存在感高める日揮の極東アグリ事業、当年はイチゴに挑戦(ロシア)

2022年2月4日

ロシア極東で温室野菜を生産・販売するJGCエバーグリーン。運営主体はプラントエンジニアリング大手の日揮だ。2015年に生産を開始し、今では生鮮野菜の生産主体として現地で存在感が高まっている。2022年はイチゴ栽培に挑む。新井一則社長に話を聞いた(2021年12月21日に聴取)。


イチゴの試験栽培の様子、右が新井一則社長(JGCエバーグリーン提供)

「おいしくて、安全」をワンパッケージに

質問:
貴社の主力商品と主な販売先は。
答え:
ロシア極東のハバロフスク地方には、ソ連時代に温室栽培施設が開設されていた。その後、施設は閉鎖。JGCエバーグリーン(以下、エバーグリーン)の温室栽培施設が稼働するまでは、別地域で生産された農作物を運んでこなければならない状況だった。
エバーグリーンの温室栽培施設では、トマトやキュウリ、ハーブ類、リーフレタスをはじめとする葉物野菜を栽培している。トマトは、育てた経験のある従業員がいるために扱いやすかった。また、キュウリも比較的失敗なく育てることができた。そのため、今もトマトとキュウリが主力商品だ。ほかにもナス、パプリカなどを栽培している。これらは、形や色を一定に保つという点で難度が高い。テストを繰り返しながら栽培量を調整している。
2015年の販売開始から2022年2月で8年目になる。現地での知名度も高まってきた。野菜の品質を保持しつつパッケージングし、消費者に「品質保証」と「利便性」を訴求したことで、「エバーグリーンの袋詰めを買えば間違いない」と思ってもらえている。
販売先は、ハバロフスク市内の直営店での販売が40%、大手スーパーマーケットチェーンが40%、隣接する沿海地方の中小スーパーマーケットが20%。生産量のほぼ全てをハバロフスク地方に出荷している。モスクワなどの大都市では、郊外に温室栽培施設があるため競争が激しい。これに対して、ハバロフスク地方には競合するそういう施設が存在しない。他社はノボシビルスクや、サハリン、ウラジオストクからトマトを仕入れているが、緑色のうちに収穫して輸送中に追熟させている。ハバロフスク地方産の品を提供しているのは、エバーグリーンだけだ。そのため、鮮度の点では競合がほぼないといってもよい。

家庭需要増から一転、店舗入場制限で客足減

質問:
新型コロナウイルスによるビジネスへの影響は。
答え:
感染拡大が始まった2020年から2021年の夏にかけて、販売量が増加した。(ロックダウンで)レストランが閉鎖したことや、自宅で食事をする機会が増えたことで需要が高まった。
しかし、2021年の秋以降は販売量が落ち込んでいる。主な理由は、新型コロナ感染者の増加を受けて導入された店舗などへの入場制限措置(注)の影響だ。この措置で、直営店が入居する公設市場やショッピングセンターに入るためにQRコードが必要となってしまった。消費者が気軽に商品を店頭に買いに来ることができなくなったことになる。
この対策として、現在、オンライン注文や商品配送サービスの仕組みを検討している。なお、ハバロフスク地方にも既存の食品オンライン注文・配達サービスはある。ただし、利用手数料が高いため、活用を見送った。
質問:
世界的に物流の乱れが見られるが、影響は。
答え:
影響が大きいのは、オランダから仕入れている栽培資材だ。輸送コストが上がり、納期もこれまで1カ月程度だったものが4カ月かかるようになった。
また、ロシア極東地域には、野菜梱包用フィルムや段ボール資材などを製造する工場がない。そのため、モスクワから仕入れている。こちらも輸送に遅れが出ている。

品種登録に3年、「まともなイチゴをロシアで」の情熱

質問:
次の栽培にイチゴを選んだのはなぜか。
答え:
ロシア極東地域では、夏に森やダーチャ(郊外の別宅)で野イチゴやベリー類が採れる。しかし、店頭に並ぶイチゴは味が非常に薄く、おいしいとは言い難い。まともなイチゴがないのが実情だ。
日本のイチゴのおいしさを知ってもらいたいとの思いがあり、温室栽培施設の開設当初からイチゴ栽培の構想を持っていた。現在行われている第3期拡張工事が完了すれば、栽培規模は合計10ヘクタールとなる。その一部でイチゴの生産を開始する。
質問:
日本の品種「よつぼしイチゴ」を採用したが、狙いは。苦労はあったか。
答え:
イチゴ栽培を検討し始めた当初、イチゴの苗木を日本から持ってくることは、植物検疫で非常に困難なことが判明した。まず輸出に当たって、苗木についている土を除去する手間がかかる。苗木から土を除去すると、通関で長く留め置かれているうちに枯れてしまう可能性があった。また、イチゴの親苗から小苗へと苗を増やしていくに従って品質が低下していく懸念もあった。
そのため、(苗ではなく)種から育てることができる「よつぼしイチゴ」を選んだ。よつぼしイチゴは日本で種子繁殖型の品種として商業化された初の品種だ。
実際に、ロシアでよつぼしイチゴを栽培するに当たっては、ロシアでの品種登録や育成権者の登録が必要だった。これらは2018年から取り組み始め、登録できるまでに3年を費やした。
2022年6月に栽培開始の予定で、12月のクリスマス商戦に向けた初出荷を目指す。まずはハバロフスク地方の人々がどのような反応を示すのか、どれほど食べてもらえるのかを見ながら生産量を調整する。初シーズンの目標生産量は4~5トン程度を想定している。

「無反応は黙認」、ロシア人従業員への意思疎通には注意

質問:
ロシア人従業員が圧倒的に多い中で、マネジメントで工夫していることは。
答え:
現在、約150人の従業員がいる。日本人は自分(新井社長)1人だけだ。ロシア人従業員の中で、日本語が話せるのは1人しかいない。英語話者も1人だけだ。
社長という立場で意識していることは、従業員の行為に対して明確な態度を取ること。例えば、会社にとって許されない行為には、日本語でよいので「こういった行為は許されない」と相手に伝えて認識してもらう。(こちらが)無反応でいることは黙認しているといった誤った認識を与える。
自分は日本語と英語を主に使い、ロシア語の細かなニュアンスは理解できない。だとしても、会社が従業員を評価するポイントは明確に伝えている。エバーグリーンの場合、(1)「仕事への取り組み姿勢を評価する」という公平性、(2)「個人プレーではなくチームで成果を出す」というチームプレー、を評価基準としている。前者は、同じ仕事内容でも真面目に仕事に取り組む従業員をきちんと評価するということ。また後者は、競争原理を持ち込んで個人に成果を求めるのではなく、チーム単位で評価する仕組みを通じて「チームで勝つ」ことを重視することだ。ロシア企業ではなおざりにされるこれらのポイントも、運営主体が日本企業だからと従業員も納得している。
価値観は従業員一人ひとりで異なる。そのため、社風が合えば人は残ってくれるし、合わなければ去っていく。当社では、会社に長く勤め、知見を重ね、真面目に働いてくれる人が残ってもらいやすいといえそうだ。こうしてみると、結果的に年功序列の仕組みといえる。

注:
新型コロナウイルス対策として、ハバロフスク地方では2021年11月13日以降、1,000平方メートルを超える大型店舗やショッピングセンターへ入場する際、ワクチン接種済みを示すQRコード、接種証明書、新型コロナウイルスの回復証明書、入場時から72時間以内に取得したPCR検査の陰性結果のいずれかの提示が必要になった。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
菱川 奈津子(ひしかわ なつこ)
2011年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、農林水産・食品部農林水産・食品事業推進課(商談会班)、農林水産・食品部農林水産・食品課(調査チーム)を経て2021年6月から現職。

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