【コラム】新規開通のゴールドライン、沿線施設の日系テナントに追い風となるか(タイ)
駅直結の大型商業施設「アイコンサイアム」への利便性が向上

2021年1月15日

バンコクで2020年12月16日、自動運転のモノレール「ゴールドライン」が新規開通した。クルントンブリ駅を起点として、チャルンナコン駅、クロンサン駅の3つの駅(約1.7キロ)をつなぐ。2023年ごろにはプランチャティポック駅まで延伸の予定だ。もっとも、延伸されたとしても総延長約2.7キロと短い。

実際に乗車してみたところ、短距離ながらも意外なほど乗客は多い。これまでアクセスしにくかった大型商業施設「アイコンサイアム」への利用客が多くを占めるようだ。


2両編成のゴールドラインに乗り込む客は多かった(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

国内初の全自動無人運転車両

ゴールドラインの起点となるクルントンブリ駅は、バンコク市内中心部から南西方面にある。バンコク中心部のサイアム駅から高架鉄道BTSシーロム線に乗車して7駅目、14分で到着する。ゴールドラインに乗り換えて、クルントンブリ駅から北西方面にあるチャルンナコン駅まで3分、チャルンナコン駅から現時点での終点のクロンサン駅までは1分で着く。非常に短距離の路線だ。


ゴールドラインの路線図(G1~G3)(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

ゴールドラインが注目される理由の1つは、国内初となる全自動無人運転車両(APM)を採用した点にある。このAPMは、カナダのボンバルディア製の「イノービアAPM300」という車両だ。自動車のようにゴム製タイヤが装着されている。同じ車両は上海の浦江線でも採用されていた。しかし、タイでは新しいタイプ。物珍しさからか盛んに写真やビデオを撮影する姿もみられた。


カナダのボンバルディア製の「イノービアAPM300」(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

始発のクルントンブリ駅では、たくさんの人々が乗車する。しかし、その大部分が次のチャルンナコン駅で下車する。そのお目当ては、同駅に直結する大型商業施設のアイコンサイアムだ。次のクロンサン駅まで向かう乗客は1割にも満たない。


チャルンナコン駅直結のアイコンサイアム(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

アイコンサイアムへのアクセスが簡単に

ゴールドラインの開通で最も恩恵を得るのは、アイコンサイアムと言っていいかもしれない。アイコンサイアムは、2018年11月にオープンしたタイ最大級の複合施設だ。高島屋やアップルストアがタイ初出店の立地先として選んだ。またロフトやユニクロ、CoCo壱番屋などの日系テナントも、店舗を構えている。アイコンサイアムの延べ床面積は約75万平方メートル、そのうち商業・エンターテインメントのフロア面積は約50万平方メートルにもなる。


アイコンサイアムにはアップルストアのタイ1号店がある(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

しかし、アイコンサイアムには弱点があった。チャオプラヤー川の西岸にあるため、アクセスの面では利便性が高くなかったのだ。これまでバンコク市内中心部から同施設へ行くには、クルントンブリ駅からシャトルバスに乗車するか、同駅1つ手前のサパンタクシン駅からシャトルボートに乗船する必要があった。しかし、ゴールドラインの開通により、電車を乗り継いでアイコンサイアムに簡単にアクセスできるようになった。

タイで唯一の日系デパートとなった高島屋

アイコンサイアムのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、この施設には330を超えるテナントが入居している。その中でも旗艦テナントの1つが高島屋だ。ちなみに高島屋は、日系百貨店としてタイで唯一残存する企業になる。2020年は、タイ進出の日系小売業にとって暗いニュースが続いた。1992年から営業していた伊勢丹が2020年8月に閉店。1985年から営業していた東急百貨店も、2021年1月をもってタイから撤退することを2020年10月に発表していた。

新型コロナ禍発生以前、タイには年間3,900万人の観光客が来訪していた。観光客の消費が見込めない現在は、小売業界にとって危機的状況にあると言える。こうした苦境下、ゴールドラインの開通による客足の増加はアイコンサイアムのテナント企業にとって明るいニュースだろう。食料品売り場では新年の贈答用に日本産の果物などを購入する姿も見られた。日本産の食品や農産品の販売拡大にも追い風になる。


店頭に並ぶ贈答用の日本産果物
(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

年末に混み合うデパ地下街
(2020年12月27日、ジェトロ撮影)

ゴールドラインに乗車してあらためて気づかされたのは、新型コロナ禍により小売業界で再編が起こるのと並行して、新規路線の開通や都市開発が着々と進んでいるという事実だ。ゴールドラインと同じ日、高架鉄道BTSグリーンライン(スクンビット線)の延伸部分が公式に開業し、2021年にはASEAN最大級の鉄道拠点となるバンスー中央駅と同駅につながるレッドラインも開業予定(2020年12月22日付ビジネス短信参照)。2022年にはバンコク北部を環状につなぐピンクラインと、バンコク東部を環状につなぐイエローラインも完成する予定だ(注)。Eコマースの浸透なども含めると、販路・流通経路や商圏などは今後ますます変化する可能性がある。2021年も、消費市場の継続的な観察が欠かせないだろう。


注:
各路線の関係は、マヒドン大学が制作した資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.24MB) が参考になる。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。