イノベーション牽引するアフリカのスタートアップとの連携・協業のヒント
J-Bridgeのアフリカローンチセミナー開催

2022年10月4日

経済産業省とジェトロは8月4日、日本企業と海外スタートアップ企業などによる協業・連携を支援するビジネスプラットフォーム「ジャパン・イノベーション・ブリッジ(J-Bridge)」のアフリカでの立ち上げを記念して、オンラインセミナー「イノベーションが拓くアフリカの未来―協業でつかむビジネス機会―」を開催した(アーカイブ動画参照)。ジェトロは第8回アフリカ開発会議(TICAD8)の開催年という機会を捉え、2022年4月からJ-Bridgeのサービス展開地域をアフリカに拡大した。セミナーには、国内外から405人が参加。アフリカのスタートアップエコシステムの有識者による対談や、日本企業とアフリカ企業の先駆的な協業事例などについて紹介した。

日アフリカの政府がアフリカのスタートアップと日本企業との連携・協業を奨励

セミナー冒頭、細田健一経済産業副大臣が主催者あいさつを述べ、近年アフリカでは革新的なビジネスモデルで新市場を創出するスタートアップが勃興しており、デジタル技術を用いて社会のインフラ不足を解決するビジネスが次々と誕生していると指摘した。また、既にアフリカのデジタル革命を牽引するビジネスを手掛けるスタートアップと日本企業との協業も進んでおり、世界中の投資家もアフリカに着目しているとした。民間調査によると、アフリカに対するスタートアップ投資額は過去5年で14倍に増加し、2021年は50億ドルを突破したとされる。2022年はTICAD8開催年でもあり、アフリカ市場へのモメンタムが一層高まっている中、細田副大臣は「多くの日本企業にJ-Bridgeを活用してもらい、パートナーとなるアフリカ企業が社会課題を解決し、今後のアフリカの成長を牽引する新たなビジネスモデルを生み出すことを期待する。日・アフリカ企業間の協業による商機獲得の可能性を感じてもらいたい」と述べた。


細田経済産業副大臣のあいさつ(ジェトロ撮影)

続いて、ナイジェリアのオトゥンバ・アデバヨ産業貿易投資相が、アフリカではフィンテックや医療、環境、農業などさまざまな分野で注目すべきイノベ―ションが生まれており、人々の生活を向上させていると述べた。また、ナイジェリア政府は電子工学、自動化、情報通信など革新的な分野のスタートアップを支援していると強調した。既にアフリカ開発銀行などの開発パートナーと協力し、ナイジェリアとアフリカ全体の科学技術とイノベーションの推進に努めていることも紹介した。


アデバヨ産業貿易投資相のあいさつ(ジェトロ撮影)

チュニジアやケニア、ナイジェリアの政府系投資・スタートアップ支援機関幹部からはメッセージが寄せられ、日アフリカの協業・連携の意義とJ-Bridgeへの期待が強調された。

投資に加え、日本企業のオペレーション経験の共有にも期待

有識者による対談では、「飛躍するアフリカのスタートアップとイノベーション・エコシステム」をテーマに、ナイジェリアの最有力インキュベーションセンターのCo-Creation Hub(CcHub)創設者・最高経営責任者(CEO)のボスン・ティジャニ氏と、ケップルアフリカベンチャーズのジェネラルパートナーの山脇遼介氏が登壇した。

ボスン氏によると、アフリカでは他の新興国と同様、経済で競争力を持つためにデジタルソリューションが重要な役割を担っており、人口の大部分を占める40歳以下の若者がテクノロジーとノウハウを有し、社会課題解決に取り組んでいるという。アフリカでシリーズA・Bを調達したスタートアップの多くは、デジタル技術を活用して、人々のニーズに即座に応えていると分析。また、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の運用が開始され、アフリカは世界最大級の共通市場へと拡大が見込まれる中、多くのスタートアップはアフリカの複数カ国で事業を展開しているという。ボスン氏は、スタートアップのエコシステムを成長させるには、世界中のパートナーが必要とし、日本企業には投資だけではなく、長年かけて培われたオペレーションの経験の共有にも期待すると呼びかけた。


有識者による対談(ジェトロ撮影)

アフリカで複数の日本企業がスタートアップに出資

パネルディスカッションでは、「協業によるシナジー創出―日本企業が語るアフリカ企業とのパートナーシップ事例―」をテーマに、モビリティ54、三井物産、武蔵精密工業、キラメックス(ユナイテッド)の4社が登壇した。4社の概要は表1のとおり。

表1:パネルディスカッション登壇企業概要
日本企業 登壇者 パートナー
企業
企業概要
モビリティ54 ダイレクター・東アフリカ拠点長
佐藤大樹氏
One Port365(ナイジェリア) モビリティに特化したベンチャーキャピタル。豊田通商から7割、CFAOから3割の出資を受ける。One Port365は、国際物流の領域で物流の効率化をはかるナイジェリアの企業。複数の船会社や通関業者、国内輸送業者を一気通貫で実現するプラットフォーム。
三井物産 ナイロビ支店長
高光明博氏
KOMAZA(ケニア) KOMAZAは、休耕地を活用することで初期投資コストを圧縮しつつ、副収入による土地所有者の所得向上を可能とする。植林事業を通してアフリカの社会、カーボンニュートラルにも貢献。
武蔵精密工業 e-PT開発部・e-PT戦略グループ グループマネージャー
桜井将敏氏
ARC Ride(ケニア) 自動車部品の製造販売をグローバルに事業展開。「Go For Beyond」のスローガンの下、新事業の創出にも取り組む。二輪車のEVユニットを開発し、モビリティスタートアップと提携。
ARC Rideは、電気自動車の二輪車と三輪車の設計、製造、組立に加えて、独自のバッテリー交換・管理プラットフォームを提供。
キラメックス/ユナイテッド キラメックス代表取締役社長兼ユナイテッド取締役
樋口隆広氏
Decagon(ナイジェリア) ユナイテッドは、デジタルトランスフォーメーション(DX)プラットフォームをコアとして展開。キラメックスは同社の子会社で、IT人材育成事業など提供。国内では3万人にサービス提供(最大のプログラミングスクール)。近年はその後の就労先の提供についても注力。ナイジェリアDecagonはIT人材育成に取り組む企業。

出所:ウェビナー案内状、講演内容、ウェブサイトなどを基にジェトロ作成

パネルセッションではまず、協業パートナーになるためのポイントや、期待したいシナジー効果について議論した。三井物産の高光氏は、出資の決め手となったのはファウンダー(創業者)の能力の高さや、アフリカ特有の地に足のついたオペレーションまで考慮されたソリューションがあった点が大きいとした。モビリティ54の佐藤氏は、アフリカはGDPの1割を物流が占めると指摘し、「ナイジェリア国内物流ではSendyなどに投資しているので、国際物流を担える企業を探していた。One Port365の創業者がラゴス港で通関業務経験があり、現地を熟知していたことも大きい」と述べた。武蔵精密工業の桜井氏は、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のパートナーから紹介でARC Rideを知ったという。電気自動車(EV)ユニットの提供と、人工知能(AI)技術を活用したワンストップサービスを検討しており、出資の決め手は出資先が充電インフラのノウハウを有していたためと説明した。同氏は「同社から得られるデータと、弊社から得られるデータを活用してソフト面での充実を目指したい」と期待を述べた。キラメックスの樋口氏は、Decagonの教育プログラムを受けた人材が既に英国で活躍している実績があったことが出資の決め手となったと述べた。

次に、出資先から日本企業に対して期待される点などについて、モビリティ54の佐藤氏は「支援できるものはフェーズによって異なる。アーリーステージであれば、プロダクトマーケットフィットを支援できる。もう少し大きいステージになれば、顧客獲得支援やプロダクト強化できる。ハイブリッド車の提供やアフターサービス、アセットファイナンスなどの連携を支援する。さらに大きくなれば、他国展開の支援・連携もできる」と説明した。三井物産の高光氏は「植林から製材までを手がけるKOMAZAの例であれば、欧州・中東への展開に対して弊社の顧客基盤を活用できる。他国展開する場合は、例えば、アジアでのノウハウを活用することも可能だ。物流面でも支援できる」と述べた。

アフリカ人材のポテンシャルについて、キラメックスの樋口氏は「これまでの人材育成の成果もあり、高付加価値な人材が生まれている点にポテンシャルを感じている。チームメンバーも非常に多様な人物が集まっており、日本企業が学ぶ点も多い」と指摘した。


パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

セミナー後半では、アフリカの有望スタートアップ企業5社が自社技術や日本企業との協業への期待についてピッチを行った。5社の概要は表2のとおり。

表2:アフリカの有望スタートアップ企業概要
企業名 分野 ビジネス概要 日本企業との連携可能性
Rology外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます エジプト ヘルスケア アフリカでの放射線科医師の不足を解決するため、病院や画像センターと放射線科医師をオンラインで結ぶ遠隔放射線診断のプラットフォームを提供。 現在資金調達を行っている(2020年8月4日時点)。画像診断の技術での提携や日本の医療機関との遠隔サービス連携にも可能性あり。
Amitruck外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ケニア ロジスティクス アフリカでは物流業界の不透明さや煩雑さが課題になっている。同社は、荷主と運送業者を結びつけるモバイルおよびウェブベースのトラック輸送物流プラットフォームを運営。 アフリカのロジスティクスやモビリティの面での協業や、自動車保険やリースなどの金融面での連携にも可能性あり。
InstaDeep外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます チュニジア AI 企業向けに、AIによる自己学習型の意思決定プラットフォームを提供。機械学習、予測分析などのAIプログラムを提供し、さまざまな産業分野で活用されている。 同社のAIプログラムは外国市場で高い評価を受けており、ドイツ鉄道へのAIシステム導入や、バイオンテックとの研究協力契約を締結している。日本企業とも共同研究や技術連携・委託といった観点での協業が見込まれる。
Autochek外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ナイジェリア モビリティ アフリカの自動車市場の大半は中古車の市場となっているが、同社は複数のディーラーと顧客がオンライン上で車両の販売・購入ができる自動車マーケットプレイスを提供している。 中古車査定やメンテナンス面での事業・技術連携、金融面で日本企業との連携可能性あり。
Cellulant外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ケニア フィンテック モバイルマネーやクレジットカード、銀行など、あらゆる支払い方法を可能とするシングルAPIの多機能決済プラットフォームを提供。 現在(8月4日時点)シリーズDを調達している。2018年にシリーズCで約50億円をアメリカのファンドから調達し、アフリカ大陸全土に事業を展開している。

出所:ウェビナー案内状、講演内容、ウェブサイトなどを基にジェトロ作成

セミナーを通して、スタートアップの活躍によりアフリカのビジネスシーンが展開期を迎えており、新たなビジネスチャンスをつかむためには企業間の協業が有効な手段だと複数の登壇者が指摘した。また、アフリカ企業とパートナーシップを組むことで、日本企業にとっては、アフリカの市場に適応し、現地の課題解決を図ることができる。アフリカ企業にとっては、日本企業の資金・技術・製造能力の獲得につながり、日本企業が強みを持つアジアなどに進出する際にも強力なパートナーになると見込まれる。

ジェトロは、日本企業と海外スタートアップ企業などとのオープンイノベーションを支援している。アフリカでも今回立ち上げた「J-Bridge」では、会員登録をした日本企業に海外有望企業情報の提供や面談アレンジ、専門家を通じた戦略策定・ビジネス開発支援などを提供している(J-Bridgeの詳細と会員登録は公式ページ参照)。

執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部、ビジネス展開・人材支援部、海外調査部を経て現職。