【コラム】ルーマニアの養蜂業、EU補助金で規模拡大
農薬の影響受けない自然の採蜜地、輸出品で高評価

2022年8月2日

ロシアやウクライナは蜂蜜の生産大国だ。他方、EUは養蜂業振興に補助金を投じており、これが奏功してルーマニアはEUの中で生産量トップ(2018年)、巣箱数でも2位(2021年)を誇り、日本にも高級品を輸出している。

ロシア、ウクライナは蜂蜜生産大国

ロシアのウクライナ侵攻により、世界的に食料の調達が困難になっている。両国は蜂蜜の生産大国でもある。2020年の世界全体の生産量(177万トン)を国・地域別にみると、1位は中国の45万8,000トン(シェア25.9%)で、ウクライナは6位(6万8,000トン、3.8%)、ロシアは8位(6万6,000トン、3.7%)だった(図1参照)。

図1:国・地域別の蜂蜜生産量のシェア(2020年)
中国25.9%、EU12.3%、トルコ5.9%、イラン4.5%、アルゼンチン4.2%、ウクライナ3.8%、米国3.8%、ロシア3.7%、インド3.5%、メキシコ3.1%、その他29.3%、全世界のハチミツ生産量は177万トン。

出所:欧州委員会「蜂蜜市場概況(2022年4月21日)」からジェトロ作成

日本はEU産蜂蜜の上顧客

2020年の世界全体の蜂蜜輸入額は14億5,540万1,000ユーロだった。国・地域別にみると、米国が3億8,642万4,000ユーロ(シェア26.6%)、EUが3億5,993万9,000ユーロ(24.7%)、これに日本が1億5,204万3,000ユーロ(10.4%)と続き、日本は3位の輸入大国だ。2021年のEU域内産の蜂蜜の域外輸出先は、英国向けが最多で4,534トン、これにスイス、サウジアラビア、米国と続き、5位の日本向けは2,132トンで、EU域外への輸出量全体の8.4%を占めた。1キログラム当たりの輸出単価でみると、EU域内からEU域外向けは平均5.76ユーロだが、国別にみると、日本向けは6.88ユーロで、アラブ首長国連邦(UAE)向けの8.10ユーロに次いで2番目に高い。日本はEUからグレードの高い蜂蜜を輸入していることがうかがえる(欧州委員会「蜂蜜市場概況(2022年4月21日)」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.2MB))。

ルーマニア養蜂業のポテンシャルは高い

2021年のルーマニアの巣箱数は235万3,000個と、EUの中でスペインの295万3,000個に次いで多かった(図2参照)。ルーマニアは巣箱数を年々増加させており、2008~2021年の伸び率が他国に比べて高い。EU補助金が養蜂業にも投入されて奏功している様子は後述する。一方、養蜂家数は少ない方で、2020~2022年の養蜂家数は2万3,161人だった(図3参照)。2021年の巣箱数をこの養蜂家数で除した養蜂家1人当たりの巣箱数は、多い方からギリシャ236個、スペイン103個、ルーマニア102個と続いた。

2018年のルーマニア国内の蜂蜜生産量は3万900トンで、EUの中ではスペインの2万9,400トンを抑えて首位だった(図4参照)。国内生産量に対するウクライナからの輸入量の割合は、ポーランドが55.7%、ドイツが32.2%、フランスが24.1%と高い国もあり、ロシアによるウクライナ侵攻がウクライナ産蜂蜜の店頭での値上げや欠品をもたらす場合、ルーマニアに対するEU域内からの需要が高まる可能性がある。

図2:EU加盟国のミツバチ巣箱数の推移
スペインは次のとおり。2008-2010年2,321,000個、2011-2013年2,459,000個、2014-2016年2,459,000個、2016年2,834,000個、2017年2,868,000個、2018年2,961,000個、2019年3,034,000個、2020年2,967,000個、2021年2,953,000個。ルーマニアは次のとおり。2008-2010年975,000個、2011-2013年1,280,000個、2014-2016年1,550,000個、2016年2,472,000個、2017年1,603,000個、2018年1,849,000個、2019年1,998,000個、2020年2,247,000個、2021年2,353,000個。ギリシャは次のとおり。2008-2010年1,468,000個、2011-2013年1,502,000個、2014-2016年1,584,000個、2016年1,248,000個、2017年1,264,000個、2018年1,361,000個、2019年1,454,000個、2020年1,631,000個、2021年2,183,000個。ポーランドは次のとおり。2008-2010年1,092,000個、2011-2013年1,123,000個、2014-2016年1,281,000個、2016年1,505,000個、2017年1,553,000個、2018年1,633,000個、2019年1,678,000個、2020年1,766,000個、2021年2,013,000個。フランスは次のとおり。2008-2010年1,361,000個、2011-2013年1,339,000個、2014-2016年1,636,000個、2016年1,322,000個、2017年1,360,000個、2018年1,454,000個、2019年1,584,000個、2020年1,751,000個、2021年1,808,000個。イタリアは次のとおり。2008-2010年1,157,000個、2011-2013年1,128,000個、2014-2016年1,317,000個、2016年1,356,000個、2017年1,396,000個、2018年1,494,000個、2019年1,606,000個、2020年1,687,000個、2021年1,717,000個。ハンガリーは次のとおり。2008-2010年900,000個、2011-2013年900,000個、2014-2016年1,089,000個、2016年1,184,000個、2017年1,239,000個、2018年1,237,000個、2019年1,236,000個、2020年1,163,000個、2021年1,207,000個。ドイツは次のとおり。2008-2010年751,000個、2011-2013年712,000個、2014-2016年711,000個、2016年807,000個、2017年859,000個、2018年879,000個、2019年916,000個、2020年951,000個、2021年982,000個。チェコは次のとおり。2008-2010年526,000個、2011-2013年498,000個、2014-2016年541,000個、2016年671,000個、2017年671,000個、2018年673,000個、2019年685,000個、2020年694,000個、2021年695,000個。オーストリアは次のとおり。2008-2010年311,000個、2011-2013年368,000個、2014-2016年376,000個、2016年354,000個、2017年329,000個、2018年373,000個、2019年391,000個、2020年426,000個、2021年456,000個。

出所:欧州委員会「蜂蜜市場概況2020年春」「蜂蜜市場概況2021年春」「蜂蜜市場概況(2022年4月21日)」「養蜂部門『国家養蜂プログラム2020~2022年』」からジェトロ作成

図3:EU加盟国の養蜂家数の推移
スペインは次のとおり。2008-2010年23,265人、2011-2013年23,816人、2014-2016年23,473人、2017-2019年23,816人、2020-2022年28,786人。ルーマニアは次のとおり。2008-2010年36,800人、2011-2013年40,000人、2014-2016年43,200人、2017-2019年22,930人、2020-2022年23,161人。ギリシャは次のとおり。2008-2010年19,814人、2011-2013年19,392人、2014-2016年21,031人、2017-2019年24,582人、2020-2022年9,266人。ポーランドは次のとおり。2008-2010年39,410人、2011-2013年44,999人、2014-2016年51,778人、2017-2019年62,575人、2020-2022年74,302人。フランスは次のとおり。2008-2010年69,600人、2011-2013年73,500人、2014-2016年75,000人、2017-2019年41,560人、2020-2022年53,953人。イタリアは次のとおり。2008-2010年70,000人、2011-2013年70,000人、2014-2016年50,000人、2017-2019年50,000人、2020-2022年56,059人。ハンガリーは次のとおり。2008-2010年16,000人、2011-2013年16,000人、2014-2016年20,410人、2017-2019年21,565人、2020-2022年22,447人。ドイツは次のとおり。2008-2010年103,600人、2011-2013年103,600人、2014-2016年98,297人、2017-2019年116,000人、2020-2022年129,048人。チェコは次のとおり。2008-2010年48,678人、2011-2013年46,033人、2014-2016年48,132人、2017-2019年49,486人、2020-2022年61,572人。オーストリアは次のとおり。2008-2010年23,000人、2011-2013年24,451人、2014-2016年25,099人、2017-2019年25,277人、2020-2022年29,745人。

出所:欧州委員会「養蜂部門『国家養蜂プログラム2020~2022年』」からジェトロ作成

図4:EU加盟国の蜂蜜生産量とウクライナからの輸入量(2018年)
ルーマニア30,900トン、スペイン29,400トン、ドイツ28,700トン、ハンガリー26,000トン、イタリア23,000トン、ポーランド22,300トン、フランス19,800トン、ギリシャ15,000トン、チェコ10,100トン、オーストリア5,000トン。2018年のウクライナからの輸入量(国別):ルーマニア509トン、スペイン1,426トン、ドイツ9,228トン、ハンガリー0トン、イタリア1,477トン、ポーランド12,426トン、フランス4,779トン、ギリシャN/A、チェコ576トン、オーストリア398トン。2018年の国内生産量に対するウクライナからの輸入量の割合(国別):ルーマニア1.6%、スペイン4.9%、ドイツ32.2%、ハンガリー0.0%、イタリア6.4%、ポーランド55.7%、フランス24.1%、ギリシャN/A、チェコ5.7%、オーストリア8.0%。

出所:欧州委員会「養蜂部門『国家養蜂プログラム2020~2022年』」「蜂蜜市場概況(2022年4月21日)」からジェトロ作成

ルーマニア国家統計局によると、ルーマニア産蜂蜜の日本向け輸出額は2019年143万9,130ユーロ、2020年182万7,500ユーロ、2021年157万ユーロだった。ルーマニア産の日本向け輸出単価は2020年が1キログラム当たり6.27ユーロ、2021年が同4.48ユーロで、日本が2020年に世界全体から輸入した蜂蜜の平均輸入単価(欧州委員会)3.08ユーロと比較すると、ルーマニア産ハチミツの単価は約2倍となった。

日本へ輸出するルーマニアのアピタバ社の活動

ジェトロは5月、ルーマニア中央部にまたがるカルパチア山脈の北西側、トランシルバニア地方のアルバ県ブラージ町で蜂蜜加工を営むアピダバ(Apidava)を取材した。同社のビクトル・マテシュ社長は1992年に同社を設立、2022年に30周年を迎えた。養蜂家だった父親から技術を学び、一代で従業員数約50人、年間出荷量約2,200トン、国内生産量の約7%を担う大手に育て上げた。うち約半分を、日本を含めた外国に輸出している。日本向けにはバルクでしか輸出していないが、自社ブランドを育てるべく、国内出荷の荷姿のまま日本にも輸出したいとして、日本の新たなバイヤーを探している。蜂蜜を原料にしたせっけんや化粧品も開発・販売している。


アピダバの商品。プラスチック容器は使い勝手が良いが、味が変わってしまうため、瓶詰が主流(ジェトロ撮影)

5月中旬はニセアカシアの開花時期で、蜂蜜の採集を行う。アカシア蜂蜜は3年経っても結晶化しにくく、透明度や上品な風味から、日本だけでなく世界で人気が高い。開花は夜間の最低気温が15度を下回らず、かつ2日に1回ほど小雨が降ることが条件だ。最近は気候変動の影響から、2018年を最後に不作が続いているとマテシュ社長は言う。

採蜜地点やミツバチの種類によって、味や品質は異なる。上質な蜂蜜だけを選別して輸出するには、まず大量の蜂蜜を養蜂家から集める必要がある。アピダバは養蜂家が納入した蜂蜜に含まれる花粉や栄養分、残留農薬を数十項目にわたって検査する。同社の輸出先の日本企業のバイヤーは、高価格でも高品質を求めているため、残留農薬量を日本が定めた基準の半分に抑えている。残留農薬の少ない蜂蜜は官能検査でも風味が良いからだ。


アピダバ本社の充填(じゅうてん)加工場(ジェトロ撮影)

ルーマニアの養蜂家は天然製法を重視、農薬を懸念

マテシュ社長によると、ルーマニアの養蜂家は天然の採集方法を重視している。ミツバチが巣に運んできた蜜はそのままでは糖度が低いため、時間が経過すると発酵してしまう。ミツバチは糖度を高めて発酵を防ぐために、巣箱の中で羽を使って蜜の水分を蒸発させ、巣穴を蜜ロウでふたをして、天然の蜂蜜をつくる。日本が世界から輸入する蜂蜜の中には、時間節約のためにこれを待たずに採取して加工場に納品し、人工的に糖度を上げて製造されたものもあるが、本来の風味や栄養が失われてしまうという。

ルーマニアは国土が広く森林が豊かで、欧州内でも農薬使用面積の少ない国の1つだ。ミツバチがいなければ受粉できず、結実しない野菜や果物は多い。農薬はミツバチを通して蜂蜜に混入するだけでなく、健全な農産物の生産量増加にも貢献しないというのが養蜂家の観念だ。一般的に東欧のハチミツがおいしいと言われる理由は、工場が少なく、豊かな自然環境が残っていることや、野生の草花が豊かなことだとマテシュ社長は言う。ミツバチの行動半径は巣から2~3キロのため、オーガニックの蜂蜜を採集するためには行動半径以内に工場や農場がないことが条件になる。


ニセアカシアの森の巣箱。棒の角度や巣箱の色が異なるのは、ミツバチが帰る巣箱を間違えないようにするため
(ジェトロ撮影)

EU補助金が養蜂業の振興に貢献

養蜂は伝統的に一定の人気のある職業で、1989年に民主化革命で打倒されたチャウシェスク政権も養蜂業を保護していたが、1990年以降は後継者不足から養蜂家の高齢化が進んだ。EU補助金「国家養蜂プログラム(National Apiculture Programmes)」は養蜂業の振興を目的に、技術支援、巣箱の寄生虫や病気、特にミツバチヘギイタダニ対策、巣箱増加、応用研究、市場モニタリングなどに充てられる。EUの補助金額は加盟各国が負担する支出の50%に相当する。2020~2022年の3年間のプログラムに投じたEU補助金は前の3年間(2017~2019年)より11.1%増加し、年間4,000万ユーロに上った。EU各国が2020年に投じた補助金はスペインが最多で563万5,000ユーロ、次いでルーマニアが524万9,000ユーロ、3位がポーランドで393万8,000ユーロだった(欧州委員会「養蜂部門」国家養蜂プログラム2020~2022年PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.3MB))。

EU補助金は奏功しており、補助金が導入されて以降、世代交代が進み、巣箱数と生産量が増え始めたとマテシュ社長は言う。若い人が起業する場合に補助金の支給限度額は高く、例えば、35歳で巣箱や採蜜の機械器具の購入資金として、4万ユーロの補助金を獲得できたケースがあったという。


アピダバ本社に併設された養蜂に必要な機械・器具・資材・薬品を売る店舗(ジェトロ撮影)

ミツバチの大敵は農薬のほか、羊だという。草原の草花を食べてしまうからだ。皮肉なことに、EU補助金は牧羊業の振興にも投入されており、すみ分けが課題だ。

中世から採蜜方法に大きな変化はないため、若い起業家はベテランとともに働きながら養蜂技術を習得する。初心者はまず巣箱5箱くらいから始める。養蜂を学ぶ職業学校はなく、養蜂を営む親戚や知人から教わる。ルーマニアの農村では今でも蜂蜜を店頭で購入する習慣がなく、たいていは近所の養蜂家から分けてもらうという。

ルーマニアではほぼ全国で採蜜できる。開花時期に合わせて養蜂家が春から夏にかけて南部から少しずつ北部に移動する。4月から菜の花、5月からニセアカシア、6月から菩提樹、夏いっぱいはヒマワリ、8月はドナウ川河口湿原のごく一部で採取できる希少なミントの蜂蜜など、9月末まで国内全域でバラエティー豊かな採蜜が続く。

執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
西澤 成世(にしざわ しげよ)
2003年、ジェトロ入構。海外投資課、輸出促進課、ジェトロ・広州事務所、麗水博覧会チーム、環境・エネルギー課、イノベーション促進課、ジェトロ福井、ジェトロ・ラゴス事務所などを経て、2021年3月から現職。