2020年の自動車販売は13.7%減、EVは3倍増も世界に遅れ(オーストラリア)

2021年1月28日

オーストラリアの2020年の新車販売台数は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、前年比13.7%減と大きく落ち込んだ。その中でも、日本車に対する人気は根強く、メーカー別ではトヨタが1位となり、モデル別では上位10モデルのうち日本のメーカーが6モデルを占めた。2020年の電気自動車(EV)販売台数は、前年の3倍以上と大幅に伸びたものの、その普及率は世界に後れを取っており、業界団体は政府による支援策の拡充を求めている。

2020年の新車販売台数は前年比13.7%減

オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)が発表した2020年の新車販売台数は、前年比13.7%減の91万6,968台となった(表1参照)。2018年以降、減速していた自動車市場は、新型コロナウイルス感染拡大による影響を受けて大きく落ち込んだ。ただし、月別にみると、11月は前年同月比12.4%増、12月は13.5%増と2カ月連続で伸びており、回復の兆しをみせ始めている。

タイプ別にみると、乗用車は前年比29.7%減と大きく減少した。近年、人気の高いスポーツ用多目的車(SUV)も5.9%減となった。ただし、SUVが総販売台数に占める割合は2019年から4.1ポイント上昇し、全体の49.6%と半数近くを占めた。

表1:オーストラリアにおける新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
タイプ 2018年 2019年 2020年 前年比
台数 増減率
乗用車 378,413 315,875 222,103 △ 93,772 △ 29.7
SUV 495,300 483,388 454,701 △ 28,687 △ 5.9
その他自動車 279,398 263,604 240,164 △ 23,440 △ 8.9
合計 1,153,111 1,062,867 916,968 △ 145,899 △ 13.7

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)

メーカー別にみると、トヨタが全体の22.3%を占めて引き続き1位となり、そのシェアを前年の19.4%から2.9ポイント伸ばした(表2参照)。また、販売台数も前年比0.5%減とわずかな減少にとどまった。次いで、マツダ(シェア9.3%)、現代(7.1%)、フォード(6.5%)、三菱自動車(6.4%)が上位を占めたが、いずれも販売台数は前年から減少し、三菱自動車は3割近く落ち込んだ。

表2:メーカー別新車販売台数(上位10社)(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 企業名 2018年 2019年 2020年 前年比
台数 増減率
1 トヨタ 217,061 205,766 204,801 △ 965 △ 0.5
2 マツダ 111,280 97,619 85,640 △ 11,979 △ 12.3
3 現代 94,187 86,104 64,807 △ 21,297 △ 24.7
4 フォード 69,081 63,303 59,601 △ 3,702 △ 5.8
5 三菱自動車 84,944 83,250 58,335 △ 24,915 △ 29.9
6 起亜自動車 58,815 61,503 56,076 △ 5,427 △ 8.8
7 フォルクスワーゲン 56,620 49,928 39,266 △ 10,662 △ 21.4
8 日産 57,699 50,575 38,323 △ 12,252 △ 24.2
9 スバル 50,015 40,007 31,501 △ 8,506 △ 21.3
10 メルセデス・ベンツ 39,537 31,985 29,455 △ 2,530 △ 7.9

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)

モデル別の新車販売台数では、トヨタの「ハイラックス」が最も多く、引き続き首位を占めたが、販売台数は前年比5.2%減と縮小した(表3参照)。一方、同じくトヨタの「RAV4」は58.8%増と大きく伸び、前年の8位から3位に浮上した。なお、上位10のうち6つが日本のメーカーであり、メーカー別においても10社中5社を日本企業が占めていることから、日本車に対する根強い人気がうかがえる。

表3:モデル(車種)別新車販売台数(上位10モデル)(単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 モデル(車種)名 2018年 2019年 2020年 前年比
台数 増減率
1 ハイラックス(トヨタ) 51,705 47,649 45,176 △ 2,473 △ 5.2
2 レンジャー(フォード) 42,144 40,690 40,973 283 0.7
3 RAV4(トヨタ) 22,165 24,260 38,537 14,277 58.8
4 カローラ(トヨタ) 35,230 30,468 25,882 △ 4,586 △ 15.1
5 マツダCX-5(マツダ) 26,173 25,539 21,979 △ 3,560 △ 13.9
6 i30(現代) 28,188 28,378 20,734 △ 7,644 △ 26.9
7 トライトン(三菱) 24,896 25,819 18,136 △ 7,683 △ 29.8
8 プラド(トヨタ) 18,553 18,335 18,034 △ 301 △ 1.6
9 セラトー(起亜) 18,620 21,757 17,559 △ 4,198 △ 19.3
10 ツーソン(現代) 19,261 18,251 15,789 △ 2,462 △ 13.5

出所:オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)

EV販売台数は3倍増となるもいまだ低水準

オーストラリアの電気自動車(EV)市場は近年、拡大し始めている。オーストラリア電気自動車協会(EVC)が2020年8月に発表した最新の報告書によると、2019年におけるEV販売台数は6,718台で、前年比で3倍強に増加した(表4参照)。また、2020年上半期(1~6月)におけるEV販売台数は3,226台となり、前述のとおり新車販売台数が大きく減少したにもかかわらず、前年同期比2.5倍と大きく増加した。

表4:オーストラリアにおけるEV販売台数(単位:台、%)
項目 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 前年比
台数 増減率
合計 293 1,322 1,771 1,369 2,284 2,216 6,718 4,502 203.2

出所:オーストラリア電気自動車協会(EVC)

国内で販売されているEVは、2019年時点から7モデル増え、11メーカーが28モデルを投入しており、その半数以上となる16モデルはプラグインハイブリッド車(PHV)となっている。また、うち8モデルは6万5,000オーストラリア・ドル(約520万円、豪ドル、1豪ドル=約80円)以下で購入が可能だという。日本のメーカーでは、三菱自動車の「アウトランダー」や日産の「リーフ」が販売されている。EVCによると、2021年末までにさらに6モデルが投入される予定で、うち2モデルは5万豪ドル以下の価格帯となることが見込まれている。

EVCが約2,900人を対象に実施した調査によると、回答者の56%が次の買い替え時にEVの購入を検討するとしており、消費者意識は過去2年の調査(2018年:48%、2019年:53%)からさらに高まっているという。また、オーストラリア再生可能エネルギー庁(ARENA)や州政府、民間企業からの投資によって、充電設備の設置も進んでいる。オーストラリア国内では現在、1,219カ所に1,950基の普通充電器が、157カ所に357基の急速および超急速充電器が設置されている。2019年7月時点と比べると、普通充電器は16%、急速および超急速充電器は42%それぞれ増加したという。

ただし、オーストラリアの新車販売台数に占めるEVの割合はわずか0.6%にとどまる。入手可能なモデル数も、オーストラリアと同じく右ハンドル仕様である英国の130モデルと比べてはるかに少なく、先進各国と比較して大きく後れを取っている。EVCはその理由として、政府による支援策が不十分だと指摘している。前述の消費者意識調査では、EV購入の障壁としてコストの高さや充電インフラに対する懸念などが挙げられており、購入補助などのインセンティブや充電設備へのさらなる投資が求められている。また、自動車メーカーは、EVに関する政府の支援や振興策が十分でないことから、オーストラリア市場への参入に積極的でないという。なお、連邦政府は2020年末までにEV戦略を公表するとしていたが、その策定は遅延している。

州政府レベルでは、首都キャンベラを有する首都特別地域(ACT)の取り組みが最も評価されている。ACT政府は、公用車やバスをEVに切り替え、建物などへの充電設備の設置を進めている。加えて、自動車登録料の20%割引や初回登録時の印紙税免除などのインセンティブを提供している。今後はさらに、最大1万5,000豪ドルの無利子融資の提供や自動車登録料の2年間免除などの実施を予定している。

一方、メルボルンを州都とするビクトリア州や、その西隣に位置する南オーストラリア州では、EVなどの低排出車に対する課税制度の導入が予定されている。ビクトリア州政府は2020年11月、ゼロ排出・低排出車(ZLEV)に対して、2021年7月1日から道路利用税を課すと発表した。EVなどのゼロ排出車は走行距離1キロあたり2.5セント(0.025豪ドル)、PHVは1キロあたり2.0セント(0.02豪ドル)が課される。南オーストラリア州においても、定額料金に加えて、走行距離に応じて課税する制度を採用するとしている。また、オーストラリア最大都市シドニーを州都とするニューサウスウェールズ州も、同様の課税制度の導入を検討しているという。こうした動きの背景には、道路整備の財源となっている燃料税の負担を伴わない、あるいは負担の少ないEV、PHVなどに対して、道路利用の公平性を求める狙いがある。これに対して、EVCは「EVの普及が大きく妨げられることになる」と強い懸念を表明している。

連邦政府は2020年9月、温室効果ガスの排出削減に寄与する次世代技術の開発を推進する方針を打ち出した(2020年9月25日付ビジネス短信参照)。その中で、EVや燃料電池自動車の活用促進を重点政策の1つに定めていることから、今後公表されるEV戦略においても具体的な支援策が盛り込まれることが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。