中国車が市場シェア拡大(ロシア)
欧日韓と明暗鮮明     

2022年8月17日

ウクライナ侵攻を機に、ロシアの自動車産業を取り巻く環境が厳しさを増している。欧米や日本、韓国の企業は、ロシア国内での生産やロシアへの輸出を停止した。

しかしその中でも、中国メーカーは、ロシアでの生産、市場への車両供給を継続。販売シェアを伸ばすだけでなく、カーシェアリングなどの新分野でも存在感を発揮し始めている。

中国車販売台数が前年比倍増

ロシアの自動車市場調査会社アフトスタトによると、同国で2021年の中国ブランド車の新車販売台数は11万5,700台だった。2020年に比べて倍増。新車販売台数全体に占める中国車の割合も、前年の3.6%から6.9%に拡大した。ブランド別にみると、最も売れたのが長城汽車のスポーツ用多目的車(SUV)ブランドのハバルで3万7,772台(前年比2.2倍)。2位がチェリー(奇瑞汽車)の3万7,118台(同3.2倍)、3位が2万4,587台(同58.9%増)を販売したジーリー(吉利汽車)だった(表参照)。

表:2021年のブランド別新車乗用車の販売台数(太字は中国車ブランド)(単位:台、%) (△はマイナス値、-は値なし)
順位 ブランド 2020年 2021年 前年比
伸び率
1 ラダ 329,936 338,018 2.4
2 起亜 201,727 205,801 2.0
3 現代 162,168 165,535 2.1
4 ルノー 127,903 130,778 2.2
5 トヨタ 91,296 97,515 6.8
6 シュコダ 94,632 90,443 △ 4.4
7 フォルクスワーゲン 101,950 86,365 △ 15.3
8 日産 56,352 51,338 △ 8.9
9 BMW 42,721 46,802 9.6
10 メルセデスベンツ 37,105 41,208 11.1
11 ハバル(長城汽車のSUVブランド) 17,268 37,772 118.7
12 チェリー(奇瑞汽車) 11,452 37,118 224.1
13 マツダ 26,392 29,177 10.6
14 三菱 28,153 27,699 △ 1.6
15 ジーリー(吉利汽車) 15,475 24,587 58.9
16 レクサス 20,586 19,362 △ 5.9
17 ワズ 20,714 16,714 △ 19.3
18 アウディ 15,247 16,404 7.6
19 スズキ 7,961 9,159 15.0
20 ボルボ 8,025 9,088 13.2
21 ランドローバー 6,411 6,388 △ 0.4
22 ポルシェ 5,711 6,262 9.6
23 チャンガン(長安汽車) 7,102 5,705 △ 19.7
24 スバル 6,240 5,650 △ 9.5
25 ジェネシス 1,286 4,480 248.4
26 Exeed(奇瑞汽車のハイエンドブランド) 226 3,756 1561.9
27 FAW(第一汽車) 2,692 3,137 16.5
28 ミニ 2,540 2,613 2.9
29 キャデラック 1,424 2,377 66.9
30 インフィニティ 1,892 2,034 7.5
31 プジョー 912 1,930 111.6
32 ジープ 1,549 1,610 3.9
33 シトロエン 914 1,413 54.6
34 グレートウォール 113 1,354 1098.2
35 ホンダ 1,508 1,324 △ 12.2
36 シボレー 9,380 1,046 △ 88.8
37 GAC 0 923
38 オペル 117 688 488.0
39 リーファン 1,384 617 △ 55.4
40 DFM 942 533 △ 43.4
41 ジャガー 963 521 △ 45.9
42 いすゞ 498 299 △ 40.0
43 フィアット 266 136 △ 48.9
44 ブリリアンス 253 110 △ 56.5
45 ZOTYE 158 51 △ 67.7
46 フォトン 134 37 △ 72.4
47 クライスラー 36 2 △ 94.4
48 ダットサン 14,772 0 △ 100.0
49 その他 71 1 △ 98.6
合計 1,486,557 1,535,880

出所:アフトスタトのデータを基にジェトロ作成

ロシアによるウクライナ侵攻後、欧米や日本、韓国のメーカーは、ロシアへの完成車の出荷停止や生産を中止。その結果として、販売数を大きく減らしている。

そうした中で、中国の勢いがさらに増した面もある。

2022年6月のロシアでの中国ブランド車の新車販売台数は6,875台。月別にみたロシア全体に占める中国車のシェアは、過去最高の21%を記録した。アフトスタトのアザト・チメルハノフ広報部長は「中国の自動車メーカーはロシア市場の現状を巧みに利用している。対ロ経済制裁により欧州・日本メーカーの車両供給や生産がストップしている中、中国メーカーは市場に供給。さらに、今でもロシアでの生産を続けている。一方がシェアを落として、もう一方がシェアを伸ばすのは当然だ」と語った(「アフトスタト」2022年7月5日)。

なお、中国車の現地生産としては、長城汽車がトゥーラ州に有する工場がある。ここでは、ハバルを組み立てている。2019年の工場稼働以降、順調に業績を伸ばしてきた。2021年には、3万9,663台を生産した。これは、前年比で実に2.7倍の伸びだ。

外国ブランド車枯渇で、消費者は中国車購入を検討

では、中国車はロシアでどのようなイメージを持たれているのか。

2022年3月20日付ロシア新聞は、ロシアの消費者から多く寄せられる中国車へのクレーム例を掲載。具体的には、(1)サスペンション部や排気系などが腐食しやすい、(2)燃料システムの耐寒性が低く厳寒下で自然発火した、(3)電子部品の性能が悪いためトラブルが起きやすいという声があることを紹介した。一方で、「中国車が予測不能で、信頼に値せず、残存価値(注1)が低いという考えは時代遅れだ」と指摘。「現在の中国の自動車産業は、信頼性や制御性能、快適さ、デザインで大きな飛躍を遂げている」とした。総じて、中国車を高く評価したかたちだ。

アフトスタトが2022年6月に実施したアンケート調査(注2)でも、「中国車を買う用意がある」との回答は実に40.7%に上った。一方で、「中国車は絶対に買わない」との回答も20.4%と、決して少なくない。一般消費者が中国車に対して抱くイメージが良いとはまだ言い難い状況にある(「アフトスタト」2022年6月17日) 。

しかし、今後の購入に際して中国車を検討する消費者は徐々に増えていくものと予想される。実際のところ、ロシア国内の外国ブランド車の在庫は減り続けているからだ。ロシアの大手自動車ディーラー・アビロンのアレクセイ・スタリコフ新車販売副部長は「販売店に十分な供給がなく、在庫がもつのも2~5カ月だろう。外国メーカーがロシア向けに供給したり、国内で生産再開したりする情報はない。唯一の例外が中国メーカーで、大量の出荷を継続している」と話す(「アフトスタト」2022年7月22日)。


中国企業は数年前からディーラー網の拡大に注力。ロシアでの販売台数を伸ばしてきた(ジェトロ撮影)

「中国車頼み」は、カーシェアリングなど新分野でも

利用者が近年増えているカーシェアリングの分野では、従来、欧州や日本、韓国の車種が主流だった。しかし、ここでも既に中国車が投入され始めている。

カーシェアリングサービスを提供する業界2位のデリモビリは7月、奇瑞汽車が生産する「チェリー Tiggo 4」を150台調達した(2022年7月15日付プレスリリース)。同社が中国車の購入するのは、初。2023年以降も、毎年1万~1万2,000台の中国車を新規に購入していく計画だ。業界トップのヤンデックス・ドライブも2022年内に最大7,000台の中国車の購入を計画していると報じられる(「コメルサント」2022年7月15日)。

このほか、国産電気自動車「Evolute」の製造プロジェクトでも、パートナーとして東風汽車の関係会社が選ばれた(「モーター」2022年3月23日)。Evolute は9月の生産・販売開始が見込まれており(2022年7月14日付産業商務省発表)、徐々に関心が高まっている。その中で、中国系企業が関与するようになったわけだ。

このように、中国企業はロシアの自動車関連ビジネスで、新分野を含めて幅広く存在感を発揮し始めている。


注1:
法定耐用年数経過後に残る固定資産としての価値、リース契約満了時の価値、予想売却価格などを指す。
注2:
アフトスタトによるこのアンケート調査には、1,600人以上が回答した。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課