成都と重慶の日系企業に見るアフターコロナの経営と課題(中国)
2020年度海外進出日系企業実態調査(中国編)を参考に

2021年4月2日

四川省成都市および重慶市では、2020年1月の中央財政委員会第6回会議で「成都-重慶地区両都市経済圏」(中国語では成渝地区双城経済圏)形成の方針が示された。その後、社会保障制度の融合、住宅積立金の共通化、病院や医療機関で社会保障カードを共通化・適用基準緩和などの動きが相次いでいる。ビジネス環境の面では、両地域における営業許可証の共通化が進む。このほか、両地域間で「成渝地区双城経済圏自動車産業協同発展戦略合作協議」を締結。産業サプライチェーンの連携に向けた動きも加速している。

こうした中、両地域に進出している日系企業は両地域をどう見ているのか。また、経営状況がどうなっているのか。ジェトロが2021年3月に公表した「2020年度海外進出日系企業実態調査(中国編)」の結果を参考に分析する。

まず、直近の経済状況を確認しておく。2020年の四川省の域内総生産(GRP)は前年比3.8%増、重慶市は3.9%増となり、いずれも全国平均の成長率2.3%を上回った。一定規模以上の工業付加価値額は、四川省は前年比4.5%増、重慶市は5.8増となった(表1参照)。

表1:四川省と重慶市の比較(―は値なし)
項目 四川省 成都市 重慶市
1. 経済成長率
(2020年)
3.80% 4.00% 3.90%
2. 域内総生産額
(2020年)
48,599億元 17,717億元 25,003億元
3. 常住人口
(2019年末)
8,341万人 1,658万人 3,102万人
4. 工業生産付加価値額伸び率
(一定規模以上、2020年)
4.50% 5.00% 5.80%
5. 進出している日系企業
(2019年1月時点)
約370社
※成都日本商工クラブ会員数:134法人
(2020年6月時点)
約160社
※重慶日本商工クラブ会員数:91法人
(2021年1月時点)
6. 在留邦人数
(2019年10月時点)
460人 350人

出所:1.2.3.4は四川省統計局、成都市統計局、重慶市統計局、5.6は重慶総領事館調べ

事業拡大意欲が高い重慶市

ジェトロの調査(表2参照)では、2020年の営業利益見通しについて、重慶に進出している日系企業の48.3%が「黒字」と回答。中国全体の平均(63.5%)と比較して15.2ポイント低かった。また、前年調査時の57.6%から9.3ポイント低下となった。「均衡」と回答した企業の割合は37.9%で、前年の30.3%から7.6ポイント上昇。「赤字」と回答した企業の割合は13.8%で、前年の12.1%から1.7ポイント上昇となった。主な省市の中で「黒字」と回答した企業した企業の割合が50%を下回ったのは、重慶市と四川省だけだ。重慶市に進出している日系企業に経営上の問題点を聞くと、「競合相手の台頭(コスト面で競合)」(63.0%)、「主要取引先からの値下げ要請」(59.3%)、「新規顧客の開拓が進まない」(55.6%)、人材(技術者)の採用難(50.0%)といった問題点が上位に挙げられた。

一方、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した重慶の日系企業の割合は50.0%(前年45.5%)だ。前年から4.5ポイント上昇、中国全体の平均36.6%(前年43.2%)を上回る結果となった。主な省市の中で「拡大」と回答した企業の割合が50%を超えたのは重慶市と四川省だけで、両地域ともに事業拡大意欲が総じて高い。

成長性への期待が高い四川省

四川省に進出している日系企業で、2020年の営業利益が「黒字」と回答した企業の割合は48.4%。中国全体の平均(63.5%)と比較して15.1ポイント低く、前年調査時の58.8%から10.4ポイント低下した。「均衡」と回答した企業の割合は16.1%だった。前年の20.6%から4.5ポイント低下した。

もっとも、「赤字」企業が多いのも、同省の特徴だ。その回答割合は35.5%。中国全体の平均19.5%を大幅に上回り、主な省市の中で最多だった。前年の20.6%からも、14.9ポイント上昇している。

四川省の日系企業が抱えている経営課題の上位5項目は回答が多い順に、「限界に近づきつつあるコスト削減」(53.9%)、「競合相手の台頭(コスト面で競合)」(46.7%)、「調達コストの上昇」(46.2%)、「新規顧客の開拓が進まない」(43.3%)、「従業員の賃金上昇」(40.6%)だった。

一方、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した四川省の日系企業の割合は50%。同省は主な省市のなかで「拡大」と回答した企業の割合が最も多い結果となった。一方、「縮小」と回答した四川省の日系企業の割合も、18.8%ある。その回答割合は、主な省市の中で最も高かった。すなわち、四川省の日系企業には、同省の景気回復や成長性、潜在力の高さに対する期待値が高い。同時に、競争環境が厳しさを増す中、簡単に利益を出すことはできないという現実が表れた結果と言えるだろう。

表2:ジェトロ調査に見る進出日系企業の主な回答比較(△はマイナス値)
項目 中国全体 四川省 重慶市
営業利益見込みで
「黒字」と回答した
企業の割合
63.5%
(前年調査68.5%)
48.4%
(前年調査58.8%)
48.3%
(前年調査57.6%)
DI値で見た2020年の
営業利益見通し(注)
△23.4ポイント △23.3ポイント △7.1ポイント
今後1~2年の事業展開の
方向性で「拡大する」と
回答した企業の割合
36.6% 50.0% 50.0%
内販比率(輸出比率) 67.0%(33.0%) 88.0%(12.0%) 60.9%(39.1%)
経営上の問題点
(上位5項目)
1位:従業員の賃金上昇
(63.3%)
2位:環境規制の厳格化
(46.7%)
3位:限界に近づきつつあるコスト削減
(46.1%)
4位:競合相手の台頭(コスト面で競合)
(44.8%)
5位:新規顧客の開拓が進まない
(42.0%)
1位:限界に近づきつつあるコスト削減
(53.9%)
2位:競合相手の台頭(コスト面で競合)
(46.7%)
3位:調達コストの上昇
(46.2%)
4位:新規顧客の開拓が進まない
(43.3%)
5位:従業員の賃金上昇
(40.6%)
1位:競合相手の台頭(コスト面で競合)
(63.0%)
2位:主要取引先からの値下げ要請
(59.3%)
3位:新規顧客の開拓が進まない
(55.6%)
4位:技術者の採用難
(50.0%)
5位:従業員の上昇
(46.4%)

注:DI値とはDiffusion Indexの略で、「改善」すると回答した企業の割合から、「悪化」すると回答した企業の割合を差し引いた値。景況感を示す指標として用いられる。
出所:2020年度海外進出日系企業実態調査(中国編)

新型コロナウイルスに伴う経済の落ち込みから急回復した四川省と重慶市

新型コロナウイルス感染拡大の影響について、正常化後の需要見通しを見る。四川省と重慶市で「感染拡大前の需要に戻る」と回答した日系企業の割合は、それぞれ48.4%と57.1%。いずれも、中国全体の平均(44.8%)を上回った。加えて、両地域で「感染拡大前に比べて製品・サービスの需要が大きく減少する」との回答した日系企業はゼロだった。特に四川省では、新型コロナ感染拡大からのビジネス正常化時期の見通しについて、「すでに正常化している」と回答した日系企業の割合は56.7%。中国全体の平均(29.1%)を大幅に上回った。主な省市の中で、「すでに正常化」との回答が5割を超えたのは四川省だけだ。

成都(四川省の省都)では、新型コロナの発生以降、都市交通インフラの整備、および沿線の都市開発が急速に進められている。特にFISUワールドユニバーシティゲームズ(旧ユニバーシアード競技会、2021年8月に同市で開催予定)や天府国際空港建設(成都市の第2空港)などの大型プロジェクトに関連し、インフラ整備への投資が前年比14.3%増加。これらが経済回復やさらなる経済成長を牽引している。

新型コロナの感染拡大の影響から、世界で最も早い回復を見せている中国。さらにその中国において最も早い回復を見せる四川省、重慶市に、日系企業の期待も高まっている。


成都市内では急速に都市開発が進められている(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。