企業のSDGs取り組みなど可視化(日本)
日本工営、診断システムサービス提供を年内に本格開始

2021年10月14日

大手コンサルの日本工営は、日本企業の脱炭素化や中小企業のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを可視化する支援システムの開発・サービス提供に積極的に取り組んでいる。利用企業などからも自社のSDGs推進に資するとの声が聞かれる。

SDGsに対する企業の関心の高まりなどから、自社のSDGs取り組み状況を定量的、または定性的に「見える化」したいとする企業からの声が多く聞かれる。このような状況下、非財務要素を可視化するシステム開発に従事する日本企業の動きが見られる。

多施設エネルギー管理支援システムでCO2排出量などを「見える化」

日本工営はオリックスと共同で、エネルギーサービスを提供するフレクセスを2002年に設立。フレクセスは、化石由来(油、熱、電気など)のエネルギー使用量から二酸化炭素(CO2)排出量を算定する多施設エネルギー管理支援システム「Multi-ESS(まるちーず)」を開発・サービス提供している(注1)。

同システムは、2009年4月施行の改正省エネ法で義務化されたさまざまな提出書類作成を支援するシステムで、国内のビルや公共施設などの管理に従事する企業向けに開発されたものだ。インターネットを利用し、簡単なデータ入力で、提出書類に必要となる情報が整理された書式で自動作成されるもので、企業はもとより、地方公共団体にも同サービスを提供中である。

日本工営開発・運営事業部プロジェクト部課長の額賀健行氏は、同システム導入のメリットについて、「提出書類作成に際し、入力データの確認作業が容易となり、使用エネルギーの『見える化』が可能となる。また、各分析機能の利用で、省エネ対策が不十分な事業所の抽出が容易となり、省エネ推進も期待できる。SDGs普及の中で、不動産関係企業などから当社の『Multi-ESS(まるちーず)』サービスに関する照会が増えている」としている(注2)。

SDGs診断システムも開発

また、日本工営はトゥリー(TREE)とともに、中小企業向けのSDGs診断システム「KIBOH2030」を開発し、自治体や地域金融機関など向けに、2021年4月からトライアル(実証)でのサービスを提供。年内の同システムの本格的なサービス開始を予定している。

「KIIBOH2030」は、企業が自社のSDGsの取り組み具合(アクションチェック)を測定するシステムだ。企業の環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)という非財務要素での取り組みについて、「経営管理」「環境マネジメント」「労働人権」「気候変動」の4つにカテゴリー化し、定性的な設問への回答(入力)で、SDGs指標達成に向けた活動の自己評価(100点満点)や、経年変化を可視化できるようにした(注3)。設問項目は、慶應義塾大学SFC研究所が運営するxSDG・ラボが主催する金融プラットフォーム分科会で金融庁や内閣府地方創生推進事務局のオブザーバーの下、本システム共同開発者のTREEをはじめ、多くの民間企業や自治体などとの共同研究を通じて議論整理した「企業のためのSDGs行動リスト」(注4)を基準に設問を作成し、判定基準として中立性と信頼性の担保に努めている。


SDGsアクションスコアの回答結果表示一例(日本工営提供)

日本工営の環境技術部森林自然環境グループ課長兼SDGs & CSR戦略ユニットユニット長の菊池淳子氏は「SDGs/ESGの普及・浸透で、大手企業はもとより、中小企業に至るまで、日本企業のSDGs/ESGに対する関心が高まりを見せている。中小企業にとっても、自社の事業活動をSDGsの観点から自己診断し、SDGs/ESG経営を目指す上で、何が達成されていて、今後どのような取り組みが必要なのかなどを理解することができる。また、自己診断結果の『見える化』やスコアの改善に取り組むことで、企業ブランディング構築、金融機関などからの融資・資金調達、求人面などでもメリットを享受できることが期待される」としている(注5)。

実際、「KIBOH2030」を利用した複数の企業からは、「第三者の視点で監査することで形骸化防⽌になる」「診断結果が具体的行動例まで書かれていて、大変わかりやすかった」「設問そのものが、SDGs達成に貢献する取り組みについての示唆に富んでおり、今後の道筋を検討する上での大きなヒントとなった。また、質問数も回答に適切な量だった」といった声も聞かれる(注6)。

サステナビリティー経営に詳しいサンメッセ総合研究所所長・首席研究員で法政大学大学院非常勤講師の川村雅彦氏はジェトロのインタビューに答え、「2つのシステムとも、温室効果ガス削減に向けたパリ協定や、SDGsの取り組みを日本国内に広く普及させるという意味で素晴らしいものと思われる。前者ではエネルギーシステムの変革、後者では成果の数値化と、次の段階も視野に入れ、サービス提供に努めて欲しい」と述べている(注7)。

また、関西エリアの精密部品加工メーカーからは、「当社でも独自のCO2換算方法で排気量を算出・グラフ化し、評価してきた。SDGsの取り組み状況の『見える化』で客観的に自社の状況を把握することは大切だが、最終的にはトップの姿勢が問われるものと思う」との声も聞かれた(注8)。


注1:
多施設エネルギー管理支援システム「Multi-ESS(まるちーず)」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(400.68KB)参照。
注2:
2021年9月21日コメント入手
注3:
KIBOH 2030ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照
注4:
「企業のためのSDGs行動リスト」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照
注5:
2021年9月11日コメント入手
注6:
2021年9月16日コメント入手
注7:
2021年8月29日コメント入手
注8:
2021年9月15日コメント入手
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部上席主任調査研究員
川田 敦相(かわだ あつすけ)
1988年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、シンガポール、バンコク、ハノイ事務所などに勤務、海外調査部長を経て2019年4月から現職。主要著書として「シンガポールの挑戦」(ジェトロ、1997年)、「メコン広域経済圏」(勁草書房、2011年)、「ASEANの新輸出大国ベトナム」(共著)(文眞堂、2018年)など。