2020年の輸出入、コロナ禍の影響で10%台の減少(スペイン)
新型コロナ禍の影響を受ける
2021年9月9日
2020年のスペインの貿易は、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な移動・活動制限の影響を大きく受け、輸出入ともに前年比10%台の落ち込みを記録した。しかし2021年に入って、輸出は周辺国を上回るペースで回復。輸入も着実にコロナ前の水準に戻りつつある。また、2020年の対日輸出は乗用車や革製品の好調により、減少幅が抑えられた。
輸出は自動車と石油精製品が大幅減
スペイン税関によると、2020年の貿易は、輸出が前年比10.2%減の2,611億7,500万ユーロ、輸入は14.8%減の2,745億9,800万ユーロだった。いずれも過去最高の前年から大幅に減少した。輸出は、新型コロナウイルス感染拡大当初に大幅減となった。もっとも9月以降は、弱含みながらも前年の水準をほぼ回復していた。輸入は、経済活動の収縮と景気悪化で、年間を通じて低調だった。貿易赤字は、134億2,300万ユーロ。主にエネルギー資源の輸入減により、前年から181億2,100万ユーロ縮小した。
輸出を品目別にみると、最大品目の資本財(自動車を除く、構成比19.8%)は前年比12.6%減と低調だった(表1参照)。中でも、航空機(1.7%)が減産や顧客による納期変更により27.7%減少した。また鉄道車両(0.5%)は、前年のEU離脱に備えた英国向け輸出の前倒しなどの反動もあわせて受け、46.7%減となった。他方、4番目に輸出額が大きかった自動車(14.8%)も12.7%減少した。各メーカーのサプライチェーン寸断や操業停止、2020年秋まで需要が回復しなかったこともあり、乗用車(10.6%)は10.1%減、台数で15.4%減の158万台に落ち込んだ。自動車部品(3.9%)も同様に20.5%減となった。化学品(15.5%)は3.6%減少にとどまった。そのうちの3割を占める医薬品(4.8%)が5.7%増で過去最高となったことによる。消費財(9.5%)は15.4%減と大幅に減少。世界的な店舗営業停止によりアパレル大手の輸出が縮小したことが大きな理由となった。
対照的なのが食料品・飲料・たばこ(19.6%)で、4.4%増となった。生産活動が停止されなかったのが、その背景にある。個別品目として最大の増加要因は豚肉(2.2%)で、23.5%増の57億ユーロ。重量でも24.0%増の213万トンと過去最高を記録した。最大輸出先の中国国内でアフリカ豚熱による供給不足が続き、同国向けが金額ベースで2.5倍に拡大した結果だ。
品目 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2019年 | 2020年 | 2019年 | 2020年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
資本財(自動車を除く) | 59,081 | 51,642 | 19.8 | △ 12.6 | 68,712 | 62,085 | 22.6 | △ 9.6 |
食料品・飲料・たばこ | 49,162 | 51,304 | 19.6 | 4.4 | 35,799 | 33,967 | 12.4 | △ 5.1 |
化学品 | 42,107 | 40,595 | 15.5 | △ 3.6 | 51,156 | 49,430 | 18.0 | △ 3.4 |
自動車 | 44,152 | 38,524 | 14.8 | △ 12.7 | 40,146 | 30,405 | 11.1 | △ 24.3 |
中間財 | 29,459 | 26,462 | 10.1 | △ 10.2 | 23,055 | 19,143 | 7.0 | △ 17.0 |
消費財 | 29,468 | 24,941 | 9.5 | △ 15.4 | 38,816 | 34,615 | 12.6 | △ 10.8 |
鉱物・エネルギー | 21,229 | 12,501 | 4.8 | △ 41.1 | 44,682 | 27,029 | 9.8 | △ 39.5 |
原材料 | 7,137 | 6,058 | 2.3 | △ 15.1 | 10,058 | 8,492 | 3.1 | △ 15.6 |
耐久消費財 | 4,619 | 4,471 | 1.7 | △ 3.2 | 8,540 | 8,082 | 2.9 | △ 5.4 |
合計(その他を含む) | 290,893 | 261,175 | 100.0 | △ 10.2 | 322,437 | 274,598 | 100.0 | △ 14.8 |
注:EU域外貿易は通関ベース(輸出はFOB、輸入はCIF)、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
出所:スペイン税関
輸出を国・地域別でみると、EU(構成比60.5%)は自動車や石油精製品が低調で、前年比8.2%減となった(表2参照)。特に経済活動制限の影響を強く受けたイタリアとポルトガルはそれぞれ12.6%、10.7%減少した。EU域外(39.5%)は13.1%減となった。
EU離脱に伴ってEU域外で最大輸出先となったのが英国(6.5%)だ。とは言え対前年増減では、他の欧州主要国を上回る減少率(14.5%減)となった。これは、主に同国内での厳格な行動制限による景気後退や、「合意なき離脱」に備えた2019年の輸出増からの反動減などを受けた結果だ。特に最大品目の自動車は台数ベースで26.1%減少した。2020年末には、英国のEU離脱に伴う移行期間終了直前まで英EU間の通商協定に合意できなかったことや、物流の先行き不透明感から移行期間終了前の駆け込み輸出の動きも一部製品でみられた。
欧州域外で最大輸出先の米国(4.7%)も、主要輸出品の石油精製品とフォード車の大幅減により11.1%減となった。オリーブ油にはトランプ政権時(2019年10月)に発動された対EU報復関税(容器入りに対して25%)が年間を通じてスペイン産オリーブ油に適用された。しかし、数量で21.8%増加し、過去最高の16万トンに達した(金額でも9.7%増)。メーカーは一部の高付加価値品を除き、モロッコやチュニジアなどから輸入した他国産オリーブ油を容器詰めして再輸出するかたちで関税引き上げを回避したと報じられている。
アジア大洋州(7.3%)は4.7%減と他の地域と比較して減少率が低い地域となった。主要品目のうち女性用衣服やワイン、石油精製品はそれぞれ20.0%、16.8%、37.0%の減少だった。一方で、中国による豚肉輸入の急拡大や日本とオーストラリア向け乗用車の好調(それぞれ95.6%増、17.8%増)で相殺された。中南米(4.5%)は新型コロナ感染拡大の影響を特に強く受けて23.1%減。中でも、最大輸出先のメキシコ(1.2%)が乗用車や消費財の低調で23.4%減少した。
国・地域名 | 輸出(FOB) | 輸入(CIF) | ||||||
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2019年 | 2020年 | 2019年 | 2020年 | |||||
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | 金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
EU | 172,033 | 157,934 | 60.5 | △ 8.2 | 162,095 | 142,291 | 51.8 | △ 12.2 |
ユーロ圏 | 150,359 | 138,829 | 53.2 | △ 7.7 | 137,906 | 120,418 | 43.9 | △ 12.7 |
フランス | 44,146 | 42,177 | 16.1 | △ 4.5 | 33,519 | 28,522 | 10.4 | △ 14.9 |
ドイツ | 31,231 | 29,567 | 11.3 | △ 5.3 | 39,865 | 34,148 | 12.4 | △ 14.3 |
イタリア | 23,436 | 20,472 | 7.8 | △ 12.6 | 20,725 | 17,803 | 6.5 | △ 14.1 |
ポルトガル | 22,151 | 19,791 | 7.6 | △ 10.7 | 11,476 | 10,746 | 3.9 | △ 6.4 |
非ユーロ圏 | 18,803 | 19,105 | 7.3 | 1.6 | 20,472 | 21,873 | 8.0 | 6.8 |
ポーランド | 6,192 | 5,991 | 2.3 | △ 3.2 | 5,816 | 5,609 | 2.0 | △ 3.6 |
英国 | 19,890 | 17,014 | 6.5 | △ 14.5 | 11,711 | 9,366 | 3.4 | △ 20.0 |
スイス | 5,020 | 5,110 | 2.0 | 1.8 | 3,671 | 3,837 | 1.4 | 4.5 |
トルコ | 4,456 | 4,261 | 1.6 | △ 4.4 | 7,565 | 6,314 | 2.3 | △ 16.5 |
ロシア | 2,050 | 1,874 | 0.7 | △ 8.6 | 3,476 | 2,572 | 0.9 | △ 26.0 |
アジア大洋州 | 20,151 | 19,196 | 7.3 | △ 4.7 | 52,126 | 47,821 | 17.4 | △ 8.3 |
中国 | 6,800 | 8,169 | 3.1 | 20.1 | 29,143 | 29,333 | 10.7 | 0.7 |
ASEAN | 3,803 | 2,793 | 1.1 | △ 26.6 | 9,574 | 8,305 | 3.0 | △ 13.3 |
日本 | 2,729 | 2,518 | 1.0 | △ 7.7 | 4,359 | 2,909 | 1.1 | △ 33.3 |
韓国 | 2,249 | 1,528 | 0.6 | △ 32.1 | 3,123 | 2,395 | 0.9 | △ 23.3 |
インド | 1,334 | 1,092 | 0.4 | △ 18.2 | 4,234 | 3,298 | 1.2 | △ 22.1 |
アフリカ | 18,572 | 15,615 | 6.0 | △ 15.9 | 27,297 | 19,013 | 6.9 | △ 30.3 |
モロッコ | 8,454 | 7,381 | 2.8 | △ 12.7 | 6,962 | 6,363 | 2.3 | △ 8.6 |
アルジェリア | 2,906 | 1,916 | 0.7 | △ 34.1 | 3,852 | 2,511 | 0.9 | △ 34.8 |
北米 | 15,941 | 14,132 | 5.4 | △ 11.3 | 17,035 | 15,390 | 5.6 | △ 9.7 |
米国 | 13,716 | 12,196 | 4.7 | △ 11.1 | 15,436 | 14,052 | 5.1 | △ 9.0 |
中南米 | 15,333 | 11,790 | 4.5 | △ 23.1 | 16,691 | 13,752 | 5.0 | △ 17.6 |
メキシコ | 4,196 | 3,216 | 1.2 | △ 23.4 | 4,608 | 3,459 | 1.3 | △ 24.9 |
ブラジル | 2,590 | 2,258 | 0.9 | △ 12.8 | 3,821 | 3,515 | 1.3 | △ 8.0 |
中東 | 7,436 | 6,704 | 2.6 | △ 9.8 | 8,763 | 4,877 | 1.8 | △ 44.3 |
湾岸協力会議(GCC)諸国 | 4,688 | 4,276 | 1.6 | △ 8.8 | 5,933 | 3,169 | 1.2 | △ 46.6 |
サウジアラビア | 1,816 | 1,735 | 0.7 | △ 4.5 | 4,286 | 2,292 | 0.8 | △ 46.5 |
合計(その他を含む) | 290,893 | 261,175 | 100.0 | △ 10.2 | 322,437 | 274,598 | 100.0 | △ 14.8 |
注1:アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港・台湾を加えた合計値。
注2:EU域外貿易は通関ベース(輸出はFOB、輸入はCIF)、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
出所:スペイン税関
輸入は自動車が大幅減、マスクやノートPCが増加
輸入は、全ての品目で減少した。特に鉱物・エネルギー(構成比9.8%)は前年比39.5%減となり、うち最大の輸入品目の原油は41.0%減(重量で17.3%減)と大幅に減少した。自動車(11.1%)は24.3%減。うち、完成車(5.0%)は乗用車新車登録台数の激減(32.3%減)を反映し31.5%減だった。ただし、自動車部品(6.1%)は9月以降の回復により17.1%減にとどまった。
輸入を国・地域別にみると、EU(構成比51.8%)は自動車や資本財(自動車を除く)などの減少により、前年比12.2%減だった。EU域外で最大の輸入相手国の中国(10.7%)は、マスクが前年比20倍で最大品目となったほか、防護服も11倍に増加、続くノートパソコンも29.6%増だった。このように新型コロナ下での需要増を鮮明に反映し、全体では前年比0.7%増となった。韓国(0.9%)は23.3%減だった。自動車や資本財が3~4割減の一方、迅速検査・PCR検査用品が4.3倍に増加して主要品目となった。アフリカ、中南米、中東地域からの輸入は主に産油国からの原油の大幅減により、それぞれ30.3%、17.6%、44.3%減少した。
2021年に入ってからは新型コロナ禍が小康状態となり、経済活動の平常化に向け動きが加速した。1~4月期の輸出は、前年同期比16.9%増。周辺国を上回る回復ぶりで、この期間としては過去最高だった。輸入も同10.3%増と力強く回復している。
コロナ下でも、高付加価値品の対日輸出は好調
スペイン税関によると、対日貿易は輸出が前年比7.7%減の25億1,800万ユーロ、輸入が33.3%減の29億900万ユーロだった。対日赤字は、3億9,100万ユーロと前年の約4分の1近くまで縮小した(表3参照)。
対日輸出を品目別にみると、輸出の3割強を占める食料品は7.1%減だった。最大品目の豚肉(構成比17.4%)は、11.0%減の4億3,900万ユーロで、重量では19.9%減少して約11万トンとなった。これは、日本での豚肉輸入の全体的な減少などを反映した結果だ。乗用車(10.5%)は他国向けが減少する中、日本向けは新型モデルの市場投入などにより倍増した。革製バッグ・小物類(2.2%)も2020年後半の回復により19.7%増。新型コロナ下にもかかわらず、高付加価値品の対日輸出は比較的好調だったことになる。
表3:スペインの対日主要品目別輸出入(通関ベース)
品目 | 2019年 | 2020年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
豚肉 | 494 | 439 | 17.4 | △ 11.0 |
医薬品 | 321 | 264 | 10.5 | △ 17.7 |
乗用車 | 135 | 264 | 10.5 | 95.3 |
オリーブ油 | 147 | 127 | 5.0 | △ 13.6 |
自動車部品 | 212 | 126 | 5.0 | △ 40.7 |
灰および残留物 | 142 | 88 | 3.5 | △ 38.3 |
ワイン | 95 | 85 | 3.4 | △ 10.3 |
革製バッグ・小物類 | 46 | 56 | 2.2 | 19.7 |
複素環式化合物 | 56 | 51 | 2.0 | △ 9.1 |
女性用衣類 | 51 | 47 | 1.9 | △ 7.7 |
合計(その他含む) | 2,729 | 2,518 | 100.0 | △ 7.7 |
品目 | 2019年 | 2020年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
乗用車 | 1,732 | 1,029 | 35.4 | △ 40.6 |
自動二輪車 | 139 | 120 | 4.1 | △ 13.4 |
自動車部品 | 315 | 119 | 4.1 | △ 62.1 |
医療機器 | 62 | 62 | 2.1 | 0.5 |
航空機エンジン部品 | 90 | 62 | 2.1 | △ 31.1 |
オートバイ・自転車部品 | 68 | 62 | 2.1 | △ 9.3 |
集積回路 | 72 | 50 | 1.7 | △ 30.0 |
エアコン・空調機器 | 61 | 46 | 1.6 | △ 24.9 |
印刷機器 | 67 | 45 | 1.6 | △ 33.1 |
医薬品 | 30 | 45 | 1.5 | 47.3 |
合計(その他含む) | 4,359 | 2,909 | 100.0 | △ 33.3 |
出所:スペイン税関
対日輸入を品目別にみると、医療機器(構成比2.1%)と医薬品(1.5%)を除く全ての主要品目で前年を大幅に下回った。最大品目の乗用車(35.4%)は40.6%減と低調だった。電気自動車のみ前年の8.4倍に増加したが、乗用車全体に占める割合はわずか2%だった。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ) - 2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。