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知られざる有機農業先進国(オーストリア)

2021年1月15日

オーストリアはヨーロッパ屈指の有機(オーガニック)農業大国だ。日本での認知度は低いが、1990年代に急増したオーストリア国内の有機食品の市場は2000年代も順調に拡大。有機栽培を行う農家も増え続けている。従来型農法による商品との価格差をどれだけ抑えられるかが、今後の有機食品市場のさらなる成長に求められる。次々と開発される新商品にも注目が集まっている。

成長続ける有機農業

オーストリア農林省によると、2019年の有機農法で栽培している農家数は農家全体の22.2%(2万4,225戸)だ。また、2019年の有機栽培用の農地面積は農地全体の26.1%(67万ヘクタール)を占めている(図1、図2参照)。全農業に占める有機栽培の割合は、農家数、農地面積ともにEUの中でオーストリアが最も高い。同国の有機農業は1920年代に由来し、その歴史は長い。しかし、1980年代までに有機栽培を行う農家はごく少数にすぎなかった(例えば、1982年はわずか約200戸)。有機農家数が急増したのは、1990年代のことだ。1990年の約1,500戸から1999年の約2万戸へと、約13倍に拡大した。オーストリア国立農業研究所のトーマス・レスル所長によると、この急増の主な要因は、(1) 政府による従来型農法から有機農法への転換支援金、(2) 1995年のオーストリアのEU加盟、(3) 大手スーパーの自社ブランドによる有機食品の導入にある。多くの農家がスペインやフランス、ドイツなどEU農業大国の量産品との競争を避けて、少量で質の高い有機農産物の生産へ転じた。2000年代に入っても有機農法への形態転換が続く。その結果、従来型農家数が減り(2005年14万8,370戸→2019年10万8,941戸)、有機農家数が増加した(2005年2万98戸→2019年2万4,225戸)。有機農地面積は、2005年の52万993ヘクタールから2019年の66万9,921ヘクタールに拡大した。

図1:有機農家数と比率の推移
2000年以降、オーストリアの有機農家の数は、2000年は18581戸、2005年は20098戸、2010年は21621戸、2015年は20761戸、2016年は21819戸、2017年は23070戸、2018年は23478戸、2019年は24225戸と、増加傾向が続いています。また、全農家における有機農家の比率も、2000年は11.4パーセント、2005年は13.5パーセント、2010年は16.5パーセント、2015年は18.3パーセント、2016年は19.4パーセント、2017年は20.8パーセント、2018年は21.3パーセント、2019年は22.2パーセント と、右肩上がりに増えています。

出所:オーストリア国立農業研究所のデータを基にジェトロ作成

図2:有機農地面積と比率の推移
有機農地面積は、2000年は49万3500ヘクタール、2005年は52万1000ヘクタール、2010年は56万2100ヘクタール、2015年は55万6000ヘクタール、2016年は57万6400ヘクタール、2017年は61万9600ヘクタール、2018年は63万7200ヘクタール、2019年は66万9900ヘクタールです。 全農地における有機農業面積の比率は、2000年は16.6パーセント、2005年は18.2パーセント、2010年は20.7パーセント、2015年は21.1パーセント、2016年は22.2パーセント、2017年は24.0パーセント、2018年は24.7パーセント、2019年は26.1パーセントと、面積および比率ともに、右肩上がりに増えています。

出所:オーストリア国立農業研究所のデータを基にジェトロ作成

農地の利用目的別には、牧草地の32.6%、耕作地の20.4%、果樹園の34.9%、ブドウ畑の15.5%を有機産地として認定。家畜生産では、豚の2.8%、鳥(卵を含む)の20.8%、牛の22.1%が有機飼料で飼育されている。

政府の積極的な支援

オーストリア政府は、1991年から有機農業を積極的に支援してきた。1995年のEU加盟と同時に、政府は「環境に優しい、自然生息環境を保護する粗放農業による、環境保護に即した農地計画」(ÖPUL)を制定した。その後、2015年にÖPULは政府の掲げる「中期農村開発プログラム2014~2020年」に統合された。ÖPULの年間予算は4億3,830万ユーロ(2015年~2020年の平均)。2017年には、その中から1億1,500万ユーロが有機農業支援のために支出された。そのほか、有機農業に関する投資やマーケティング、教育、情報収集などに対する優遇措置が講じられている。また、オーストリア農業市場監視公社(AMA)のマーケティング部門は、有機農業の品質管理を担当すると同時に、オーストリア産有機食品を国内外で宣伝する。AMAの基準を満たす製品には、AMAバイオ品質認証ロゴ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(AMA Bio-Gütesiegel)を表示することができる。


有機ヨーグルトに表示されているAMAバイオ品質認証ロゴ(左下)、
遺伝子組み替え物質不使用の認証ロゴ(左上)、EUの有機認証ロゴ(右上)

大手スーパーが自社ブランド立ち上げ、有機専門店も登場

有機農法が拡大し始めて間もなく、オーストリアの大手スーパーも有機食品の潜在需要を見通すようになった。

1994年には、小売り大手のビラが同国初の有機ブランド「Ja!Natürlich外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(「もちろん」と「自然に!」という二重の意味を持つ)を導入した。このブランドも、立ち上げ当初は、酪農品や野菜、果物など30品目程度にすぎなかった。しかし、現在は1,100品目以上を取り扱う同国最大の有機ブランドに成長。有機志向の普及に大きく貢献した。ビラの成功に続いて、小売り大手のスパーとホーファーも、それぞれ有機の自社ブランドを導入した。前者の有機ブランド名が「Natur*pur外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(純粋な自然)、後者が「Zurück zum Ursprung外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(原点へ戻ろう)だ。

その後は、有機食品がスーパーの品ぞろえになくてはならない商品となった。有機ブランドの宣伝は各社とも、有機栽培のほか、自然保護や動物保護、地域性を強調している。ビラとスパーは7,000戸以上、ホーファーは約5,300戸の有機農家と提携している。

1990年代後半には、有機食品専門店も登場した。中でも最大だったのが、ウィーン周辺で6店舗を展開していた「ビオ・マラン」だ。もっとも同社は、2011年にドイツのオーガニック大手デンスに買収された。デンスはオーストリア全国に店舗を拡大し、現在は32店舗を運営。食料品のほか、化粧品や洗剤など6,000以上の有機商品を提供している。また、2015年にはオンラインショッピングも導入した。

なお、「ビオ・マラン」の創立者は、ウィーン初のビーガン専門店「マラン・ビーガン」を2013年に開業した。

新型コロナ危機にかかわらず売り上げ増

有機食品の売上高はここ数年、堅調に拡大。2019年に初めて20億ユーロを超えた。小売り・スーパーの割合は全体の7割以上を占めており、その割合も右肩上がりに増加している。

ホテル・レストランは、規模としてはまだ小さい。とはいえ、着実に増加傾向を示している(図3参照)。

図3:有機食品の売上高推移
有機食品の売り上げの7割以上を占める小売り・スーパーの売上金額は、2014年は9億7600万ユーロ、2015年は9億8000万ユーロ、2016年は12億3000万ユーロ、2017年は14億ユーロ、2018年は14億9000万ユーロ、2019年は16億1000万ユーロ と、右肩上がりに増え続けています。またホテル・レストランにおける有機食品の需要も、規模としてはまだ小さいですが、2014年は7000万ユーロ、2015年は8000万ユーロ、2016年は1億ユーロ、2017年は1億2000万ユーロ、2018年は1億2000万ユーロ、2019年は1億4000万ユーロ と、着実に増加傾向を示しています。 直売・専門店の売り上げは、2014年は2億9000万ユーロ、2015年は2億8000万ユーロ、2016年は3億1000万ユーロ、2017年は3億3000万ユーロ、2018年は3億2000万ユーロ、2019年は3億1000万ユーロ とほぼ横ばいとなっています。

出所:AMAのデータを基にジェトロ作成

新型コロナ禍により、2020年上半期の小売り・スーパーの売上高は前年同期比1.4%減となった。にもかかわらず、有機食品の売上高は20%増と大幅に増加した。この結果、2020年6月には食料品全体に占める有機食品の割合は10%と初めて2桁になった。消費者は旅行やレストラン、娯楽などに消費する代わりに、質の高い食料品に投資したためとみられる。

有機食品購入には、価格が重要な選択基準

AMAが2020年に発表した調査では、オーストリア人の95%が「たまに有機食品を買う」と回答した。また同調査によると、「毎日、有機食品を消費している」のは、15%だ。しかし、食料品全体に占める有機食品の比率は9.3%にすぎない。2019年時点で、牛乳(21.6%)、ヨーグルト(18.6%)、ジャガイモ(14.0%)、卵(14.0%)の有機比率は比較的高い一方、肉(2.9%)、食肉加工品(1.9%)の有機比率はかなり低い(図4参照)。

図4:小売り・スーパーにおける有機食品の比率(数量ベース)
2017年の牛乳は18.9パーセント、ヨーグルトは16.4パーセント、バターは9.5パーセント、チーズは6.7パーセント、肉、鶏は2.8パーセント、ハム、ソセージは1.8パーセント、果物は8.6パーセント、野菜は9.4パーセント、ジャガイモは10パーセント、卵は12.5パーセント。2018年の牛乳は18.9パーセント、ヨーグルトは16.4パーセント、バターは9.5パーセント、チーズは6.7パーセント、肉、鶏は2.8パーセント、ハム、ソセージは1.8パーセント、果物は8.6パーセント、野菜は9.4パーセント、ジャガイモは10パーセント、卵は12.5パーセント。 2019年の牛乳は21.6パーセント、ヨーグルトは18.6パーセント、バターは8.9パーセント、チーズは7.6パーセント、肉、鶏は2.9パーセント、ハム、ソセージは1.9パーセント、果物は9.1パーセント、野菜は11.7パーセント、ジャガイモは14パーセント、卵は14パーセント。

出所:AMAのデータを基にジェトロ作成

従来型農法による商品との価格差が小さい場合、消費者は有機商品を選択する。しかし、肉類のように価格差が大きい場合には、有機商品の購入を控える傾向がみられる。場合によっては、有機商品の価格が倍以上になる場合もある(鶏肉など)。また、価格競争の厳しい豚肉の有機商品は、一般のスーパーでは取り扱われないことが多い(表参照)。

表:有機食品と従来型農法食品の価格比較(単位:ユーロ)
食品 スーパー A スーパー B スーパー C 有機
専門店
参考
有機食品 従来型 有機食品 従来型 有機食品 従来型 有機食品 単位
牛乳 1.29 0.99-1.25 1.35 0.99 1.35 0.99-1.29 0.99-1.59 1リットル
ヨーグルト 1.05 0.65-0.85 0.85 0.65 0.99 0.75-0.89 0.99-1.39 500グラム
バター 2.59 1.49-2.49 2.59 1.59 2.49 1.69-2.29 2.99 250グラム
リンゴ 2.99 2.29-2.79 2.99 1.69-2.29 2.79 1.99-2.99 2.49- 1キロ
ジャガイモ 1.99 0.48-1.15 1.66 0.50 1.69 0.65-1.15 1.99 1キロ
タマネギ 2.98 0.75 1.65 0.50 1.99 0.66-1.19 2.49 1キロ
ニンジン 1.29 0.99 1.68 0.99 1.69 0.99 1.99 1キロ
鶏肉 13.99 9.98 24.98 9.98 27.99 9.98-10.99 39.90 むね肉、1キロ
豚肉 x 8.79 x 8.69 21.99 8.99 23-38 1キロ
牛肉 29.99 16.99 26.99 13.49 24.99-87.99 13.86-19.99 30-86 1キロ
4.49 1.99-3.49 3.69 2.19 3.89 2.99 5.99 10個

注:xは取り扱いなし
出所:ジェトロ・ウィーン事務所調べ(2020年12月14日時点)

消費者が有機食品を購入する動機としては、「健康に良い」(30%)、「農薬、人工肥料、その他化学物質が含まれていない」(16%)のほか、地域性や味の良さ、環境保護、気候変動、適正な動物飼育環境などが挙げられる。

このように、オーストリアでの有機食品の人気の高さの要因として、高い購買力と食品に関する保守性、愛国精神、農薬や遺伝子組み換えへの違和感、環境保護意識、動物保護などが考えられる。

新製品が次々登場、有機・クリスマスツリーも

有機製品の種類は絶えず増えている。新製品の中で特に優れた製品に対して、有機農業協会ビオ・オーストリアは毎年、「有機商品オブ・ザ・イヤー賞外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を授与している。2020~2021年の「有機商品オブ・ザ・イヤー賞」には、サクランボの種のオイル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます野の花のせっけん外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます野の花の種(種まき用)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますコーラ味のシロップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますオーストリア産ピーナッツ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますセロリのスムージー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます料理用精油外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが受賞した。また、クリスマス前には有機クリスマスツリーも発売された。今後も新たな有機商品の開発・販売が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。

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