大阪ガスとJOINが出資通じて、インド都市ガス事業に参画

2022年3月30日

大阪ガスと海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)は2021年12月20日、出資を通じてインド都市ガス事業への参画を表明した。東南アジアやインドを中心に液化天然ガス(LNG)事業拡大を進めているAGPインターナショナルホールディングス(AGP IH)の子会社AG&P CGD HoldCo SPV3(Singapore、AG&P SPV3)に、大阪ガスが最大6,500万ドル、JOINが5,500万ドルを段階的に出資する(注1)。AG&P SPV3の子会社AG&P LNG CGD HoldCo(AG&P)が、インド12地域の都市ガス独占事業権を獲得しており、大阪ガスはインド都市ガス事業の技術・営業面で支援人員を派遣する予定だ。

同事業の南インドを中心とした事業展開について、大阪ガスの資源・海外事業部アジア開発部の赤曽部厚則・インド開発準備室長に話を聞いた(2022年1月17日、2月15日)。

LNGローリーとLNGサテライトによる都市ガス供給について

質問:
どのようなかたちでAG&Pは都市ガスを供給するのか。
答え:
従来のインド都市ガス事業では、インド国営企業が敷設する高圧導管を通じて各都市ガス会社の独占供給区域に国産天然ガスを供給し、都市ガス会社は各区域内に中圧導管を敷設して、家庭用、工業用、商業用のパイプラインガス、自動車などの交通用CNG(圧縮天然ガス)の供給を行ってきた。
一方、AG&Pの供給区域は、国営企業の高圧導管が未整備のインド南部が中心であることから、AG&PはLNGローリー(注2)でLNGを調達、自社の供給区域内に設置するLNGサテライト(注3)でLNGを貯蔵・気化し、パイプラインガスとCNGを供給する新たな方式を活用して早期普及を目指していく。

稼働中のLNGサテライト(カルナータカ州マイソール、大阪ガス提供)
LNG調達に関して、AG&Pは当面、国営企業のLNG輸入受け入れ基地からの調達を予定しているが、将来的にプドゥチェリー連邦直轄領カライカルに自社のLNG基地(注4)を整備して調達することを検討している。
図:AG&Pによるガス供給の流れ(大阪ガス提供)
従来のガス供給方式では、高圧ガスパイプラインを通じて国産天然ガスが供給され、ガスバナステーションを経由して家庭用、工業用、商業用のパイプラインガス、および自動車等交通用のCNGが供給されていた。  一方、AG&PのLNGローリー活用によるガス供給方式では、LNG基地からLNGローリーでLNGを調達し、自社の供給区域内に設置するLNGサテライトでLNGを貯蔵・気化し、パイプラインガスとCNGを供給する。
質問:
チェンナイ近郊の日系企業への商・工業用の都市ガス供給の予定は。
答え:
カーンチプラム県とチェンガルパットゥ県にLNGサテライトを設置し、供給したいと考えている。規制当局に確認を取りながら整備する予定だが、2022年後半に以下の工業団地への供給開始を予定している(注5)。
  • イルンガトゥコッタイ(IRUNGATTUKOTTAI)
  • ピライパッカム(PILLAIPAKKAM)
  • スリペルンブドゥール(SRIPERUMBUDUR)
  • オラガダム(ORAGADAM)
  • マヒンドラ・ワールドシティー(MAHINDRA WORLD CITY)
  • ヴァラム・バダガル(VALLAM VADAGAL)
  • スリカイラッシュ ロジシティー(SHRI KAILASH LOGI CITY)
また、2024年中に以下の工業団地への供給開始を予定している。
  • 双日マザーサン(SOJITZ MOTHERSON)
  • ワンハブ・チェンナイ(OneHub Chennai)
原則として、各企業と個別契約を締結し、ガス供給を行う予定だが、日系企業に対しては日本や他の地域における取引内容を踏まえ、弊社駐在員がAG&Pと共同でサービス内容を提案することも検討している。
質問:
この事業による環境問題への貢献は。
答え:
交通、商・工業用CNGの供給により、想定事業期間(2021年~2044年)で2,900万トンの二酸化炭素(CO2)削減を見込んでいる。また、弊社グループとしては、インドで再生可能エネルギーなどの新規事業開拓にも取り組んでいきたい。

AG&Pのインド事業への出資について

質問:
AG&Pグループとの協業の端緒と今回のインド事業出資のメリットは。
答え:
成長期待が大きいアジア地域でのエネルギーインフラへの投資を目指していたが、国際入札への参加や意思決定、海外当局との手続きなどで苦慮していた。また、新興国では日本で導入されていない洋上LNG基地が主流になっており、陸上LNG基地に経験や知見を多く持つ弊社にとって、洋上LNG基地のノウハウを持つ海外事業者との協業が不可欠だった。
そのような中、弊社はAG&Pグループをインフラ開発の基盤として、2019年にAGP IHへ出資し、戦略的協業契約を締結した。AG&Pグループは洋上LNG基地のFSU方式(注6)やFSRU方式(注7)に技術的な知見や経験を持っており、AG&Pグループ自身がインフラプロジェクトを主導的に開発する能力も兼ね備えている。今回、AG&Pがインドの5つの州の12の供給区域で都市ガスの事業権を獲得したのを機に、この事業に対しても出資・参画することとした。
経済成長が著しく天然ガスの普及が推進されるインドでの独占事業は、安定的に高い収益の獲得が期待できる。加えて、弊社がこれまで蓄積したガス事業のノウハウを活用して事業の価値を高められると考えた。
そのため、2022年度前半にはAG&Pが行うインド事業に人員を派遣し、日本で培った安全対策やガスの高度利用などを提案し、ニーズに応えていきたい。現在は、出張やオンラインでの会議を通じてAG&Pのニーズや現状を把握し、弊社としてどのようなかたちで貢献できるか検討している。

インドでの都市ガス供給の展望

インド政府は2021年11月、温室効果ガス(GHG)純排出ゼロを2070年までに達成すると表明している(2021年11月5日付ビジネス短信参照)。エネルギー消費に関しては2021年3月、都市ガス供給の拡大などにより、石炭や石油よりもGHG排出量が少ない天然ガスの割合を現在の6%から、2030年には15%に引き上げる目標を掲げている。

インドでは、都市ガス供給が一部地域に限定されているため、都市部の多くでは液化石油ガス(LPG)シリンダー、農村部の多くでは古典的なまきなどで家庭は調理している。インド政府は、入札によって特定地域の独占事業権を与えることで、落札企業にインセンティブを与え、都市ガス供給地域の拡大に努めている。現時点で落札された全ての地域でその供給が開始されれば、インド人口の70%以上に都市ガスが供給される予定だ。


注1:
大阪ガスは子会社の大阪ガスシンガポール(Osaka Gas Singapore)を通じて出資する。
注2:
LNG受け入れ基地からLNGサテライトまでのガス輸送を行うローリー(トラック)。
注3:
LNGを気化・CNG化する内陸の基地。パイプライン網の整備が完了するまでの一時的な施設となる場合もある。
注4:
LNGを貯蔵・気化する施設で、船でガスを輸入するため港に設置される。LNGの状態で払い出す機能を有する場合もある。
注5:
AG&Pによる見込みのため、供給開始が遅れる可能性がある。また、チェンナイ市とティバルール県は他社による供給が予定されている。チェンナイ近郊の工業団地マップはインドの工業団地情報PDFファイル(2.50MB)(2022年6月14日更新)から確認可能。
注6:
Floating Storage Unit(浮体式貯蔵設備)の略。陸上にLNG基地を作らず、貯蔵専用船を洋上に係留する方式。
注7:
Floating Storage and Regasification Unit(浮体式貯蔵と再ガス化設備)の略。FSUの設備に再ガス化設備を加えた専用船を洋上に係留する方式。
執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所
浜崎 翔太(はまさき しょうた)
2014年、財務省 関東財務局入局。金融(監督、監査)、広報、および財産管理処分に関する業務に幅広く従事した。ジェトロに出向し、2020年11月から現職。