製品が選ばれているという。

同社は、マレーシア証券取引所と香港証券取引所に上場している。2021年の決算では、売上高が前年比21.4%増の5億800万リンギ(約152億円、1リンギ=約30円)、純利益が同2.5%増の1億1,600万リンギ(約35億円)。いずれも拡大した。同社は、「フォーブス・アジア」(米国の経済誌「フォーブス」のアジア版)が選ぶ「Asia’s Best under a Billion(アジアの売上高が10億ドル未満の優良企業リスト)」に2017年から4年連続で掲載された。そのほか、ドイツの市場調査会社スタティスタの「Malaysia’s Growth Champions 2021(2016~2019年に収益が伸びたマレーシア企業)」では7位にランクイン。このように、高い技術をもって成長していることが、世界的にも評価されている。

拠点横浜設置の決め手は東京からのアクセスとコスト

同社の海外拠点は、米国、中国、シンガポールに続いて日本が4カ国目となる。日本に進出する前は、販売代理店を通じて装置の販売と技術サポートを行っていた。また、顧客は大手の日本企業が中心だった。そこからさらに、日本でのビジネス拡大を目指し進出を決めた。

日本での拠点は横浜に設置した。その理由について漢城代表は、「最終的には複合的な要素に鑑みて選定した。一番大きかったのは東京へのアクセスの良さと(東京と比べて)安価なコスト。また、自治体から補助金がもらえるという話もあり関心を持った」と語る。日本法人の設立手続きについては、「司法書士に依頼してから5カ月程度で設立することができた。総じて円滑だった」と振り返った。手続きにあたっては、神奈川県庁、横浜市役所、ジェトロから法務・労務・税務などの相談、テンポラリーオフィスの提供などのサービスを受けた。そこで特に有益だったのは、外資系企業を受け入れてくれる銀行の紹介という。銀行口座の開設がなかなか進まなかったためだ。

進出で顧客との意思疎通が円滑に

ペンタマスター・コーポレーションの年次報告書によると、日本向けビジネスの売上高は2020年に2,900万リンギ(約8.7億円)だった。しかし2021年には、7,600万リンギ(約23億円)と2.6倍に増加した。これは、主要顧客である自動車メーカー向けの販売が好調だったためという。

日本では現在、同社の装置が約100台稼動。主に漢城代表含め3人の日本人スタッフが、販売サポートやメンテナンスなどの対応をしている。漢城代表は、人材の採用について「機械系のバックグラウンドを持ち、かつ本社とのやり取りに際して一定程度英語のできるエンジニアが少ないため苦労している。人手が不足する際にはマレーシア本社からエンジニアを呼び寄せて対応している」と述べた。

人材面の苦労はある。しかし、日本に進出したことで、既存顧客のサポートだけでなく、潜在的な新規顧客の開拓もできるようになった。また、日本の顧客を通じて、海外工場でのプロジェクトを受注するケースも出てきている。地方にある製造工場に赴き、手取り足取りサポートすることも。日本国内の拠点からサービスを提供できるメリットは大きい。また、英語でのコミュニケーションが不得意な顧客もいる。日本への進出が言葉の壁を払拭し、やり取りが円滑になるという効果が生まれているという。

今後の日本での事業展開については、「日本の半導体業界はまだまだ力を持っていると信じている」「入り込めていない顧客もまだいるので開拓したい。いずれパーツセンターとしての機能強化やR&D(研究開発)にも取り組めれば」と語った。日本でさらなるビジネス拡大を目指す意気込みだ。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
斉藤 学(さいとう まなぶ)
2000年、ジェトロ入構。対日投資部、ジェトロ・サンフランシスコ事務所、海外調査部、ジェトロ香川などを経て、2019年7月から現職。