レストラン産業にスタートアップの支え(バングラデシュ)
フードテック「オンノ」CEOに聞く

2022年1月21日

アジア地域のスタートアップが社会課題解決型ビジネスプランを競う「アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」。2021年大会は、2021年10月に開催された(2021年11月4日付ビジネス短信参照)。開催にあたっては、ジェトロなど5団体・企業が共催した。

このAEAに、バングラデシュからオンノ(Onnow Limited外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、旧社名:ゴースト・キッチン・バングラデシュ)が出場を果たした。これはセミファイナリストに選出されたことを意味し、同国企業として初だ。同社は2021年、バングラデシュICT (情報通信技術)省傘下のバングラデシュコンピュータ評議会(BCC)主催のスタートアップコンテスト「BIG(ボンゴボンドゥ・イノベーティブ・グラント)2021 」で、57カ国・計7,000社以上の参加企業の中からベスト26に選出されていた。さらに、国連開発計画(UNDP)などが主催し、SDGs達成に寄与するスタートアップを表彰するコンテスト「インパクト・コレクティブ(Impact Collective)」でもベスト10に選出された。このように、国内外から評価・注目が集まっている。

オンノ創業者の1人のソヨド・タハミド・ザマン・ラシク最高経営責任者(CEO)に、同社の取り組みについて聞いた(2021年12月21日)。


「BIG 2021」授賞式の様子(オンノ社提供)

レストラン産業は経営環境が厳しい一方、改善余地も大


オンノのタハミド最高経営責任者(同氏提供)
質問:
貴社のビジョンと強みは。
答え:
「デジタル化、サステナブル、安心安全なレストラン産業の創出」をビジョンに掲げ、2020年6月にゴースト・キッチン・バングラデシュとして創業した(2021年11月に現社名に変更)。自社開発のレストラン向けオンラインプラットフォームを通じ、中小規模レストラン向けのPR・ブランディング、商品のクオリティー向上、経営の効率化などを支援している。当社の強みは、自社開発のプラットフォームや、少数精鋭のメンバーによる徹底したコスト管理、広範囲にわたるビジネス経験に基づくサポート、当地のレストランやフードデリバリー産業に係る知見の深さにあると考えている。現在、バングラデシュとシンガポールに拠点を有する。
質問:
レストラン産業の課題と貴社の取り組みは。
答え:
現在、バングラデシュには約100万店舗に及ぶ中小規模の飲食店がある。そこで約4,200万人(全人口の約25%)が従事しているものの、課題山積だ。具体的には、(1)不衛生かつ非効率的な調理オペレーション、(2)スキルの低いスタッフ、(3)人件費・賃料・原材料など運営コストの上昇、(4)激しい競争環境下で商品プロモーション・ブランディング予算の欠如、(5)ITテクノロジーの活用不足、(6)大手フードデリバリーに加盟する際の高い手数料、(7)年間9,500万ドルに上るといわれる食品ロス、などが挙げられる。また、当社の推計では、約1億4,000万人が衛生的とは言い難い飲食店で調理された料理を日々食べている。
当社はこうしたレストラン産業で、(1)雇用・所得の向上や(2)衛生環境の改善、(3)飲食店のコスト削減・適切なブランディング、(4)ITテクノロジーの導入、(5)それらを通じたサステナブルなこの産業の発展、などを事業目的にしている。独自のガイドラインに基づいて支援先(飲食店)を選定し、自社開発のオンラインプラットフォームを活用したメニュー開発支援・ブランディングや、効率的な食材調達の支援、キッチンの衛生管理、オペレーションに係る指導、フードデリバリー事業者(フードパンダ、ハングリーナキーなど)との連携支援、D2C(注1)のオンラインオーダー受注システムの開発、などを行っている。
また、ピザやハンバーガー、ラップサンドといったファストフード類で自社のバーチャルブランド(注2)を有している。当該ブランドの運営にあたっては、支援企業先にレシピや必要な食材を提供し、調理を委託している。原材料の提供に当たり、価格の15~20%程度は当社の利益分。また、支援先が商品を消費者に販売する際には30~35%の利益が生じるよう価格設定している。さらに、中央銀行傘下のノンバンク系金融機関(FIs)と連携し、飲食店向けの融資をコーディネートする事業にも取り組んでいる。 なお現在、当社は22人で62の飲食店を支援している。2022年には、50人程度まで増員を予定している。

IoT活用などで品質・収益改善

質問:
支援先レストランにとってのメリットは。
答え:
大きな投資コストをかけることなく、IoT(モノのインターネット)を活用した温度管理システムなどの当社サービスを導入できる。また、われわれの設定した標準作業手順(SOP)や、品質管理(QC)に基づくトレーニングなどを受けられる。それらを通じて、メニューの品質や安全性を向上させつつ、生産の効率化と収益改善が可能になる。こうした取り組みがバングラデシュのレストラン産業全体の食品安全と衛生環境の改善や、食品ロスの削減、雇用の維持にもつながると考えている。
食品安全に関しては、当地のエドテック系スタートアップのインタラクティブケアーズ(Interactive Cares)社とともに、支援先がオンラインで利用できる「食品安全・衛生管理」講座の開発を進めている。
質問:
現状の市場規模と将来性は。
答え:
バングラデシュで、レストラン産業の市場規模は約5億3,000万ドルほどだ。またオンラインフードデリバリーも、約8,400万ドル程度ある。このいずれも安定した経済成長に伴う内需拡大によって今後の拡大が期待できる。また、当地レストラン産業の食材調達から、デリバリーを含む販売までの一連のサプライチェーンには、3億5,000万ドル程度のビジネスチャンスがあるとみている。

南アジアを中心に国外展開も視野に

質問:
貴社の事業規模と今後の計画は。
答え:
2020年通年の売り上げは約10万ドルだった。2021年は20万ドル、2023年に590万ドル、2024年には1,190万ドルの売り上げ達成を目標にしている。また、国内外から投資を積極的に受け入れ、現在、12万5,000ドルの資本金を 2022年内に25万ドル、23年内には100万ドルまで増資する計画だ。
投資については、当社が保有するテストキッチン設備の拡張などを予定している。当社は2024年12月をめどに、オンラインフードデリバリー市場で当社のバーチャルブランドと支援先の売り上げシェアを市場全体の14%(2021年時点は1%以下)程度まで拡大することを目指している。一方、(1)バングラデシュの消費者は、フードデリバリーよりレストランの店舗利用を好む傾向が見られることや、(2)大手フランチャイズチェーン(KFC、 バーガーキング、 ピザハットなど)が当地で事業を拡大しつつあること、(3)当社と類似のビジネスモデルを計画しているフードデリバリー事業者が見られること、などが当社にとっての課題と考えている。
さらに将来的には、インドのコルカタでの拠点設立・事業展開を皮切りに、パキスタンやネパールといった南アジア各国でも、同様のビジネスモデルを展開したい。日本を含む海外の投資家との連携にも引き続き積極的に取り組んでいきたい。

バングラデシュでも、新型コロナウイルス感染拡大から、飲食店営業への影響は大きい。そうした中、国民生活を支える同産業の継続・改善に貢献している同社の取り組みへのニーズは一層高まる可能性があるだろう。


注1:
「Direct to Consumer」の略。レストランがフードデリバリーのプラットフォームを介さずに消費者から注文を直接受け、商品を提供することを指している。
注2:
実店舗を持たず、注文に基づき配達で対応する営業形態。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。