2020年米国勢調査、人口動態に関する各種論調をみる

2021年9月24日

米国国務省センサス局は2021年8月12日に、2020年の国勢調査の詳細を発表した。調査結果では、自身の人種を「白人のみ」と回答した人は過半数(57.8%)を占めていたが、2010~2019年で8.6%減少する一方、2つ以上の人種に属しているとした人の数は、2010年の900万人から2020年には3,380万人へと、3倍以上に増加した。また、100万人を超える大都市圏では、ここ10年で人口は9.1%増加し、その近郊では10.3%増、中規模都市圏では7.1%増となる一方、小さな町などでは0.6%減少し、大都市における人口増加が目立つことが指摘されている。本稿では、人口動態の今後の影響など、各種メディアなどの分析を紹介する。

白人人口減少は高齢化に起因

ブルッキングス研究所によると、白人の人口減少は、高齢化に起因するとしている。高齢化に伴って、人口規模に比べて出生数が減り、死亡数が増える。 2019年の白人年齢の中央値は43.7歳で、ラテン系またはヒスパニック系は29.8歳、黒人は34.6歳、アジア系は37.5歳、2つ以上の人種(マルチレース)であると特定された人は20.9歳だ。

過去数年間で、若年成人の白人女性の出生数の減少がみられる。また、他の人種民族グループと同様に、米国への白人の移民は最近減速した。従って、白人人口の予測される減少は、国勢調査の予測よりも8年早く発生し、米国の総人口の成長率の低下に寄与した。

また、2010年以降、カリフォルニア、ニューヨーク、イリノイ各州を中心に、29の州で25歳未満の白人人口が減少し、これを、マイノリティグループの増加で埋めることができなかった。一方、テキサスやフロリダを含む17の州では、マイノリティグループの増加が白人の減少を補い、若年層人口の増加に寄与した。ユタ、ノースダコタ、アイダホ、サウスカロライナの4つの州だけが、2010~2019年に白人の若年層が増加した。今後、若年層人口は、白人以外のマイノリティグループの増加に依存するとみられる。

2045年ごろに白人人口が過半数を割る見通し

ブルッキングス研究所の人口学者ウィリアム・フレイ氏は、2018年の時点で、2045年ごろに白人人口が過半数を割ると予測している。同氏の予測によれば、2018~2060年にかけて、白人人口は60.5%から44.3%に縮小、ヒスパニック系が18.3%から27.5%に増加する。18歳未満に限ってみると、白人人口は50.4%から36.4%に縮小し、ヒスパニック系は25.3%から31.9%に増加し、白人人口に匹敵する規模になり多様化が進む、としている。

同氏は、白人の高齢化が進み、メディケアや社会保障などにますます頼るようになり、これを支えることになる多様化する若年層への教育や職業訓練など継続的な投資をする必要がある、としている。

米国のシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターは、ヒスパニック系の人口動態を分析し、過去10年間の米国の人口増の半数がヒスパニック系によるものと発表し(2021年9月10日付ビジネス短信参照)、人種の多様化を裏付けた。

フェニックスの人口が全米5位に

米国の都市別人口をみると、ニューヨーク(人口:880万人)が国内最大都市で、ロサンゼルス(390万人)、シカゴ(275万人)、ヒューストン(230万人)、フェニックス(161万人)が続いた。フェニックスは2010~2020年に人口が11.2%増と、全米10大都市(注1)の中では最大の伸びを示し、フィラデルフィアを抑えて全米5位になった。シカゴは10大都市の中では、最も低い伸び率(1.9%増)であった。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙(8月12日)は、急速に人口が拡大した地域に着目し、米国で最も急速に成長している大都市圏は、フロリダ州中部の広大な退職者コミュニティであるザ・ヴィレッジズで、この10年間で人口が39%増加した。郡単位では、石油とガスの生産ブームが起こったノースダコタ州のマッケンジー郡が、この10年間で最も急速に成長(131%増)したとしている。

人口動態の政治的影響

ニューヨーク・タイムズ紙(8月21日)は、白人人口の割合が減少したことによる政治的影響について、右派はそれを脅威と見なし、左派は、その人口動態によりますます多くの有権者が民主党に投票することにつながり歓迎する、としている。

一方、NPR(8月22日)では、イエール大学の心理学者ジェニファー・リシュソン氏の見方を紹介しており、「これらのデータを使用した最悪の例は、『白人グループは全滅している。私たちは脅威にさらされている』などと繰り返す白人至上主義者によるものだと思う」と、白人人口の減少についての報道が誤解を招き、プロパガンダを生み出す可能性への懸念を示した。リシュソン氏はさらに、「私たちはまだ、白人が政治的支配と経済的支配を持ち続ける社会に住んでいる」とし、選挙結果を操作したり、人種的平等を目指す政府の取り組みに対する支持を低下させたりする、より極端な形態のゲリマンダリング(注2)を助長することも起こりうる、と指摘している。

なお、国勢調査の結果により、連邦下院議席数が変更され、テキサス州などで議席が増え、2022年の中間選挙結果にも影響を与えることになる(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。


注1:
1位から順に、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストン、フェニックス、フィラデルフィア、サンアントニオ、サンディエゴ、ダラス、サンノゼ。
注2:
特定の政党に有利な選挙区割りを行うことを指す。米国では州によって、州知事・議会が選挙区割りを決める州と、独立した委員会に選挙区割りの権限を委譲している州がある。
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。